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2005年12月 9日 (金)

不動産競売の民間開放について

つい先日、不動産競売(担保権に基づく)の執行手続を民間に開放して、換価処分の迅速化をはかる制度の検討が、法務省ではじまるような記事が掲載されておりました。すでに、ろじゃあさんや、JAPAN LAW EXPRESSさんのブログなどでも、詳細に紹介されております。(新聞記事はこちらです。日経ニュース

民間開放といえば、つい建築基準法上の確認申請手続きを行う「民間確認検査指定機関」を連想してしまいますが、ほかにも駐車違反を取り締まる民間業者とか、話題になっていますね。このブログでも二度ほど「公権力の民間移譲」について取り上げましたが、公権力を突如手にした民間人の「恐怖」(強権政治)といったものは、私自身が身をもって痛感しましたので、あまり良い印象を持っておりませんが、そういった主義主張は抜きにしまして、担保権実行による競売手続の民間移譲(民間開放)によって、どのような効果が期待できるか、問題点をすこし明らかにしてみたいと思います。

どうして、現状の不動産競売手続には、時間がかかるんでしょうか。(このあたりは、法律専門家の方向けではなく、一般の方向けに書いておりますので、細かいところは省略いたしますね)大阪の現状からしか、私は理解しておりませんので、全国的にあてはまるかどうかは、疑問ですが、まず絶対的に執行官さんの数が少ないこと。(執行官には職務の管轄というものがあるのをご存知でしょうか?たとえば豊中、箕面の地区の執行は○○さん、といった具合)たまたま、同じ頃にたくさんの執行事件が重なりますと、こっちは急ぎでも、執行官さんはなかなかやってきてくれません。執行調書や現況調査書の作成など、デスクワークもありますので、執行を申し立てたその日に執行してもらえる、というものでもありません。それから、不動産鑑定士さんの鑑定意見作成の問題や、入札までの裁判所の手続のスピードにも問題があるかもしれません。こういった問題点につきましては、民間開放によって手直しをはかれる余地が多分にありそうですから、一般的には迅速化がはかれるのではないでしょうか。

ただ新聞報道のように、どんなに頭の良い方が参集して、どんなに立派な新法を制定して競売制度の民間開放を図ったとしましても、「かならず」問題点として残ることが確実に思われる点がふたつほどあります。

ひとつは弁護士の大量増加時代の到来による「リーガルコスト」の増加です。想定されておりますのは(担保権の実行としての不動産競売)ですので、直ちに「明渡し執行」とは結びつきませんが、たとえば「現況調査」の段階から、債務者側に弁護士が代理人として就任して、執行官(的な立場の人)側へ法律上の問題点などを意見書として提出すれば、「買いたい」と思う人にはかなりプレッシャーになります。また現実の執行の場面において、ご承知のとおり、適法に明渡の妨害(言葉は悪いですが)によって執行を延期させることも可能ですし、入札段階で高値入札(→取下げ→保証金取り戻しの繰り返し。ただし複数人の協力者必要)によってこれまた入札を妨害することも可能です。(くわしい方法論につきましては、弁護士のモラル上の問題もあり、ここでは控えさせていただきますね。興味のある方は、ご自身でお調べください)刑事的な告訴などによって警察の協力を仰ごうとしても、これまた明確な証拠でもないかぎりは動いてもらうことは期待薄です。民法が改正され、民事執行法が債権者有利に改正された現代においても、なかなか「明渡の執行」を必要とする競売手続の迅速化は期待できないところであります。べつに悪者に手を貸す、といったことではありませんが、弁護士に執行終了までの時間かせぎを依頼して、その時間に土地を有効利用して多大な利益を上げるといったことも現実には行われているわけでして、民間機関側の代理人になることも含めまして、今後の弁護士の数が飛躍的に増加するなかでの「おいしい」領域に発展する可能性は高いものと思います。そういったことからすると、おそらく不動産競売手続へのリーガルコストの上乗せは避けて通れないところかな、と(私は)予想しております。

そして、もうひとつの問題が「談合」でしょう。破産管財人をやっておりまして、この不動産の売却に関しては、本当に誘惑が多いです。(法律事務所にやってきて、堂々と「うちに売ってくれたら、領収書のいらないこれだけのお金、先生にバックしますよ」みたいな話を平気でされます。なんでこんな勧誘がまかりとおるのか、不思議ですが)もちろん、競売手続が民間開放されましても、公正、公平な入札手続が維持されるでしょうが、応札には、ツワモノの業者さんがゾクゾク登場されるでしょうから、これまた民間人の「突然の公権力保持」の弊害は必至だと思われます。現状の裁判所による競売手続の遅延化が非難されてはおりますが、こういった「ツワモノ」相手に公正な競売手続が維持されているのは、そこに「裁判所」が直接からんでいるからでして、民間開放によっていくら担当者に「準公務員」的な立場が付与されるものであっても、民間機関のコンプライアンスには穴がかならずあくような気がいたします。(職員の給与がたいへんな高給であれば別ですが)

