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2005年11月30日 (水)

会社法の施行規則・法務省令案(2)

うわさどおり、今週になりまして、会社法の規定に基づく「施行規則(案)」「法務省令(案)」が発表されました。(hardwaveさんのブログで知りました。)

以前のエントリー(会社法の法務省令案)でも述べましたとおり、このたびの新会社法は政令に委任している箇所が多いため、法務省令もたいへんな分量になっているようです。2週間後くらいには、商事法務の主催により、東京・大阪でこの「法務省令案」に関する講演が開かれる予定ですから、講師の先生方は準備に忙しいことと思います。会社法ですら、満足に理解できているかどうか心もとない私にとりましては、この「樹海」のような規則をどうやって整理していくべきか、非常に逡巡するところであります。

とりあえず、私の最も関心のある分野「株式会社の業務の適正を確保する体制に関する法務省令」の省令案とその概要だけでも、チェックしてみました。

もっとも目をひくのは、法務省令3条で株式会社の業務の適正を確保する体制に関する事項の決定については、株主の利益の最大化に資するものであること、と明確に規定されたことでしょうか。つまり、「企業価値」(この用語はいろいろな意味に用いられますが、ここでは株主価値という意味で)と「企業の内部統制システム構築(およびその情報開示)の必要性」が密接に関係することが示されたところではないでしょうかね。取締役の善管注意義務、忠実義務の履行形態のひとつであること、つまり構築義務違反が代表訴訟の対象となったり、第三者による損害賠償請求訴訟の対象となりうることは、この省令を待たずとも既に是認されていたところでありましたが、システムの構築状況とその開示状況自体が企業価値の評価基準となりうるところまで、言及されたものとみてよい、と私は解釈いたしております。(もちろん評価基準といいましても、「将来キャッシュフローを予測したり、価値算定の基準を選択するための前提となる企業継続性安定要因」程度かもしれませんが)

さて、それではどういった点を中心に開示されるべきか、といいますと①取締役(取締役会)の意思決定過程とその記録(保存)方法②従業員の法令遵守を確保するための体制③リスク管理のためのシステム④業務の有効性(取締役の意思決定がそのまま執行されるかどうか)と効率性を担保するシステム⑤監査役によるシステム評価のありかた⑥企業グループ全体における統合的なシステム、といったところが中心になるようです。しかも省令案は、個々の企業の独自性、個別性に準拠してシステムが構築されることを要求しておりますので、「ひな型的な情報開示」では賄いきれない内容になろうかと思われます。

とりわけ、業務の有効性、効率性まで「内部統制システムの開示」事項に入ってくるということでありましたら、情報伝達における文書化、IT利用による効率化といった「費用と時間を要する」問題も含むものでしょうから、今後の営業報告書(会社法上の事業報告)や適時開示情報を通じて、非常に有益な投資家情報が得られることが期待されるのではないでしょうか。

ただ、監査役による監査体制の開示事項として、取締役から独立した監査業務使用人の存在を求めているところがありますが、これはけっこうキビシイんじゃないでしょうか。大きな規模の企業であればこういった体制もすでに出来上がっているでしょうが、公開企業といいましても、規模が中堅程度の株式会社の場合、常勤の監査業務使用人の存在、そしてその意思決定機関からの完全独立性についてまで、クリアできるような従業員体制というものは、そう多くは導入されていないように思うのですが、実態はどうなんでしょうかね。

※  昨日のエントリーには、またたくさんのアクセスを頂戴いたしました。(2487/day)どうもありがとうございます。ただ、黄金株と司法判断(2)のエントリーに関しまして、私の浅学のためか、いろんな方からメールにて反対意見や補足意見を頂戴しており、そのなかには貴重なご意見も多く、私自身すこしばかり修正意見を考えております。11月29日の日経朝刊「一目均衡」では、まさにこういった「東証の存在意義」について焦点をあてた論稿なども出されておりまして、世間でもそろそろ注目されてきた論点ではないか、と思いますので、あらためてエントリーをさせていただきます。

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2005年11月29日 (火)

黄金株と司法判断(その2)

先日のエントリー「黄金株の東証の存在意義」とも関連しますが、上場企業の敵対的買収防衛策としての黄金株導入の原則禁止を定めた東証の規則(案)に対して、11月28日の金融審議会で批判が出ているようです。

東証の黄金株規制案に批判・金融審(日経ニュース)

辰のお年ご さんの上記エントリーへのコメントで、東証における規則制定権の「正当性」についてご意見を頂戴しましたが、日本の証券取引法は、戦後アメリカ主導型で制定されたものである以上、「投資家保護」という基本にたって解釈されるべきものですから、その正当性の根源も、どこかに「民主的コントロール」が働くべきもの、と考えておられるところは私と一致しているものと受け取りました。私は、証券取引法の解釈として、そのコントロールは薄いと判断して、正当性に疑問を呈しましたが、辰のお年ごさんは、丁寧に条文解説をされたうえで規則制定権の正当性を肯定される立場のようであります。このあたりは、ご意見を拝読させていただき、私もある程度納得いたしましたが、この「民主的コントロール」を前提として「規則制定権の正当性」を基礎付ける以上は、先日の金融担当大臣の発言や、上記金融審の批判などについて、これを東証が真摯に受け止めて、「当然のこととして」修正を余儀なくされる、という結論に至るのではないでしょうか。(金融審の意見を反映した金融庁の正式判断に対して、ということになりますが。)現在、東証はこの規則(案)についてはパブリックコメントを募集しておりますが、このパブコメで東証の黄金株原則禁止案に賛同するコメントが多かったとしましても、これは単なる国民の参考意見を聴取しただけであり、法律上の「正当性」がない以上は「民意を得たから規則案どおり」とは到底いえないものと思われます。何度もくりかえし申し上げますが、私は強く東証の行動に反対しているわけではございませんが、国民の総意によって作られた「会社法」で認められている企業行動を規制するほどの権力(上場廃止)が東証にあるならば、その国民の総意に優位しうる権限を行使できるだけの国民からの委託(特別法)がなければならないはずです。ワールドのMBOの際には「一方的な退場はいかがなものか」と批判し、会社法では禁止されていないものの東証には気に入らない制度を導入しようとする企業に対しては退場を求めるという万能の権限は、「投資家保護」という錦の御旗のもとでのみ正当性を有するはずであります。しかしながら「企業の規制のありかた」について会社法と証券取引法に権限を分配することができるのは、唯一国民であるはずですから、「投資家保護」の中身を決めることもやはり国民の権限に由来するはずでありましょう。そうであるならば、民主的コントロールの及ぶ行政府の意向に(権限を委託されている)東証がコントロールを受けるべきは当然のことでありまして、東証が金融庁を協議において説得できないかぎりは、金融庁の判断に従わざるをえないとしか解釈できないと思います。「だから大臣の「東証の細則」に対する承認があるから、いいんじゃないの?」という反論も聞こえてきそうですが、それなら最初に立ち返って「東証の存在意義って、なんなの?」という問題に戻ってしまいそうですし。自主規制機関という組織そのものが、とてもムズカシイ存在に思えてしかたありません。

さらに、東証と「司法判断」という問題も非常に興味深いものがございます。ペイントハウスがジャスダック証券取引所を相手に、上場廃止禁止の仮処分を本日、東京地裁に申立たようです。

ペイントハウスのリリースはこちら。

私の以前のエントリーでも紹介しましたが、昨年もメディアリンクス社が上場廃止禁止の仮処分を申立てまして、鹿子木決定によって棄却されておりますが、このときは正面から東証の規則の正当性が議論される場面はなかったようです。(そういった意味で、あまり先例としての意味はないものと解されます)しかしながら、今回はペイントハウスの争い方によりましては、証券取引所の規則について、司法判断が及ぶのかどうか、という問題が争点となる可能性もありまして、この裁判の行方は注目してみたいと思います。私自身は、今後の市場の活性化、IPO企業の増加、会計監査の厳格化、そして弁護士数の飛躍的増加のなかで、この「上場廃止禁止の仮処分」というのは、飛躍的に増えるものと予想しております。こういった証券取引所規則の要件解釈のほかに、会計監査人と企業との「企業会計基準に関する意見の食い違い」を是正する手段としても有益と考えられるからであります。コーポレートファイナンスや制度会計の適法性に関する事後規制の分野につきましては、多数の弁護士が参入することが予想されます。

黄金株の取扱をめぐる金融庁と東証の問題、そして証券取引所の規則制定権の規範性の問題は、「投資サービス法」時代を迎える日本の金融法務の将来にも、きわめて大きな影響を与えることになると、(少なくとも私は)考えております。

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2005年11月28日 (月)

公益通報の重み(構造強度偽造問題より)

まだ仕事中ゆえ、うまく整理できていない文章であること、お許しください。とりいそぎ、備忘録程度にとどめておきます。

毎日新聞の夕刊一面(大きくは、西村議員の逮捕の記事ですが、これは、ここ1週間の弁護士会の情勢を知っている立場ですので、コメントは控えさせていただきます。)に、指定確認検査機関である、イーホームズの内部監査の発端は「国土交通省への匿名情報」であったことが明らかになった、との記事が掲載されております。(一応、このニュース記事が信憑性が高いものとみなして、以下意見を述べております)

毎日ネットのニュース記事はこちら。(ほぼ夕刊紙面と同一と思われます)

このブログにおきましても、「民間による内部監査に基づく公表には、なんらかの評価を」といった私の意見を書かせていただきましたが、どうも匿名通報から国土交通省の立ち入り検査、その後の行政指導といった流れをみておりますと、イーホームズの「自主的公表」という事実もかなり制限的に解釈せざるをえないようです。

しかしながら、このニュース記事を読みまして、あらためて「公益通報」の社会に与える影響、企業価値を容易に崩壊させる力、そして企業における内部統制システム構築の重要性を痛感いたします。

また改めて意見を述べたいと思いますが、この記事のポイントは三つあると考えます。ひとつは、この「匿名情報」がなければ、今回の構造計算偽造問題が発覚したことはなかったであろう(つまりイーホームズの内部監査が発端とはいえない、ということ)という紛れもない事実、ふたつめは(時代の流れと思いますが、)このような匿名情報についても、国土交通省が真摯な対応で立ち入り検査を決定した、という事実、そして三つめは、国土交通省がイーホームズによる帳簿の不備を指摘して、明確に「文書による帳簿の保存」を指導した、という事実であります。

私自身、現在も「ホットライン」の窓口業務をしておりますが、こういった第三者への通報というもののうち、半分程度は、以前から自社に対して「サイン」は出ているケースです。このサインをどう判断するかは、非常にムズカシイところではありますが。

すでに、どこの企業におかれましても、公益通報者保護法対策は万全かと思いますが、私からすると、まだまだ「窓口の単一化、複数化」、「窓口における要件該当性の裁量判断の問題」など、導入企業において対応がバラバラな点もあるかと思います。今回の匿名情報というものが「内部通報」なのか「取引先からの外部通報」なのかは不明でありますが、背筋が凍るような事態になる前に、再度業務プロセス、営業サイクルの再検討を行い、自社もしくは取引先企業への通報への対応プログラムを再検討したいと思います。

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「シノケン」のリスク情報開示と内部統制

(11月28日午前 追記あります)

先週金曜日、構造強度偽装マンションの販売会社であるジャスダック上場企業「シノケン」は一週間ぶりに証券売買が成立しておりましたが、株価は依然、大きく落ち込んでいるようです。まだまだ今週の情勢も不明なところかと思われますが、はたしてこのような企業リスクが、そもそも事件発覚よりも以前から予想できなかったのかどうか、すこし検討してみたいと思います。

平成15年の監査基準の改訂によりまして、経営者は財務諸表の作成にあたっては、継続企業の前提が成立しているかどうかを判断すること、継続企業の前提に関する重要な疑義に関わる事項を注記することといった情報開示の仕組みを導入することが明記され、現在では多くの公開企業がいわゆる「リスク情報」を開示するようになりました。突発的なリスク情報というものは、通常「適時開示」ということで公表されるようですが、将来的に企業の継続性に影響を与えうる事情というのは、有価証券報告書等に開示されることが多いようです。このシノケンの場合、どういった「リスク開示」がなされていたかといいますと、平成17年3月期の有価証券報告書(13ページから17ページあたり)では、比較的詳細に自社の事業上のリスクを評価されておられるようでして、それに対するリスク回避手段についてもかなり明確な対応方法が記載されているようです。たとえば、自社の建設したマンションの地盤調査が不適切であったために、マンション居住者に迷惑をかけた場合には、一世帯あたり3000万円までの保証を行い、そのための保険もかけていることが公表されております。しかし残念ながら、今回のような取引先の不祥事により、自社が瑕疵担保責任もしくは品確法上の責任を負担するおそれ、というものにつきましては、リスクとして評価されていなかった模様でありまして、それは このたびのIR情報にもうかがわれます。マンション販売会社にとりましては、地盤の調査会社だけでなく、建築設計事務所や指定確認検査機関、そしてマンション建設請負会社など、その販売にあたって多数の取引先機関の関与があるわけでして、どの機関に「ミス」が発生いたしましても、購入者との間では第一次的責任は販売会社が負担(あとは、求償の関係)することになるわけですから、このたびのようなリスクは十分予想されてしかるべきと思うのですが、そういった損害賠償責任を負担するリスクを認識していることが開示されていないのは非常に残念なことのように思われます。姉歯建築士は(建築主から)「経費が削減できるように」と指示を受けた、と国交省の審問で述べたとされていますが、もしこういったリスク情報がきちんと開示されていたとすれば、シノケンとしましても、世間に対してその開示情報を根拠に、強く関与を否定できたのではないでしょうか。

ただ、このリスク情報の開示というものも、「詳細に書けばいい」というわけではないようですし、あまりリスク情報を詳細に記載するとかえって、投資家によって継続企業の要件に疑問をもたれてしまうこともありますので、どのあたりまで記載すればよいのか、むずかしいところかもしれません。このあたりのバランスを検討するにあたっては、ちょっと前のUFJ総合研究所のHPを参考してみてはいかがでしょうか。(普通の上場企業の事業上のリスクに関する記載は、ずいぶんとサラッとしていますが)

つぎに、リスク情報の開示とはあまり関係ありませんが、そもそもシノケンがこういった耐震強度偽造による多大な代金返還、建物撤去費用負担義務が発生するリスクを回避するための内部統制システムは構築できたかどうか、今後の大きな課題となりそうです。

1 取引先との業務上の意思伝達経路が適切であったかどうか。

このたびの耐震構造不足の事実は施行業者の現場監督人も認識していたところもあったと報道されています。工事監理者と施行業者(請負業者)は、建築主とともに何度も現場会議を行いますから、そのときに施行業者の意向や設計図面の変更意思をいうものが建築主に届いているはずです。(議事録をみれば出席者と打ち合わせ内容が記載されていますので、施行業者や監理者がどのような協議をしているかは、すぐにわかります)このたびの建築主たる「シノケン」が、耐震強度偽造の事実を完成まで知らなかったとすれば、これは明らかに取引先業者(施行業者および建築設計監理業者)との意思伝達上のミスであり、上場企業としての内部統制システムが有効に機能していなかったといえるのではないでしょうか。

2 不正を発見できる仕組みを工夫していたか

さらに、平成15年から、専攻建築士制度が始まり、建築士も専門分野ごとに仕事を分担すべき、との提言が日本建築士会連合会等を中心に広く公表されるに至っています。こういった風潮のなかで、設計、構造、設備といった各建築士の分野ごとに、シノケン自身によるチェック機能を備えることは考えられなかったのかどうか、(たとえシノケン自身によるチェックが働かないとしても、建築士相互におけるチェックが有効に機能していれば事件は防止できたかもしれません)事実を確認しておく必要があろうかと思います。ただ、これはおそらく費用のかかるチェックシステムでしょうから、経費(予算)との関係は無視できないところだと思います。(この専攻建築士制度をみて思ったんですが、法令建築士制度というものがあるんですね。こういった方がいらっしゃると、法律面において確認申請から完了検査まで、各専攻建築士を統括できる責任者になってもらえるでしょうから、業務の有効性という面では、かなり評価が高まるんじゃないでしょうか。もちろん、それなりに大きな販売会社などに限定されるでしょうが)

なお、こういった内部統制システムの構築に関しましては、あくまでもシノケンに「過失があった」ということが前提でありまして、「耐震強度偽造に関与していた」ということでしたら、それは刑事問題にも発展しかねない問題となりまして、そもそも内部統制システム構築の有効性の限界を超えるものでありますから、上の議論は妥当いたしません。

(11月28日午前 追記)

今朝の日経ニュースに、行政が建物解体費用を助成する、といった報道があります。

国交省、解体費用助成を検討(日経)

迅速な対応、という点では評価できると思うのですが、これもあくまで建築主に低利融資を行うという意味でしょうか、それとも補助するといった性格のものでしょうか。近隣地域への安全を配慮して・・・という趣旨ということでしたら、なぜ今回の姉歯設計事務所の設計した建物だけを対象とするのか、全国に2割から3割も存在する耐震性に問題のある建物について、もし区分所有者全員の合意があれば、同様の対応をとってもらえるのか、そのあたりはどのように対応されるのでしょうか。

また、先週の「行政責任を考える」のエントリーの図でも、おわかりいただけると思いますが、建築確認申請は、指定確認検査機関を通す場合と、特定行政庁を通す場合があり、実際に群馬県あたりでは、特定行政庁自身が偽造を見逃しているわけで、イーホームズが指定を取り消されるのであれば、行政責任も当然に認められるのではないのでしょうか。このあたり、釈然としないところが残ります。

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2005年11月26日 (土)

セレブな会社法学習法

来週あたりは、そろそろ「会社法施行令(法務省令)」が公表されるのではないか、と噂されているようでありますが、ビジネス法務に携わる方も、来年5月1日ころに施行予定の「会社法」の学習に勤しんでおられることと思います。私も、葉玉検事さんのブログを毎日読ませていただき、「明日はどんなテーマなんだろう」などと、楽しみにもしております。

司法試験を目指していらっしゃる方のように、まとまった勉強の時間がとれるのであれば、計画を立てて体系的に学習できると思うのですが、一般のビジネスマンの方にとっては、どっから手をつけていいのか、わからないといったところが本音ではないでしょうか。かくいう私も、「企業法務」、などと偉そうに看板を掲げているわけですから、恥ずかしくない程度には理解したいという気持ちを抱いております。しかしながら、いろいろと試しても、どうも三日坊主に終わってしまい、「会社の設立」あたりまではやけに知識が詳しいのですが、「株式」あたりから先は、いつまでたっても進歩がありません。結局のところ、「中小企業と会社法」とか「監査役からみた会社法」など、自分の仕事に関わる範囲での理解で当面「お茶を濁す」つもりにしておりました。

ところが、やっと最近、継続的に続けることが「楽しみ」になってきた会社法学習法をみつけました。ちょっと贅沢な学習法ですが、毎回新たな発見ができて、非常に効果的です。皆様は「携帯六法」といいますと、何を連想されますでしょうか?おおよそは「ポケット六法」(有斐閣)か「デイリー六法」(三省堂)ではないでしょうか。すでに平成18年度版が店頭に並んでおりますが、どちらも1600円(+消費税)です。今年は、新会社法が掲載されていることもあり、清水の舞台から飛び降りるつもりで、思い切って両方購入してみました。

