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2005年11月22日 (火)

耐震強度偽造と内部監査

(11月22日 午後1時追記あり)

ろじゃあさんが、精力的にこの問題を取り上げておられるので、民事解決への対処などについては、少しお休みさせていただきますが、あまり議論されてこなかった「企業コンプライアンス」の観点から、どうしても考えてみたい点がひとつございます。(なお、この問題を、構造計算ビジネスに携わっていらっしゃる方の観点から、たいへん有益なエントリー「ビジネスからみた耐震構造計算」がアップされておりますので、まだご存知でない方は一度、ご覧になられたらいかがでしょうか。これもろじゃあさんのブログで知りました。)ちなみに、21棟以外にも、耐震性に問題のあるホテルが見つかり、京王電鉄は二つ目のホテル閉鎖を決めたそうで、また木村建設は工事中のビルの解体を決めました。ジャスダック上場の「シノケン」はついにストップ安となってしまいました。

ところで連日、イーホームズのHPには、自社の耐震強度偽造問題に関するコメントが増えておりまして、次第に(私が最初のエントリーで述べたようなタイプの)「危急時における対応」に変わってきつつあるようです。しかしながら、連日ニュースで報じられておりますイーホームズと姉歯事務所との親密な仕事上の取引関係は、どうも「検査が甘い」という社会的非難を増長させるばかりで、「叩かれても仕方ないかな・・・」との印象を、私も持ち始めるに至りました。

しかし、今回の耐震偽造問題は、突然姉歯氏が告白したことが発端となったのではなく、上場を控えていたイーホームズの内部監査部による、平時の社内調査によって発覚したものであります。数々の書類の中からサンプルを取り出し、たまたま一件の偽造が疑われる計算書が出てきて、そこから厳密な調査を進めていくと、姉歯事務所が関与しているものばかりであることが判明し、逐次国土交通省へ報告を重ねていった、というのが事実のようです。(報道ニュースと国土交通省の経過発表で、このあたりの事実に争いはないようです)

さて、今回、国土交通省はイーホームズに対して、行政処分を課す方向にあるようですし、(どうにも対応がお粗末だったために)世間やマスコミの非難を浴びているようでありますが、この「内部監査とその報告」、どう評価すべきでしょうか。もちろん、私も世間の非難感情(社会的非難)は変えられるものでもなく、「責めるべき部分は責める」のが適切かと思いますが、どっかに「執行猶予」的な措置を検討すべき余地はないのでしょうか。それとも、私の考えは甘いのでしょうか。

ひょっとすると、イーホームズはもっと世間的に許容されるようなポジションに置かれるであろうと、甘い予想をしていたために、「内部監査の結果を報告する」という英断に至ったのかもしれません。もし、これほど強い社会的非難を浴びることが予想されていたら、果たして公表していたかどうか、かなり微妙ではあります。しかしながら、もしこのような世間を騒然とさせる事態を予想していたうえで、「あえて」公表に踏み切ったということになれば、イーホームズという企業の社内のコンプライアンス経営に対する姿勢は評価されてもいいと思いますし、平時の内部監査によって発覚した経緯をみても、その内部統制システムはかなり有効に機能していたのではないか、とも考えられるわけです。そこで、これは私個人の独断的意見ではありますが、イーホームズの今後の耐震強度調査への積極的な協力の態度と、人命尊重を最重要課題として内部監査の結果を公表した態度を斟酌したうえで、なんらかの温情的措置を(社会に見える形で)とるべきではないか、と考えます。