なお、アメリカのある州では、民間開放によって平均3ヶ月程度で執行を終了させている、とのことですが、このあたりはどうやって迅速化を図っているのか、海外の事情に詳しい方にご教示いただけるとありがたいです。おそらく警察の協力や、執行担当者への尊敬の念など、文化や国民性の違いが反映しているところも大きいのかな、とも思いますし、また命をかけて、執行に取り組む専門弁護士の職域のようなものなのかもしれません。

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コメント

現状が良いのかと言われるとそんなこともないですが、競売周辺に存在するウラ事情を考慮すると国家権力によるサポートなしではちょっと。。。という感じがいたします。うまく機能するかはわかりませんが、競売手続きを分解して部分的に民間委託というイメージがいいような気がしますが、具体的な考えは今のところ何もありません。「商売」を持っていかれる方々達はどう考えられるのでしょうかね。

投稿: neon98 | 2005年12月 9日 (金) 09時16分

toshiさん、はじめまして。いつも楽しみにしています。
大阪の現実というのをしりませんが、「執行屋」さんの存在は大きいと思いますよ。もし、民間開放されても、toshiさんの言われるような「コンプライアンス」の部分は、この執行屋さんがカバーしてくれるものと思います。(現実にも、今の執行官は、この執行屋さんの存在なしには業務を遂行できないと思っています)また、明渡妨害という点についても、執行屋さんにはたくさんのノウハウがありますし、もしneon98さんの言われるような「商売をもっていかれる」立場になってしまったら、そのノウハウ自体が、執行にとって重大な課題になってしまわないか、と思います。
私も、民間開放については、迅速化のために影響はあると考えますが、その背景にはこれからも執行補助業務の有効な利用がかならず必要ですし、これは弁護士さんの「おいしい部分」とパイの取り合いを演じることになるんじゃないか・・・・・・と、思いますがいかがでしょうか。(金融機関にとっては、これからもIT化の推進と執行屋さんの活躍にはどうしても期待してしまいますね)

投稿: halcome2005 | 2005年12月 9日 (金) 11時19分

弁護士法72条と73条はだんだんと厳格な解釈(適用範囲が狭くなる)を余儀なくされるということなんですかねえ。
実際にはサービサー法と同様の法制度を用意するか同法の改正で対応するということになるんじゃないかと思いますが(弁護士法72条等に該当する業務について同法で根拠条文を作る)、「特定不動産競売業等の規制に関する法律」とかってやって、(特定)不動産競売業とかって免許業種ができるって感じじゃないかと。
まあ、需要もあるのは確かでしょうが弁護士の先生はまた常議会で営業許可申請して「常務とする取締役」としてコミットするとかって感じになるんでしょうかね。
でもtoshiさんが書いてる内容読んだら前面開放には一票投じにくいなあって学者の先生いると思うんですがねえ(^^;)。

投稿: ろじゃあ | 2005年12月 9日 (金) 13時57分

はじめまして。JAPAN LAW EXPRESSのArakawaと申します。
TBありがとうございました。
こちらからもさせていただきました。
今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: Arakawa | 2005年12月 9日 (金) 23時05分

>neon98さん

いつもコメントありがとうございます。競売手続きが遅延する理由として、おそらく(私の推測ですが)執行官による現場での行動が国倍の対象となることをおそれて、慎重にならざるをえないところにあり、思い切った行動ができない点が大きいのではないか、と思います。部分的な民間解放といった手法をとりますと、おそらく監督責任のようなものを今後も国が負担する可能性が高くなるため、新法では一括して委託して、責任を負担しないでいいような体系に変更することが予想されるのではないでしょうか。こういった裁判所の手法は、破産管財人制度などにに現に生かされておりまして、裁判事務の縮小の際にはかならず考えられるところだと思います。
また、ご意見等ございましたら、お教えください。

>halcome2005さん

はじめまして。(金融機関の方のようですね。そうでないと執行実務はあまり知られていませんよね)おっしゃるとおり、執行屋さんの存在というのを失念しておりました。大阪におきましても、もちろん執行屋さんにお世話になります。ただ、執行屋さんには失礼かもしれませんが、民間開放された場合でも、やはり弁護士と執行屋さんの職域は競合することはないと思っています。やはりこれまでも弁護士は執行屋さんにとっては「お得意さま」的な存在でしたし、執行現場におきましても、話し合いできちんと分業が成立しておりました。あまり口ではうまく表現できませんが、私は民間開放の場面におきましても、執行屋さんもますます職域が広がるような気がいたしますし、その職を奪われる立場にはならないと思います。

>ろじゃあさん

弁護士法72条問題につきましては、適用範囲は狭くなりますが、その拘束力(つまり、違反行為に対しての取締効力)は強くなるものと思います。現に、弁護士会は弁護士増員時代をにらんで、他業種による法律業務の監視態勢を強めており、摘発も増えております。ただ、ここは規制緩和委員会などが執拗に改廃を求めているところですので、今後はもっと適用範囲が狭くなるのではないでしょうか。弁護士会の意見とは異なりますが。

>arakawaさん

いつも貴ブログは法律スタンダードのブログとしてチェックしております。私のマニアックなブログと異なり、無駄な表現もなく、いかにも長続きしそうなブログですね。また、よろしかったらご意見等頂戴くださいますと幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2005年12月10日 (土) 21時10分

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