どっちも同じやんけ!とお考えの方も多いでしょうが、ふたつ並べてみますと、実はこの「会社法」に限って申し上げますと、かなり「ポケット」と「デイリー」は違うことに気づかれるはずです。なにが違うかと申しますと、いわゆる「参照条文」がかなり違います。それぞれ条文ごとに参照条文が明記されているわけですが、両方同じもの、デイリーだけが引用しているもの、ポケットだけが引用しているものと3パターンに分かれております。「なぜ、109条の株主平等原則の条文に、この条文が引用されているのか?デイリーでは引用されていないのに、ポケットだけで引用されている理由はどこにあるのか?」といったことを、頭で考えながら検索をしておりますと、その六法の編者の思想や会社法への思い入れのようなものがすこしばかり垣間見えてきます。これ、続けておりますと、会社法の条文に対する理解意欲が湧いてきまして、「頭の中への刷り込み」の度合いが違ってきました。そればかりか、こういった学習を続けているうちに、ふと思ったのが「会社法の条文のなかに、強調記号のようなものが記載されていたら、どんなに理解が早いだろうか。。。」たとえば、

105条2項 株主に前項第一号及び第二号に掲げる権利の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を有しない。

とありますが、これを

105条2項 株主に前項第一号及び第二号に掲げる権利の「全部を」与えない旨の定款の定めは、その効力を有しない。

とか、

105条2項 株主に前項第一号及び第二号に掲げる権利の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を有しない。

などといった条文表現にしていただけますと、たいそう理解が早まるのに・・・と思うわけであります。まあ、会社法の学習法というものも、人それぞれであるわけでして、余計なお世話かもしれませんが、お金に少しばかり余裕のある方は、上記のような楽しみ方を学習に反映させることで、900条に及ぶ知的資産の吸収に励んでみてはいかがでしょうか。

ちなみに、これから携帯六法を購入される予定の方に申し上げますと、デイリーの会社法は、条文の中に準用条文の内容が記載されていたり、参照条文が「なぜ参照されているか」のヒントとなる一行解説が掲載されておりますので、とりあえず一通り会社法の条文を理解するには適切だと思います。一方のポケットは、デイリーと比較すると参照条文の数は多いのですが、「なぜ参照されるべきか」は不明な場合があります。ところが、そのあたりを考えていきますと、参照には深いワケがあり、そのワケが理解できますと、会社法の論点の理解がひとつ増える、といった学習効果が期待でき、体系的な理解を求めるには、ポケットが適切かなとも思います。ご参考まで。

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2005年11月25日 (金)

破産管財人の社会的責任(木村建設)

構造強度偽造事件により、熊本県八代市の木村建設が11月末に破産手続開始決定の申立を行うことが伝えられました。木村社長の記者会見によりますと、「今後、入居者、購入者への代金返済問題は破産管財人に委ねる」ことのようです。私も現在、大阪で2つの法人の破産管財人に就任しておりますが、裁判所から、この木村建設の破産管財人に選任されたことを想像いたしますと、この管財人弁護士さんは、たいへんな苦悩を背負い込むことになるであろう、と思われます。今後の職責の重大さを考えますと、おそらく裁判所は、その地域における最高のエースを破産管財人に投入してくる(選任する)ことは間違いありません。おそらく、破産管財人としての社会的責任を理解し、最高のバランス感覚をもって職責を果たしうる弁護士さんに就任してもらうことが、まずは必須の前提条件となるように思われます。

今後、破産管財人に課された重大な職責は次の4つに整理されるものと思われます。

1 購入者、入居者への優先的返済行為は管財人の業務として可能か

2 建物撤去、改修費用は破産財団から捻出できるのか

3 姉歯が木村建設がらみで構造計算したとされる34件のマンション、ホテルの実名は公表すべきか

4 行政、設計事務所、確認検査機関へ法的責任を追及をすべきか

破産管財事件の手続につきましては、細かく説明していきますと、とんでもなく長いエントリーになってしまいますし、法律専門家でもないかぎりは興味も浮かばないと思いますので、「バランス感覚」が必要だと思われる部分に限って問題を提起させていただきます。まず、「限られた財団資産をどこに振り分けるか」ということでありますが、これは「人命尊重」を優先すべきか、被害者の財産権を優先すべきか、によって重視すべき点が異なってくるものと予想されます。つまり、近隣住民を含めて「人命尊重」を重視するならば、まず建物の解体撤去、耐震性の補強工事に優先的に費用を投下することになります。(これらの工事に携わる人たちへの支払優先)もし、被害者の財産保護を優先するのであれば、購入者、入居者(おそらく現破産法のもとでは破産債権者として認定されるものと思います)への返済を優先することになりそうです。(ただし、むずかしい説明は省きますが、工事途中のビルの購入者と、すでに完成したビルの所有者とでは、その優先返済の度合いが異なってきます)さて、このたびの木村建設の破産管財人は、どちらの保護を優先すべきでしょうか?ここで破産管財人はいかに社会的責任を果たすべきか、悩むところです。

ところで、トラックバックをいただきました「ビジネスからみた構造計算のブログ」のtanaka-kozoさん(構造設計士さん)によりますと、現在の日本においては「既存不適格」建物が3割程度も存在する、ということだそうです。(既存不適格、というのは、耐震検査導入以前より存在し、耐震強度が低いと認められる建物に該当します)いま姉歯事務所の偽造ということに焦点が当たっておりますので、その設計対象物件の危険性が大きく報道されておりますが、実際には同じような危険性のある建物に、多くの国民が居住しているわけであります。そういったことを考えますと、破産管財人としましては、自らに与えられた職責をまっとうするために、まず被害者の財産権回復のほうを優先すべきであろうか、との意見も成り立ちそうであります。(このあたりはまた、おおいに異論もあろうかと思いますが)

さて、姉歯に構造計算を委託したとされる34件の公表。これも大いに悩ましいところであります。耐震強度の再調査費用は行政に負担していただけるものと期待しておりますが、ビルの実名とその耐震強度の結果につきましては、(たとえ強度に問題なし、というものであっても)管財人は自ら公表すべきかどうか。これも再調査に市民の税金が投入されたという事実や、ビル周辺の住民の安全ということを重視するならば、公表すべきである、という結論に傾きそうであります。しかしながら、すこし考えてみますと、もし強度に問題がないと判明したとしても、「姉歯さんが計算したビル」は今後資産価値は下がってしまいませんでしょうか?強度の再調査を行って「大丈夫」と太鼓判を押されたことが、かえって資産価値を上げる、という意見もあるかもしれませんが、おそらく私は資産価値を下げるのではないか、と思います。そういった「なんの問題もない」ビルの所有者の財産権を、きわめて減少させてしまうような行動を、破産管財人としてとりうるものであるかどうか。このあたりの破産管財人のバランス感覚も、この事件における「人命を尊重」の価値判断に左右されるのかもしれません。

もうひとつ、破産管財人の大きな役割として、破産財産の増加への努力があげられます。通常の破産財産の換価作業に加え、この事件特有の問題として、行政責任の追及、設計事務所や確認検査機関への責任追及の必要性であります。「木村建設が破産申立」と聞いて、一番ビビっておられるのは、こういった責任を追及される可能性のある法人ではないかと思います。なんといいましても、破産した企業に残された財産は、とうてい建物撤去や被害者への財産返還を履行するには不十分であると予想されますので、返済の原資となります資産をどっかから調達してこなければなりません。木村建設とはなんの「しがらみ」もない破産管財人は、堂々と裁判を提起して、できるかぎりたくさんの賠償金をとりたいと考えますので、これらの破産管財人の責任追及訴訟の結果が、今後のリーディングケースにもなりうるわけでして、管財人を相手とする団体は戦々恐々としていることでしょうし、ここにエース投入の必要性があると言っても過言ではありません。(このあたりの問題は、和解を前提とした交渉が行われる可能性もありそうです。(たとえば、行政責任の追及を断念するかわりに、危険建物の撤去、改修については無償で行政が行うことを合意するなど)

本来、破産管財業務というものは、破産法の規定にしたがて、裁判所の監督のもと粛々と進められていくわけですが、今回の事件につきましては、破産管財人とこれを監督する裁判所の「社会的責任を果たすためのバランス感覚」を重視して、柔軟な発想で先例を築いていかれることを願っております。

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2005年11月24日 (木)

黄金株と東証の存在意義

黄金株と司法判断のエントリーに、辰のお年ご さんより、貴重なご意見を頂戴いたしました。ご意見と申し上げるよりも、問題提起と承っておいたほうが適切かと存じます。私は辰のお年ご さんのような証券取引法に精通された弁護士でもなく、また47thさんのように黄金株の短所、長所を知り尽くしている弁護士でもございませんが、たいへん熱意のこもったご意見をこのブログに残していただいたことに感謝をしつつ、素人ながら、ひとこと意見を述べさせていただきます。

このたびの買収防衛策導入とその開示方法に関する東証の規則案をみておりまして、黄金株を市場を利用して資金調達をはかりたい企業には禁止する、ということに落ち着くことは、現状としては理解できるところであります。ただ、私には理屈から考えてひとつわからないことがございます。

東証が制定する規則の「正当性」はどこからくるのでしょうか。

そもそも、この東証(東京証券取引所)は「法令に基づく自主規制機関」とされていますし、投資家保護を目的として参加者が遵守すべき規則を制定することは間違いないものと思いますので、どっかに規則制定について民主的コントロールが機能すべき「正当性」といいますか「法源」が必要だと思うのですが、この法源はどこに由来しているのでしょうか。このたびは、投資家保護を目的として、あと数年後には金融商品全般の取引、販売に適用されるべき「金融サービス法」が誕生するはずです。そういった横断的に投資家を保護する法律が出来上がるような時代に、証券取引法に定めた有価証券のみを取り扱う自主規制機関が、そのまま存続し続けるためには、いまよりももっと明確な存在根拠が必要になるはずですし、民主的コントロールの要請はいま以上に必要となるのではないでしょうか。

ところで、この「正当性」を考えるにあたって、証券取引法の根拠条文を探ってみますと、内閣総理大臣(金融庁)による免許制度、会員の規律(規則)記載義務、金融庁による是正措置、規則制定、変更にかかる認可権あたりでしょうか。しかしながら、証券取引所の制定に関する組織法上の根拠条文はありませんし(だから自主規制機関となるのでしょうが)認可制である以上は自主的な規則制定権は規定されておりません。東証の制定する規則は、金融庁にお伺いをたてて、そこで認可を受けることによって「かろうじて」その正当性の根拠を保ちうるのではないでしょうか。もちろん、東証が規則を制定することが妥当とされる政策的な根拠(専門性、迅速かつ柔軟性、コストの低廉性)は十分に理解しうるところであります。しかしながら、参加者がこの規則に従わなければならない「正当性」というものが、そのような政策的な理由に基づくものであるならば、東証の規則制定は万能であって、投資家保護と言いながら、投資家によるコントロールの及ばないところで、「これが投資家にとって最善の方法である」と決められてしまうような理屈になってしまわないでしょうか。

そんなに規則に不服であるならば、退場すべきである、との意見もあろうかと思いますが、それは最初から規則がそうなっている、というのであれば成り立ちますが、いままで市場に参加している者に対しては、突然のルール改正であり、「退場すべき」論は成り立たないものと思います。かろうじて、国民による民主的コントロールの及ぶ「政府」に認可を受けることで正当性を維持できる、ということでありましたら、金融庁担当大臣から、その中身についてゴチャゴチャ文句を付けられる、というのも、至極まっとうに思えるのですが。EU諸国におきまして、5件ほど黄金株が無効と判断されたケースがある、とのご指摘ですが、私も黄金株の導入例が司法判断によって否定される、ということは大賛成であります。これは投資家による事後規制の働いていることですから、ケースごとに黄金株の適用場面が形成されていくことになるわけでして、まさに投資サービス法適用下における民主的コントロールのあり方のひとつだと思います。また、イギリスはすでに2000年から金融サービス法が適用されており、黄金株導入には否定的とお聞きしておりますが、FSAの会長やCEO以下の役員はすべて英国財務省によって任命されるわけでして、組織法上も設立根拠は金融サービス法に正当性があると認識しております。

もし、東証の規則制定権の根拠が薄弱なままで、「黄金株の導入は、市場の将来にとって百害あって一利なし、これは投資家保護に悖るものである。これは市場を熟知している私たちが判断しているのだから」として、民主的コントロールの及ばないところで決定してしまうのが「正しい」ということであれば、会社を熟知している一部の株主が、(株主総会で消却できるものとして、かろうじて株主の意向を反映できるシステムとして)私たちはこの会社にとってだれが株主価値を最大化できるかを決定できるはずであるから、といって黄金株を導入するのが「正しい」と考える場面と、どれほど異なるのでしょうか。

誤解されませぬよう申し上げるところでありますが、私はそれほど積極的に黄金株を導入すべきである、との考えを妄信しているわけではございません。ただ、辰のお年ご さんが提起された問題について、あらためて考えてみますと、理屈の世界として、東証は規則のなかで、黄金株を否定できる資格があるのだろうか・・・と、逡巡してしまった次第であります。また、どこか大前提のところで、根本的な誤りがあるかもしれまんせんので、どなたかご遠慮なく、ご指摘いただければ幸いでございます。(でも、こんなこと、皆さん考えたことありませんでしょうか?私だけがへんなこと考えているんでしょうか・・・)

このたびは、どうも問題提起、ありがとうございました。

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2005年11月23日 (水)

構造計算偽造と行政責任を考える

東証から黄金株禁止草案やガバナンス開示規則などが公表されておりますので、そちらにも強い興味を惹かれるのですが、企業コンプライアンスや内部監査の関係で、どうしても整理をしておきたいところがございますので、また構造計算書偽造問題について、考えてみたいと思います。

本日のニュース報道では、東海地区におきまして、「姉歯建築事務所」が構造計算をしていたホテルについて、次々と営業自粛の発表がなされた、とあります。名鉄不動産や三重交通は、営業中のホテルについて、「まだ耐震性に問題があるかどうか調査中」とのことでありますが、その間、営業を自粛する、とのことです。今後、自社が販売した物件の構造計算が「姉歯事務所」だったと判明した時点で、同様の発表が続くのかどうか、それぞれの企業の対応が注目されるところです。(たとえ耐震強度に問題がなかったとしても、その物件を「姉歯」さんが構造計算した、というだけで資産価値に影響が出るかもしれません。企業はそのことを承知のうえで発表するか、黙っているか・・・・。調査結果が出て、耐震性に問題なし、と判明するまで沈黙するところが多いのではないでしょうか。販売した建築主は、購入者の資産価値を守るためにも、「耐震性問題なし」と判明するまでは公表しない、という選択肢をとるのかもしれませんね)

1 行政責任を考える実益はあるのか?

さて、昨日あたり、国土交通大臣は「国が救済措置を前向きに検討する」と発表しておりますが、その内容につきましては、「解体物件の購入者への買い替え用の低利融資案」が有力のようです。これもひとつの救済措置ではありますが、果たして行政庁に被害者に対する賠償責任や損失補償すべき立場、というのは認められないのでしょうか。このあたりについて、検討してみたいと思いますが、ただ以下の見解は、あくまでも現時点での情報に基づく私個人の意見でありますので、今後おそらく関東の弁護士さん方による相談チームが出来上がるものと予想いたしますので、詳しくはそちらで相談されることをお勧めいたします。こういった行政責任を議論する実益ですが、本来ならば建築主や販売会社が第一次的な責任を負担するべき立場だと思われたのですが、木村建設や、ヒューザーのように「責任は負えない」と手を上げてしまうところも出てきましたので、「買い替え分の費用」をどこが責任として負担してもらえるのか、不明になっておりますので、その責任の帰趨を考察しておく実益はあるのではないか、と思っております。

もちろん、国や特定行政庁(市町村)の法的責任が認められるためには、その前提としまして(おそらく)イーホームズや東日本住宅評価センターなどの「指定確認検査機関」や、実際に建築確認申請を行っている意匠建築設計事務所の責任が認められることが必要だと思われます。 そういった意味で、行政も連帯責任を負担する場合があるのかどうか、そのあたりを考えてみます。

2 行政責任が発生する根拠事由を考える

さて、平成12年に改正された「建築基準法」によって、意匠建築設計事務所から、鉄筋コンクリート造の構造物に関する建築申請がなされ、建物が完成するまでの許認可手続きの流れについて図表にまとめてみますと、以下のようになります。

image001

改正建築基準法は、建築確認という、本来「官」の仕事であったものを「民」に開放したものでありまして、この建築確認手続きの流れが改正の「目玉」でありました。ただ、表のとおり、設計事務所は「民」である指定確認検査機関に申請してもよいですし、これまでどおり特定行政庁の建築主事に申請してもよいわけです。また、(同一の不動産について、)建築確認については「民」に、建物完成時の完了検査については「官」に申請してもよい、ということで、かなりややこしい流れになっております。なお、表には記載されておりませんが、指定確認検査機関は「民」といいましても、その業務区域については限定されておりまして、国、もしくは都道府県知事からの変更許可をもらわなければ、他区域の物件の確認検査はできない仕組みになっております。

そこで、もうすこし確認検査制度における当事者間の関係について、くわしく検討するために、青線で囲んだところを拡大してみますと、以下のとおりとなります。

image002

実際の確認検査業務において、このような各当事者の権能が行使されているかどうかは不明ではありますが、建築基準法上では、上記のとおりの権限が各当事者に付与されております。特筆すべき点は、設計事務所が指定確認検査機関に申請書を持ち込んだ場合でも、特定行政庁は「不適合である」と判定したり、自ら設計事務所に「是正命令」を発令することができるようです。また、指定確認検査機関に対して、国や知事は青字で記載したような監督権を行使したり、さきほどの「区域規制」によって、その検査権限行使を監督すべき立場にあります。

さらに、「民」とされている指定確認検査機関で働く職員に対しましては、法律上「守秘義務」が課されており、また職務上の刑罰規定の適用について、公務員に順ずるもの、つまり「みなし公務員」としての身分も規定されております。

3 根拠事由からみて、行政責任は発生するか?

上で解説させていただいた内容でご理解いただけますとおり、行政責任を議論するにあたっては、「国(都道府県)」と「特定行政庁」に分けて検討する必要がありますし、国家賠償法1条の責任を議論するにつきましても、誰を「公務員」とみて、何を「公権力の行使」とみるのかは、場合分けをしていかなければならないようです。今回のエントリーでは、発生の有無に関するコメントはいたしませんが、この問題を考えるにあたって、たいへん有益な最高裁判例(平成17年6月24日 最高裁第2小法廷判決)がございます。新聞報道では、この判例によって、特定行政庁が責任を負担しなければならないのではないか、と大いに議論されているようですが、国家賠償法第一条にも、この最高裁判例がそのまま適用されるのかどうかは、別個の議論が必要かと思います。

4 行政責任の認容は、規制緩和(小さな政府)に逆行するか?