これは、なにもイーホームズへの「感情的な思い入れ」からではありません。むしろ、こういった対応をとらないと、今後の他の企業のコンプライアンス体制、内部統制システム構築への社会的評価、内部監査の独立性を保持する「誠実性」に、影響が出てしまうのではないかと危惧するからであります。もし、今回の件で事件発覚に寄与したイーホームズの行動が、まったく評価されることがないとすれば、「こんなに社会的に叩かれてしまうんだったら、みつかるまで隠匿するのが得策」と、考える企業が増えるのではないでしょうか。もちろん、このあたりは「性善説」にたって、「内部監査による不正の報告」は打算ではない、人間の誠実さの発露である、と言い切る方もいらっしゃるかもしれません。たしかに、自分ひとりの仕事に関するものであれば、そういった正義感で行動できる人も多いかもしれませんが、いざ家族の顔が浮かび、スタッフの顔が浮かび、路頭に迷う自分の姿が浮かんでしまう組織の存亡に関わる問題については、果たして性善説に基づく行動が期待できるかというと、私は悲観的ですし、だからこそ、私の仕事(コンプライアンス経営の具体的な施策提言)の妙味もあるように思います。カルテル事件における課徴金納付減免制度とは、すこし状況は異なるかもしれませんが、これだけ大きな人命にかかわる問題を、あえて公表した企業への何らかの「減免措置」があってこそ、これからの企業に自浄作用に期待をかけることができるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

果たして、今回の事件では、いったいどんな気持ちでイーホームズは偽造問題を国土交通省へ報告したのか、原点に立ち返って、本当に真実を知りたいところです。

(追記)

ちょっと仕事が忙しいために、別エントリーはたてることができませんが、ろじゃあさんのTBでえらいことになっていることを知りました。建築主による救済が、このような形(建築主の民事再生申立)で制限されてしまうと、居住者、購入者の方もかなりやっかいな立場になってしまいます。ろじゃあさんは、行政による救済を強く唱えておりますが、これは弁護士が早急に立ち上がって、救済経路の整理を行う必要がありそうです。

なお、国土交通大臣がさきほど、建築確認に関わる問題は国にも責任があるとして、被害者救済へ向けて対策を推進することをコメントしたようです。(午後2時)

たくさんの方に閲覧していただいておりますので、もうすこしまともなエントリーにしたいんですが、時間がなくてごめんなさいです。。。

皆さん、日本建築構造技術者協会 というところをご存知でしょうか?

HPはこちらです。日本建築構造技術者協会

いま、靱公園の近くにあります関西支部のほうへ、私の知り合いに行ってもらったんですが、あいにく電気がついておりませんので、どなたにも会えませんでした。一度、法律問題を含めて、こういった「建築構造士」の方にも、お話をお聞きしてみたいと思います。とりわけ厳しい倫理規定もありますので、構造設計士さんの倫理行動規範のようなものについてもお聞きしたいと考えております。東京あたりだと、もっと情報が早いのではないでしょうか。

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コメント

はじめてコメントさしあげます。都内のある企業で、内部監査責任者を担当しているものです。(私も12月1日のオフィサーフォーラムに参加します。先生とお会いできるのを楽しみにしております)
私は新聞などで読む情報だけしかわかりませんが、この検査機関の内部統制機能が働いた、と評価することには疑問があります。そもそも内部統制システムが充実した企業であるなら、あの建築士の方が意匠設計事務所にイーホームズを紹介することはないと思います。内部監査はあくまでも事後フォローですが、各部署の普段の行動に影響を与えなければ、ガバナンスが機能したとはいえないと思います。事後に機能が働いただけでは、それは失敗と評価すべきであると私は考えます。
ずいぶんと偉そうな言い方ですいませんが、そう考えないと、私たちの仕事の意義が薄れてしまうようで、悲しくなります。また先生のご意見などうかがえたら、と。

投稿: sara-onji | 2005年11月22日 (火) 09時46分

toshiさんへ
このエントリーの(追記)へのコメントです。
>ろじゃあさんは、行政による救済を強く唱えておりますが、
読みにくかったかもしれませんが、ろじゃあはもう次のフェイズだろうと思ってます。
「経路整理」後の枠組みでは、当然多数の弁護士の先生方の「社会貢献」が必要になってしまうと思います。その辺の試案はまた改めて。

