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2005年12月10日 (土)

内部統制システム構築と企業価値

忘年会スタートということでして、昨夜あたりは遅くまで新地でブラついておりましたが、(来週がピークなんで、ブログ更新にも影響がでそうです・・・・・(*^0^*;)ノ  )とりあえず、お昼の間は「企業の長期的成功とコーポレートガバナンス」という日本取締役協会ほか主催によるシンポジウムに参加しておりました。(内容につきましては こちら をどうぞ)

皆様方の基調講演そしてシンポジウムを拝見しておりまして、それぞれの母体団体のコーポレートガバナンスに対する基本的な考え方を代弁していらっしゃるところもございましたが、私自身が常日頃から、企業価値論として考えていたところに、また「たくさんの」疑問が湧いてまいりまして、悶々とした気持ちで帰ってまいりました。

そんなかから、ひとつだけ疑問点について、備忘録として書き留めておきたいと思いますが、ガバナンスに関するどのような立場の経営者であっても、まずは「企業の持続的成長を願っているところ」に争いはございません。いわゆる日本の高度自由資本主義における企業の姿として、皆さんグローバル戦略をもちながらサステナビリティを追求しようとするところでは意見は一致しておりました。ところが、そっから先が、もはや見解の相違が始まってしまうわけです。いわゆる、会社は誰のものか(実質論)というものです。企業が10%の成長率を何十年も維持するためには、経営のパフォーマンスが下がった時点で、株主によって経営陣の取替えを可能とするようなガバナンスが不可欠とする立場と、会社は基本的には従業員のものであり、社会の経営環境の変化に迅速に対応できるよう、経営陣そして従業員が成長していかなければならない、株主による短期的利益の確保の要請とは相容れない、とする立場、そしてその中道の立場です。

三者の根本意見の違いが(ガバナンス論)として明確な差として出たところは、といいますと「社外取締役」の導入論でした。(ほかにもたくさんございましたが、きょうはこの一点だけに絞っております)「企業はステークホルダーのもの」と実質的に主張する論者は、「社外取締役導入は、わが社の経営コンサルタントとして1,2名来ていただくのが適切」とされ、「現経営陣は常に株主へ目を向け、その利益最大化への施策を図るべき」とする論者は「アメリカのように取締役のほとんどを(株主利益の代弁者としての)社外取締役とし、執行役との連絡として、1,2名の社内取締役を置くべき」とされ、そして中道路線の意見としましては「株主への説明責任を果たすために、会計や法律専門家としての立場の社外取締役を複数名、就任してもらうべき」といったものでした。どのお立場の経営者の方も、海外勤務の期間の長い、いわゆる「国際派」の経営者でいらっしゃいますから、日米の経営観の差、日本市場のあり方を認識したうえでのグローバル戦略、といったものを相当意識されたうえでの「社外取締役とガバナンスのあり方」論の対立なんですね。

ここまでの議論といいますのは、いままでにもいろんな会議でお聞きした内容と、それほど変わらないところでして、それほど「ワクワク」するようなものではありませんでしたが、「企業は従業員のもの」説にお立ちになっていた方のお話が、けっこう説得力がありました。企業が持続的成長を遂げるためには、経営トップが自ら「企業綱領、行動規範、倫理規範」を社員に示し、これを社員に徹底的に浸透させねばならない、とりわけ今後は経営にますます機動性、適法性が要求され、日本版SOX法の適用まで視野に入れて業務執行の適正を確保しなければならないので、そこへ企業の資源を投下する必要がある、といった内容のものでした。

たしかに、2007年に導入予定とされております日本版SOX法への各企業の対応というものは、おそらく多大な費用を投下する「内部統制システム」構築が必要となります。私が、会計士さんや、大学の先生、企業の方から教わっているアメリカのCOSOレポートを基盤としたシステムを前提とするならば、トップダウン方式で、トップのコミットメントの全社的浸透が不可欠のシステムでありまして、その評価には不断のモニタリングを含め、長時間を要するものであります。もし、このシステム構築の最中に、現経営陣とは異なる意見の経営者が突如現れたとしたら、そしてまた別の企業規範、コミットメントがその企業に要求されるとしたら、それまでの投下資本はまったく無駄になってしまうのではないでしょうか。金融庁が主導している「財務情報の信頼性」確保のためのシステムに限定される、ということでしたら、まだ矛盾は発生しないかもしれませんが、経済産業省や会社法あたりが想定しているところの「内部統制システム」つまり、会社の不祥事防止、コンプライアンス経営の徹底、経営陣の意思形成および意思伝達過程の適正確保あたりまでを視野にいれたシステム(現経営者の経営理念が従業員の行動に反映している、だからこそ不祥事発生の場合には、経営者は「知らなかった」とはいえない時代が来る、ということですが)ということになりますと、証券取引所や司法裁判所へ「システムを適正に構築した」と宣誓したり主張できるまでには、現経営陣の指揮による全社的、長期的取組が必要になってくることは必至であります。