もし、ここで国や自治体の責任を認容するとなると、何十億という補償金額(正確には賠償金額)が必要になるわけですが、「民間が儲けるために、官の仕事を民に譲渡したのに、なんで責任だけ負わされるのか」という反論が当然出てくるわけであります。しかし、これはもし、官が営業活動の主体であれば理屈も立ちますが、官はそもそも税金を徴収して確認検査を行っていたわけでありまして、その検査業務の採算に問題があるために、民間での自主経営に期待して手放したわけですから、いわば「消極的利益」は享受しているわけでして、さらに指揮監督権もいまだ手中にしているわけですから、どうも説得的な理屈にはならないように思います。ただ、もっとストレートに考えて、一部の悪質な構造計算書が原因で一部建物入居者が被害を受けた場合、財政状況が逼迫している自治体が、被害者救済のために、その市民の税金を投入するにあたっては、きちんと市民への説明責任を果たせるかどうか、このあたりが最も悩ましいところではないでしょうか。一番最初のほうで、記載しましたように、国や自治体による「低利融資」というところまでのコンセンサスはできましても、それでは市民の税金をそのまま入居者、購入者、ビル近隣地域の方のために、そのまま投入する、といったことは、(国家賠償にせよ、なんらかの損失補填にせよ)市民のコンセンサスは得られるでしょうか?これから先、また考えないといけない時期が来るのではないか、と予測しています。

また、内容に誤り等ございましたら、ご指摘いただけますとありがたいです。

なお、これは付録の話になりますが、これから入居者、購入者、ビル購入企業にとって、耐震構造問題の法律紛争予備知識を得たい方に、有益な本として「欠陥住宅紛争解決のための建築知識」という本(ぎょうせい出版 平成16年発売)がお勧めです。これは東京第二弁護士会・消費者問題対策委員会と99建築問題研究会の共同執筆となっておりまして、主に一級建築士の方が紛争の際に必要な建築知識を解説しておられます。また、耐震構造問題に関する判例索引もビックリするくらいたくさん掲載されております。(おそらく3500円くらいだと思います)

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コメントを頂戴した皆様がたへ

弁護士の山口です。

「耐震強度偽造と内部監査」のエントリーにおきましては、たくさんの貴重なご意見をいただきました。私の意見に賛成の方、また反対の方、いずれも真摯な回答を頂戴しましたこと、厚く御礼申し上げます。

また、「黄金株と司法判断」のエントリーにおきましては、有能なお若い弁護士の方々に加え、たいへん証券取引法に詳しい弁護士の方(私も、この方の「ビジネス法務」の論稿はかならず拝読させていただいております)の詳細かつ熱意のあるコメント(これも、要旨としましては、私とは反対意見ですが)をいただき、厚く御礼申し上げます。

本来ならば、すぐにコメントを差し上げるべきところ、いずれの問題も軽々しく論じることができず、すこしばかりお時間を頂戴したいと存じます。ただ、「内部監査」の問題につきましては、これだけ真摯な意見が分かれるところを見ていただきますと、実際は「きれいごと」で議論できない問題であることが、一般の方にもおわかりいただけたのではないか、と思います。また、「黄金株」問題につきましても、投資家保護と企業経営の安定、そして金融庁と東証との関係など、理論だけでは割り切れない部分があることもまた、ご理解いただけたのではないか、と思います。すでに東証のHPでは、取締役会でのとりまとめを終了して、「規則要綱試案」が公表されているそうですが、またそういった内容も吟味したうえで、関連エントリーにて、私見を述べさせていただきたいと存じます。

それにしましても、最近、自分のブログであるにもかかわらず、自分だけのブログではないような気がしてまいりました。直接メールをいただく機会も多くなりましたが、ここでROMされている方々が、ご自身の真剣なご意見を表明していただける機会も増えてきたように思います。(おそらくアクセス数が飛躍的に増えたことにもよりますが、この方向性につきましては、私個人としても異存はございません。)この「ビジネス法務の部屋」は、私個人の貴重な財産のようなつもりでおりましたが、次第に閲覧していただいている方の共有資産のようなものに変容しつつあるようにも思えます。ただ、このブログは私の「企業価値」ネタが基本のブログであり、これからも楽しみながら続けてまいりますので(そのように自分自身で思い込みませんと、続かなくなってしまいますので)、どうか皆様方も、このマニアックなブログに気楽につきあってやってください。どうか、今後とも宜しくお願いいたします。

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2005年11月22日 (火)

耐震強度偽造と内部監査

(11月22日 午後1時追記あり)

ろじゃあさんが、精力的にこの問題を取り上げておられるので、民事解決への対処などについては、少しお休みさせていただきますが、あまり議論されてこなかった「企業コンプライアンス」の観点から、どうしても考えてみたい点がひとつございます。(なお、この問題を、構造計算ビジネスに携わっていらっしゃる方の観点から、たいへん有益なエントリー「ビジネスからみた耐震構造計算」がアップされておりますので、まだご存知でない方は一度、ご覧になられたらいかがでしょうか。これもろじゃあさんのブログで知りました。)ちなみに、21棟以外にも、耐震性に問題のあるホテルが見つかり、京王電鉄は二つ目のホテル閉鎖を決めたそうで、また木村建設は工事中のビルの解体を決めました。ジャスダック上場の「シノケン」はついにストップ安となってしまいました。

ところで連日、イーホームズのHPには、自社の耐震強度偽造問題に関するコメントが増えておりまして、次第に(私が最初のエントリーで述べたようなタイプの)「危急時における対応」に変わってきつつあるようです。しかしながら、連日ニュースで報じられておりますイーホームズと姉歯事務所との親密な仕事上の取引関係は、どうも「検査が甘い」という社会的非難を増長させるばかりで、「叩かれても仕方ないかな・・・」との印象を、私も持ち始めるに至りました。

しかし、今回の耐震偽造問題は、突然姉歯氏が告白したことが発端となったのではなく、上場を控えていたイーホームズの内部監査部による、平時の社内調査によって発覚したものであります。数々の書類の中からサンプルを取り出し、たまたま一件の偽造が疑われる計算書が出てきて、そこから厳密な調査を進めていくと、姉歯事務所が関与しているものばかりであることが判明し、逐次国土交通省へ報告を重ねていった、というのが事実のようです。(報道ニュースと国土交通省の経過発表で、このあたりの事実に争いはないようです)

さて、今回、国土交通省はイーホームズに対して、行政処分を課す方向にあるようですし、(どうにも対応がお粗末だったために)世間やマスコミの非難を浴びているようでありますが、この「内部監査とその報告」、どう評価すべきでしょうか。もちろん、私も世間の非難感情(社会的非難)は変えられるものでもなく、「責めるべき部分は責める」のが適切かと思いますが、どっかに「執行猶予」的な措置を検討すべき余地はないのでしょうか。それとも、私の考えは甘いのでしょうか。

ひょっとすると、イーホームズはもっと世間的に許容されるようなポジションに置かれるであろうと、甘い予想をしていたために、「内部監査の結果を報告する」という英断に至ったのかもしれません。もし、これほど強い社会的非難を浴びることが予想されていたら、果たして公表していたかどうか、かなり微妙ではあります。しかしながら、もしこのような世間を騒然とさせる事態を予想していたうえで、「あえて」公表に踏み切ったということになれば、イーホームズという企業の社内のコンプライアンス経営に対する姿勢は評価されてもいいと思いますし、平時の内部監査によって発覚した経緯をみても、その内部統制システムはかなり有効に機能していたのではないか、とも考えられるわけです。そこで、これは私個人の独断的意見ではありますが、イーホームズの今後の耐震強度調査への積極的な協力の態度と、人命尊重を最重要課題として内部監査の結果を公表した態度を斟酌したうえで、なんらかの温情的措置を(社会に見える形で)とるべきではないか、と考えます。

これは、なにもイーホームズへの「感情的な思い入れ」からではありません。むしろ、こういった対応をとらないと、今後の他の企業のコンプライアンス体制、内部統制システム構築への社会的評価、内部監査の独立性を保持する「誠実性」に、影響が出てしまうのではないかと危惧するからであります。もし、今回の件で事件発覚に寄与したイーホームズの行動が、まったく評価されることがないとすれば、「こんなに社会的に叩かれてしまうんだったら、みつかるまで隠匿するのが得策」と、考える企業が増えるのではないでしょうか。もちろん、このあたりは「性善説」にたって、「内部監査による不正の報告」は打算ではない、人間の誠実さの発露である、と言い切る方もいらっしゃるかもしれません。たしかに、自分ひとりの仕事に関するものであれば、そういった正義感で行動できる人も多いかもしれませんが、いざ家族の顔が浮かび、スタッフの顔が浮かび、路頭に迷う自分の姿が浮かんでしまう組織の存亡に関わる問題については、果たして性善説に基づく行動が期待できるかというと、私は悲観的ですし、だからこそ、私の仕事(コンプライアンス経営の具体的な施策提言)の妙味もあるように思います。カルテル事件における課徴金納付減免制度とは、すこし状況は異なるかもしれませんが、これだけ大きな人命にかかわる問題を、あえて公表した企業への何らかの「減免措置」があってこそ、これからの企業に自浄作用に期待をかけることができるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

果たして、今回の事件では、いったいどんな気持ちでイーホームズは偽造問題を国土交通省へ報告したのか、原点に立ち返って、本当に真実を知りたいところです。

(追記)

ちょっと仕事が忙しいために、別エントリーはたてることができませんが、ろじゃあさんのTBでえらいことになっていることを知りました。建築主による救済が、このような形(建築主の民事再生申立)で制限されてしまうと、居住者、購入者の方もかなりやっかいな立場になってしまいます。ろじゃあさんは、行政による救済を強く唱えておりますが、これは弁護士が早急に立ち上がって、救済経路の整理を行う必要がありそうです。

なお、国土交通大臣がさきほど、建築確認に関わる問題は国にも責任があるとして、被害者救済へ向けて対策を推進することをコメントしたようです。(午後2時)

たくさんの方に閲覧していただいておりますので、もうすこしまともなエントリーにしたいんですが、時間がなくてごめんなさいです。。。

皆さん、日本建築構造技術者協会 というところをご存知でしょうか?

HPはこちらです。日本建築構造技術者協会

いま、靱公園の近くにあります関西支部のほうへ、私の知り合いに行ってもらったんですが、あいにく電気がついておりませんので、どなたにも会えませんでした。一度、法律問題を含めて、こういった「建築構造士」の方にも、お話をお聞きしてみたいと思います。とりわけ厳しい倫理規定もありますので、構造設計士さんの倫理行動規範のようなものについてもお聞きしたいと考えております。東京あたりだと、もっと情報が早いのではないでしょうか。

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2005年11月21日 (月)

構造計算書偽造問題と企業のCSR

(11月21日午後 追記あり)

姉歯建築事務所による構造計算書偽造事件は、ますます社会的不安を招くものとなり、今後の行政庁の対応にも注目されるところとなりました。この問題は様々なブログでも議論されておりますが、企業のCSRという視点から取り上げておられるのが「法務の国ろじゃあ」のろじゃあさんであり、的確に民事的な問題について取り上げておられるのが、「一寸の虫に五寸釘」のgo2cさん のようにお見受けいたしました。両エントリーとも私よりもご見識が深いものと思われますので、ご参考まで。(11月21日午前0時現在ということで)

この問題につきましては、前回のエントリーでも触れましたが、あまりにも整理が必要な問題が多すぎるため、いくつかの視点に分けて検討しなければ、議論する実益を見失ってしまうように思いますので、本日はやはり居住者救済という点から最も近いと思料いたします(勝手に私が判断しております)CSR(企業の社会的責任)という点から整理したいと思います。

さて、この日曜夜の報道によりますと、行政庁が「個人情報保護の観点よりも、人命尊重を最重要課題とした」との方針転換によって、倒壊の危険の認められたマンション名を順次公開することとなり、当然のことながら、その建築主や販売会社名も公表されるに至りました。go2cさんもご指摘のとおり、入居者、住宅購入者にとって、もっとも損害填補のための対象者として近い立場にありますのは、建築主や販売会社でありまして、そういった会社がどのような対応に出るか注目しておりましたところ、早速建築主である企業から、売買契約解除要請、代金全額返還、転居費用を通知した、との報道がありました。すでに数社の建築主、販売会社名が公表されておりますので、企業の信用を維持するためには、とりもなおさず、まっさきにこういったコメントを公表し、説明会を開催することがCSRを果たす第一歩ではないでしょうか。(ちなみに、マンション購入者にとってみれば、すでに銀行ローンを組んでおられるでしょうから、そういったローン負担金についても補填してもらう必要がありそうですが。)弁護士という立場上、こういった建築主の立場を有利にすべく、いくつかの責任回避の抗弁もすぐに頭に浮かびますが、そういった対応をこの場で行うことによるリスクと、ここまで社会的な問題となっている現状で企業の社会的評判を失うリスクとを計りにかけるとすれば、よほど倒産リスクがある場合でないかぎりは、後者のリスクを重視すべきでしょうし、しかもすばやく対応することが喫緊の課題だと考えます。明日、明後日と「倒壊のおそれのある」ビルが(さらに)公表されていくことと思いますが、関連ビルの建築、販売会社がどのような対応をとるのか、さらにその対応に社会やマスコミがどのような評価を下すのか、企業法務に携わる方々もご議論されてはいかがでしょうか。なお、この問題を考えるうえで、事前のリスク評価上、検討すべきと思われることを申し上げるならば、①入居者、購入者と建築主、販売会社との関係では、民法上の瑕疵担保責任や品確法(住宅品質確保促進法、このあたりはビジネス実務法務2級あたりの資格試験では定番ですが)によって、購入者側への民事責任はほぼ免れないであろう、といった予想、②今後の姉歯事務所や元請設計事務所の事情聴取次第では、まだ被害者の範囲が拡大する可能性がある、という予想、③「倒壊のおそれがあり退去を要するビル」と「耐震補強によって居住可能なビル」に分かれた場合に、企業としてもそれぞれの入居者に対して別個の対応をとるべきか、といったところでしょうか。

私は、現在のところでは入居者の被害填補という民事上の問題は、この建築主、販売会社との間でほぼ解決するのではないか、と推測しているところではありますが、関連問題として他の当事者との民事問題についても若干触れておきたいと思います。(責任回避をして、社会のみんなからグルだったと言われたくない、とか株主の手前、自社に責任がないことを証明する必要があるなどの経営判断に帰属する理由についてはまた別の機会にしまして、純粋な法律問題としてのみですが)

もっとも整理しておかないといけない問題は、「行政上の責任追及」と「民事上の責任追及」は異なる、というものです。たとえば、元請建築設計会社6社について、国土交通省が刑事告訴を検討している、との報道がなされましたが、これで刑事告訴がなされ、有罪と確定しましても、だからといって民事上の責任をこの6社が負担しなければいけないのか、といいますと、これは別問題であります。建築基準法に違反した行動が取締法規違反である、としましても、その法令違反が民事上の不法行為の要件に該当するかどうかは、別個の問題でして、被害者側(もしくは被害者へ損害を補填した建築主側)が対象建築事務所の故意過失や損害との因果関係を立証しなければなりません。これはイーホームズや東日本住宅評価センターのような指定検査会社の問題についても同様です。(おそらく、建築主や設計事務所からすれば、検査会社を巻き込んでしまいますと、今後の営業に支障を来たすと認識しますので、まずそのあたりはないだろうと思いますが)検査会社も国土交通省から、なんらかの行政処分を受けるものと思いますが、そのことをもって入居者や被害を填補した建築主が、偽造を見逃した検査機関に賠償金の内部負担金を求めるということができるかどうかはまったく別の問題になります。

ただ、こういった「民事上の責任論と行政取締法違反の責任論とは区別されるべきである」といった既存の理論から、これまでは「トップが頭をさげて陳謝するだけで」企業も安閑としておられたわけでありますが、最近はこの両者の責任を密接に結びつけて、行政上の法令違反≒民事上の損害賠償責任あり、といった司法判断を認めやすくするための理論も登場してきております。そのあたりの話は、このテーマの次の機会に触れてみたいと思います。

(11月21日午後2時 追記)

国土交通省は問題の21棟のうち、14棟について「倒壊のおそれあり」と公表したそうです。建築中のマンションについては、任意調査したところでは建築基準法によって規定されている耐震強度の3割から4割しかない、とのこと。また、上記エントリーの段階では報道されていませんでしたが、建築主・販売会社によって、かなり対応にばらつきがあるようです。

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2005年11月20日 (日)

黄金株と司法判断

いつも愛読させていただいている「ふぉーりん・あとにーの憂鬱」の47thさんから、「黄金株原則禁止?」のTBをいただきました。以前、「会社法トリビア」のエントリーでも、たいへん感動いたしましたが、このたびのエントリーは「ブログやっててよかった・・・」としみじみと思うほどの珠玉の作品に思えてしかたありません。先日「LLM留学日記」のneon98さんのラブホ研究論文にも驚きましたが、「自分の頭で考える筋肉の発達しておられる若い人」には(正直なところ)同業者としての嫉妬すらおぼえます。(まあ、「嫉妬」というのは、人間の感情としては、あまりよろしくないものですから、前を向いて歩くしかないのですが。)

前フリはこれぐらいにして、とりあえず、東証の「黄金株導入企業の上場廃止論」に関する正式なリリースが出るまでに、このブログをご覧の方も、一度47thさんの上記エントリー、ご一読されることをお勧めいたします。黄金株(といいますか、この定義自体がまず問題である、との指摘がなされておりますが、一般的には単純化したほうがわかりやすいので、あえて黄金株という言葉で括ります)というものが、いったい何のために使われるものか、どういった場面であれば効力が最大化されるのか、そういった知識を比較的(?)コンパクトに頭に納めることができそうです。

トラッキングストックのM&Aへの利用、事業再生時における利用など、「投資家平等原則」をはかるために黄金株を利用するということも非常にわかりやすい事例だと思いましたが、なんといっても、一番感心したのが敵対的買収防衛策を導入するということは、「オトシドコロ」を探るための道具である、という「いつもの47thさんの一貫した考え方」が、ここでも貫徹されているところだと思います。本来、大手の法律事務所の弁護士さんであるならば、企業にリーガルコストをかけてもらうほうが「営業としてはおいしい」話でして、ぶっちゃけて申し上げるならば、「紛争拡大路線」を推奨してもいいはずでありますが、47thさんが啓蒙せんとする話の先、といいますのは、限りなくリーガルコストを少なくして、平和的解決を図り、株主に無駄な損失を与えない、というきわめてシンプルな(理想的な)対処法に向いているように思えてなりません。スゴイ。実務家として敬服いたします。

ただ、一言、私なりに意見を述べさせていただくならば、「この感覚が日本に定着するには、あと20年かかるんじゃないでしょうか」。47thさんのおっしゃるように、もともとトラッキングストックや事業再生に利用する黄金株は、いわば元々「平和的利用」の場面であり、おそらく法律専門家、会計専門家主導によって最適利用が可能な場面だと思います。ただ、それは黄金株の最適利用に関する予想がつくからこそ、当事者双方の経済的価値の均衡がルールとして定着し、スキームの導入にも納得がいくように思われます。そこには、やはりアメリカでの裁判の歴史というものが横たわっているのではないでしょうか。(このあたりは、あまり自信をもって議論できるだけの知識を持ち合わせてはおりませんが)

