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2005年10月 4日 (火)

会計監査人報酬への疑問

カネボウ粉飾決算事件で逮捕された4名のうち3名について起訴された(1名については従属的地位になった、との理由で起訴猶予)ことを受けて、中央青山監査法人は、逮捕された3名について実質的な除名処分、理事10名は辞任のうえ報酬50%カット、奥山理事長も再生委員会委員の辞任や取締役辞任など、その責任を明確な形で表明されたようです。何度も引用するようで恐縮ですが、中央青山代表社員の浜田康さんの書かれた「不正を許さない監査」の40ページには、(フットワーク事件を例にとって)「もし、監査法人の社員が問題を起こし、業務停止などの処分を受けると、その監査法人は会計監査人としての資格を失ってしまいます。これは、その監査法人を会計監査人としているほかの多くの会社にとっても大変なことです。・・・・監査人の交代など、対処する方法はあるにしても、大変な迷惑を及ぼすことになります」と明確に述べられておりますし、おそらく今後は金融庁から出される処分が少しでも軽くなるよう、できるかぎりの体制整備に尽力されていくことになるのでしょうね。

(10月4日 追記)読売にかなりセンセーショナルな記事が掲載されております。

(追記 おわり)

中央青山の体制整備ということだけでなく、法定監査のあり方についても、今後いろいろなところで検討されると思うのですが、監査法人が監査対象となる企業から受ける報酬というものも、見直されることになるんでしょうか?リスクアプローチによる監査計画をたてるとした場合に、専門外の私にとって、会計監査人の報酬との関係で、どうもいまひとつわからない点があります。統制リスクと発見リスクとの関係です。上場企業の代表者は、自社の内部統制システムが良好なものであることを確認書(誓約書?)で表明することで、その構築に関する最終責任を負担することになります。会計監査人は、企業が保証した内部統制システムを評価したうえで、どのあたりに重要な虚偽報告のリスクがあって、どこに力点を置いて監査すべきか計画をたてていくものと思いますが、その際の監査リスクを合理的な程度まで減少させるためには、内部統制システムの評価が高ければ発見リスクが少なくなることで、その労力も低減しますが、評価が低ければ発見リスクも高まりますので、監査に要する労力は高まるはずです。

そこで、まず第一の疑問は、監査報酬を決めるにあたっては、こういった企業の内部統制システムの構築状況について「一定の評価」を行ったうえで見積りを出すのでしょうか、それとももっとドンブリ勘定的に、「何日間で何人が担当するから、いくら」といった決め方で今後も見積りを出してしまうんでしょうか?監査の有効性、効率性を重視した場合、リスクアプローチによる監査基準というものは今後も応用されていくものと思いますが、いっぽうにおいて、統制リスクの最終責任は企業にあるわけでして、内部統制システム構築に向けて多大な費用を投入してみたところで、その費用投下が監査報酬を減少させる方向に働かない、ということになりますと、リスクアプローチ(不正監査リスクは、統制リスクの最小化努力と監査人の努力による発見リスク最小化の相関関係によって決まる)の理屈からみても、また企業の財務報告への信頼性向上への意欲、という点からみても、監査対象企業としては納得いかないのではないでしょうか。とりわけ年間を通じて会計監査人との連携が要求される監査役という立場からみた場合、ドンブリ勘定による報酬決定は、そもそも自社の統制環境整備について、監査役自身が消極的な姿勢であることを会計監査人に示していることになりそうで、なんかみっともないように思われます。

次に、第二の疑問は、会計監査人に就任された会計士さんに、監査役としては、いろいろと内部統制システムの構築状況についてのアドバイスを受けたいと思うでしょうが、これは法定監査を行う立場の人に「コンサルタント業務」を要請していることにはならないのでしょうか?(法定監査を担当している会計士さんは、同じ会社からコンサルタント名目で報酬をもらうことはできませんよね?)会計監査人としての立場で、内部統制システムの評価をすることはできても、あるべきシステムというものを指導することはできるのでしょうかね。事実上は支援することがあったとしても、もし報酬決定方法が「ドンブリ勘定」だとすると、コンサルタント業務では報酬はもらえないでしょうから、そうしますと監査人にとって都合のよい「評価の高い内部統制システム」が実現された場合には、(発見リスクはおのずと低減することになりますから)自らの報酬を下げなければ矛盾することになりませんかね?

最近は弁護士の世界でも、独禁法との関係で弁護士会策定による報酬規定というものが撤廃され、タイムチャージによる報酬決定方法というものも頻繁に採り入れられるようになりました。私自身も現在、半分くらいの仕事についてタイムチャージを導入しています。不正監査を防止するための企業と監査人の報酬決定方法としても、またこのような監査リスク低減のための監査人と企業との役割分担を論理的に説明するためにも、法定監査の世界にもタイムチャージを導入することは考えれませんかね。「ひっついたり、離れたり」しやすいので会計監査人の独立性という点からみても理想的ですし、また監査法人の経営面においても収益見込みが把握しやすいのではないか、と思うのですが。いかがでしょうか。

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コメント

こんにちは。いつも拝見しております。

第1の疑問に関しては、あるべきは前者だと思いますが、実態は後者ではないでしょうか。リスクに応じた価格設定はどこの法人もしていないと思います。基本的に、「見積時間×単価」です。(ただ、リスクが高いと評価した場合に、前年より「見積時間」を増やすというようなことはしていると思います。)

第2の疑問に関しては、確かにコンサルティング契約を被監査会社と締結することはできませんが、「監査の一環として」内部統制システムの構築に関するアドバイスをすることはあります。監査は内部統制に依拠して実施しますので、内部統制上の問題などがあれば適時アドバイスや指導は行います(監査報酬の枠内で)。

投稿: ligaya | 2005年10月 4日 (火) 14時27分

どうも、コメントありがとうございます。私もしょっちゅう拝見させていただいております。
今回のような事件が発生して、「あるべき」報酬体系に近づく、ということは期待できないでしょうか?これも商売でしょうから、ほかの監査法人は「わかりやすい」体系なのに、自社だけが「なんかムズカシイ」体系というのも現実的でないかもしれませんが。
もし、監査法人のほうから報酬体系を変更できないとうことでしたら、コムズカシイことを言うなあ、とののしられても、監査役のほうで提案してみてもいいかなあ、とも考えております。
また、いろいろとご教示ください。

投稿: toshi | 2005年10月 5日 (水) 02時55分

>toshiさん
そういう提案はどんどんやっていいと思います。
適切な報酬は支払うが、払い過ぎた分は返金してもらう、というのでも良いのではないでしょうか。
監査法人は横並びですから、経営者の方から「あるべき」報酬へ変えていってほしいです。

投稿: ligaya | 2005年10月 5日 (水) 15時46分

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