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2006年1月27日 (金)

フジテレビの思惑はどこに

昨夜は集中審理の後遺症のために、ヘロヘロになってしまって、エントリーをスキップしてしまいました。いろいろとこの1週間ほどライブドアショック関連のエントリーに終始しておりましたが、その周辺問題に目を向けてみますと、今後の企業買収関連の裁判などに役立ちそうな「企業価値ネタ」が山積しているようです。こういった刑事事件が発生しますと、どうしても「ホリエモン」個人とか「ライブドア」本体にばかり目を奪われがちになりますが、こういった非常事態の勃発をどうやって切り抜けようとするか、その周辺領域の人たち(法人たち)の動向のほうが、むしろ今後の対応策立案のための勉強になることが多いようです。利害関係者の今後の対処と、その結果を丁寧に集積、分析することによって、たとえば、私のような社外監査役の立場からしますと、株主代表訴訟とか、買収防衛に関する要件該当性の問題とか、少数株主権行使時における役員の対処方法などに、ひろく応用できるかもしれません。

きょう、フジテレビの会長とライブドアの新社長が、今後の両者の関係や、ライブドアの今後の営業方針などの協議のために面談をすることが報じられています。1月20日前後の報道では「断固、提携を解消し、損害賠償請求する」と(フジテレビの意向が)報じられていたものが、昨日あたりから「ライブドア支援も選択肢のひとつ」といった論調に変更されていますが、これはいったい、どういう理由からなのでしょうか。①純粋に12%を保有している自社のライブドア株式の株価維持向上のために大株主としての責任をまっとうする②いまの株価は検察庁による強制捜査を反映して作り出されたものであり、真のライブドアの時価を表しているものではない、ライブドア傘下の関連企業の有効利用や、ライブドアのオフバランスとして保有する無形資産の価値は、けっこう大きいものがある③日本を代表する専門家集団が1ヶ月もかけて「デューデリジェンス(資産調査)」を行ったにもかかわらず、単に「だまされた!」とだけ言い放っていては、逆にフジテレビの株主からデューデリの不始末を問われかねず、役員だけでなく、専門家集団にまで迷惑をかけてしまう。

考えられるのは、うえの3つのどれかでしょうか?まさか、天下のフジテレビにかぎって「切り売りするな」と要望し、支援すると表明して株価を維持しておいて、(個人株主などの損害賠償請求を回避しておいて)後で自社に有利に切り売りするとかいった手法はないですよね・・・・・まあ、東証が上場廃止の決定を出してしまうかもしれませんが・・・(ほかにも可能性がございましたら、お教えくださいませ)それにしても、マスコミはよく「暴かれた虚業集団」という書き方をされていますが、「虚業」とはいったい何を指しているのでしょうかね。ライブドア本体がHD的立場の会社であれば、HDはすべて虚業なのか、という問題にもなってしまいそうですし、財務諸表の数字だけを真偽の対象とするのであれば、グループ一体としての企業価値や、ソフト会社特有の人の保有する無形資産などは全く時価評価には関係ない、といったことでいいのでしょうか?もちろん「粉飾決算」かどうか、といったレベルでの話しとは別に、いまの110円という株価が本当のライブドアの時価を表現しているかといえば、どうもそうではないようにも思えるのですが。検察が介入したこと=企業の継続性の原則廃止、といったことであれば理解できますが。ともかく、倫理の問題を離れて、現時点で「虚業集団」とまで言い切ってしまうことには、若干の違和感を覚えます。(いずれにしましても、これは私個人のただの疑問ですから、マネーゲームは自己責任の範囲内でお願いいたします)

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コメント

Toshiさん、こんにちは。

「選択肢の一つ」・・・実に巧みな言い回しですね。フジにその気など殆どないと私は思いますが、この表現がマーケットに与えるインパクトは相応に大きく、しかしフジが何の行動をしなくても後から何とでも言い訳できる言い回しです。

発言の背景はToshiさんの書かれている③ではないでしょうか?いずれにしてもこの件でフジに対する株主代表訴訟が起きる可能性は高いと思います。

投稿: イチロー | 2006年1月27日 (金) 18時27分

おひさしぶりです。12月初め以来の投稿です。(また東京にいらっしゃるときには是非、声かけてくださいね。)

今夜の会談は30分で終ったということですから実質的にはなにもなかったんではないでしょうか。そもそも、本当にフジテレビがライブドアを支援したら、結局「放送とITの融合は企業価値が高まる」ことを認めることになってしまって、他の民法各局にとって迷惑な話になってしまうような気もします。私もいちおうのポーズだと思います。

いろいろと検討したけれど、上場廃止といった自分の判断ではどうしようもなかった事情で支援できなかった、という形が一番受けがいいように思えます。

投稿: sara.onji | 2006年1月27日 (金) 21時35分

>イチローさん

こんばんは。イチローさんのブログで、「デューデリ」のお話を発展させていただき、ありがとうございました。「なんちゃって専門家」、ちょっとヒヤヒヤしながら読ませてもらいました。(わが身を振り返りながら・・・・)
商法の事後設立に関する規定や、利害相反取引に関する規定など、実務をきちんとやってないとけっこう、後で問題になりそうな点を見落とすケースがあると聞いています。また、通常のM&Aのケースと事業再生の場合とも少し観点が異なりますよね。
③を選択されましたか。私はまだ性善説にたって①を信じたいと思っています。でもきょうの会談の様子をみると、私の考えは甘いかもしれませんね。
また遊びにきてください。