私も、東証が黄金株の導入一律禁止を決定することは反対です。47thさんがおっしゃるとおり、「投資家平等原則」実現の機会を逸することにもなりかねないと思いますし、まずなによりも司法判断によって、事案ごとに適正な防衛策のあり方を形成する機会が奪われてしまうことが「もったいない」ように思います。これから本当に国内、国外の企業が日本の市場で企業再編を繰り広げるのであれば、今以上に弁護士、会計士、証券会社、機関投資家、ファンド、そしてなによりも経営者の戦略的知識という「社会インフラ」が不可欠です。そこに関与する人たちが、みなさん47thさんのように経済的な理論にも精通できればよいのですが、おそらくそうはならないでしょう。とすれば、やはり最も依拠しやすいものは日本における司法判断ですし、その集積だと思います。黄金株導入というのが、もし根こそぎ「ダメ」ということになり、さらには葉玉検事さんが提起されたような種類株式を用いた防衛策も「投資家平等原則違反」ということで無理、ということになってしまうと、おそらく敵対的買収時における平和的解決へのバランス感覚というものは社会インフラとしては育たないのではないか、ひいては双方が疲弊するまで紛争を繰り広げ、株主の利益が悲しいほどに無為に失われてしまうのではないか、と危惧しています。(まあ、それで一部の業界は儲けを出すことにはなるわけですが)

まあ、黄金株というものが「百害あって一利なし」ということが、社会的な合意とされてしまえば、どんなに反論しても覆らないのでしょうが、47thさんのおっしゃるような「平和的解決のための道具としての価値」があるとすれば、一律禁止は、そういった意味でたいへん残念な気がします。

最後になりますが、この東証のコメントにある「投資家平等原則」という言葉、ちょっと使い方が気になります。普通は投資家がこれから市場に参加しようとする場合に、そのスタートラインにおける経済的な面における機会均等ルールを決めるときに用いられるのであって、株主平等原則と同義に使われるものではないと思っていますが。

(11月20日 昼 追記)

今朝の読売のニュースによると、ちょっと報道のトーンが変わっていますね。

黄金株、原則禁止(一定条件満たせば容認も)

22日の東証取締役会で概要が決定されるそうですが、もしこの記事内容が真実に近いとすれば、かなり経済産業省の発表した指針に近い運用も期待できるのではないでしょうか。

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2005年11月19日 (土)

構造計算書偽造と企業コンプライアンス

(11月20日 昼 追記あります)

すでに広く報道されておりますが、マンションの建築確認申請の際に、設計対象物の耐震構造の安全性をチェックする建築事務所が構造計算書を偽造した問題について、若干意見を述べてみたいと思います。(なお、下記意見は、私が大阪地方裁判所で現在係争中の建築設計会社相手の裁判とは一切無関係のものでありますので、念のため)

まず、このたびの問題でもっとも厳しい状況にいらっしゃる入居者、ホテル事業者の方々へ謹んでお見舞い申し上げます。阪神大震災で私が(たった1週間程度ですが)ボランティア活動をしておりましたとき、あの西宮地区で全壊マンションと「ビクともしていないマンション」が混在している風景は異様でした。西宮の建築課に聞くと「耐震構造検査を受けた家屋と受けていない(ころに建設された)家屋」の差である、と説明を受けました。現在入居されているマンションが耐震補強で済むものなのか、建て替えを要するものなのかは、いまだ不明でありますが、ご心中察するに余りあります。

法律関係の詳しい説明は、建築紛争に詳しい先生方のブログやHPで公開されるものと思いますが、私のブログの性質上、すこしばかり企業コンプライアンスという面から問題を提起させていただき、ご覧の企業法務担当者の方にお考えいただきたいと思います。なお、このブログは11月19日午後6時現在での報道に基づくものであります。

構造計算委託事務所(姉歯建築事務所)の代表者は、すでに構造計算書の偽造を認めており、その委託先である「イーホームズ株式会社」と「株式会社東日本住宅評価センター」について焦点をあててみたいと思います。ご承知のとおり、この2社は、今回の偽造計算書を姉歯事務所から持ち込まれ、その耐震性の検査を行った民間会社であり、どちらも問題なし、と評価した会社であります。いずれも、政府の規制緩和(小さな政府)政策のもと、本来は公共団体が行っていた検査作業を、国からの指定を受けて行う会社であり、イーホームズは独立系の民間会社としてははじめて指定を受けた会社で、東証マザース上場準備中の成長企業であります。一方の東日本住宅評価センターは、社員規模こそ、イーホームズとほぼ同一であるものの、出資者は超大手企業が軒並み名前を連ねている優良企業であります。

姉歯建築事務所より構造計算に関するプログラムを交付され、その検査を行った経緯はぼぼ同じと考えられ、すでに両企業からは、以下のように今回の問題についてコメントが発表されております。(イーホームズのほうは、アクセスが非常に込み合っており、リンクが困難かもしれません)

  イーホームズのコメント         東日本住宅評価センターのコメント

ところで、今回の「構造計算書偽造問題」、いったいどういった経緯で判明したかといいますと、イーホームズの内部監査から、ということのようです。イーホームズが何度か調査を行った結果、構造委託事務所の偽造が発覚し、国土交通省へ報告をした、というものであります。いっぽう、東日本住宅評価センターは、国土交通省からの調査依頼があるまで、こういった偽造が行われたことは気づきませんでした。自らの責任問題が発生することを承知のうえで、あえて公表に踏み切ったイーホームズ、まったく気がつかなかった東日本住宅評価センター、コンプライアンス・オフィサーとしての立場から言えば、前者のほうが適切でありかつ、技術という面でも信頼性が高いと評価していいにもかかわらず、現実の報道は、皆様ご承知のとおり、「イーホームズへの非難」で終始しております。

さて、この差はいったいどこからくるのでしょうか?企業リスクに対する評価、問題発生時のマスコミへの対応、企業の社会的責任の表明方法など、おそらくどこの企業でも将来起こりうる問題のために考えておかなければならない問題がたくさん詰まっているように思います。ひとつだけ、現状での感想を述べるとすれば、「民」が「官」を怒らせたり、ケンカをいどむのは最後の手段として残すべきであり、最初から「官」を追い詰めるような言動を「民」が行うことは、企業にとって非常に不利です。そのあたりの初期対応において「イーホームズ」に不適切なところがあり、またなんといっても、コメントに「被害者と思料される方がた」への思いやりが欠けているのではないか、という点も、どんなものかと思わせます。せめて今後、原因調査と入居マンションの耐久性調査に最大限の努力をします、と誓約してほしかった。

この問題は、いろいろな答えがあっていいとおもいますし、とりわけ企業コンプラに携わる方に検討をしていただきたいと思います。(なお、取り上げました情報に誤りがございましたら、ご指摘ください。訂正させていただきます)

(11月20日 午前11時半追記)

イーホームズのHPによりますと、19日午後の会見内容ということで、コメントが補足されております。やはり、自社には過失はない、ということを詳細な法的根拠によって説明されておられるようです。関連の建築基準法、基準法施行令、施行規則を確認してみましたが、(かなり詳しく条文を精査したり、対応した表を精読してみないとわかりにくいかもしれませんが)上記説明には、ある程度イーホームズによる主観的判断も含まれております。また、検査機関は、国から許可を受けて営業しているわけですから、(許可営業の条件として)遵守すべきは建築基準法、施行令、施行規則だけではなく、国土交通省大臣告示(技術基準)や建築士学会規約などの関連条項の遵守も条件になっているはずです。そういった点こそ、問題になるはずでして、単なる「過失の有無」ではなく、まさに「任務懈怠」があったかどうかが、問題になろうかと思います。

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2005年11月18日 (金)

「会計参与」の悩ましい問題を解決する一考察

一昨日のエントリー「会計参与と新会社法との相性」のなかで、会計参与の中心的業務となる「取締役との計算書類の共同作成」への疑問として、もし会計参与と取締役との間で、計算書類の作成方法に意見の対立があって、作成ができないときの対処方法はどうしたらよいか?について疑問を呈しておりました。

きょう、神戸地裁からの帰り道、梅田の旭屋書店さんで、新発売の「新・会社法100問」(葉玉匡美検事、会社法立案担当者の会 編著)が山積みされておりましたので、一冊購入して、ちょっと事務所でめくっておりましたところ、ナント!この疑問点ズバリの設問が掲載されておりましたので、たいそうビックリした次第です。(第77問 会計参与)

設問は、「取締役と会計参与の意見が合わないために、単独で取締役が計算書類を作って定時総会を招集(注、おそらく新会社法439条との関係から、計算書類は、株主総会で報告だけすればよい会社もありますので、会計監査人を設置していない株式会社を想定しておられると思います)した。この会社はどうやって、計算書類を確定できるか?」といったものです。

なお、争点を明確にするために、あらためて申し上げておきますが、実務上、会計参与が意見の食い違いの際に、辞任する道はあることが前提です。ただ、この辞任につきましても、会社の機関として、会社と委任関係に立っている会計参与(会社法330条)につきましては、その職務に忠実に行動すべきであり、自らが正しいと考えている会計指針の適用を取締役が拒んだときには、その適用を説得すべきであり、むやみに辞任しますと、会社の信認違背として損害賠償責任を負う危険を有していると思われます(会社法423条1項)
回答の結論だけをご紹介いたしますと、①会計参与は、総会で意見を述べて、総会で取締役を解任する、②総会は会計参与を解任する、③総会で会計参与制度廃止案を決議して、その後取締役が計算書類を単独で作成する、といったものです。

しかし、この結論もかなり納得しがたいもののように思われます。そもそも、計算書類の作成について、取締役と会計参与のどっちが正しい方針で作成されるかを、総会の場で(専門家でもない)一般株主に問う、ということ自体が非現実的ですし(たとえ内容がわかりずらくても、利益処分のためには株主が計算書類の承認をしなければいけないのとは、利益状況が異なります)、またどっちみち、どの結論をとりましても、翌年の定時総会まで、本年度の計算書類が確定しない(会社法438条)ということは、会社の利益処分や損失処理ができないことになりますから、かなり会社にとって不都合ではないでしょうか。いずれにせよ、「一問一答新会社法」(相澤 哲 編著)同様、このあたりの問題処理についてはモヤモヤが消えることがありませんでした。こういったケース、不測にも会計参与と取締役との意見が食い違っても、なんとか「この定時総会で」計算書類の確定へこぎつける対処方法はありませんでしょうか。

1 解釈論的試みによって解決することは可能か?

法文には「共同」で計算書類を作成とありますが、すでに計算書類の承認を定時株主総会へ上程してしまっている以上、そのまま株主総会で承認を得てしまってもよい、とする解釈はとれませんでしょうか。

つまり、計算書類の承認手続きという制度は、神田秀樹著「会社法(第四補正二版)」の168ページによりますと、計算書類の承認を株主総会の権限としたのは、利益の処分は会社の所有者である株主自らが決定するのを妥当と考えるからである、として、もっぱら株主の利益保護のための制度と捉えられております。そこで、まず原則として、手続き違背による計算書類の承認というものが、株主自身による(自らの利益を放棄する)ものであるかぎりは有効としてよい場合がある、と考えてもよいのではないでしょうか。ただ、新会社法が会計参与の権限として、「取締役との計算書類の共同作成」を規定しておりますので、この手続違背の場合であっても、「株主自身がその利益を放棄する以上は有効」となるかどうかは別個に考慮すべき問題だと思われます。といいますのは、会計参与の上記「共同作成」の趣旨は、計算書類の正確性を担保するためのものである、ということが言われておりまして、それは単に株主の利益だけのものではなく、会社と取引をする債権者の利益も保護している規定ではないか、と考えられるからであります。もし、債権者の利益保護をも目的としているということでしたら、むやみにこの規定に違背した手続を総会が推し進めても、承認決議自体が無効になってしまうおそれがあります。

たしかに、計算書類の正確性によって、取引を行う会社債権者の利益を保護する一面もあるかと思いますが、この会計参与という機関の特徴は、株式会社がどんな機関設計をとろうとも、あくまでも「任意の機関」とされているところにあります。(会社法326条2項)つまり、採用するかどうかは、「株主総会における定款変更」をするか、しないかにかかっているわけでして、一般株主の設置意思に完全に依存する機関であります。したがいまして、私の個人的な見解としましては、やはり会計参与が「役員」である以上は、一般株主の利益保護を目的として行動すべき存在であって、計算書類の正確性向上によって会社債権者が利益を享受するとしましても、それは株主保護の要請からくる「反射的な利益」にすぎないものと考えるのが適切ではないかな、と思うわけであります。
そうしますと、この「共同して計算書類を作成する」という規定に違背した形で、株主総会が押し切って計算書類を承認した場合でも、その承認決議が有効となり、利益処分、損失処理も、その承認された計算書類によって行いうる、と解釈できるように思いますが、いかがでしょうか。ただ、ちょっとはじめに申し上げましたように、そもそも会計参与は取締役と共同して計算書類を「作成」しなければならないことになっておりますので、そもそも株主総会に上程すべき計算書類自体が存在していない、という疑問もあります。計算書類が存在しない以上は、株主総会で承認したくてもできない、ということになりますので、そのあたりの解釈論に限界があるかもしれません。

2 政策的な試みによって解決することは可能か?

株式会社の法令順守といった面からみると、解釈論として可能だとしましても、会計参与制度を無視するような方法を採用するというのは問題があるかもしれません。そこで、やはりこのような場合に会計参与が辞任する権利がある、というだけでなく、辞任する義務が発生する、というような結論を正当化できる方策を検討すべきではないでしょうか。

そこで、この会計参与という制度が、完全任意機関である、という新会社法の規定内容から、定款変更の際に、会計参与の権限行使の条件を付しておく、という方法が検討されるかと思います。たとえば、「計算書類の作成にあたって、双方の意見がまとまらず、定時総会期日の○週間前までに作成が困難な場合には、会計参与の意見を付したままで、取締役の単独意見によって作成することが可能とする」といった条件を会計参与採用の定款変更決議に付帯するものであります。すでに1で述べましたように、この会計参与という制度が、もっぱら会計制度的な支援を取締役に対して行うことによって、株主による計算書類承認に資するといった株主保護をもっぱらとする制度である以上、定款変更により、新会社法で定められている権限分配規定とは異なる権限の制限を付することも可能かと思います。

こういった定款変更決議がなされた場合には、意見の食い違いがあって、最大限の意見すり合わせが行われ、それでも意見が異なるケースでは、会計参与の辞任義務が発生するのと同じ効力を有することになると思われます。

さらに、会計参与と会計監査人をダブル選任すれば、株主総会における計算書類の承認決議が不要になりますから、このような悩ましい問題は発生しないことになります。ただし、これは非現実的な対策だと言われそうですので、これ以上は立ち入りません。

さて、会計参与の悩ましい問題を、検討してきたわけでありますが、はたして会計参与は実務に定着するのでしょうか。どうも金融庁や銀行あたりが、中小企業向けに制度取り入れの音頭でもとらないかぎりは、先行きはまだまだ不透明な予感もします。

最後になりましたが、葉玉匡美検事さんの上記「新・会社法100問」、かなり分厚くて、読み応えのある大作ですが、過去問を解くことから新会社法を勉強するスタイルになっておりまして、非常に論点を捉えやすくなっており、貴重な実務家向けの参考書だと感嘆いたしました。これからの「勉強の友」にしたいと思います。(まさに通信と出版の融合ですね)

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「会計参与」の有効利用を考える

昨日は、会社法と会計ネタが融合したせいでしょうか、ブログ開設以来、はじめて一日2000アクセスを超えました。このような場末のブログをたくさんの方に閲覧していただき、厚く御礼申し上げます。ただ、これからも「アクセス数」は気にせず、企業価値研究マニアに喜ばれるような内容で一貫した「インディーズブログ」を目指しますので、ゆるりとおつきあいください。

といいつつ、まだ昨日のエントリーを引きずるわけでありますが、東京横浜会計事務所のv6spiritさんのコメントで一蹴されましたように、同じ企業に会計監査人と会計参与を、同じ監査法人から別の会計士を選任させてはどうか、という妙案につきましては、限りなく自己監査に近づいてしまうということで、冷静に考えてみると、やはり私の案に無理があったかもしれません。しかしながら、この「会計参与」という制度、昨日紹介させていただいた磯崎さんの「お笑い会計参与制度」の中で記事として掲載されていたように、どういった制度なのか日本の著名商法学者からも「わからない」と切り捨てられてしまっては、実もふたもないわけでして、なんとか会計参与制度に魂をこめるような有効利用はないものか、いま一度考えてみたいと思います。

そこで本日考案したのが、会計監査人国家権力擬制理論であります。(なんだか、ドクター中松氏になったような気分ですが)8月に、中央青山監査法人のカネボウ粉飾関与事件関連のエントリーで自論を述べさせていただきましたが、たしかに企業と監査人の癒着を防止し、客観的な適正・不適正判断を可能とするためには、会計監査人に国家権力を付加してしまうのが理想的、との意見に対しまして、民間の独立専門家が、突如権力をもつことの「おそろしさ」については、強く危惧するところであります。そこで、会計監査人の不正監査の動機、原因を取り除き、かつ会計士、税理士などの会計専門家の実力主義世界を実現するために、この「会計参与」制度を利用してはいかがだろうか、と思う次第であります。

具体的には、(ここでは公開企業を想定しておりますが)、自己監査が疑われないように、会計監査人と別の監査法人もしくは税理士法人の会計専門家が会計参与として株主より選任されます。それで、なにを目標とするかといいますと、その企業の監査方針の平準化、普遍化をはかるわけです。すくなくとも、会計監査人の交代によって、短時間で監査要点が客観的に理解しうる程度に平準化を行い、(補助者の期間を含めても)3年程度で会計監査人が交代しても、その監査に支障が出ない程度の平準化作業を会計参与が担当するわけです。

メリットとしましては、企業と会計監査人との癒着といいますか、情実による監査の可能性は少なくなり、純粋な第三者的立場で監査を行うことが期待できるところです。また、企業にとりましても、計算書類の作成と報告までの間に、2名の会計専門家が関与することになりますので、これまで困難であった専門家の能力を評価する機会となります。実際の現場でみられるような、なんでも会計士さんのおっしゃる指導に従う、という風潮もすこしばかり変わり、事後規制的な適法性確保にも役立つのではないでしょうか。また、作業の平準化がはかられますから、企業と会計監査人の信頼関係が破綻した場合にも、比較的容易に別の会計監査人に依頼できるのではないでしょうか。加えて、ふたりの会計専門家が関与することで、ある程度レベルの高い監査業務も期待できるところです。

いっぽうデメリットとしましては、やはりコストでしょうね。でも、実際に会計監査人による監査が会計参与の関与によってかなり楽になるでしょうから、ひとりあたりの単価は低くなる可能性はあります。

どこからこういった発想が出てきたのかと申しますと、破産開始決定の申立を行う代理人弁護士と破産裁判所の関係からであります。たくさんの負債を抱える人が、破産開始決定を受けるのは、本来ならば非常にたくさんの資料と聞き取りが必要になります。もし、裁判所が申立人個人と直接向きあうのであれば、騙されて破産開始決定を出した場合に債権者から責任を追及されてしまいますし、人生は千差万別であって、この個人がいったい、どの類型によって破産要件を満たすのか、という点を逐一判断していては裁判所はパンクしてしまいます。そこで、中間に代理人弁護士を媒介させますと、裁判所は自らの責任は免れ、要件該当性の判断事由は弁護士に平準化させて、短時間に重要な部分だけを精査すれば判断の過誤は防げます。もちろん判断の公正さを疑われることもありません。こういった制度を会計監査にも応用できれば、普段会計や税務に携わっていらっしゃる専門家の方が、会計参与となって、財務コンサルタント的な支援を行うことで付加価値を上げることができますし、その実力を企業に評価してもらう良い機会にもなります。

勝手なことを述べさせていただきましたが、すでに会計監査人の品質管理基準なども出てきておりますので、現実の流れとは整合性に疑問もありますが、せっかく会計監査人と同時に会計参与を選任することも構わないわけですから、会計監査人の公正さをアピールするため、会計参与としての会計専門家の実力をアピールするため、そして企業の財務情報の信頼性の高さをアピールするために、ぜひ会計参与活用方法を真剣に検討してみてはいかがでしょうか。

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2005年11月17日 (木)

新会社法と「会計参与」の相性

都市銀行の中小企業向け融資の際に、「会計参与」が関与して計算書類が作成されている場合には金利を優遇するといった報道がなされたり、法律会計雑誌でそろそろ特集記事が組まれたりしておりますので、このブログをご覧の皆様も新会社法で規定されている「会計参与」について、すでに勉強されていらっしゃる方も多いと存じます。機関設計のなかでは、会社の組織形態によりましては、必ず設置しなければならない、といった機関ではなく、どのような形態でありましても、任意で設置が可能な機関ですので、いわゆる「機関設計は何通りです」といった仕分けの紹介のなかにおきましては、別枠で説明されるケースも多いようですね。会計監査人と違いまして、会計参与は会社の役員ですから(新会社法には条文のなかに「役員」という言葉が何度か出てきます)会社の意思決定や執行行為に関与することになります(計算書類は取締役と共同で作成しなければなりませんし、会計参与の場合、会社の計算書類の承認を行う取締役会には出席義務が明文化されております)。

この「会計参与」。どうも葉玉検事さんのブログ風に申し上げると「オトナの事情」によって成立したような規定に思えます。(ちなみに、このあたりの事情は、磯崎さんの「お笑い会計参与」をお読みになると、たいへん興味深く笑えます)皆様は、この会計参与について、理解されていらっしゃいますでしょうか。私には、どうも理解できない点がいくつかあるんです。このブログは会社法立案者のものではなく、場末の弁護士ブログでございますので、もしご理解いただいている方がいらっしゃったら、こちらが教えていただきたいと思います。

1 会計参与と取締役の意見が合わないとき、計算書類はどうなるのか?

