内部統制構築と監査役とのかかわり(2)
12月8日に、企業会計審議会の内部統制部会より、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について」と題するとりまとめ案がリリースされました。すでに、7月13日に公開草案が出されており、この草案をテーマとして、私的に「内部統制構築と監査役とのかかわり」と題するエントリーを立てておりました。
7月13日の公開草案と、この12月8日のとりまとめ案とを比較しまして、(個人的に)重要な変更点と考えましたのは(1)財務諸表監査と同一の監査人が内部統制監査を行うことから、内部統制監査の検証による有効性評価のレベルも公認会計士による財務諸表監査と同一のものとして、「監査」水準とすることを明確にしたこと(2)内部統制の4つの目的(業務の有効性・効率性、財務報告の信頼性、法令遵守、資産の保全)が相互に関連性があり、企業も監査人も、これらすべての目的を満たす統制システムへの評価を行うこと(3)具体的な内部統制監査の実施基準を今後策定する方針であることを明確にしたこと(4)内部統制の機能や役割、そして対象となる情報については、全社的に共有されねばならないこと(5)企業のIT情報への対応そのものが、内部統制監査の対象となること(6)内部統制監査による投資家への開示情報として、内部統制固有の限界や、評価基準、評価方法などを含めること、といったあたりでしょうか。
以前の私のエントリー(内部統制構築と監査役とのかかわり)でも、述べたところですが、会計監査人が内部統制監査を行う場合、監査役の業務監査や会計監査人の監督など、いわゆる会社法規定との関係がどのようになるのか、注目されたところでありますが、やはり今回の「とりまとめ案」(6ページ以下)におきましても、歯切れの悪い記述となっており、かなり理解するのが難解であります。
(引用開始)
監査人と監査役・内部監査人との連携
なお、監査役等は、独立した立場で経営者の職務の執行について業務監査の責務を担っていることから、企業等の内部統制に係る監査を業務監査として行うとともに、大会社等においては、監査役等が会計監査人の実施した監査の方法と結果の相当性を評価することとされている。一方、本基準案で示す内部統制の監査において、会計監査人は、監査役が行った業務監査の中身自体を検討するものではないが、財務報告に係る全社的な内部統制の評価の妥当性を検討するにあたり、監査役を含めた経営レベルの内部統制の整備および運用状況を統制環境の一部として評価することとなる。
(引用終了)
この文章は一度読んだだけでは、わかりにくいように思います。結局のところ、財務諸表監査と内部統制監査を同一の会計監査人によって行うべし、という前提に立っているために、監査役の業務監査状況までを含めて内部統制の評価を行うべき会計監査人が、これまた業務監査の一環として内部統制の構築状況をモニタリングしている監査役の監査を受ける、といった「卵が先か、ニワトリが先か」といった循環論法に陥ってしまっているように思われます。会計監査人の内部統制評価としての監査役監査への評価は、統制環境の一部としてのみ評価する、として、なんとか論理矛盾を回避しようとの意図はうかがわれますが、先の疑問を解消するには至っておりません。もし、元気のいい監査役さんが、みずからの内部統制システムの実施基準をもって、会計監査人による統制評価とは異なる合理性判断を下した場合に、経営者による内部統制構築報告書はどのような記述となるのか、上の説明だけではうまく説明できないことが予想されます。
そもそも、内部統制システムの構築自体、企業が完璧なものを策定することは困難だと思われますので、開示情報として「構築のための費用」に限界があることは明確にしておくべきだと思います。(これは、内部統制システム構築義務違反が取締役に認められるかどうか、といった論点にも影響を与えるところになろうかと思います)
| 固定リンク
コメント