投稿: ろじゃあ | 2005年11月22日 (火) 13時19分

山口先生、ご無沙汰しております。以前、先生にご評価いただき、感謝をしております。

 さて、本題についてですが、私個人の見解を述べさせて頂きたいと思います。
 この問題については、私は、先生と同意見であり、イーホームズの内部監査部の行動を評価すべきだと思います。
 企業の危機管理の視点から捉えた場合、今回のような人の生命に関わる重大事象に付いては、部署や部門の利害に関わらず、迅速に公表するべきものです。先生もおっしゃるように、公表することは、非常に勇気のいることで、その行動を起こし、地震によるマンションの倒壊とそこに住む人たちの生命を事前に救ったということは評価をすべきです。これを評価しないと、逆に先生がおっしゃるように隠蔽に走ります。
 許せるわけがないという購入者のご意見や内部監査人としての立場からは失敗というご意見もコメントとして寄せられているようです。それはそれで個々人の感情としてはよくよく理解できることです。
 しかし、それでは、今回の問題が、内部監査部により告発されなければどうなっていたのでしょうか?関東地方では震度5クラスの地震は今年に入ってからも起きており、告発が無ければ住んでいる方の生命の危険すらあったのです。また、ホテルに泊まっていた方も無くなる危険があったのです。このような状況で皆さんがイーホームズの内部監査部の方だったら、どんな行動をとりますか?
 住人の気持ちはわかりますが、告発があったからこそ、命が救われたのです。手の打ちようがあったのです。
 内部監査の方は一人の人間として、あるいは監査人の責務として、立派に告発をした。
倫理的にも正しい行動をとっております。
そのような行為を批難すれば、隠蔽され、間違いなく、もっと重大な事態(=倒壊による多数人の死亡)を誘発します。
 結果論ではありません。前記の多数人の死亡という事態が誘発されれば、必ず、なぜもっと早く(=死ぬ前に)言わなかったのか、という議論になります。今回の告発はまさにその早い段階で行われているのです。
 人として、あるいは企業人として究極のケースで、極めて真っ当な行動を取った方を批判し、それが内部統制の機能不全だ、コンプライアンス違反だというならば、個々人が自分の保身に走り、いたるところで社会的にも甚大な被害が出ることになります。

 企業では、様々な事象が発生します。各ケースにおいて、そこで求められている社会的な要請は何なのか、その要請に基づき、取るべき行動は何なのかという発想が、コンプライアンスや社会的責任の根底にあります。その社会的要請に応え、適切な行動を取ることで、社会や消費者からの信頼を得て、企業は存続できるのです。
 住宅供給に関する会社として、瑕疵の無い安全な住宅を供給するというのが、至上命題ではありますが、人が行っている以上間違いは必ず起こります。起こした間違い(=耐震性の偽造)を発見したときは、その局面で求められる最善の社会的価値判断は、倒壊による死者の発生を何としても食い止めることです。
 個人的には、彼ら内部監査部の方々の英断と勇気ある行動を評価したい。
 そして、自浄作用が働いて最悪の事態を防ぐことができたのであれば、それは内部統制システムとしては健全に機能したと評価できると考えます。

 もちろん、それにより、イーホームズ社の責任がなくなるとか、そういう問題ではありません。しかし、信賞の問題と必罰の問題をいっしょくたんにすべきではありません。評価すべきところは評価し、罰すべきところは罰す。このメリハリ付けがもっとも重要な部分だと思います。人への優しさ無くして、コンプライアンスも社会的責任も、内部統制も、社会生活も成り立ちません。

 感情論や形式論にとらわれない、一社会人として良識ある判断を広く期待したい。

投稿: コンプライアンス・プロフェッショナル | 2005年11月22日 (火) 17時37分

イーホームズの存在意義は何か....を考えれば本来業務を怠った結果の言い訳をしているに過ぎないという判断が正しいと思う。
現状(11月22日現在)判明している倒壊の恐れある14棟、こんごも出てくる可能性があるが 建物自体と万が一にそれが倒壊した場合の損害(死者の発生もありえるわけで)を考えれば これは犯罪以外の何者でもないと思う。最低限の基準をクリアーしているかをチェックするのがイーホームズの会社としての責任であるので やっちゃったことはさておき などという発言は ありえないと思う。

