« 独立取締役コード | トップページ | 監査役からみた鹿子木判事の「企業価値」論 »

2005年10月17日 (月)

TBS買収と企業価値判断について

週末も、TBSと楽天との企業統合問題を巡って、いろいろな報道がなされました。TBSも楽天も水面下で企業価値評価特別委員会のメンバーと接触している、ということですが、これは特別におかしなことではなく、ごく自然なことではないでしょうか。たしかに、TBSが発表しているとおり、まだ(楽天を)「買収提案者」と決め付けたわけではありませんし、20%を超える株式を楽天が取得したわけではないようですから、TBSから特別委員会側へ正式な諮問はなされておりません。しかしながら、特別委員会としては、企業統合することにしても、いまのままTBSが経営を継続するにしても、楽天やTBSの企業価値を正確に把握する必要があるわけですから、その提案内容も含めて、いまから検討することはむしろ職務に誠実な態度と言えるように思います。どちらの企業価値判断も、事業提案についても、中立公平な第三者として行うわけですから、積極的に接触してかまわないのではないでしょうか。

ところで、楽天の三木谷社長にしても、村上ファンドの村上代表にしても、もし取締役会メンバーや、特別委員会のメンバーが敵対的買収方策(NPIの新株予約権の行使)を実行した場合には、「株主代表訴訟を提起する」とか「株主の損害賠償請求を行う」旨を公言されて、TBS側を牽制しておられるようです。この問題は、今回のTBSの防衛プランが、(通常のライツプランと異なり)特定第三者への予約権行使、というスキームをとっているために、一般株主を含めて株式の希薄化による株式価値の減少を伴うものですから、この取締役、特別委員会メンバーに高額の損害賠償責任が発生する可能性を示唆しています。こういった問題がこのたびの買収防衛策発動の場面においては、非常に重要なポイントであることは、ほかの著名な方のブログなどを拝見いたしまして認識した次第であります。

なるほど、こういった問題がある以上は、TBSの取締役会としてもかなり防衛プラン発動においては慎重にならざるをえないでしょう。ただ、この特別委員会、取締役会の損害賠償責任を議論する場合には、若干あわせて検討すべき問題もあるように思います。

そもそも楽天や村上ファンドのいう「損害」とはいったい何を指すのでしょうか?防衛ブラン発動直前の株価を基準に「希薄化」したことの損害を問題とするのでしょうか。はたして、この1か月ほどで急騰した株価を基準に損害を算定することは妥当かどうか、ちょっと疑わしいように思います。その急騰した株価がTBSの「企業価値」を正確に反映しているということは立証されるのでしょうか?こういったケースで取締役が善良なる管理者の注意をもって判断すべきことは、どっちがTBSの企業価値を向上していくことができるか、ということですよね。中長期的な株主価値を重視するとしたら、この1ヶ月の株価を無視したことが「企業価値の毀損」と評価されてしまうのでしょうか。もし現実の株価を基準として損害を算定しなければならないということになりますと、買収防衛策発動にあたって、もっとも真摯に判断の基準とすべきは「どちらが企業価値の向上に資するか」というものであるとしている「経済産業省、企業価値研究会の指針」内容と矛盾することになるようにも思われます。先日のエントリーでも書きましたとおり、TBSとしては楽天が20%超の株式を取得すれば、直ちに防衛プランを発動するのではなく、「濫用的買収者」に該当するかどうかの判断をおそらく「慎重に」行うことになるはずです。そういった際に、将来的に現経営陣が現在の経営形態をもって継続することが企業価値の向上に資すると判断することも考えられるところでありますから、たとえ「あいまいであっても」資金調達の必要性があって、その行使価格が6ヶ月間の株価の変動とそれほど変わらない金額であれば、損害賠償の対象となるほどに違法性が強いかどうかは、また検討を要するところではないでしょうか。もし訴訟ということになりましたら、「損害論」についてはひとつの大きな争点になるでしょうし、そこでTBSの企業価値はどの程度だったのか、双方の主張が展開されることが予想されます。株価急騰のなかで800億円をもって行使価格としたものが、この「企業価値」を減少せしめる行為といえるのかどうか、非常に興味深いところであります。

また、TBS側としましては、今後の事前交渉をうまく利用して、(もし今回の企業統合の企画が失敗した場合には)一般株主とは切り離して、一気に買占めを行った楽天自身がその株主から代表訴訟を提起される可能性が出てくるような方向へ持っていく方法もいくつか考えられるところであります。そういった交渉カードをうまく利用しながら、TBS側が今後の統合交渉を進めていけるかどうか、という点にも注目していきたいと思います。

(10月17日午後6時半 追記)

そういえば、TBSの企業価値評価特別委員会のメンバーでいらっしゃる西川善文氏は、TBSの監査役と楽天の社外取締役に就任されておられるんですね。そうしますと、TBS側から委員会に正式な諮問がなされた後に、なんらかの委員会審議に関与することはマズイでしょうね。おそらく決議を伴う審査活動へは一切関与しないことになって、実質的には6名の委員による審理ということになると思われます。(追記おわり)

10月 17, 2005 TBS買収と企業価値判断について |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/104680/6434799

この記事へのトラックバック一覧です: TBS買収と企業価値判断について:

» 楽天は時価総額バブルでTBS支配? トラックバック 佐藤秀の徒然\{?。?}/ワカリマシェン
楽天とTBSが共同持ち株会社を設立すると両社の時価総額(楽天9893億円、TBS5795億円)比、現在楽天が取得したTBS株を含めて楽天が持ち株会社の株の3分の2以上を取得し、支配権を握ると言われる。しかし、時価総額の「質」は問われないのか?... [続きを読む]