株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければなりません。(会社法432条1項)ところで、ある株式会社が定款を変更して会計参与を導入したとします。会計参与は、取締役と共同して計算書類を作成しなければなりませんので、(会社法374条1項)もしその計算書類作成にあたって、取締役と会計参与の意見が合わない場合には計算書類は出来上がりません。(一問一答新会社法 相澤哲編著 136ページ)しかし「適時作成」ということからすれば、なんとか計算書類を完成させなければなりません。そこでどうするか?

上記一問一答新会社法では、①会計参与はその段階で辞任する、もしくは②会計参与は辞任せずに、意見を異にした事項等について株主総会で意見を述べる、といった対処法が書かれております。しかし、いかにも歯切れが悪いですよね。たしかに、会計参与が自ら辞任してくれれば、仮参与の選任とか後任選任のための臨時株主総会ということも考えられるでしょうが、辞任しなかった場合のことも検討しておかないとマズイのではないでしょうか。だいいち、会計参与は会社との間では委任の関係に立ちますので、(会社法330条)自ら正しいと思って、取締役と異なる意見を述べているのでありますから、混乱を回避する目的で辞任するというのは、逆に信認義務違反に問われる可能性がありませんかね。会計士さんも税理士さんも、たとえ会計指針が存在しているとしても、かならず意見が一致するとは限らないでしょうから、こういったケースは「辞任」をためらいなく選択する、ということだけを想定しておくのはマズイように思います。それでは、つぎに②の対処方法で解決するでしょうか?ここにいう「総会で意見を述べる」というのは定時総会という意味でしょうから、そうしますと、定時総会において計算書類は出来上がっていると言えるのでしょうか?かりに出来上がっているものと評価できたとしましても、株主は会計の専門家の意見を重視するために会計参与を選任したにもかかわらず、その会計参与が反対意見を述べている計算書類に「承認の決議をする」というのは、どんなもんでしょうか?もし公開会社において、このような事態が発生した場合には、かなり混乱が予想されませんかね。(このあたり、先の一問一答新会社法の解説では、まだ株主総会の時点では計算書類は出来上がっていないと評価されている「ふし」がありますが、どうにもこうにも説明が不明でありまして、これで理解できる方がいらっしゃったら、まさに「ミスター会社法」と評価してもよいのではないでしょうか)こうなりますと、一番わかりやすいのは、取締役と会計監査との意見が合わない場合に、会計参与に辞任の自由があるというだけでなく、辞任義務が発生する、といった構成にもっていくのがスッキリするのではないでしょうか。ただ、その法律上の根拠についてはまだ思案中であります。

2 「会計監査人」「会計参与」ダブル選任の妙味

会計監査人は外部専門家による会社の機関、会計参与は役員としての会社内部の機関なので、当然のことながら、会計監査人が存在する株式会社は会計参与も選任できます。また、現時点での(会計監査人の管理体制として)金融庁の見解では、監査人の交代については監査法人の5年交代までを要求するものではなく、同じ監査法人内での公認会計士の5年交代はオッケー、というスタンスをとっています。ところで、このスタンスが通用するのであれば、同じ監査法人が一人の公認会計士を「会計監査人」として、もう一人の会計士を「会計参与」として、特定の公開企業に送り込むというのはどうでしょうか?企業にとっても、会計監査人の所属する監査法人の会計士から財務コンサルを受けることができますし、計算書類作成にあたっては、会計監査人との連携もスムーズに進むはずですし、費用面さえクリアできれば検討に値するのではないでしょうか。また、監査法人側としましても、監査とコンサルの同時依頼が禁止されているルールを実質的には免れることになり、また報酬面でも美味しいのではないか、と考えてしまいました。昨日のエントリーで、私は今後20年間にわたり「会計の時代」がやってくる、と申し上げましたが、こういった仕組みなどを有効に利用して、会計士さんの商売の域が広がるのではないかな・・・と思ったりするわけですが、やっぱり「潜脱行為」はマズイでしょうかね。

(11月17日午後 追記)

きょう、事務所に届いた「商事法務1747号」の記事により、日本公認会計士協会と日本税理士会が、会社法施行に向けての「会計参与」の行動指針を示すための検討会を設置したことを知りました。(委員長は弥永真生 筑波大学教授) 商工会議所、金融庁、法務省、中小企業庁などもオブザーバーとして参加され、近々出される法務省令などにも配慮したうえで、来年3月ころに「行動指針」を発表する予定だそうです。中小企業会計指針を利用する際の指針だけでなく、会計参与がその職務を遂行するうえで参考とすべきことについても示されるようです。(でも、発表はずいぶんと施行日直前になっちゃうんですねぇ・・・・・Σ(^o^;) )

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2005年11月16日 (水)

商法と証券取引法が逆転?

(相変わらず、企業会計ネタとなりますと、アクセス数が爆発的に増えておりまして、ビックリなんですが、別に気をよくして、ということではなく、またまた会計ネタで失礼します。しかし、専門外の立場の人間の意見をお読みいただける、ということはありがたいことと感謝いたしております)

(11月16日午前11時 末尾に追記あります)

今朝(11月15日)の日経朝刊「経済教室」で早大の上村達男教授の論評が掲載されておりました。「信頼揺らぐ公認会計士監査~証券市場の要請に応えよ」という見出しでして、サマリーは「日本では従来、監査基準に準拠することが監査業務であり、不正の発見は公認会計士の業務とはみなされていなかった。しかし、証券市場と一体となった公開株式会社の時代においては、有価証券の真実価値の把握こそが公認会計士監査の使命である」といったものです。この話のなかで、これまでは証券取引法は「商法では足りない部分を補うための同性質の法であった」のが、日本の企業社会の変化によって、証券市場と一体の本格的な公開株式会社の時代を迎え、まさに証券市場は公正な価格形成実現の場となったのであって、今後は証券取引法ルールが中心となる時代となり、会社法の旧来の制度意義は失われつつあるということが指摘されています。

昨日のエントリーとも関連しますが、私もここ20年くらいは、おそらく企業法務と言われる分野におきましても、「会計の時代」がやってくるのではないか、と信じて疑わないほうの部類です。証券取引法が商法を逆転する、といった比喩につきましては、それぞれの制度趣旨が異なるわけですから、抽象的かつ単純に比較すること自体には異論がございますが、平成の時代に入ってからの会社法の改正経緯を追っていきますと、法学者の手にあった「商法」(会社法)が、いまや経済学者や会計実務家、経営者団体の手によって変容してきたものと言っても過言ではないと思いますし、来年施行されます新会社法の習熟度におきましても、現状では悔しいことに(おそらく)会計士さんのほうが、弁護士よりも高いことは間違いないものと思っております。ガバナンスにしても、M&Aにしても、また内部統制問題にしても、それらの投資家への「開示」を重要課題といたしますと、注目されるのは証券取引法による規制であり、また各証券取引所における規則になってしまうわけです。今朝の日経には、別の記事として「金融庁において過日、経済産業省の企業価値研究会が発表した指針に対して異論が出ている」ということが報道されておりましたが、証券取引法や証券取引所規則の運用に近い「金融庁」と新会社法の運用に近い「経済産業省」との「綱引き」がありうることも十分納得されるところでしょう。

会計士さんが、これまで「監査一般」の専門家とみられてきたのは、証券取引法の法文を頼りにしながらも(証券取引法193条、193条の2)、実は「法とは一線を画す会計・監査の慣行の権威」をよろどころとしてきたためであり、会社の会計顧問としての地位は、監査慣行の集約である監査基準などに準拠することこそが監査業務とされてきたためである、という上村教授の説明は、このあたりに「モヤモヤ」したものを抱いていた私にとりましては、かなり明解な回答をいただいたような思いです。ただ、その後なんですが、「これからは証券取引法における真実価値把握のための投資判断の集積こそ生命線となるのであるから、公認会計士は取引法の趣旨に則り、会社の不正行為発見にも積極的に努めるべき」との問題提起に対しては、すこしばかり違和感を覚えるところです。(といいますか、素人なりの疑問を抱くところであります)

この議論は上村教授の論稿に始まったわけではなく、たしか金融庁のなかでも、公認会計士の「不正発見」に期待し、これを制度化すべし、との意見があることは随分前から報道されておりました。ただ、西武鉄道の上場廃止やカネボウの粉飾加担事件などがセンセーショナルに取り上げられるようになり、公認会計士の職務上の倫理問題などもクローズアップされていくうちに、どうも極端な形で「不正発見義務の規定化」が話題に上ってきたのではないでしょうか。そこで浮かぶ疑問なんですが、発見の対象となる「不正」というものはこれまでの会計士さん方の業務と簡単になじむものでしょうかね。不正という言葉には評価部分が強く含まれています。取引上のルールとしての「不正行為」については、証券取引法にも列挙されておりますが、一般的な「不正」の概念については明確にはされておりません。これまでの会計士さんの業務として「評価」内容が含まれるとすれば「適正」「不適正」とか「不備」「重大な不備」「欠陥」とか、そういったものではなかったかと思いますが、今後の業務の中で、不正ということへの評価が含まれてくるとすれば、段階的には 適正→合法→違法→不正といった流れが予想されます。つまり「不正」は企業犯罪、「違法」は「不正」とまでは言えないけれども、会計上の法規範に反すること、つまり公正と認められる会計基準違反、「合法」は、「真実性に合理的な保証を与える」ほどに適正、とまではいえないけれども、企業会計基準内にあることなど、そういった評価を必要とするはずです。今回はたまたま逮捕者が出るような事態が発生したために、こういった議論が登場したわけですが、実際にはグレーゾーンに含まれるような事件が大多数を占めることになるわけですし、そういった事例の場合に、会計士さんが「不正」や「違法」など判断することが、果たして投資家への会社価値の情報開示として正しいかどうかは疑わしいように思います。もし「不正があった」と開示して、実際には「不正」と評価されない事態だったというケースでは、株価への影響は計り知れないものでしょうから、会計監査人の責任問題が浮上してくるのは必至でしょうし、また逆に見逃した場合には、証券取引法上の刑罰を受ける、というものではたまったものではありません。結局のところ、現実論からいたしますと、「不正」「違法」の最終判断は一般株主の判断に委ねるものとして、公認会計士はそういった株主が真実価値を把握するための判断の基本となる企業の情報の適正性を審査して、その結果を公表することまでの仕事と捉えることが、今後の企業と会計監査人との理想的な関係を築くためには、唯一の方法がないのではないか、と私は考えておりますが、いかがでしょうか。

「不正監査」への積極的な取り組みを認めることのほうが、会計士さん方の所得アップにつながるのかどうか、・・・これはちょっと私にはわかりませんが。

(追記)

他業種の方より、「どの業種といったことにかかわりなく、会社法の習熟については、必死で勉強しているので、会計士もしくは弁護士がもっとも習熟度が高いような誤解を招く表現は適切ではない」旨のメールをいただきましたので、とりあえず削除いたしました。ただ、このブログではなるべく個人の意見もしくは空想(笑)としてご認識いただけるよう工夫しているつもりでありまして、断定的表現は極力回避しているように努めております。こちらも気をつけるようにいたしますが、そのあたりご理解くださいませ。

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2005年11月15日 (火)

「公正妥当な企業会計慣行」と長銀事件

この時期、公認会計士の皆様は中間決算監査にたいへんお忙しいものを拝察いたします。私が社外監査役を務める企業も今週が中間決算の報告となります。会計士さんにお話をお聞きしても、いろんな会計基準が新設されたり変更されたりと、弁護士に比べて憶えなければならないルールが非常に多いように感じます。加えて新会社法の法務省令が発表されますと、今度は政令(規則)による計算書類作成上の準則にも留意しなければならないとなると、本当に頭の下がる思いです。

ついこの間のエントリーでも書かせていただきましたが、弁護士と会計士による関西の合同研究会でLLP、LLCに関する講演が開催されましたが、今度、ぜひとも税理士さんも含めて合同で研修をしてみたいな、と(勝手に)思っているのが「公正なる会計慣行の斟酌」ですね。現商法では32条2項ですが、会社法では431条で規定されています。(すこしばかり、現商法と会社法とで文言に変化がありますが、あまり意味はない、というのが通説のようです。「公正なる会計慣行」→「公正妥当と認められる会計慣行」とか「斟酌すべし(従わなければならない)」→「従うものとする」などなど。ただ、内部統制監査との関係では、すこしばかり意味があるのでは、と私は考えておりますが。理由は下に述べます)
 

第431条  株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行により従うものとする

会計帳簿の作成にあたって、公正妥当な企業会計の慣行が「法規範」としての意味を持つわけですから、新しい会社法のもとで株主代表訴訟や第三者による責任追及の被告となりうる会計監査人や会計参与という会社機関にも重要な意味が出てくるわけでして、もちろん違法配当の有無に関する判断基準にもなるわけで、経営者にも大きな影響を与えるわけです。私にとりましては、最近まであまり関心もなかったのですが、この10月に長銀配当損害賠償事件第一審判決が雑誌で公開され(判例時報1900号)、日債銀損害賠償請求事件の判決(判例時報1863号115ページ)との比較も可能となり、とりわけ長銀事件では刑事と民事で裁判所の判断がまったく異なっているということもありまして、この会社法上で法規範となるべき「公正妥当な企業会計の慣行」とはいったいどういった要件があれば裁判所が「法規範性」を認容するのか、どういった根拠をもって裁判所を説得すべきなのか、興味の湧いてくるところとなりました。さらに、証券取引法上だけで「財務情報の信頼性確保のための内部統制の構築」が議論されているのであれば無視することもできそうですが、会社法にも(とりわけ公開会社の場合には義務規定として)「内部統制システムの構築」に関して規定され、会計監査の対象となるわけですから、こういった分野におきましても、はたして「公正妥当な企業会計の慣行」という「法規範」概念が入ってくるのかどうか、という問題も出てきそうです。(現商法32条2項は「商業帳簿の作成に関する規定の解釈については」とありますが、会社法431条では「株式会社の会計は」と変更されておりまして、そういった監査基準そのものの法規範性を念頭に置いているのでは、と考えております)おそらく上の長銀配当事件における控訴審判決が出たとしましても、まだまだ議論は尽きないものと思われます。ということでして、この会社法431条の解釈問題につきましては、企業経営者を含めて、法律実務家、会計実務家等による共有資産としての研究が、ぜひとも有益なものではないか、と思う次第であります。(といいますか、私が関西なもんで情報に疎いだけで、もう東京のほうでは、そういった合同研修がなされているのかもしれませんね?)