>sara.onjiさん
どうもおひさしぶりです。コンプライアンスオフィサーらしいお仕事はなさっておられますか?
なるほど、ヨミが深いですね。実際にいままでの提携事業といっても、あまり大きな成果を上げたものはありませんから、そういった考えもありうるかもしれませんね。
もうすこし情報が入りましたら、また検証してみたいと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2006年1月28日 (土) 02時16分

こんにちは
私も動機としては③だと思います。
報道では「ライブドアに正しい財務内容を報告するよう求めた」とありますが、そうなるとフジテレビは内部情報を持つことになり、保有株を(内部情報の共有者に市場外で売る以外は)売れなくなるわけで、そうこうしているうちに上場廃止→時価評価うやむやという「時間切れ作戦」ではないかとsara.onjiさんと同様の印象を今のところ持ってます。

投稿: go2c | 2006年1月28日 (土) 10時31分

フジテレビの経営陣は、ライブドアの株価が下落した現実を踏まえながらも、損失を最小限に抑える義務を自社に対して負っていると思います。そのためには、再建も一つの選択肢として検討する必要があると思ってます。ただし、再建となると、フジテレビは、やはりもっとライブドア株を買い増さねばならないことになるような気がするのですが、追加で大金を使うのはさすがに気が引けるのではないでしょうかね。。。

投稿: ぶらっくふぃーるず | 2006年1月28日 (土) 13時14分

>go2cさん

こんばんは。なんかエントリーがかぶっちゃったみたいですね(^◇^;やっぱり③のご意見が多いようですね。
フジテレビはライブドア側に正確な財務状況を教えてほしい、と伝えたそうですが、これはどっちにもとれる発言ですね。支援のための情報収集とみるか、現預金を仮に差し押さえるための財産把握とみるか。今後の東証の動向がたいへん気になるところだと思います。

>ぶらっくふぃーるず さん

ようこそ、お越しくださいました。ブログを拝見いたしますと、1週間ほど前から、フジテレビのライブドアに対する動向をチェックしていらっしゃたんですね。今朝あたりの報道では、いよいよライブドア本体への法人処罰が検討されているようですので、粉飾決算による上場廃止論も現実化してくるんじゃないでしょうか。もちろん反対説もありますが、もし西武やカネボウとは違った結論を東証が選択するとなりますと、それこそ今後の上場廃止手続へ異議を唱える側にとって好都合な前例を作ることになりそうですし、ぶらっくふぃーるずさんがおっしゃるように、後から別の粉飾が出てきた、といった話になりますとマズイ結果にもなりそうですし。
損失を最小限に抑えるための支援継続というあたりは、基本的に私も同意見ですが、さすがに追加購入はリスクが高くて実現は困難ではないでしょうか。
また遊びにきてください。

投稿: toshi | 2006年1月29日 (日) 01時35分

追加購入は実現困難という点について、toshiさんと全く同意見です。支援という方向なら、株を買い増すということになりそうですが、それはさすがに、フジテレビは嫌がるのではないかと。(単に、強制捜査の当時、フジが反射的に提携解消を示唆し、役員を引き上げたというのが、気に入らなかっただけなんです。。善管注意義務の見地から、もっとよく考えてから行動して欲しかったと。。。)

この件、上場廃止かどうかの判断が出るまでは、ひとまず、大きな動きはないのでしょうかね。

投稿: ぶらっくふぃーるず | 2006年1月29日 (日) 04時35分

あくまで法律論として、本事案という意味ではなく、以下の仮定事案について考慮に値する点を1つだけコメントしておきます。

上場会社が第三者割当増資により新株を発行することは、証券取引法上は新株の募集となりますので、有価証券届出書の提出が必要となり、また新株の割り当てを受ける第三者(すなわち新株へ投資する第三者)に対して目論見書を交付することが必要となります。このような新株発行の場合の情報開示を発行開示といい、投資者保護のための制度として証券取引法で定められています。

そして発行開示において、適正な情報開示がなされることを確保するために、仮に有価証券届出書の記載された重要な事項についての虚偽の記載があった場合に関して、民事責任、刑事責任および昨年4月以降は課徴金という行政処分の対象となるという意味での行政責任が規定されています。

民事責任に関して、投資者の損害賠償請求権が法律上規定され(証券取引法18条)、損害額の推定規定(同19条)が規定されています。

有価証券届出書の虚偽記載は、投資者の利益を著しく損なうものですから、厳格な対応が法律上規定されています。しかし、その罰則も懲役5年以下、罰金500万円以下(これは個人に適用されるもので、法人については207条で5億円以下の罰金となっています。)

国会等では市場に向けた悪質な行為についての刑罰の厳格化が議論されておりますが、発行開示の違反(虚偽記載のある開示書類)についても、同様に議論する必要があるところです。

あまり具体的な話は適当ではないので、このくらいといたします。あくまで一般論として、コメントさせていただく次第です。

なお、法定刑という面だけからすれば、ちょろっと盗みをした場合、窃盗罪に該当し懲役10年以下というのが刑法の規定する罰則です。果たして、資本市場にかかわる取引の罰則が現行のように最高懲役5年以下、ということで刑罰規定として、他の法定刑とバランスがとれているのでしょうか、国会で議論されることに意味があると思っています。規制強化だという観点での反対論を展開される方もいると思いますが、多面的に十分な議論がされることは有意義であると思われます。

山口先生、いつも長くなってしまって申し訳ありません。職業柄なのか、性格か、どうしてもついつい。。。いつもすみません。

投稿: 辰のお年ご | 2006年2月 4日 (土) 00時42分

>辰のお年ご さん

フジテレビのケースでは発行に関する開示書類の問題ですが、このたび辰のお年ごさんのコメントをもとに、一般的な個人株主の損害賠償請求に関するエントリーをたててみました。

投稿: toshi | 2006年2月 6日 (月) 02時55分

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