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2005年12月25日 (日)

取締役会の権限委譲問題(新会社法)

先日、セレブな会社法学習法というものを勝手に紹介させていただきましたが、相変わらずデイリー六法などを利用して、条文の相互関係などを検討しているところであります。ところで、このたびの会社法では「定款」の利用というものが、設立、株式、機関設計、計算、事業再編などのすべての組織規制や行為規制へ影響するもののようでして、素人的発想からすると、「定款」という一章を設けて、その記載事項から効力発生要件から、変更手続まですべてまとめて立法されたほうが理解しやすいのではないか、と思ったりしております。(実際に「定款の変更」につきましては、わずか一条でひとつの章が設けられているわけですが)たとえば、私が会社法を勉強したり、一般の方にお教えするのであえば、まずこの定款という「団体の約束事」みたいなところから、自由に自分の好きな会社を作ってみて、「この約束は会社法に違反しているからダメですよ」とか「ここになんにも約束がなかったら、会社法のこの規定が適用されますよ」といった具合に学習していったほうが、「即戦力の会社法実務」には役立つのではないか、と考えております。この会社法を読めば読むほど、定款を利用することによる会社運用の重要性を再認識いたしますね。

そこで、すこしばかり「定款変更」に関しまして、疑問点がございますので、エントリーとして残しておきたいと思った次第です。またまた、ひょっとしますと解決済の問題かもしれませんが、同じような疑問を抱いていらっしゃる方にも有益ではないか、と思いまして。
このブログをお読みの方には「釈迦に説法」とも思いますが、定款の記載事項には絶対的記載事項と相対的記載事項、そして任意的記載事項といった分類方法が一般的ですが、このうち任意的記載事項といいますのは、特別に定款として記載する必要はないけれども、その変更の要件を厳格にしておくなど、会社の必要性がある場合に「定款」として記載すればその効力を有するといった事項であります。ただ、その内容は公序良俗に反していたり、強行法規たる会社法の規定に反するものであってはならない、とされております。
新しい会社法では、現行の有限会社を取り込むことになるため、これまでの商法会社編には存在しなかった機関設計がございます。つまり、基本設計型といわれております株主総会とたった一人の取締役、といったものでして、これと従来型であります総会と取締役会(取締役会設置会社)との対比いたしますと、すこしばかり疑問が湧いてまいります。その疑問といいますのは、会社法362条で取締役会の専属権限として規定されております「(会社の)業務執行の決定」権限を、定款変更によって株主総会へ委譲できるかどうか、といった問題であります。まずは、下記のとおり参照条文を掲載しておきますね。

(株主総会の権限)
第二百九十五条 株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。
2 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。
3 この法律の規定により株主総会の決議を必要とする事項について、取締役、執行役、取締役会その他の株主総会以外の機関が決定することができることを内容とする定款の定めはその効力を有しない。

(取締役会の権限等)
第三百六十二条 取締役会は、すべての取締役で組織する。
2 取締役会は、次に掲げる職務を行う。
一 取締役会設置会社の業務執行の決定
二 取締役の職務の執行の監督
三 代表取締役の選定及び解職
3 取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない。

通常は、会社法295条2項によって、取締役会設置会社においては株主総会決議事項が制限されている、と説明されるわけですが、規定をお読みになりますと明らかな通り、定款を変更すれば、会社法によって株主総会の専権事項とされる事項以外にも、決議事項を増やすことは可能なわけです。そこで、たとえば362条2項1号に規定されているような取締役会の「業務執行の決定」権限を定款変更決議によって株主総会の決議事項に取り込むことが可能かどうか、といった問題が出てまいります。
いままでの商法の基本書では、株主総会が定款変更することで取締役会の権限とされている事項を取り込むことは可能とされておりますし、最近出版されました葉玉検事さんほか、会社法立案担当者の会によります「新・会社法100問」におきましても、取締役会設置会社における会社の業務執行の決定は取締役会の権限とされているが、295条2項により、株主総会でそれを株主総会の決議事項とすることができる、と解説されております(203ページ)ちょっとここで留意しておかなければいけないことは、誰も「取締役会の専権事項を295条2項によって株主総会へ委譲できる」とまでは明言されていないんですね。「委譲」といいますのは、取締役会に存在していた権限が株主総会へ移る」という意味と認識しておりますが、ここで説明されておりますのは、取締役会にも業務の執行決定権が残っているのだけれども、同じく業務の執行決定権が株主総会にも認めてもいい(つまり併存してもいい)ということが説明されているわけです。なぜかと申しますと、先に任意的記載事項のところで説明いたしましたとおり、(強行法規たる)会社法の規定に反するような定款変更は効力を有しないわけでして、いくら定款変更といいましても、362条2項の規定に反するような変更はできない、ということが前提になっているわけであります。したがいまして、代表取締役の解職権限につきましても、定款を変更することによって株主総会に代表者解職権限を発生させることができるが、取締役会の解職権限とは併存する、といった立場を上記「100問」はとっておられるようです。併存というのは、なんだか奇妙な感じもいたしますが、このたびの会社法は取締役一人の株式会社も認めているわけでして、取締役の規定と株主総会の規定をあわせ読みますと、そもそも取締役会非設置会社におきましては、このような権限の併存が「あたりまえ」のように規定されているわけであります。

最初はここで納得しようか、とも考えたのですが、どうもしっくりと来ないところがございます。そもそも取締役会と株主総会とで、業務執行決定権限が併存している状態が認められるとしましても、取締役会を構成する「すべての取締役」は会社に対して善管注意義務を負っているわけですから、たとえ権限が併存しているとしましても、総会の権限行使に反するような行動は到底期待できないわけです。したがいまして、実質的には取締役の専権事項を株主総会に「委譲」したのとはなんら変わらないのではないか、という疑問です。また、もし「併存」を認めるとするならば、わざわざ295条の1項と2項を区別した意味がまったくなくなってしまうわけですから、これは強行法規たる会社法の規定に反する定款変更ではないか、という疑問であります。定款変更手続によって取締役会制度を廃止するのであればともかく、取締役会制度をそのまま維持しつつ、1項と2項との区別をなくす定款変更というものは果たして認められるのでしょうか。先の「100問」では、多数派株主によって不当に少数派株主の利益が奪われないように、所有と経営を分離することへの株主の期待意思の現われが295条2項の規定であると解説されておりますが、もしそうであるならば、やはり定款を変更してもなお、そういった趣旨を没却しない範囲での変更しか許されないのではないか、とも思われます。また、たしかにこういった解釈ですと、取締役一人の株式会社との整合性が問題となりますが、そもそも有限会社に近い株式会社と、取締役会まで設置することを定款で決めた株式会社とでは、やはり所有と経営の分離思想の解釈論への適用においても差異を設けてもいいのではないか、とも思いますがいかがでしょうか。

最近、いろいろな敵対的買収防衛策が検討されておりまして、事前警告型のものや、株主意思を問う形での黄金株の導入など、今後サマザマなシチュエーションにおいて総会決議を欲する場面が想定されますが、そもそも株主総会というものが万能のものなのかどうか、あらためて理論的な検討を行うべきではないか、とクリスマスイヴに思い至りました。これも通説や会社法立案者の意見に異を唱えるようなものですから、どっかに「思考過程の欠陥」があろうかと思いますが、また欠陥を見つけ次第、訂正させていただこうか、と思っております。

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