投稿: やっさん | 2005年11月22日 (火) 18時21分

記事を読んでいて違和感を覚えましたので一言申し上げたく。

今回の不正を発見した内部監査は確かにその機能を果たしたとは思いますが、最も重要なのはそのような不正が行われるのを未然に防ぐことでありまして、その意味で問題の会社は論外であったわけです。

大和銀行事件では、銀行側は1トレーダーの不正に全く気づくことなく、その者の告白によってようやく事態に気がつきます。おまけにその事実の隠蔽まで図ったわけですから、不正の防止・発見・公表のいずれにおいても誤った「トリプル・プレー」をやってしまったわけです。それが重大な結果をもたらしたことはわざわざ言うまでもなくご記憶のことと思います。

本件の会社は確かに不正の発見に成功しこれを公表しましたが、肝心の「防止」に失敗したのでありこの点だけで十分に責められるべきものと考えます。「隠蔽するよりはマシ」と言う人もいるかもしれませんが、2人殺した人間と1人殺した人間の罪状を比べているようにしか見えません。

投稿: とーりすがり | 2005年11月22日 (火) 22時21分

はじめまして。 類似の問題です。
日本の原子力発電所も、直下型でマグニチュード6.5の地震加速度までしか耐えられない設計です。
阪神淡路大震災がM7.3で、震度6強~7 ですから、当然、もちません。

8月16日の宮城県沖野地震でも、直下型ではありませんでしたが、震源の遠いM7.2程度で、想定していた地震加速度を超え、停止したままです。震度としては、女川原発付近はの揺れは、せいぜい5程度だったようです。この程度で、限界を超えてしまったわけで、姉歯設計事務所の事件と、ほぼ同じ程度の設備強度ということになりそうですが。

投稿: U-2 | 2005年11月22日 (火) 22時24分

追伸 女川付近の8月16日の揺れは、震度 5弱でした。

http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5a/29/d289443dce335387f46f16e1ac8c86da.png

投稿: U-2 | 2005年11月22日 (火) 22時48分

何か大きな問題が起きたとき、社会はその原因を追究するのだけれど、よくわからない世界の話だと、ついつい世間の人々もマスコミも(マスコミも他業界についてはただの一般人というケースも多いですし)叩きやすいところを叩く傾向はありますよね。

イーホームズの過失と内部監査機関の評価については、toshiさんやコンプライアンス・プロフェッショナルさんに全面的に賛成ですね。

検査に落ち度はあったでしょうし、そこについては責任を免れるものではないことはその通りなのだけれども、自ら開示したことは大きな救いでしょう。

同じような手法による偽造があって、それでたくさんのマンションが建ってしまっていたという事実からして、多くのマンションで同じことが行われているとまではいかなくても、必ず他にもそのような建物はあるはずで、それは行政による建築確認が行われた物件でもあるでしょう。

行政が行った建築確認について、今回のような問題があった場合に発見しうるような内部監査(もしくは内部審査)ってあるんでしょうか?

かなりあやしいものだと思いますが。


今回の関係者の責任については、toshiさんが有益なエントリとして紹介されている構造建築に関わる方の分析はものすごく説得力がありますね。

今回の住民の感情を意識しない対応がなおさらイーホームズに批判を招くもととなっている気がしますが、上述の方のようなもう少し視野の広い意見がもっと多くメディアにも出て欲しいと思います。

