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2005年11月18日 (金)

「会計参与」の悩ましい問題を解決する一考察

一昨日のエントリー「会計参与と新会社法との相性」のなかで、会計参与の中心的業務となる「取締役との計算書類の共同作成」への疑問として、もし会計参与と取締役との間で、計算書類の作成方法に意見の対立があって、作成ができないときの対処方法はどうしたらよいか?について疑問を呈しておりました。

きょう、神戸地裁からの帰り道、梅田の旭屋書店さんで、新発売の「新・会社法100問」(葉玉匡美検事、会社法立案担当者の会 編著)が山積みされておりましたので、一冊購入して、ちょっと事務所でめくっておりましたところ、ナント!この疑問点ズバリの設問が掲載されておりましたので、たいそうビックリした次第です。(第77問 会計参与)

設問は、「取締役と会計参与の意見が合わないために、単独で取締役が計算書類を作って定時総会を招集(注、おそらく新会社法439条との関係から、計算書類は、株主総会で報告だけすればよい会社もありますので、会計監査人を設置していない株式会社を想定しておられると思います)した。この会社はどうやって、計算書類を確定できるか?」といったものです。

なお、争点を明確にするために、あらためて申し上げておきますが、実務上、会計参与が意見の食い違いの際に、辞任する道はあることが前提です。ただ、この辞任につきましても、会社の機関として、会社と委任関係に立っている会計参与(会社法330条)につきましては、その職務に忠実に行動すべきであり、自らが正しいと考えている会計指針の適用を取締役が拒んだときには、その適用を説得すべきであり、むやみに辞任しますと、会社の信認違背として損害賠償責任を負う危険を有していると思われます(会社法423条1項)
回答の結論だけをご紹介いたしますと、①会計参与は、総会で意見を述べて、総会で取締役を解任する、②総会は会計参与を解任する、③総会で会計参与制度廃止案を決議して、その後取締役が計算書類を単独で作成する、といったものです。

しかし、この結論もかなり納得しがたいもののように思われます。そもそも、計算書類の作成について、取締役と会計参与のどっちが正しい方針で作成されるかを、総会の場で(専門家でもない)一般株主に問う、ということ自体が非現実的ですし(たとえ内容がわかりずらくても、利益処分のためには株主が計算書類の承認をしなければいけないのとは、利益状況が異なります)、またどっちみち、どの結論をとりましても、翌年の定時総会まで、本年度の計算書類が確定しない(会社法438条)ということは、会社の利益処分や損失処理ができないことになりますから、かなり会社にとって不都合ではないでしょうか。いずれにせよ、「一問一答新会社法」(相澤 哲 編著)同様、このあたりの問題処理についてはモヤモヤが消えることがありませんでした。こういったケース、不測にも会計参与と取締役との意見が食い違っても、なんとか「この定時総会で」計算書類の確定へこぎつける対処方法はありませんでしょうか。

1 解釈論的試みによって解決することは可能か?

法文には「共同」で計算書類を作成とありますが、すでに計算書類の承認を定時株主総会へ上程してしまっている以上、そのまま株主総会で承認を得てしまってもよい、とする解釈はとれませんでしょうか。

つまり、計算書類の承認手続きという制度は、神田秀樹著「会社法(第四補正二版)」の168ページによりますと、計算書類の承認を株主総会の権限としたのは、利益の処分は会社の所有者である株主自らが決定するのを妥当と考えるからである、として、もっぱら株主の利益保護のための制度と捉えられております。そこで、まず原則として、手続き違背による計算書類の承認というものが、株主自身による(自らの利益を放棄する)ものであるかぎりは有効としてよい場合がある、と考えてもよいのではないでしょうか。ただ、新会社法が会計参与の権限として、「取締役との計算書類の共同作成」を規定しておりますので、この手続違背の場合であっても、「株主自身がその利益を放棄する以上は有効」となるかどうかは別個に考慮すべき問題だと思われます。といいますのは、会計参与の上記「共同作成」の趣旨は、計算書類の正確性を担保するためのものである、ということが言われておりまして、それは単に株主の利益だけのものではなく、会社と取引をする債権者の利益も保護している規定ではないか、と考えられるからであります。もし、債権者の利益保護をも目的としているということでしたら、むやみにこの規定に違背した手続を総会が推し進めても、承認決議自体が無効になってしまうおそれがあります。