ビジネスに関連する話題を一回読みきり、をモットーにしているつもりではありますが、このブログでも、長銀配当損害事件の一審判決を中心に、シリーズで考えていきたいと思っておりますので、どうか(不定期ですが)おつきあいいただければ幸いです。また、この問題に興味をお持ちの方でしたら、ぜひ判例時報1900号の判決文(雑誌110ページ以上にわたりますので、非常に大作の判決文ですが、研究するに値するものと思います)の原文をお読みになることをお勧めいたします。(なお、この判決では、原告、被告双方が「公正なる会計慣行」をどのようなものとして主張しているか、別紙として紹介しておりますので、そこもまた非常に勉強になります)

ちょっとだけ具体的な問題について触れてみたいと思いますが、先の長銀配当損害賠償事件一審判決や日債銀損害賠償請求事件では、いずれも金融庁(以前は大蔵省)の通達や会計基準が施行されていたからといって、それが「公正な企業会計の慣行」といえるものであり、その通達、基準に従わないと違法となる、とは考えていないところです。それは、会計慣行といえるための厳しい要件に該当していなかったり、同じ事象に適用可能な会計慣行を二つ以上認めたり、会計慣行のない問題について、別の慣行を類推適用することを認めたりと、いうところが理由なんですが、もっとも裁判所の考えの根底にあるのは「企業会計の継続性」の重視と民法92条(事実たる慣習)の適用(もしくは類推適用)にあると思います。
詳しい理由はまた次回に述べたいと思いますが、結論として、たとえば企業会計審議会で、いろんな考え方が出て、委員の間で意見がまとまらない状況が続き、最後に「オトナの事情」によって会計基準が出た場合など、おそらく後の裁判では「会計基準」の法規範性を主張する側には不利に働くことを予想しておりますし、また先日の中央青山のカネボウ粉飾事件などによって、今後会計士協会や公認会計士・監査審査会などが中心となって、会計士協会内部における統制システムが適正に構築されていくならば、ぎゃくに法規範性を主張する側には有利に働くのでは・・・と予想しております。少なくとも、私が上の長銀、日債銀の民事事件判決を検討したところからは、そういった争点の形成も、ひょっとすると可能ではないかな、と思いました。

勝手に会計士さんや税理士さんの土俵に上がりこんで、わいわいと持論を展開しているようなもんですから、どうか「そんなアホなことがあるかいなぁ」といったご批判なり、ご意見を頂戴できれば、と存じます。(不定期にて、つづく・・・)

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2005年11月14日 (月)

田中亘助教授の論文と企業価値論

週末、成蹊大学助教授でいらっしゃる田中亘先生の「敵対的買収に対する防衛策についての覚書」(一、二、完)(民商法雑誌131巻第4,5号、同6号)を(読める範囲で)拝読させていただきました。今年の「商事法務研究会賞、受賞論文」で「他を圧倒する卓越した論文」と評されていたものです。ちなみに田中助教授は、昨年のライブドア・ニッポン放送事件のときは、ライブドア側にたった意見書を提出され、河本一郎神戸大学名誉教授と論戦を貼られたことでも有名な方です。

まず、この論文を書き終えたのが、2004年11月ということですから、ちょうど1年前なんですね。まだライブドア・ニッポン放送事件もなく、企業価値研究会の論点整理もなく、ましてや「敵対的買収」という言葉を世間に知らしめた判例もそれほど出ていない時点ということで、(そんな時期に)まだ30歳そこそこの先生が、政策論的見地からの検証とはいえ、どういった場合に敵対的買収防衛策の発動が許されるのか、経済効率性と法律解釈論を融合させ、そしてなんといっても、アメリカにおける実証的な検証例を豊富に紹介したうえで判断の基準を示す手法は、非常に共感を覚えました。

私のような一介の弁護士でも共感を覚えることができた点といいますのは、ひとつだけ具体的な例をあげますと、株主による企業価値の把握、という問題について「時間軸」を採り入れておられるのではないか、と推測されるところです。私の周囲には「関西コテコテのおっちゃん」がたくさんおりますが、そういった「おっちゃん」の話を聞いているうちに、企業価値の把握には「時間軸」が必要ではないか・・・と思うようになりました。

「いま、この株売ったらあかんがなぁ・・・。いまはぎょうさん会社に財産しこんどるんやから、まだまだ伸びるでえ」

「もうちょっとしたら、国道向かいの同業者(お好み焼き屋)が辛抱たまらん、いうさかいな。それまでは、これまでの稼ぎ、はたいても、がんばらなあかんねん」

これ、企業の内部留保の問題だと思いますが、会社の起承転結の時期の特定を抜きにして、内部留保が会社の株主価値に及ぼす影響は判断できないんじゃないのだろうか・・・、と。たとえば、現在、ガン治療にはMRIが広く使われていますが、最近PETが登場して、より細微にガンが発見されるようになったわけですが、これも「写真」から「ビデオ」へとガン発見のために「時間軸」を採用することで進化しているわけでして、株主による企業価値の把握のためには、この「時間軸」も必要になってくるんではないでしょうかね。そういった議論の進化も意味はあるように考えています。

そんな疑問を抱いたまま、この田中論文に触れてみると、企業における「人的投資」の時期如何によって防衛策の導入が妥当な場合と、不適切な場合に分かれるのではないか、と意見を述べておられるところに目がとまりました。かなり読ませていただきながらドキドキしましたね。一般的に敵対的買収への防衛策導入を広く認める立場からは、敵対的買収が「ステークホルダーの利益、とりわけ従業員による人的投資を阻害する傾向にあるため、これを取締役が阻止する必要がある」との根拠付けがなされるわけですが、本当にこの根拠は合理性があるかどうかを検証されている箇所があるんですが、そのなかでの問題提起であります。細かいことはとても私の能力では申し上げられませんが、この「人的投資」といいますのは、企業が従業員に支払う給料と比較したところの、その労働力の獲得によって得られる企業の利益との関係を示すものでありまして、たとえば従業員が若く、バリバリ働いている人が多い企業は、従業員は将来もらうべき高額給与のためのスキルアップの時期として、(つまり従業員は自らに投資をしている時期として)先行投資される従業員の労働力を「内部留保」として蓄えているわけです。一方、そういった投資を終えた社員が多い企業となりますと、企業は支払う給与は増えていますが、提供を受けるべき労働力に限りが出てきますので、内部留保をとりくずす時期と捉えることが可能となります。敵対的買収防衛策を導入するにあたって、このような企業の成長時期かどうか、という時間的な差によって、その発動を取締役会に授権すべきかどうかの判断基準が変わってくるということは、企業価値の算定のおいて企業がいったいどういった時期にあたるのか、起承転結のどこの時期にあると判断するのか、そういったモノサシも必要になってくることを示唆しているのではないでしょうか。

もちろんここで述べている「内部留保」という言葉は会計用語とはまったく異なる使い方であります。しかし、将来に向けて、企業が蓄積しようとする人的資産もまた、企業価値を議論する際には現金における内部留保と同様に考えるべきものだと思います。

それでは、いったい「この企業が」、いま起承転結のどの時期にあるのか、といったモノサシが現存するわけでもなく、その判断が主観的なものにとどまる危険性もあるでしょうが、とりわけ社外取締役など、株主利益を代表すべき立場の人が、株主価値をどう捉えるべきか検討する場合に有力な論証の根拠としては使えそうな気がします。この田中助教授の論文、たくさんの示唆に富む具体的な提案などもあり、非常に楽しいものです。僭越ながら異論もたくさんございますが、テクニカルな防衛策の設計というものではなく、どういった場面でどのような要件が満たされることが合理的か、その基本のところを考える際のモノサシとしては非常に有益だと思った次第です。

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2005年11月13日 (日)

少しだけ、衣替えしました。

ココログでブログを始めて、半年が経過しました。ということで、すこしだけ表紙を変えてみました。実は今までの写真は「大阪」ではなく「神戸」だったんです。(関西の方はお気づきだったかもしれませんが)今度の表紙は事務所近くの「中之島川」からみた「天満方面」の景色です。すぐ写真の左側に大阪地裁、高裁、建設中の新しい大阪弁護士会館があります。

あっそれから、いつもお世話になっている方々のブログリストを公開しました。まだまだお世話になっているHPやブログがあるのですが、とりあえず自分のエントリーに大なり小なり影響を与え続けていただいた方のブログを掲載させていただきました。関西の弁護士さんのブログがないとお思いなるかもしれませんが、実は「べんべんネット」なる会員制の掲示板システムにもう6年以上在籍しておりますし、MLも発達していますので、あまりブログではつながらないですね。

どなたでしたか、私のことを「風俗法専門ロイヤーの大御所」と評されておられましたが、実は風俗法どころか、一時は「風俗産業ロイヤー」と呼ばれるようにもなりました。でもこれは言い訳ではなく、大手の法律事務所で新人のころから専門育成されたわけでもない弁護士が、そこそこ企業法務に携われるようになる「きっかけ」を作ってくれたのは、この「風俗産業の顧問」だったんです。2年ほど前には顧問契約を解消しましたが、それまでずっと、「関西風俗界のママ」と呼ばれる女性(毎年、関西で納税番付上位にいらっしゃいます)の会社(ホールディングス)の顧問弁護士をしていました。ファッションホテルや風俗店のM&Aも多かったのですが、なんといっても「顧問をやってよかった」と思うのは違法行為に対する行政処分への対応ですね。警察行政に対する弁護士の関与は未だニッチです。大阪府警本部での告知聴聞手続への対応など、私が司法修習委員のころは、よく修習生を連れていきました。営業停止90日が、もし弁護士の頑張りによって45日とか60日になった場合、依頼者は泣いて喜んでくれますよ。(90日なら廃業、しかし45日なら「改装中」でなんとか顧客はつなげますから)

そんなこんなで評判になって、行政処分への対応に苦慮する一般の企業からもお声がかかるようになりました。保健衛生行政というところから医療機関への顧問も増えていきました。上場企業の社外役員に、というお話も、やはり仕事ぶりを知っていただいていた、その企業の顧問弁護士の方の紹介でした。コンプライアンス関連の仕事に興味を持つようになり、その「ママさん」との契約も解消するにいたりましたが、弁護士として育てていただいたのは、その「ママさん」であり、また今はもう倒産しましたが、あの「朝日住建」の松本社長でした。大いに異論もあろうかと思いますが、弁護士としてコンプライアンスを論じる場合、やはりグレーゾーンは知っていたほうがいい、と私は思っています。悪事に手を貸す、智恵を貸す、という意味ではなく、企業に発生しうるリスクの把握というためです。弁護士の数が今後飛躍的に伸びていきますが、スキルを磨く場所はいくらでもあるわけでして、できれば若い弁護士の方には、誰も通っていない草むらをかきわけて、「法化社会」(って、久保利さんが作った言葉でしたっけ?)への道をたくさん作ってほしいと思っています。

もちろん、ファッションホテル(通称ラブホ)のチェーン店の顧問は現在も続けているわけでして(これを風俗産業というのは、ちょっと私には異論があるのですが。まあ、法律の適用がある以上は、そういわれても仕方ないかもしれません・・・)、おもしろい話をしたいと思ったんですが、(回転ベットやボディソニックのお話など)また次の機会に。

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2005年11月11日 (金)

公正な買収防衛策・論点公開への疑問1

まだ、きちんと読めていないため、備忘録程度に疑問点を記しておきます。

今回の論点公開は、①買収防衛策の開示のあり方と②証券取引所における買収防衛策の取扱いに関するものであって、まだ検討は今後も続くということです(たとえばTOBなどの買収ルールの見直し)

そこで証券取引所における買収防衛策のルール作りの指針を提示する、ということが課題だったわけですが、具体的な提言をみると、ライツプランにしても、拒否権付種類株式や複数議決権株式にしても、どういったときに上場が認められ、どういった場合は認められないのか、きわめてアイマイですね。はたして、これで上場基準というものが作れるんでしょうか?

提言の一番最後のところで「不適切な買収防衛策に対する証券取引所における取扱に関するルールの実効性確保のあり方について」と小題がついていて、合理的でない買収防衛策については、その導入企業を上場廃止とすることも含め、その実効性確保も重要であると締めくくっています。しかし、このような「なにが合理的な防衛策」であるかきわめて不明瞭な指針によって証券取引所がルールを作ってしまったら、取引所の判断に広く裁量が認められますよね。もし、裁量判断を取引所が誤った場合はいったい誰が投資家の損失を補填するんでしょうか?昨年4月のメディアリンクスによる(大阪証券取引所に対する)上場廃止決定の停止仮処分申請事件については、おそらく誰がみても、廃止決定は合理性があると判断できるほど規則違反は明確だったわけですが、「あなたの会社の導入した買収防衛策は不合理であり、○○証券所規則○条の『公益もしくは投資家保護に違反したこと』に該当するので上場を廃止します」と言われて、すぐに改善命令に応じたり、廃止を承諾できるでしょうか?市場において「株主共同利益を毀損するものであって、不合理」と評価され、株価が下がるのであれば納得もしますが、取引所の裁量によって「不合理」と判断された場合には、メディアリンクスではないですが、上場廃止停止の仮処分を申し立てることも考えられるんじゃないでしょうか。代表訴訟のおそれがあれば、なおさらだと思います。そうしますと、証券取引所としても、ルールを決めても「要件にあいまいさが残る」場合には謙抑的にしか廃止基準を用いることができないため、実効性は期待できないものと予想されますが、いかがでしょうか。

こういった取引所における買収防衛策の取扱を論じるのであれば、取引所の規則として、あいまいさを残すべきではなく、もっと明確な提言がないと実効性は確保できないと思います。たとえば「黄金株」はダメかオッケーか。オッケーの複数議決権株式の発行方法を詳細に決めるとか。たしかニューヨーク証券取引所の規則などでも、公開時の複数議決権株式は一切禁止とか、利害関係人への何パーセント以上の第三者割当による新株発行は禁止とか、明確に規定されていますよね。

それとも、この提言は各取引所が「規則」の運用指針のなかで、それぞれ明確な買収防衛策基準を策定することを奨励しているのでしょうか?それはそれで傾聴に値するものですが、外国のように長年の判例法による形成の存在しないところでは、規則自体の無効確認を求めることで司法判断にのっかったり、規則を運用した取引所に損害賠償を求めることも検討できるわけであって、さまざまな弊害を生む可能性をもっているように思います。取引所のルールを企業が遵守することは、そのルールが取引所の裁量の余地がないほど明確な要件が規定されている場合を除き、それぞれの投資家の評価に期待するべきであって、廃止基準と結びつけることにはすこしばかり違和感を覚えています。

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2005年11月10日 (木)

出た!「公正な買収防衛策・論点公開」!

ついに出ましたね。 「公正な買収防衛策のあり方に関する論点公開」(11月10日付け)

 まだどっこも、報道されていません(午後9時現在)

 めっちゃ、レアやで。

  今回は hardwaveさん に勝ったかも・・・・・。

 でも、仕事中なんで、とりあえず、めっけ。ということで。

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管財人と向き合う金融機関、そしてファンド

(まずは、司法試験に合格された皆様方、ほんとうにおめでとうございます。合格はご自身の力だけではありません。周囲に支えられたうえでの合格です。周囲のかたがたとともに、その喜びを分かち合ってくださいね。)

最新の会計ネタをアップしてくださるkeizokuさんや、憧れのまま留学の夢消えた私にとって少しばかりの気分を味わせていただいている関西人neon98さんのブログが、「最高裁がファンドの回収に待ったをかけた」判決について取り上げていらっしゃいます。
最高裁、抜け駆け回収に待った、ゴルフ場を巡る訴訟で(朝日ニュース 11月8日)
最高裁判決の全文はこちらです。

(以下、一般のビジネス法務に興味をお持ちの方むけに、できるだけ優しく解説いたします)

更生管財人や破産管財人には、倒産手続が円滑に公平に進行するように、一部債権者の抜け駆け的債権回収行為には待ったをかけることができます。これが管財人の否認権を言われるものです。否認権が行使されますと、いったん抜け駆けによって回収した財産を、管財人のもとへ戻さなければなりません。本件では、更生管財人は、事後倒産に至った会社と、抜け駆けした企業との間での弁済協定と根抵当権設定行為を否認したわけですが、本件で一番問題になったのは、200億円相当のゴルフ場資産への根抵当権設定行為について、管財人はすべての根抵当権を否認できるのか、それとも抵当権を設定することによって、実際に根抵当権者が「抜け駆け的」利益を受けることになった金額に相当する部分だけを一部否認できるだけなのか、という点です。全体を否認できなければ、現在進行している更生手続は頓挫してしまいます。結果として最高裁は、会社更生手続の円滑を重視する立場、つまり担保権全体に対する否認権行使の効果を認める判断を下しました。

上告していたのはゴールドマンサックス系列のケイマンファンド会社でして、元最高裁判事でいらっしゃった河合伸一弁護士を擁して上告(上告受理申立)を行ったわけですが、それでも最高裁の壁は厚かったようです。ただ、この裁判、この論点に限って申し上げますと、東京地裁での第一審判決では、ファンド側が勝訴していまして、東京高裁(原審)でひっくり返った経緯があります。

新しい会社更生法や破産法にも、同様の否認権に関する規定がありますので、担保権設定行為が否認の対象になりますと、たとえ物件が可分なものであっても全体としての担保設定が無効になりますから、金融ビジネスの実務に及ぼす影響は大きいものといえます。
そもそも、破産管財人や更生管財人の否認権行使に対してケンカするのは、かなり勝訴の確率が低いと考えてよいでしょう。なぜかといいますと、管財人は「ちょっとこの抜け駆けはアンフェアじゃないかな」と思って否認権を行使して、相手がそれに従いませんと、破産裁判所(ここでは、倒産事件を一般に扱う裁判所のことを「破産裁判所」といいます)の許可をもらってから否認権訴訟を提起します。まず訴訟を起こす段階で、破産事件の担当部裁判官から許可をもらうわけですから、そこで勝訴見込みがわかります。そして、事件進行中も、主張方法などについて破産裁判所からいろいろな支援を受け、また全国の管財人の裁判状況もリアルタイムで、破産裁判所から情報を入手できます。つまり、否認権を行使された相手方は、実質的には「裁判所」を敵に回して訴訟をしているようなものでして、まさに裁判のプロ中のプロの法的主張に挑戦しなければならないというハンディを背負っているわけです。

また、今回は担保権設定行為の一部にだけ否認権行使の効果が及ぶべきである、ということを民法上の詐害行為取消権の制度との比較をもって上告人が主張したわけですが、これ、普通に考えて判例実務上、無理があると思います。たしかに、民法上の詐害行為取消権の制度(これも債務者が債務超過にあるときに、抜け駆け的に弁済を受けたり、担保を設定するようなことをした者は、これを返還せよ、という制度)は、抜け駆けをしたことで債務者の財産の減った分だけを返せばよいということを認めているわけですが、これは旧来からの最高裁判例が、できるだけ債権回収に熱心な債権者は保護します、といった運用を認めていることとの対比から出てくる結論でして、(ですから詐害行為取消権を行使した債権者は、抜け駆けをした債権者に対して、「みんなのために債務者に返せ」ではなく「私にその分を返せ」と言えるわけです)破産や会社更生のように、純粋に公平分配の世界では通用しない議論だと思われます。

では、債務超過のおそれのある債務者に融資をする場合、担保設定行為は抜け駆けであって、「やるだけ無駄」なんでしょうか?そんなことはありません。上に書いたとおり、詐害行為取消権の制度といいますのは、できるだけ債権回収に熱心な債権者の利益は保護しよう、といった判例の立場がありますから、もし債務超過のおそれがあっても、破産や会社更生に至らなければ、債権回収の実効性は上がるわけです。たまたま破産、会社更生などの手続に意向してしまった場合には、あきらめないといけないこともありますが。(私も一昨年、RCCから詐害行為取消訴訟を提起された企業の代理人として、大阪地裁での一審で勝訴しましたが、控訴審の最中に債務者会社が倒産したために、管財人による否認権訴訟に引き継がれ、控訴審で逆転敗訴をくらった経験があります)

以前、足利銀行の訴訟事件と関連して、中央青山監査法人はピンチである、とエントリーしましたが、これは相手がRCCと銀行内の特別委員会の合同チームだからであります。こういった現役裁判官がチームに加わっている集団というのは、おそろしく強い。この裁判で認定される事実をもとに、金融庁へ懲戒請求を申し立てるわけですから、かなりの覚悟が必要だと思います。

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2005年11月 9日 (水)

内部統制義務と取締役の第三者責任

大学などで少し商法(会社法)を勉強された方でしたらご存知と思いますが、株式会社の取締役が、悪意もしくは重過失によって会社債権者などの「社外の第三者」に損害を与えた場合には、たとえ民法上の一般不法行為の要件を満たさなくても、その損害賠償責任を第三者に対して負担する、という規定がありまして(商法266条ノ3)、新会社法におきましても、429条に同様の規定がおかれています。一般株主もこの「第三者」に含まれるとされていますが、会社に損害が発生した場合には、通常は株主代表訴訟を提起することになりますね。(金額的に大きな賠償責任が取締役に発生しますので。株主個人が第三者責任を追及してみても、微々たる金額になる場合が多いと思います)

ところで、これまでの「取締役の内部統制システム構築義務違反」ということが判例上問題になった例がありますが、いずれも取締役の会社に対する責任が問われたものでして、通常は経営判断の原則との関係で法的な争点が形成されることになると思いますが、今後はこの内部統制義務違反というのが、果たして会社債権者、ほか、ステークホルダーなどの「第三者」との関係でも問題になってくるのでしょうかね。会社法との関係で取締役の内部統制システムの整備を支援している数冊の文献にあたってみましたが、この問題を議論しているものは見当たりませんでした。おそらく、これまで議論されてこなかったのは、(委員会設置会社を除いて)商法に内部統制構築義務(取締役の義務として)が明文化されていなかったことに加えて、こういった構築義務というのは企業の予算や人的資産、といった面での限界があり、「できる範囲での努力義務」的な発想があったため、広く経営判断の原則の範囲内に収まる問題だったからだと思われます。

