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2005年12月 7日 (水)

社外取締役制度に期待するものとは?

(12月7日午前 追記あります)

いつも勉強させていただいております葉玉検事さんのブログ(会社法であそぼ)でも話題になっておりますが、会社法施行規則77条、78条によりますと、株式会社が公開会社(上場会社にかぎりません)の場合、社外役員(社外取締役、社外監査役など)の活動状況についても、事業報告書に記載することになるようです。(現在パブコメ募集中なんで、また変更される可能性もありますが)また、この条文を読みますと、社外役員に関して開示すべき活動状況の内容もけっこう詳しくないといけないようで、社外監査役である私自身も、「役員会でなに発言したんだっけ?」「監査業務として、なにを提案して、どういった施策が実施されたんかな?」と思わず振り返ってみたりしております。

葉玉検事さんは、どんなに社外監査役の独立性要件を厳しくしたって、それだけで株主を守ってくれるとは言えないのではないか、やはり活動開示といった「縛り」を導入して、監視されている中での仕事に期待すべし、といった立場でいらっしゃるようです。

この葉玉さんのエントリーと同じ12月5日、経団連の経済法規委員会より、東京証券取引所の「コーポレート・ガバナンスの充実に向けた上場制度の整備について」に関するコメントが発表されておりまして(どちらかといいますと、同日に発表された敵対的買収防衛策規則へのコメントのほうが話題になっておりますが)、これまた東証のガバナンス報告制度の骨子に対する批判などが盛り込まれております。どうも東証は「取締役、監査役の独立性」が望ましいガバナンスであるかのような前提に立って、これを推奨しているように思えるが、そもそも独立取締役導入企業の有効性がなにも実証されていない現状においては、こういった前提に立ったうえでの報告制度は投資家に混乱を招く、といった論調であります。

こうやって、あらためて「社外取締役に期待されている役割」を考えてみますと、論者によって少しニュアンスの違いがあるのではないか、と考えさせられます。(とても面白い論点のように思えます)葉玉検事さんの期待する社外取締役の役割というのは、いかにも会社法の立案担当者らしく「株主価値の最大化」(このフレーズ、先日 辰のお年ご さんからは、安易な解釈論につなげるような不用意な使用法は慎むべし・・・とイエローカードを出していただいたところですが)といったところになるんでしょうか。ちょっと私の使用法が適切でないかもしれませんが、普通に用いられるところの「企業価値の向上に資するものでなければ(社外取締役導入は)意味がない」ということになろうかと思います。一方、経団連の先のコメントは、もうすこし意味がはっきりしているようでして、社外取締役を導入することの「有効性」は、企業業績の向上に資するという意味で捉えられており、その期待するところが、業績向上というところに向けられているようです。

バイブルのように参考にしております「会社法の経済学」(東京大学出版会)の82ページ以下では、80年代以降のアメリカ企業における社外取締役導入後の経営業績というものを、計量分析を中心として実証研究された結果が紹介されておりまして、その結果によりますと、あまり社外取締役導入企業の経営実績へ優勢というものは見当たらない、ということのようです。社外取締役導入企業や委員会設置企業の経済的パフォーマンスへの効用といったものが、今後実証されるような事態になれば、また経団連の考え方もすこし変化がうかがわれるのかもしれません。

私個人の意見は、といいますと、現時点においては社外取締役の活動開示まで進まなくても、導入することだけでもかなり有効性は期待できるのではないか、と思っております。そもそも、経団連のいうところの「有効性」とはすこし意味が異なるかもしれませんが、ガバナンスの変革によって、少なくとも「企業ぐるみの」不祥事を防止する、といった観点から企業の意思決定に影響を与えうる意義は大きいのではないでしょうか。これは「独立性」の要件が多少あいまいであったとしましても、会社の戦略会議、取締役会、常務会などの会合に「よそ者」が積極的に関与することで、会合の雰囲気が変わることについては、私の経験上はかなり期待できると思っております。その社外役員がうるさいかどうか、にかかわらず、もっとも回避すべき「不祥事発生」の事態は防止しうる可能性は高いと考えます。(なお、こういった実証というものは、そもそも不祥事が発生してみないと効果のほどはわからないわけですから、困難ではありますが)

さらに、もうひとつの理由は、社外役員(とりわけ社外取締役)を導入する、といった企業トップの決断は、「企業行動指針の実現」という意味で企業の内外にトップのコンプライアンス経営を標榜する姿勢の「またとない表明の機会」になる、といったことです。大きく会社の組織を変革していこうといったケースで、社員に変革の決意を認識させるためには、こういったトップのコミットメントを裏付ける行動が説得力を増すことも、よく経験するところであります。たしかに、この程度では「株主の利益は守れない」といったご批判を受けるかもしれませんが、社内における不祥事防止、業務執行の仕組みを変更するといった行動も、長い目でみれば、企業価値の向上に資するのではないか、と思っています。この問題点につきましては、いろいろな立場もあろうかと思いますが、(社外取締役ネットワークの一員といった立場も影響しているかもしれませんが)OJTのなかにおきまして、適任者が育ちうるような環境を作っていただきたいと願うものであります。

なお、会社法施行規則にあります「社外役員の活動状況の開示」でありますが、これも基本的には、私は賛成であります。投資家への情報といった意味だけでなく、敵対的買収防衛策の発動について、その適法性を裁判所が判断したり、取締役会の意思決定自体に経営判断の法理が適用されるかどうか裁判所が判断する場合など、会社における重要事項の判断の適否を「手続的」見地から考察する場合には、こういった社外役員の活動状況が大きな意味をもってくる場面というものも想定されるのではないでしょうか。このあたりは、私自身、まだ考えがまとまってはおりませんが、株主による(もしくは投資家による)監視といった意味以上に、社外役員の活動状況自体が問題となる場面が今後は増えるのではないか、と予想しております。

(追記)

ふだん、あまり朝日ニュースはチェックしておりませんが、東証が黄金株を一転して容認する方向にあることが報じられています。

黄金株を一部容認へ 東証(朝日ネット)

こういった記事は通常、日経ニュースが一番に報道されるはずですが、現在までのところ日経にも読売にも、同様の報道はありません。詳しい経緯が待たれるところです。この記事で気になりますのは、上場の際、というだけでなく、上場中の企業についても、株主総会による消却条項などを条件に認める、という方向だそうで、このブログでも「東証の規則制定権」の根拠など、いろいろと議論してまいりましたが、なにが方向転換の要因となったのか、更なる議論も必要かもしれませんね。

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