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2005年11月 1日 (火)

中央青山と明治安田の処分を比較する

9月14日のエントリー(中央青山監査法人に試練のとき)の最後のところで、私はカネボウ粉飾事件よりも、もっと「足利銀行」事件のほうが大きな試練ではないか、と書きましたが、朝日の報道をみるかぎりでは、どうもそのような様相を呈してきたようです。

衆議院財金委で中央青山を追及/足利銀行粉飾

すこしだけ引用いたしますと、

中央青山監査法人の公認会計士が足利銀行の粉飾決算に関与したとされる問題が28日、衆議院の財務金融委員会で取り上げられた。参考人として招かれた中央青山の奥山章雄理事長に対して、委員から「カネボウ事件より重要な問題だ」「法人として責任を取るべきだ」と厳しい意見が相次いだ。奥山理事長は「監査がおかしかったとは聞いてない」と強調する一方で、足銀監査担当の会計士が足銀の融資先の顧問税理士に就任していた問題については、調査する考えを表明した。

カネボウ事件にせよ、足利銀行事件にせよ、刑事民事の差はありますが、まだまだ裁判による事実確定までは時間がかかりますので、金融庁の処分もまだ先のことかもしれません。とりあえず、現行商法特例法4条2項3号によって、現時点で監査法人自体が一部だけでも業務停止処分を受けてしまいますと、すべての企業に対する監査業務ができなくなってしまいますが、新会社法337条3項1号が施行されますと、とりあえずその業務停止の対象となっている当該企業の仕事以外の企業監査については、対象監査法人は(たとえ一部業務停止処分となりましても)通常どおりに業務ができますので、処分の効力だけでも来年5月1日以降になるのではないでしょうか。

ところで、金融庁の監査法人に対する業務停止処分といえば、平成14年10月15日に神戸市の瑞穂(みずほ)監査法人に対する「業務停止1年」の行政処分が前例です。結局、瑞穂監査法人はこの年の12月に解散することになりますが、カネボウ粉飾や足利銀行事件で、もし中央青山監査法人の処分事実が、社員の「故意による虚偽監査」ということであれば全く同一の処分事実となります。ということですと、金融庁は中央青山に対しても、業務内容にかかわらず業務停止1年の処分を下すことになるのでしょうか?社員数11名、法定監査企業数26社の監査法人と、社員数3400名、監査企業数800社の監査法人とはまったく異なる処分となるのでしょうか。

旬刊「商事法務1745号」の20ページで、法務省大臣官房参事官の相澤哲氏が、さきほどの会計監査人の欠格事由のことについて、新会社法の規定を説明されておられるのですが、その改正の動機として、「現行法の規律については、監査法人の監督官庁からも、業務停止処分の法的影響が大きい場合には、かえって当該処分をすることを躊躇する結果となりかねない、という監督の実効性の観点からの問題点の指摘もなされている」と解説されています。つまり、こういった金融庁の行政処分を行うときには、監査法人の大きさというものも、処分内容の軽重に影響があることを暗にほのめかしているわけです。しかし、なんか釈然としませんね。なぜ同じ行為をしたにもかかわらず、瑞穂は業務停止1年で、4大監査法人の場合は、業務停止処分にはならないといった対応が認められることになるんでしょうか。

おそらく法律的にみれば、この金融庁の処分は「行政行為」であり、かつ、その要件該当性の判断や、効果の判断に広く金融庁の裁量が認められる「自由裁量行為」に該当するものだからでしょう。つまり、処分に差異をもうけたことが「当、不当」の問題にはなっても「違法、適法」の問題にはならない、というわけです。まあ、一般的にはこのように説明されると思いますが、それでもなんか釈然としないものが残ります。たとえ法律が金融庁に広範な裁量を認めたとしても、その裁量を認めた趣旨を逸脱している場合にまで合法とは言えないはずでして、たとえば本件の場合には、4大監査法人とそれ以外の監査法人で、同じ内容の処分事実であるにもかかわらず、効果だけに差異をもうけることは「平等原則違反」になるのではないか、という疑問と、そもそも「社会の与える影響」を効果を判断する際の基準として使ってよいのか(そういった判断基準を法が予想していないのではないか)という疑問があると思います。したがいまして、私としましては、この瑞穂の前例がある限り、たやすく「業務停止」処分から中央青山が放免されると考えるのは、すこし楽観的ではないか、と考えます。

そこで、今後の金融庁の対応につきましては、今回の明治安田生命に対する金融庁の処分方法が参考になるのではないか、と予想されます。つまり、今後行政手続法による手続に則って中央青山の行政処分が検討されることになると思うんですが、おそらく個別の具体的な処分事実とともに、「審査体制」に照準を当てて処分事実が構成されるんではないでしょうか。つい2,3日前の報道によりますと、この12月までの間に、4大監査法人に対して、金融庁が立ち入り検査をすることが決まりました。いわゆる監査の品質管理と内部統制システムに関する調査が中心だと思われます。立ち入り調査によって4大監査法人の審査体制にどのような差が生じるのかは、やってみないとわからないかもしれませんが、おそらく4大監査法人において、極端な審査体制の差がみられないことや、今回の粉飾事件後の中央青山自身のシステム構築の努力などを勘案したうえで、比較的穏当な処分が下されることになるんでは・・・・と思ったりしております。おそらく瑞穂監査法人の場合には、処分までの期間において審査体制の改善が図られなかった(だからこそ解散せざるをえなかった)が、このたびの中央青山に対しては、著しく審査体制の向上がはかられている、ということであれば、その処分の差というものも「合理的」とみることもできそうです。