しかしながら、今後は新会社法において、大会社の内部統制システム構築義務が取締役の義務として明文化され(会社法362条4項5号、同条5項 なお、株式会社の業務の適正を確保するための具体的な体制整備事項については法務省令によって今後規定される予定です)、その具体的なシステム構築状況と運営状況については有価証券報告書で開示され、さらに開示内容が真実であることを代表者が宣誓するわけです。とりわけ、現在の取締役会レベルにおける内部統制文書化作業の現実をみるならば、全社的統制プロセスの運営状況を把握するための証憑を含め、業務執行者への監視機能が万全であることを示す文書の保存は今後、不可欠だと思われます。こういった制度自体を前提といたしますと、有価証券報告書に記載している「内部統制システムの整備運営状況」に欠陥があったと認定されるケースでは、新会社法429条2項1号に規定するところの「虚偽の報告」をしたことに該当し、株主代表訴訟の対象となるだけでなく、ステークホルダーから訴えられる可能性も出てくるのではないでしょうか。(なお、429条の規定からしますと、「虚偽」という意味は故意にウソをつくケースだけでなく、誤ってウソを書いちゃったケースも含みます)

また、内部統制システムへの監査については、ダイレクトレポート制度の導入が見送られたとしましても、会計監査人が代表者の開示事実を正しいものとして合理的保証を与える以上は、やはり会計監査人も同様の責任を問われる可能性も出てくるように思います。もし、取締役や会計監査人(監査役なども)が、この責任追及から免れるためには、こういった内部統制システム構築運営状況の説明自体が、「虚偽」ではないことを主張するか、虚偽であったとしても、その虚偽報告をするにあたって、個別の取締役の立場からみて、悪意重過失が(自分の立場としては)なかったことを反論しなければ、連帯責任を問われることになるんじゃないでしょうか。

どちらかといいますと、これまで第三者責任の規定は、株式会社における会社債権者保護の補完的機能を有するものとして、会社が倒産した場合に会社債権者が取締役の個人責任を追及するケースなどに利用される傾向が強かったのですが、今後はこういったコンプライアンス経営を徹底する「仕組み」の欠如を指摘して、事後的に取締役の行動規制をかける目的でも利用される場合も出てくるかもしれません。(なお、こういった私の考えはあくまでも「思いつき」ですから、もし既に整理された法理論や解説などがございましたら、ご教示いただけますとありがたいです。)

私も社外監査役という立場なので、すごく「いやらしい」考えではありますが、こういった責任追及の対象となったときの防御策を検討しないわけにはいきません。たとえば、全社的内部統制プロセスの文書化というものほど相手方にとってたいへん有利で、証拠価値の高い(おそろしい)ものはないわけですから、なんとか公に出さずに済むようにできないかな、などと考えてしまいます。(コンプライアンスオフィサー的には好ましくない態度ですが)裁判所の文書提出命令や送付嘱託、当事者照会などの攻撃から文書自体を守りながら、公的に守秘義務を有する公認会計士の監査にだけは証憑価値あるものとして開示できる、そういった文書作りをするためには、たとえば営業秘密文書になるように工夫したり、個人情報保護法の及ぶ文書にしてみたり、社外の専門家によるアウトソーシング業務文書として保存したり、いろいろと抗弁の立ちそうな方法をあれこれ検討してみることも価値があるかもしれません。

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2005年11月 8日 (火)

村上ファンドの株主責任(経営リスク)

この11月4日まで、18回にわたって日経夕刊に「企業買収(仕掛け人と用心棒と裁判官)」を掲載されておられた編集委員の三宅伸吾氏が、今朝(11月7日)の朝刊に「村上ファンド、初の経営リスク」と題する「大胆な」論評を掲載されていらっしゃいます。内容は、これまでの投資スタイルを変えて、新たなスタイルで阪神株を(実質的に)過半数取得し、経営リスクを負ってまで挑戦する村上世彰氏の手法は、果たして本当に通用するかどうか「疑問を呈する」といったものです。また、この村上氏による阪神株式の運用は、自ら経営リスクと株主責任を負担して、投資リスクを抱えた(村上氏としては)初の案件だが、これまで(村上氏は)「やすやすと巨額の運用益を上げてきた」けれども今回は、(傘下にいれた)「阪神はそうはいかない」と予想されておられます。(月曜の朝から胸がスカっとされた方もいらっしゃったかもしれませんね。)今日あたり、阪神電鉄からは200億円をかけて甲子園球場の改築を行う旨の発表もあり、村上氏と現経営陣との経営面での協議は、ますます長期化することが予想され、果たしてこの長期化は村上ファンドにとっては「新しい投資スタイルへの挑戦」として想定の範囲内にあったのかどうか、今後の興味ある焦点になりそうです。

ところで、この論評の副題は「阪神で試される株主責任」とされていますが、ここで使われている「株主責任」という意味は、企業経営によって持株の株価が下落して、損失を被るという通常の「株主有限責任論」のことを指しておられると思います。しかしながら、私はこの村上ファンドが阪神電鉄の経営権を握ることによって、「持株の株価下落リスク」ということのほかに、もうひとつの「株主責任」の問題も発生するのではないか、と考えています。それは株主間利害対立における「少数株主の保護」と裏腹にある「多数者株主の責任」の問題であります。このような意味での「株主責任」という言葉には大いに違和感を覚える方もいらっしゃると思います。(多数決が絶対でなかったら、どないすんねん!)しかしながら、今回問題となっているのは、親会社(阪神電鉄)から「有名ブランドの子会社(阪神タイガース)」を公開独立させよう、といった計画であります。阪神タイガースの資金調達は株式公開によってなされるでしょうが、公開後も阪神電鉄が子会社の公開基準に反しない範囲で親会社としての立場は保有するわけですよね。すると、どういった問題が発生するかと申しますと、いわゆる親会社・子会社間での利害相反関係が発生するわけです。たとえば阪神タイガースは、会社更生手続き中の大阪ドームを使用すれば、高収益を上げられるにもかかわらず、200億円をかけて改築して使用料も高い甲子園球場を使用することが親会社や多数株主によって決められてしまうわけです。本来子会社株主にとって高配当が期待されるにもかかわらず、親会社、子会社多数株主の意向によって親企業に収益が吸い取られてしまう。これは簡単に申し上げて、子会社株価の低迷をもたらす問題になってしまうのではないでしょうか。

実は、こういった「株主間利害対立」の問題は、私が勝手に空想したものではございません。東京大学出版会から出されております名著「会社法の経済学」(神田、柳川、三輪編)のなかで、神戸伸輔学習院大学教授が経済学的見地から問題提起され、その対策までを整理されておられます。こういった親会社・子会社間で株主間利害対立の発生する場合としましては、①親会社に有利な条件で相対取引をすること②子会社の重要な資産や営業権を親会社に有利な条件で売却すること、または有利な条件で合併されること③プロジェクトの選択や実施について、必ずしも子会社の利益を最大化するものを親会社が選ばないこと(さきほどの使用球場の例などはまさにこの部類に属するのではないでしょうか)などが先の書物で紹介されております。(たいへんおもしろい内容でして、具体的な対策までが記載されておりますので、興味をお持ちの方は原典にあたってみてはいかがでしょうか。)ただし、こういった株主間利害対立が発生するおそれがあることから、ダイレクトに少数株主の利益を保護せよ、と短絡的に結びつけるべきでないところが、また難しい課題のようです。なんらかの「法的な多数株主の責任論」と結びつけてしまいますと、今度は少数株主たるグリーンメイラー対策、ということも問題になってしまうからであります。(そのあたりの対策も、上記原典に詳細な具体例が試案として掲載されております)

すでに「村上ファンドと阪神電鉄」のエントリーは、このブログでふたつほど書かせていただきましたが、私は以前と同様、村上さんが経営されようと(もしくは村上さんが推奨される方が経営されようと)、現経営陣が経営権を維持されようと、電鉄の利用者および近隣地域の安全対策と建造物の耐震性を中心とした震災対策さえきちんとしていただければ、(野球協約問題も含めて)どちらでもかまいません。ただ、こういった子会社の少数株主といいますか、一般株主が被る可能性のある損失(リスク)対策というものは、親会社の多数株主として、ある程度の「株主責任」として対処せざるをえないのではないか、そうでないと阪神タイガースという公開企業の資金調達に問題が生じるのではないか、という疑問が湧いてくるような次第であります。

もうひとつ、今朝の三宅編集委員の論評では、軽く「企業の内部留保」についても触れておられます。この内部留保の問題については、私、最近「内部留保と企業価値」に関して独自の研究(というほどのたいしたものでもありませんが・・・)をしているところでして、ひたすら仕事の合間を見つけては、個別の企業の歴史のようなものを綴った文献に目を通しているのですが、それはまた別の機会にエントリーしてみたいと思っています。

PS こんなエントリーを書いているうちに、ニュースをみますと、あらためて現経営陣は球団の公開に反対の意思を表明した、とのことです。ファン投票についても同様。ほんとにこれから、どうなるんでしょうか。。。

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2005年11月 7日 (月)

内部統制システムの進化を阻む二つの壁

石原産業の産廃事件やNHK記者逮捕の件など、毎日のように企業不祥事に関連する報道は絶え間なく流れておりますが、最近とくに「内部統制システム構築」にとって、現状としては「なかなか乗り越えられない壁」がある、と認識せざるをえないような事件は、私が申しあげるならば、ふたつほど印象に残るものがございました。今後、こういったシステム構築の専門家の方々が、是非取り組んでいただきたいと切望するような点であります。

ひとつは東京証券取引所、名古屋証券取引所において、連続して発生したシステム障害の件であります。偶発的であれ、人為的ミスであれ、「取引が停止」するというたいへんな事態につながるものですから、おそらくシステム監査になんらかの問題があったのではないでしょうか。私は専門家ではありませんので、詳しいプログラムミスの内容については議論する資格はございませんが、このたびの調査では「ミスがあった」ことだけを取り上げて、その原因から再発を防止する策を検討すればよいのか、それとも不可避的に「ミスがあること」を前提として、そのミスを容易に発見したり、ミスによる障害発生時の代替案を用意することまでを検討するべきなのか、そのあたりは明確に区別して考えなければならない、との感想を持ちました。

こういった事態が発生するにつれ、システム監査に関するさまざまな企業からの需要も増えるのではないか、と私は予想しております。ところで先日(9月21日)、私は大阪や京都でもシステム監査業務において著名な公認会計士の方の事務所で、システム監査に関するレクチャーを受ける機会をいただきました。(といいますか、私のほうから押しかけまして、初対面であるにもかかわらず、快くご説明いただく機会に恵まれました。帰りには貴重なご本まで頂戴いたしまして、感謝いたしております)おそらく今後は、とりわけ財務情報の信用性を評価するために、システム監査は欠かせないものだと思っておりましたので、そのあたりの業界としての準備状況のようなものを一番お聞きしてみたかった次第です。実際に、お話をお聞きしておりましておおよそ把握できましたことは、企業の管理会計、コンサル業務として「システム監査」を導入することについては、その品質保持のための「規準」(いわゆるモノサシ)は存在するけれども、企業の財務情報の信頼性に関する投資家への評価公表、つまり情報の信頼性に関する合理的な保証」を与える「基準」までは未だ「システム監査」に携わる者としてのコンセンサスによって作成されてはいない、ということでした。7月に金融庁企業会計審議会内部統制部会から出されております「公開草案」のなかにおきましても、「IT情報の取扱の重要性」が明確に規定されておりますし、おそらく今後は制度監査の内容としても、このシステム監査的な「合理的保証」が要請されてくるのではないか、と思うのですが、実際のところ「保証」と裏腹の「責任」を負ってまで監査が可能なのかどうか、明確にはなっていないのが現状だと認識いたしました。果たして、このシステム監査の範疇に含まれるような監査内容が、今後の内部統制システム構築という定義のどこに位置付けられるのか、大きな課題になってくるように思います。

そして、もうひとつの問題が、先々週あたり、このブログでもいろいろと問題提起をさせていただいた「明治安田生命」に代表される件、つまり「企業再編と内部統制システム」の問題です。公認コンプライアンスオフィサーの受験にあたって、何冊かの参考図書が紹介されておりましたので、今それらの書籍を読み返したりしておりましたが、この「企業再編時における内部統制システム構築」について論じているものは皆無でした。このたびの金融庁の処分理由に「ガバナンスこそ問題」と明確に指摘されたように、二つの企業がひとつのガバナンスを構成するにあたっては、どういった統制システムを構築すればよいのか、これまでにもマニュアルなど全くなかったのではないでしょうか。つい先日、敵対的買収問題に揺れている夢真ホールディングスと日本技術開発につきまして、日本技術開発側は、夢真とエイトコンサルタント(ホワイトナイト)、この二社が当社の親会社である、ということをリリースしていましたが、こういった「親会社が2社存在する場合の子会社の内部統制システム」というものも、今後問題になってくると思います。私自身には二つ、三つほどの腹案はございますが、こういったケースにおいては、COSOレポートを基本とするシステムをそのまま適用できるようなものではないと考えます。正直な話、企業にはそれぞれ、長年培われた「行動規範」「社訓」があるわけでして、対等合併であるにせよ、吸収にせよ、簡単に企業風土が変更できるものでないことは、この明治安田生命の事例をみても明らかだと思われます。すこしばかり法律家的な発想で推論するならば、こういった企業誕生の歴史のある企業においては、取締役の注意義務の内容としての内部統制システム構築義務といったものは、通常の企業と比較して、より高度のものが要求される可能性もあるのではないでしょうか。

ひとつボタンの掛け間違えがありますと、企業の消滅につながりかねないリスクをはらんだ問題であることは、十分認識できると思いますが、実際の企業再編の際に、どれだけ再編企業が重要性を認識して取り組んでいけるものなのかは、心もとないところでして、おそらく今後の内部統制システム論が進化していくなかでの、おおきな「壁」(限界?)になってしまうんではないかと、すこしばかり危惧しております。

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2005年11月 5日 (土)

証券取引所を通じた企業統治(Corporate Probation)

月例の「全国社外取締役ネットワーク関西支部例会」に参加してまいりました。本日は、東京から田村達也ネットワーク代表をお招きして、初めて京都で開催されました。いつものごとく、私が発言したくてもなかなか議論に「隙間」がみつからないほど、白熱しておりましたが、(といいながら、なんとか「隙間」をみつけて、自論を発言させていただきましたが)「Corporate Probation」(以下、Co-Proといいます)に関する議論は、たいそう興味深いものがありました。

Co-Proとは、ひとことで申し上げますと、NYSE(ニューヨーク証券取引所)が上場継続基準として、相当に厳しいガバナンス規則を取り入れておりまして、もし、この基準を上場企業がクリアできませんと、「上場廃止」になってしまうわけですが、すぐに廃止にしてしまうと、投資家や企業債権者に多大な社会的影響を与えてしまうことになりますから、「執行猶予」といいますか「保護観察」といいますか、ともかく当該企業に「コンプライアンスプログラム」を実施させて、その状況をみて上場維持を検討する制度であります。通常、「自主改善手続き」と和訳されております。研究会では、この詳細な手続きなども紹介されましたが、よくコンプライアンスに関する参考書にも登場する、アメリカの「連邦量刑ガイドライン」(1991年)にも、このNYSEのCo-Proが強い影響を与えたそうです。

アメリカの証券監視委員会の絶大な権力、日本における金融庁と証券取引所との力関係などの論点はひとまずおいとくとして、さてこういった「上場廃止に関する執行猶予、保護観察制度」は日本に導入可能でしょうかね。「自主的に手を上げて」粉飾を公表したカネボウにも、西武鉄道と同様に「退場」を命じた廃止基準の運用の現状、マザース、ヘラ、ジャスダック市場へ上場する企業の体質の問題、不適正意見を出すことに躊躇する監査法人や出されることを恐れる企業の現状などを考えますと、いろいろと克服しなければ導入はむずかしいように私は思います。ただ、司法によるガバナンスの事後的評価、ということがこの先、進まないようであれば、こういった自主的な改善を取引所が評価するという手法も、コーポレートガバナンスに関する議論を発展させるためには効果的ではないかな、とも考えます。(なお、エンロンについては発覚後わずか30日で上場廃止が決定されましたが、あれは、監査法人すら巻き込み、もはや改善不能ということが明らかだったための措置だそうです)

こういった企業の自浄作用を、ルールとして評価する制度としては、来年1月から施行される改正独禁法の課徴金免除制度がありますね。日本で、このような制度が根付くものかどうか、免除制度の運用実績などにも留意したいと思います。

しかし、この研究会、実際に社外取締役として頑張っておられる方が多いんで、食事の際にホンネをお聞きすると Independent のムズカシサを痛感しますね。。。独立といえばカッコいいけど、「孤立無援」といえば・・・・・・・・。勉強になります。田村代表、きょうはどうもご苦労さまでした。

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黄金株「フォー!」

(タイトルはインリン様ご降臨のあとの、HG風に読んでくださるとありがたいです)

47thさんの「会社法のトリビア」で、本当に「へぇーー」と感心しておりましたが、あまりのタイミングの絶妙さに、ふたたび「へぇーー」

   国際石油と帝国石油が合併へ(来春持株会社)

石油開発で国内最大手の国際石油開発と同3位の帝国石油は2006年4月に共同持ち株会社を設立し経営統合する。08年4月をメドに合併する。資源高を背景に石油・天然ガス開発の国際競争が激化するなか、日本の石油開発企業は欧米や中国の大手資本に規模で劣っている。両社は有力鉱区獲得と十分な開発資金の確保を狙い、合併によって国際市場で資源開発中堅の地位を固める。

 国際石油開発と帝石は5日それぞれ臨時取締役会を開き、共同持ち株会社の設立と全株式の持ち株会社への移転を決める。持ち株会社の下に両社がぶら下がる格好となる。人事制度や資産に差があるため2年の準備期間を経て合併する。両社の株主には持ち株会社の株式を一定割合で割り当てる。持ち株会社の上場は維持する。

 両社は今夏から統合に向けた協議を進めていた。新会社の売上高は04年度で5600億円強(帝石は04年12月期)となる。。(日経ニュースより、ただし11月5日現在では、国際石油は「しかるべき時期に公表いたします」とだけリリース)

国際石油開発は、甲種類株式(1株)を発行しており、石油公団が保持していたところ、平成17年3月から経済産業大臣に承継されています。取締役の選解任、重要資産の処分については、この種類株主総会の決議を要することになっています。なお、この種類株式の内容を詳しくお知りになりたいかたは こちら

黄金株については、また企業価値研究会の指針が8日に公表される、とのことですから、その後に確認したいと思いますが、とりわけ関心があるのは、償還手続き(消却か、買受か)、特殊株主の株主権の行使に関する制約の有無といったこところです。(なぜか・・・といったところを説明したかったのですが、これから仕事ですんで、また・・・すいません)

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2005年11月 4日 (金)

敵対的買収と「安定株主」策の効果

11月3日の日経朝刊「楽天・TBS Q&A」は「企業にとって安定株主とは」というテーマで、いろいろとわかりやすい解説が掲載されていました。ご承知のとおり、これまでの報道では、すでにTBSが安定株主工作によって過半数の株式については「流動性を喪失させた」ものとされています。そこで、このQ&Aですが

Q 安定株主は絶対に株を売却しないのか。

A 安定株主といっても、その企業と何かの契約を結んでいるわけではな い。たとえばTOB価格が時価よりはるかに高ければ応じざるを得ない。この場合、年金の運用機関や生命保険は合理的な理由がないのに保有し つづければ、受託者や契約者から訴えられる可能性がある。