受信: 2005年10月18日 (火) 21時08分

コメント

3回目のコメントです。いつも仕事場でこっそり拝見しています。
今朝も三木谷社長が「特ダネ」に生出演していました。敵対的買収者とか、濫用的買収者とか、かなり用語に気を使って話をされていましたね。あれだけいろいろ出演されている、というのは、どういった意味があるんでしょうか?世論を味方につける、というだけのことなんでしょうか?素人としては、よくわからないですね。ピー子さんも言ってましたが、なんか出演するたびに「ボロ」が出てくるように思えて、なんとなく痛々しく、逆効果になるんではないかなあと思ってしまいます。「損害」というのは、やはり一般の株主も巻き込む以上は、その時の株価を基準として判断されるべきではないでしょうかね。6か月の平均価格の0.9が合理的とはちょっと思えませんが。(とりとめのない話ですいません・・・・・・・)

投稿: Pへの永遠なる飛翔 | 2005年10月17日 (月) 10時43分

TBSの特別委員会の委員の独立性については、いろいろ疑義がありそうですが、経営陣が了承すれば良いという理解でよいのでしょうか?TBSの対応策では、特別委員会は提案が企業価値にどう影響するかを検討し、その勧告をもとに取締役会が対応策を判断するという構成をとっているので、委員として株主に対する責任はないようにも思います。ニレコ地裁決定で、取締役会は特別委員会の判断をそのまま承認しなければいけないという議論がありましたが、取締役の責任の観点からは株主に対して責任を負わない委員会の決定を絶対的なものにするのは無理があるように思います。

投稿: masa | 2005年10月18日 (火) 00時00分

TBSの企業価値評価特別委員会のような「第三者委員会」は役職を兼務していることが多い「大物」を専任することが多いわけですが、今回利害相反の問題が制度設計上の課題として浮き彫りになった形ですね。
利害相反の定義とか、人数が減った場合の対応などなかなか難しい問題だと思います。

投稿: go2c | 2005年10月18日 (火) 01時42分

皆様、コメントありがとうございます。なかなか回答がムズカシイようなものばかりですね。最近、このブログに来られる方、ツワモノが多いような気がしまして、コメント返すのもヒヤヒヤしております。
>Pへの永遠なる飛翔さん
いちおう報道では、三木谷さんが短期決戦を望んでおられるので、TBSの回答を急がせるのが目的とされてますね。(その真偽は定かではありませんが)たしかに、これまでの株価が「企業価値」を反映していなかっただけで、近時のものこそ真の価値だ、という説もあるようです。ただ、IR活動はそこそこしていたでしょうし、ここ6か月の株価がまったく企業価値を反映していたものではない、というのもちょっとおかしいと思います。(私個人の意見ですが)
また、キビシイご意見、ご批判、大歓迎ですので、よろしくお願いします。

>masaさん
どうも、コメントありがとうございます。そうですね、masaさんがおっしゃるような観点から損害賠償責任の有無を検討したことはありませんでした。特別委員会の回答の取締役会への拘束力みたいなものも、責任論と関係することは私も同感です。ちょっといまのところ答えがまとまりませんので、一度検討して別のエントリーにしたいと思います。(このへんで勘弁してください・・・)

>go2cさん
おっしゃるとおりだと思います。利害相反問題というのは、大物委員さんが就任されているケースや、委員さんが金融機関の役員さんのように「その方の所属する会社が広くいろんな企業とおつきあいのある」ようなケースでは、現実化してしまいますよね。人選問題も制度設計の一部として認識しておいたほうがよいと思われます。それから委員の人数の減少ですが、7名が6名あたりならまだいいですけど3名が2名というのは、かなりマズイことになるんじゃないでしょうかね?それ自体が手続の瑕疵になってしまうリスクありそうですね。

投稿: toshi | 2005年10月18日 (火) 02時58分

企業防衛策に於いて、問題とすべき「経営陣の保身策か否か」という視点から、今般のTBSの企業価値評価特別委員会の設置は、表面的には経営陣の保身ではないとの、担保的な意義はあるとは思うが、ただ当該委員の選任者がTBSの取締役では本当の意味で、当該委員会が「第3者機関」として、中立公正に機能するか否か疑義を抱くのは私だけでしょうか?

投稿: 経済フォーラム渡邉豊 | 2005年10月20日 (木) 13時58分

今般のTBSの第3者割当(防衛策)を5月に当該取締役会で決定し、なぜ株主総会に提案し総会決議をしなかったか疑問が残ります。当該防衛策を発動すれば、株主価値が希薄化するのは、当然、予見可能の範疇である。

投稿: 経済フォーラム渡邉豊 | 2005年10月20日 (木) 14時36分

企業価値評価特別委員会の中立の第三者性について、疑問を抱くのはなんら不自然ではないと私も思います。ただ、株式会社の意思決定機関が取締役会である以上は、こういった重要事項を取締役会が決定することも、やはり取締役の会社に対する責任の範囲ではないでしょうか。むしろ私が疑問に感じますのは(以前のエントリーにも書きましたが)、こういった短時間で企業価値評価を行う機関が、普段なにもしないでいいのか・・・という点です。一般には社外取締役や社外監査役がメンバーになることが多いと思いますが、本当にその企業の将来的な価値を把握するためには、多くのステークホルダーの利益状況などにも精通する必要があると思いますし、そういった認識は平時におけるメンバーの行動なども、判断の公平性を審査する段階においては考慮されなければならないと思っています。

投稿: toshi | 2005年10月21日 (金) 02時39分

コメントを書く