株主の短期的利益と長期的利益を比較する、といったコトバの意味は、株主と経営陣との情報保有の非対称化の問題や、株主の判断の不合理性の議論に集約されてしまい、「議論することに意味がない」というのは、この1ヶ月ほど前にエントリーいたしました田中亘助教授のご意見であり、私もこれに与する立場でありますが、少なくとも、現経営陣と株主との間に「企業価値」算定のために必要な情報が「共有」されていない現実を受け止めるのでありましたら、やはり株主の利益代弁者としての「社外取締役」は必要ではないか、と思っております。ただ、だからといって「いつでも株主の意見によって現経営陣を交代させることのできる」ガバナンスというものが、これから来るべき日本版SOX法適用の時代に、そのまま説得力をもちうるか、というとまだまだ検討すべき課題が多いのではないか、と思います。エンロン事件が発生した2002年以降、こういった企業改革に積極的に取り組んでいるアメリカ企業の敵対的防衛策というものは、どのようになっているのか、また実際に企業改革への投下費用(これは人材の養成なども当然に含みます)は、買収防衛時における企業価値の算定にどのように反映されているのか、そのあたりが具体的に知りたい衝動にかられてまいりました。

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コメント

ちょうど今そこらあたりを調査中で文献幾つかヒットしたところであります。まだ全部は読めてないものですから、面白そうな話があればまたUPします。「内部統制」なるものがワークするかどうかについては費用対効果では懐疑的な立場をとっています。新たな商売になるだけで終わらないといいなという感じですね。途中ですので、費用だけ調査結果を。2004年7月の調査、SOX1年目の224社の404条対応費用は平均して3Mドルの追加費用。5000M以上の収入がある大企業では8Mドルの追加費用。費用の範囲は文書からは不明。Stephen Bryan and Steven Lilien, Characteristics of Firms with Material Weaknessess in Internal Control: An Assessment of Section 404 of Sarbanes Oxley (SSRNで無料入手可能)の中で調査結果が引用されてました。高いとみるか安いとみるか。初年度の特殊費用なのか、継続的に費消されるのか、どうなのでしょう?

投稿: neon98 | 2005年12月10日 (土) 21時55分

連続コメントすいません。「費用対効果で懐疑的」という趣旨は、コマーシャルベースで提案されるある特定の設計の内部統制の効果に懐疑的という趣旨で、内部統制そのものに対する意見はまだ固まっていません。内部統制が必要だからITシステムを整備しましょうというのは短絡的にすぎるという意見ととらえてください(むろんいくらかは必要でしょうけど)。誤解を招く書き込みゆえ、補足させていただきました。

投稿: neon98 | 2005年12月10日 (土) 22時03分

toshi様

こんばんは。
実際に法務部で役員からの指示で「内部統制システム」の構想を練っておりますが、どうもトップの考えとしては、企業価値に影響を与えるほどのウエイトをもって検討しているようには思えませんね。もっぱら部署サイドの仕事といったイメージです。他社はどうかわかりませんが、なんか盛り上がらない雰囲気です。2日ほど前に企業会計審議会から、また指針が発表されたようですので、またtoshiさんの感想などお聞かせいただければ、と。
(明日、ビジネス実務法務1級の試験なんで、もう寝ます。。。)

投稿: narita-k | 2005年12月11日 (日) 01時32分

>neon98さん

おはようございます。すこしばかり、そちらのブログに関連コメントをアップさせていただきました。12月10日に発表されました内部統制部会の指針につきましては、7月のものとそれほど変更点はないように思いました。まだまだどの程度の費用をかけて整備すべきなのかは、これからの実務基準の策定によらなければ一般の公開企業にとっては不明な点が多いように思います。また、「費用対効果」の問題自体が、内部統制整備の限界、として明言されておりますので、これも相対的な基準しか策定しえないのでは、と予想する理由であります。いずれにしましても、八田部会長のお話では、実務基準を作成するための資料が膨大で、いつ基準発表となるかは、わからない、といったところだそうです。

>narita-kさん

いつもコメントありがとうございます。
コンプライアンスと同様、結果が目に見えない企業活動に該当するわけですから、やはりなかなかトップが音頭をとって改革を進めない限りは、おっしゃるようなところではないか、と思います。この企業会計審議会の指針につきましては、また別途エントリーいたしたいと思います。
ビジネス実務法務検定はいかがでしたか?
ずいぶんと選択問題がむずかしかったように聞いておりましたが。しかし、あの検定は、せっかく取得したわけですから、継続研修みたいなことも行ったほうがいいと思うんですけど。それこそ、内部統制ではありませんが、「資格を取得したこと」よりも「その実力を維持しているかどうかのモニタリング」のほうが重要ではないでしょうか。現実に企業で役立てるためには。。。

投稿: toshi | 2005年12月12日 (月) 11時32分

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