投稿: K | 2005年11月22日 (火) 23時44分

>sara-onji さん

はじめまして。内部監査の機能論としては、もっともなご意見と思います。ただ、内部監査の限界論といったことも学んだ経験がありますが、どうしてもガバナンスに投影できない場合もありうるわけでして、そういった限界を超えたところで事件が現実に発生した場合、やはり独立した立場から、内部監査人が公表しなければならない場面があると思いますし、それをためらわない態度については、ある意味で企業への評価につなげてもよいのではないか、と思います。
また12月1日にオフィサーフォーラムでお会いしたときにでも、ご挨拶かたがた、お話しませんか?今後とも、よろしくお願いします。

>コンプライアンス・プロフェッショナルさん

熱意のあるコメント、おそれいります。
私の考え方にかなり近いものでありまして、罰と報償は別個に考えるという点も私は賛同したいと思います。このたび、東日本住宅評価センターも厳しく処分される、と今日のニュースで見ましたが、どちらがほんとに非難に値するか、すこし検討したいと思います。これもおそらく私に近い結論になるんではないでしょうか。
また、よろしくお願いいたします。

>やっさん
>とーりすがりさん

コメント、どうもありがとうございました。
おそらく、おふたりのご意見が、現状もっとも多い意見ではないか、と思います。自発的に公表したことは、事の大きさと比較すれば、あまり評価に値しない、というところでしょうか。
毎年2回行われる特定行政庁への監査報告のために、内部監査を行っていたということですから、ひょっとすると「隠したくても隠せないような現実」があったのかもしれません。ただ、私はやはり「隠せなくなった」のではなく、これ以上の被害を未然に防止する、といった態度での公表であれば、(イーホームズ)への感情は別として、今後の企業社会いおいてもっと大きな被害を未然に防止するためにも、なんらかの評価はあってもいいのではないかという考えです。とーりすがりさん風に申し上げるならば、5人の被害者が出るまえに3人で防いだともいえるのではないか、と考えます。
このブログは、こういった筋の通った反対意見、大歓迎ですので、またよかったらご意見ください。

>U-2さん
コメントありがとうございます。すでに報道されておりますとおり、姉歯事務所が設計した、というだけでホテルの営業が中止されております。まだ耐震性に関する調査もなされていない段階です。私は原子力発電所については不知ですが、この問題が、耐震性に関するさまざまな問題に派生することはまちがいないと思います。おそらく、発電所を含めて検証がなされる場面も多いのではないでしょうか。

>Kさん

おひさりぶりです。行政ですか?
私はないと思います。といいますか、行政にはそれほど、検査を監査できるほどのスタッフが揃っているとは思えないからです。また、そういった監査についての規則というのも聞いたことはありません。
もし監査を行っているのであれば公表してほしいと思いますし、もしなされていないとすれば、またたいへん恐ろしい予想をしてしまいますね。
力強いご意見、ありがとうございました。

投稿: toshi | 2005年11月23日 (水) 21時46分

皆様、私の内部監査のあり方に関する意見にもご意見を頂きましてありがとうございます。改めて、本件に関して補足的にコメントさせていただきます。

「問題が起こる前に問題を食い止める」これが絶対的な至上命題であることは間違いがありません。この前提なくして、企業経営も社会セ活の成り立ちません。ですから、イーホームズ社の責任が無くなるわけではないと申し上げました。

ただ、ヒューマンエラーも含めて、ミスや事故を100%防ぐことは絶対的にできないのも間違いのない事実なのです。どんなに強固なシステムを組んでも、必ず穴はあります。それは「人」が介在している以上、内在的な宿命なのです。判断の誤りもあれば、単純な凡ミスもある。じゃあ、判断やミスが起こらないシステムを作ればいいというかも知れませんが、それは100%不可能です。だからこそ、COSOの内部統制フレームワークでも、「絶対的な保証」とせずに、「合理的な保証」とされているのです。

