耐震強度偽装と内部統制の限界
ひさびさの耐震強度偽装問題ですが、捜査機関は2004年3月(すでに2年ほど前ですが)、最初に姉歯元建築士が行った構造計算の問題点を指摘していたアトラス設計の代表者より詳細な事情聴取を行った、という報道がなされております。(読売新聞ニュース)
この代表者は民間指定検査機関の最大手である日本ERIにも2004年4月の時点で、姉歯元建築士の構造計算について再調査を行うよう指摘したということですが、日本ERIはこの指摘を担当者がそのまま放置していた、ということのようです。もし、報道された内容が真実だとしますと、たしかに経営陣は事実を認識していなかった、ということにもなりそうですが、こういったケースは内部統制システムの限界事例のひとつと評価できるかもしれません。ある企業リスクを内包する事態が発生した場合に、そのリスクを担当者が隠したり、あるいは経営陣が「リスク」と考えていることを担当者がそのように認識していなかったり、あるいは「後で報告しよう」と考えていながら失念してしまうケースというのは、どの企業でも起こりうることです。こういった事例において、企業の側からリスクの回避手段を検討した場合、内部統制システム構築の限界であって回避不可能と捉えるのか、いやこれはまだ企業の知恵によって回避は可能である、と捉えるのか、そのあたりの判断はムズカシイところではないでしょうか。机上の理屈で考えるならば、いろいろと手段はありそうにも思えますが、営業現場の実際を考えながら実現可能かつ効果的な改善策を検討する、ということは至難の業のようにも思います。とりわけ経営陣の法的責任や企業自体の法的責任の根拠となるような「過失」「故意」を基礎付けるほどの重要な規範を見出すことは、さらなる捜査機関による事実調査を要するものではないか、と予想されます。
もうひとつ気になりますのが、このアトラス設計の代表者に再調査を依頼した元請設計事務所の存在です。この元請設計事務所の再調査依頼は、なにか不審点を発見したうえで依頼されたのか、それとも定期的な再調査依頼だったのか。この耐震強度偽装問題にかかわらず、大きな不祥事を最小限度の事態で防ぐための知恵を知るためにも、こういった発端部分の明確な事実認識を積み重ねるべきではないでしょうか。
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