とされておりまして、この日経の記事にかかわらず、ほかの報道でも「安定株主といっても、TOBの価格によってはTOBに応じざるを得ないことがある」と解説されています。これ、本当にTOBに応じないと、株主や受託者から訴えられるのでしょうか?まあ、訴えられることはやむをえないとしても、TOBに応じないことが役員の損害賠償責任を負担することにつながるんでしょうかね。いろいろな疑問が湧いてきまして、この意見に私はかなり懐疑的です。

まえから申し上げておりますとおり、現金で買取るTOBの場合、被買収企業の株主にとって「企業価値を高めてくれると判断した企業」の株を、どうして手放さなきゃいけないんでしょうか。もし、時価とTOB価格の比較に被買収企業の株主の保有の可否が縛られるとするならば、そもそも「この企業の株主価値をどちらの企業が高めるか」といった説明など株主にする必要はないわけです。株主価値の最大化のために、双方の経営陣が株主へ事業計画を説明する、ということは、株主がどちらの経営陣による企業の株式なら保有したいか、ということを決めるためだと思いますし、それなら株主がTOBに応じるかどうか、の問題と時価とTOB価格との関係はないはずです。そもそも、運用成績によって受託者や株主に縛られる企業であれば、「安定株主」になること自体が問題とされるべきであって、その後の対応自体が問題視される、といった議論自体がどうもよくわかりません。

つぎに、被買収企業の株主自身が企業の場合、その株式保有自体こそ、株主企業の企業価値を高めることにつながると言えるのではないでしょうか。今回の件でみましても、TBSから安定株主として要請を受けている企業にとっては、単にTBSを誰が経営することによってTBSの企業価値が高まるか、という判断だけでなく、自身が安定株主となることによって、TBSとの事業提携や取引における効果が期待されているわけで、その効果という面は無視できない「利益」であるはずです。そういった株主自身の利益を放棄してまで、時価とTOB価格の比較に拘束されるということは、まずありえないものと思います。おそらく今後は投資サービス法の施行との関係から、証券取引法によって少数株主の経済的利益保護施策が講じられると思われますし、そうなりますと「保有することの利益」というものも、株主にとっては重要になってくるんじゃないでしょうか。

そして最後に、時価とTOB価格の比較において、被買収企業の株主がTOBに応じざるをえない価格を買収企業が提示した場合、かりにTOBが成功したとしましても、今度は逆に買収企業の株主から買収企業の経営陣に対して、損害賠償請求の訴えが提起される可能性があるんじゃないでしょうか。安定株主たる立場にある株主がTOBに応じざるを得ないほどの価格というのは、おそらく買収プレミアムの合理的価格を超えたものと推測されるのであって、不必要に「出しすぎ」と評価されることはないでしょうか。いずれにせよ、安定株主の切り崩しを意図したTOB価格というのは、買収側にもそれなりのリスクが発生するので、現実的ではないと思います。

このブログを始めたころから、ずっと「企業価値論」について検討しているわけですが、最近のいろいろな議論をお聞きしておりましても、どうも「企業価値」というものが、そのまま裸で司法判断の基準として登場することはないような気がしています。IBMのパソコン事業の価格算定において、レノボは1800億円、そして東芝は1000億円と評価したわけです。これ、どっちが正しいという問題ではなく、どっちも正しいわけですよね。たとえば企業の内部留保についても、成長期、競争期に内部留保がなくても企業価値が高いと評価されるわけですが、安定期にあるとしたら企業価値は低いと評価されるわけで、でもその企業が「競争期」か「安定期」かなんて、タイムマシンでも乗らないかぎり、人間が客観的に判断できるようにも思えません。相対取引の基準としてのモノサシ、投資対象としてのモノサシとしての企業価値論というのは、市場性を高めるために必須であることは理解できますが、「違法、適法」を判断するモノサシとしての「企業価値論」というのは、これからもっと議論していかないといけないと思いますし、「株主価値」という言葉も含めて、慎重に適用場面を検討しなきゃいけないものと考えています。

国際会計基準が整い、内部統制システムにアメリカの企業改革法に準じた基準が導入され、そしてM&Aのルールが国際標準化しても、やっぱり最後は日本法による日本の裁判システムで規律されるタテマエは崩れないわけでして、どういった部分で日本企業の発展のためのバランスをとるべきなのか、具体的な事例による経験則にしたがって解決すべき道を模索しなければいけないのかもしれません。

PS

このたびは、また日経新聞の著名な編集委員の方より、激励のメールを頂戴いたしました。「これからも辛口のご批判、よろしく」とのことですが、私自身には「辛口」の意識がないもので、どうお答えすればよいのか逡巡しております。ただ、これからも「社外監査役」「社外取締役」からの視点、ということだけはブレないように気をつけたいと思いますし、いろいろな方のコメントやメールによって勉強させていただく気持ちは忘れないように心がけたいと思います。

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2005年11月 3日 (木)

元検事(ヤメ検)弁護士さんのブログ

きょうは、破産管財事件の現場調査ということで、午前中はお仕事だったんですが、事務所に帰ってまいりまして、ちょっと他の方のブログなどを読んでおりましたところ、たいへんなつかしいお名前を発見いたしました。

元検弁護士のつぶやき(矢部善朗弁護士)

この11月1日より、「公判前整理手続」制度が施行され、いよいよ裁判員制度まで3年半という実感も湧いてまいりました。矢部先生のブログを拝見するかぎり、今後の検察庁や裁判所が、この制度運用にあたって、どのような点を課題とし、どのように問題を解決していくか、そして刑事弁護人としてはどのように関わっていくべきか、実務家の視点ではなく、一般市民の視点から理解するにはたいへん有益なブログとの印象を受けました。

実は、矢部さんは「私の恩師」でございます。私は阪大ボート部に4年間在籍しておりまして、4年間合宿所に寝泊りをして、就職活動もせず、なんとなく「住友銀行」へ内定し、恥ずかしながら実定法(いわゆる民法、刑法、商法、訴訟法など)はまったく履修せずに卒業する予定でした。(これで法学部卒業とは言えないですよね。。。。Σ(^o^;)) 大学4年生の秋ごろでしたか、私の親友が突然、司法試験の勉強をはじめたものですから、「おまえナニ考えとんねん。なんかあったんか?」とひややかに静観しておりましたところ、「いや、じつは修習生の人が勉強教えちゃぁる、ていうてくれてるからよぉ」(親友は和歌山の人)「山口も銀行なんか就職せんと、いっしょにやろやぁ。なかなかオモロイど、司法試験の勉強は」彼も大学4年間をある団体の活動に捧げていましたので、ほとんど私と同じレベル。ちょっとだけ彼に早稲田司法セミナーのレジメを貸してもらって、憲法の論点解説などをぱらぱらと読んでみたんですが、これがなかなか面白い。それまで「司法試験」などというものは、遠い彼方にあるもので、法曹と放送の区別もつかないまま卒業する予定だったのが、「これやったら、何年か勉強したら、俺でも受かるかも・・・」といった気分になりまして、「仰天する」両親を説得し、ゼミの教授に怒られながらも、いったん内定していた銀行に取消のご挨拶に行き、その後、彼とふたりで修習生の人に勉強を「一から」教わることになりました。その「修習生」というのが矢部さんでありました。

「訴訟法というのは、民訴と刑訴のどっちが受かりやすいですか?どっちも大学で勉強したことがないんです」(当時は、どちらか一方が選択科目でした)

「手形法は、商法のどこに条文があるのですか?」

「・・・・・・・・・・・」

といったあたりから、矢部さんに司法試験の「し」の字から教わりました。忘れもしません、毎週土曜日のお昼から、大阪日本橋(にっぽんばし)の「丸福珈琲店」で、親友を含む3人で司法試験レベルの法律解釈や、基本書の読み方などを懇切丁寧に教わりました。約1年ほど、土曜日には矢部さんの講義を長時間にわたって受けました。出身大学も違いますし、なんのご縁もないにもかかわらず、その親友と同じように法曹の道を示していただけたこと、本当に感謝をしております。もし、司法試験合格に「運」があるとしたら、こういったものが運だと、いまでも思います。(ちなみに、その親友は、私よりも1年早く合格し、現在は京都地検で検事として頑張っております)あれから、もう20余年が経過したんですねえ・・・・・

ブログランキングの上位、ということですから、すでにご承知の方も多いかと思いますが、ぜひ一度、矢部先生のブログをご覧いただきますと、昨今の刑事問題の論点が垣間見えてくるように思います。2,3日前に、読売新聞で「ヤメ検は本当に役に立つか?」みたいな特集記事がありましたが、この問題につきましては、また別にエントリーをしたいと思います。本日は、祝日ということで、ビジネス法務とはすこし離れましたが、私自身のことも含めまして、「ブログ紹介」をさせていただいた次第です。

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2005年11月 2日 (水)

楽天はダノンになれるのか?

楽天が安定株主工作を進めるTBSに対して、「工作をやめれば、われわれも買い増しをしない」という回答をした、という報道がされています。

うーーーん、どうなんでしょうか。本気で楽天はTBSが安定株主交渉を止めると思って提案したのでしょうか?普通に考えましたら、楽天がTBSの持株を10%くらい手放して(もしくは手放すことを確約して)はじめて要求できる話ではないでしょうか。和解というのは、双方が譲歩することを指しますので、「買い増した既成事実」と「安定株主交渉」とが均衡状態にあるわけですから、(こっから先の買い増しは、TBSの防衛策発動と均衡するはずですから)現状からの「譲歩」が楽天に存在しませんと、和解提案にはならないわけです。当事者はきっと「いまだ敵対的とは思わない」と口を揃えておっしゃるかもしれませんが、報道含め、世間そして両者のステークホルダーはすでに双方が紛争状態に入っていると認識していると思いますから、もしTBSがこの提案に応じたら「頬を一発たたかれて、鼻血を出しながら笑って握手するとは、なんと腰砕けな情けない企業」と評価されるのではないでしょうか。それとも、楽天側の作戦なのでしょうかね?TOBをかけるための前フリとして「我々は濫用的買収者ではない、手を握ろうとしたのに、無視したのはTBSである」という既成事実を作るためでしょうか?(ただ、そう考えても、和解の前提が欠如している以上は、TBSが譲歩する要因にはならないと思うのですが)

そういえば、1週間ほど前の日経夕刊の連載「企業買収の用心棒」(でしたっけ?)を読んでおりましたら、2003年のフランス食品大手のダノンがヤクルトの20%の株を買収した事件で(ヤクルト側で)活躍された東京の著名な法律事務所の弁護士の方が掲載されていました。今後5年間は33%を超える株式取得はしないという確約を条件に、業務提携を行うというところで落ち着き、最近はインドの合弁企業など、アジアでの事業展開に(両社にとって)提携が有益に機能している、ということのようでした。企業結合規制法が各国によってマチマチですから、一概には言えませんが、シナジー効果を上げるための買収もあれば、自社を敵対的買収からの守るために(本件ではダノンの立場)、他社を買収することもあるのかもしれません。こういった方向へ楽天が志向しているというものであれば、現状打開のための一歩前進といえるかもしれませんが、しかしダノンと楽天では資金力に大きな差があるようにも思えますし、よく調べておりませんので、なんとも推測の域を脱しません。

(ちょっと、債権者集会の準備に忙しいため、本日はこれまでにて失礼します)

あっ そうでした。日本テレビの「行列のできる法律相談所」の制作担当者の方よりお知らせがございます。(いちおう、ブログで広報していただきたい、ということでしたので)このブログをお読みいただいている「若手弁護士」の方、「行列のできる法律相談所スペシャル」に参加してみませんか、とのことです。(以下、引用いたします)

> -募集内容-
> 「行列のできる法律相談所・出演者募集のお知らせ」
> 現在私どもの番組では、特別企画「弁護士スペシャル」に
> 御出演いただける若手弁護士の方を募集しております。
>
> ○司法修習が50期以降の方で
> ○「レギュラー弁護士の見解は甘い!一言、物申す」とお思いの方
> ○「知り合いに個性的な活動をしている弁護士がいるよ」という方 など
>
> 自薦・他薦どちらでも結構ですので、お心当たりのある方は
> SHINODAEIICHI@g-one-net.co.jp
> まで、是非御一報下さい。
>
> ---- 以下、企画の詳細で -------------------------------------------------
> ☆出演者募集中の番組について☆
> ◆ 番 組 名 「行列のできる法律相談所」 ~弁護士スペシャル3~   
> ◆ 収録予定日 平成18年1月22日(日) ※本番時間は3時間程度
> ◆ 収録場所 東京千代田区 日本テレビ麹町社屋スタジオ
> ◆ 放 映 日 平成18年2月5日(日)午後21時~21時54分 <日本テレビ系
>
> 列>
>
> 『同じ問題に対しても様々な法的解釈がある』
> このテーマにクローズアップし
> 前回、前々回の放送で大好評を得た「弁護士スペシャル」第3弾!
> 弁護士の解釈が分かれそうな法律相談をVTRで再現。
> レギュラー出演中の4人の弁護士の見解に対し、
> 若手弁護士の方々にフレッシュな見解・反論を思う存分述べていただく企画です。
>
(引用終わり)

 50期以降ですか・・・・・

 いつまでも「若手」と思っておりましたが、私など論外の「中堅」になってしまいました。うーーん、ああいった番組に出演したら「人生」変わるやろな。。。

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2005年11月 1日 (火)

中央青山と明治安田の処分を比較する

9月14日のエントリー(中央青山監査法人に試練のとき)の最後のところで、私はカネボウ粉飾事件よりも、もっと「足利銀行」事件のほうが大きな試練ではないか、と書きましたが、朝日の報道をみるかぎりでは、どうもそのような様相を呈してきたようです。

衆議院財金委で中央青山を追及/足利銀行粉飾

すこしだけ引用いたしますと、

中央青山監査法人の公認会計士が足利銀行の粉飾決算に関与したとされる問題が28日、衆議院の財務金融委員会で取り上げられた。参考人として招かれた中央青山の奥山章雄理事長に対して、委員から「カネボウ事件より重要な問題だ」「法人として責任を取るべきだ」と厳しい意見が相次いだ。奥山理事長は「監査がおかしかったとは聞いてない」と強調する一方で、足銀監査担当の会計士が足銀の融資先の顧問税理士に就任していた問題については、調査する考えを表明した。

カネボウ事件にせよ、足利銀行事件にせよ、刑事民事の差はありますが、まだまだ裁判による事実確定までは時間がかかりますので、金融庁の処分もまだ先のことかもしれません。とりあえず、現行商法特例法4条2項3号によって、現時点で監査法人自体が一部だけでも業務停止処分を受けてしまいますと、すべての企業に対する監査業務ができなくなってしまいますが、新会社法337条3項1号が施行されますと、とりあえずその業務停止の対象となっている当該企業の仕事以外の企業監査については、対象監査法人は(たとえ一部業務停止処分となりましても)通常どおりに業務ができますので、処分の効力だけでも来年5月1日以降になるのではないでしょうか。

ところで、金融庁の監査法人に対する業務停止処分といえば、平成14年10月15日に神戸市の瑞穂(みずほ)監査法人に対する「業務停止1年」の行政処分が前例です。結局、瑞穂監査法人はこの年の12月に解散することになりますが、カネボウ粉飾や足利銀行事件で、もし中央青山監査法人の処分事実が、社員の「故意による虚偽監査」ということであれば全く同一の処分事実となります。ということですと、金融庁は中央青山に対しても、業務内容にかかわらず業務停止1年の処分を下すことになるのでしょうか?社員数11名、法定監査企業数26社の監査法人と、社員数3400名、監査企業数800社の監査法人とはまったく異なる処分となるのでしょうか。

旬刊「商事法務1745号」の20ページで、法務省大臣官房参事官の相澤哲氏が、さきほどの会計監査人の欠格事由のことについて、新会社法の規定を説明されておられるのですが、その改正の動機として、「現行法の規律については、監査法人の監督官庁からも、業務停止処分の法的影響が大きい場合には、かえって当該処分をすることを躊躇する結果となりかねない、という監督の実効性の観点からの問題点の指摘もなされている」と解説されています。つまり、こういった金融庁の行政処分を行うときには、監査法人の大きさというものも、処分内容の軽重に影響があることを暗にほのめかしているわけです。しかし、なんか釈然としませんね。なぜ同じ行為をしたにもかかわらず、瑞穂は業務停止1年で、4大監査法人の場合は、業務停止処分にはならないといった対応が認められることになるんでしょうか。

おそらく法律的にみれば、この金融庁の処分は「行政行為」であり、かつ、その要件該当性の判断や、効果の判断に広く金融庁の裁量が認められる「自由裁量行為」に該当するものだからでしょう。つまり、処分に差異をもうけたことが「当、不当」の問題にはなっても「違法、適法」の問題にはならない、というわけです。まあ、一般的にはこのように説明されると思いますが、それでもなんか釈然としないものが残ります。たとえ法律が金融庁に広範な裁量を認めたとしても、その裁量を認めた趣旨を逸脱している場合にまで合法とは言えないはずでして、たとえば本件の場合には、4大監査法人とそれ以外の監査法人で、同じ内容の処分事実であるにもかかわらず、効果だけに差異をもうけることは「平等原則違反」になるのではないか、という疑問と、そもそも「社会の与える影響」を効果を判断する際の基準として使ってよいのか(そういった判断基準を法が予想していないのではないか)という疑問があると思います。したがいまして、私としましては、この瑞穂の前例がある限り、たやすく「業務停止」処分から中央青山が放免されると考えるのは、すこし楽観的ではないか、と考えます。

そこで、今後の金融庁の対応につきましては、今回の明治安田生命に対する金融庁の処分方法が参考になるのではないか、と予想されます。つまり、今後行政手続法による手続に則って中央青山の行政処分が検討されることになると思うんですが、おそらく個別の具体的な処分事実とともに、「審査体制」に照準を当てて処分事実が構成されるんではないでしょうか。つい2,3日前の報道によりますと、この12月までの間に、4大監査法人に対して、金融庁が立ち入り検査をすることが決まりました。いわゆる監査の品質管理と内部統制システムに関する調査が中心だと思われます。立ち入り調査によって4大監査法人の審査体制にどのような差が生じるのかは、やってみないとわからないかもしれませんが、おそらく4大監査法人において、極端な審査体制の差がみられないことや、今回の粉飾事件後の中央青山自身のシステム構築の努力などを勘案したうえで、比較的穏当な処分が下されることになるんでは・・・・と思ったりしております。おそらく瑞穂監査法人の場合には、処分までの期間において審査体制の改善が図られなかった(だからこそ解散せざるをえなかった)が、このたびの中央青山に対しては、著しく審査体制の向上がはかられている、ということであれば、その処分の差というものも「合理的」とみることもできそうです。

いえ、私は公認会計士でもありませんし、また監査法人の内容につきましても、それほど情報をもっているわけではありませんので、処分が厳しいこと、軽いこと、どちらかへの希望というものも持ち合わせてはおりません。ただ法律家として、規模の大小が、行政行為の裁量判断に影響を与えるものであり、したがって処分内容に影響を与えてもいいのかな、といった素朴な疑問を自分なりに解決してみたいといった欲求が存在するだけであります。私自身の問題点の把握が間違っていたり、法律解釈におかしな点がありましたら、また忌憚のないご意見を頂戴したいと思います。

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