事前に防ぐのが責務であって、防げなかった以上、内部監査部の行動は評価できないというのは、あまりに非情ではないかと思います。
そんなことを言っていたら、問題が発生した時点で、思考停止になりかねません。事案発生後にいかにあるべきか、という点は、従来の内部統制ではほとんど議論させていませんでした。そういう意味では、一種の限界論なのかも知れません。だからこそ、内部統制の枠にとらわれない、企業の危機管理の視点からの総合的枠組みが必要とされるのです。

誰が悪いと批判するのは簡単ですが、それでは、モグラ叩きであって、根本的な問題は何ら解決しません。事態はどんどん悪くなります。人はそんなに強くないです。山口先生がおっしゃるように、目の前に、子供の顔や家族の顔が浮かんだら、やはり自己保身に走り、悪に荷担してしまう。それが今も昔も変わらぬ人の性ではないでしょうか?
 だからこそ、信賞の問題と必罰の問題にメリハリをつけ、最悪の事態を防いだ行動を評価することが必要なのではないですか?彼らに感謝しろとは言いません。できるはずはありません。しかし、きちんと事前に告発をした、この点を情状酌量して温情的処置を期待するといゆ山口先生の見解が現実的だと感じるのです。

 人は間違いを起こす、そして起こしたときにいっせいに人を批判する。これは簡単です。でもその行き着くところは、ミスを責めあう、感情論がぶつかるなじり合いの世の中。
 Kさんの意見にもありますように、マスコミの偽善的な姿勢も憤りを感じますが、成果、コスト、結果と目に見える数字のみを追うのではなく、もっと人間的な部分を大事にすることで、健全な社会生活が成り立つのではないでしょうか。

余談ですが、成果主義が日本になじまないのも上記同様の思考が根底にあるようである意味必然だと思いますし、感情論が先行する風潮の中での裁判員制度の導入を危惧しております。

投稿: コンプライアンス・プロフェッショナル | 2005年11月24日 (木) 13時11分

一つ疑問なのですが、もしかして内部監査部門を独立した存在として扱っているのですか?
確かに彼らは自己の職責を果たしたのでしょうが、彼らも件の会社の一員である以上責任は免れませんよ。分離して評価しても無意味です。

それに事後的にでも責任をきちんと追及しないことが、無責任体質を生むのであり、それがより大きな破局の端緒となるのですが。日本の企業はそれで何度も痛い目を見ているはずなのですが、まだわかりませんか?

最初の時点で設計事務所側の不備を発見し、未然に防止していたのなら正当に評価されるべきものでしょうが、入居者が入ったり開業してしまった時点でもう取り返しがつきません。
地震で倒壊して初めて発覚するよりはまだマシでしょうがそれも程度問題です。

その後の報道や、国交省の動きなどを見ていますと件の会社はかなり悪質なように見えますが。それと施工業者が違法設計を強要したとの話もあります。どうも問題は構造的なようですね。

投稿: とーりすがり | 2005年11月24日 (木) 18時21分

>コンプライアンス・プロフェッショナルさん
>とーりすがりさん

 この議論、もう一回仕切り直しさせてください。弁護士という職業人のせいか、議論はできるだけ具体的な事例にそって行ったほうが実りが多いと思っています。とりわけ、とーりすがりさんのおっしゃる「内部監査の独立性」といった問題点は、その企業独特の部分もありますし、もうすこしこのイーホームズという会社の内部監査と外部監査の関係が判明したところで、検討してみたいと思います。

投稿: toshi | 2005年11月25日 (金) 03時06分

コメントを見て一言。ホストが言うように、仕切りなおしが妥当と思います。まだ事態の真相が明らかではないですから。

ただ、とーりすがりさん、少し感情的になられてませんか?コンプライアンス・プロフェショナルさんのコメントを素直に読むと、会社としての責任は否定できない、でも内部監査人は情状酌量の余地があると、ホストと同じロジックで話をされているだけで、決して無責任体質を助長しているようには、私には感じられませんが、いかがでしょうか?


とにかく、この事態の推移を冷静に見極めたい一専門家より。

投稿: いち専門家 | 2005年11月25日 (金) 16時26分

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