いえ、私は公認会計士でもありませんし、また監査法人の内容につきましても、それほど情報をもっているわけではありませんので、処分が厳しいこと、軽いこと、どちらかへの希望というものも持ち合わせてはおりません。ただ法律家として、規模の大小が、行政行為の裁量判断に影響を与えるものであり、したがって処分内容に影響を与えてもいいのかな、といった素朴な疑問を自分なりに解決してみたいといった欲求が存在するだけであります。私自身の問題点の把握が間違っていたり、法律解釈におかしな点がありましたら、また忌憚のないご意見を頂戴したいと思います。

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コメント

こんにちは。ちょっと考えいることを書かせていただきます。
商法特例法による現行の商法監査については、年間を通じて会計監査人が置かれている必要があるらしく、会計監査人が1日でも業務停止を食らってしまうと、結果的に商法違反になってしまうようです。
ですから、商法監査もたくさん抱えている中央青山監査法人を業務停止にすることは、いきなり商法違反の会社をたくさん発生させてしまう可能性がありますから、処分するとしても事前に準備が必要になるような気がしています。
表立ってはいませんが、結果的に中央青山監査法人から会計監査人を変更する事例が増えているのも、商法監査のリスクを考えたらやむをえないことなんでしょう。
今回カネボウ事件が大きくなったタイミングが、3月決算の定時株主総会後でしたので、会計監査人を交代させるにはタイミングを逸してしまっているのも、処分を出すに出せない原因なのかもしれません。

投稿: grande | 2005年11月 1日 (火) 18時34分

いつもコメントありがとうございます。(今週は、更新がお休みのようですね)
おっしゃるとおりだと思います。現行商法下では、企業側の「瑕疵」についても配慮する必要はあるでしょうね。
でも、最近、金融庁からリリースされている要望書などを見ますと、なんの定義付けもなく「4大監査法人は・・・今後・・・しなければならない」と書いてありまして、「ん?これじゃ、社会的な影響のある処分なんて考えてないんじゃないの?」と思えてなりません。

投稿: toshi | 2005年11月 2日 (水) 02時51分

Toshiさん、再びこんにちは。

私は会計士ではありませんが、会計士とは時々一緒に仕事をするので外部者の一人としてコメントしたいと思います。

監査の質を向上させるという観点で、また監査法人の実態に鑑みると、私はToshiさんが書かれている「明治安田生命と同様の処分」がされるべきだと思います。

私の理解では、監査法人には監査の質を保つ責任がありますが、法人は二次チェック者に過ぎず一次チェック者として重責を担うのは担当の関与社員です。また、この体制が本来の姿であるとも思います。そうであれば、会計士にとって二次チェック者は誰であっても良く、中央青山が駄目ならトーマツでも新日本でも・・・。弁護士さんの世界も似ていると思いますが、専門職である会計士にとって監査法人はビークルに過ぎません。

仮に中央青山を業務停止させると、恐らく中央青山はかつての朝日と同様に消滅しますが、同法人の理事以外は誰も困らないと思います。何故なら関与社員は他の監査法人に移籍して業務を継続するので。また、監査法人の切替えコストが掛かる一方で監査の質が上がると思えません。そこで、中央青山には体制/態勢の再構築を促すための「穏当な」処分を行い、他監査法人のモデルケースにもなることが(どの監査法人も品質管理の面では似たような水準にあると思いますので)、現実的かつ効果的な処分だと思います。

実務の観点からアプローチするとこのような判断もあると思います。なお、私はこの分野の法令は読んだこともないので、コメントの前提が狂っているとすればご容赦下さい。

投稿: イチロー | 2005年11月 2日 (水) 18時01分

>イチローさん

 コメントありがとうございます。
 ちょっと、今日発売の「財界展望」などを立ち読みしておりましたが、かなり辛辣な意見の特集が組まれていました。まちがいなく、業務停止に追い込まれる、といったショッキングな予想でした。どこまで確実なものかは推測しかねますが、検察庁が監査法人を不起訴としたのは、あとの処分について、金融庁にゲタを預けたとのこと。(ホントかなあ?)
 イチローさんがおっしゃるように、構成員自身はほかの監査法人へ行けば、それほど困らないだろうとの予測もありました。ただ、いまの海外提携がどういう形になるのかは、かなりムズカシイとのことで、中央青山の代わりにプライスウォーターハウスクーパースが直接、4大監査法人の仲間入りを果たす!などという大胆予想までありました。
 それから、きょう足利銀行の件で、被害者の会が中央青山への懲戒請求を金融庁に申し立てたそうです。
 また、遊びに来てください。

投稿: toshi | 2005年11月 3日 (木) 01時59分

おはようございます。
先生のこの予測、あまりにもピッタリあたっておりましたので、ビックリしました。
本当に内部統制違反だったんですね。
できればこのたびの事件についてコメントをお願いします。

投稿: taka-poo | 2006年5月 9日 (火) 11時26分

こんにちは。

すいません、お昼は長いエントリーはかけませんので、新会社法にからむ問題点だけをあげておきました。

投稿: toshi | 2006年5月 9日 (火) 12時26分

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