たしかに、計算書類の正確性によって、取引を行う会社債権者の利益を保護する一面もあるかと思いますが、この会計参与という機関の特徴は、株式会社がどんな機関設計をとろうとも、あくまでも「任意の機関」とされているところにあります。(会社法326条2項)つまり、採用するかどうかは、「株主総会における定款変更」をするか、しないかにかかっているわけでして、一般株主の設置意思に完全に依存する機関であります。したがいまして、私の個人的な見解としましては、やはり会計参与が「役員」である以上は、一般株主の利益保護を目的として行動すべき存在であって、計算書類の正確性向上によって会社債権者が利益を享受するとしましても、それは株主保護の要請からくる「反射的な利益」にすぎないものと考えるのが適切ではないかな、と思うわけであります。
そうしますと、この「共同して計算書類を作成する」という規定に違背した形で、株主総会が押し切って計算書類を承認した場合でも、その承認決議が有効となり、利益処分、損失処理も、その承認された計算書類によって行いうる、と解釈できるように思いますが、いかがでしょうか。ただ、ちょっとはじめに申し上げましたように、そもそも会計参与は取締役と共同して計算書類を「作成」しなければならないことになっておりますので、そもそも株主総会に上程すべき計算書類自体が存在していない、という疑問もあります。計算書類が存在しない以上は、株主総会で承認したくてもできない、ということになりますので、そのあたりの解釈論に限界があるかもしれません。

2 政策的な試みによって解決することは可能か?

株式会社の法令順守といった面からみると、解釈論として可能だとしましても、会計参与制度を無視するような方法を採用するというのは問題があるかもしれません。そこで、やはりこのような場合に会計参与が辞任する権利がある、というだけでなく、辞任する義務が発生する、というような結論を正当化できる方策を検討すべきではないでしょうか。

そこで、この会計参与という制度が、完全任意機関である、という新会社法の規定内容から、定款変更の際に、会計参与の権限行使の条件を付しておく、という方法が検討されるかと思います。たとえば、「計算書類の作成にあたって、双方の意見がまとまらず、定時総会期日の○週間前までに作成が困難な場合には、会計参与の意見を付したままで、取締役の単独意見によって作成することが可能とする」といった条件を会計参与採用の定款変更決議に付帯するものであります。すでに1で述べましたように、この会計参与という制度が、もっぱら会計制度的な支援を取締役に対して行うことによって、株主による計算書類承認に資するといった株主保護をもっぱらとする制度である以上、定款変更により、新会社法で定められている権限分配規定とは異なる権限の制限を付することも可能かと思います。

こういった定款変更決議がなされた場合には、意見の食い違いがあって、最大限の意見すり合わせが行われ、それでも意見が異なるケースでは、会計参与の辞任義務が発生するのと同じ効力を有することになると思われます。

さらに、会計参与と会計監査人をダブル選任すれば、株主総会における計算書類の承認決議が不要になりますから、このような悩ましい問題は発生しないことになります。ただし、これは非現実的な対策だと言われそうですので、これ以上は立ち入りません。

さて、会計参与の悩ましい問題を、検討してきたわけでありますが、はたして会計参与は実務に定着するのでしょうか。どうも金融庁や銀行あたりが、中小企業向けに制度取り入れの音頭でもとらないかぎりは、先行きはまだまだ不透明な予感もします。

最後になりましたが、葉玉匡美検事さんの上記「新・会社法100問」、かなり分厚くて、読み応えのある大作ですが、過去問を解くことから新会社法を勉強するスタイルになっておりまして、非常に論点を捉えやすくなっており、貴重な実務家向けの参考書だと感嘆いたしました。これからの「勉強の友」にしたいと思います。(まさに通信と出版の融合ですね)

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