« 耐震強度偽装と内部統制の限界 | トップページ | ロハスな新会社法学習法 »

2006年1月13日 (金)

改正独禁法と企業コンプライアンス

1月4日より改正独占禁止法が施行されまして、ゼネコン各社は企業の「談合根絶」の意思表明のためにも、担当者の一斉配置換えなどを行った、とのことです。課徴金の引き上げ、リーニエンシー制度(課徴金納付猶予制度、刑事不告発)、犯則調査権限強化などによって、談合行為を抑止することが期待されておりますし、また企業自身もコンプライアンス重視の経営方針へと見直しを進めておられるところだと思います。

ただ、談合決別をトップが表明したり、担当者の配置換えを行った程度でゼネコンの体質が変わるようには思えません。そもそも、改正独禁法自身が企業によるコンプライアンス施策を進める方向で機能することはあまり期待できないのではないでしょうか。以前にも少し触れましたが、このたびの改正独禁法で規定されている課徴金につきましては、制裁金としての公正取引委員会の裁量の余地がありません。つまり故意で行おうが、過失によるものであろうが、企業として根絶の努力をしていようが、そういった行為態様には無関係に一定の課徴金納付が課されることになります。従前からの私の意見ではありますが、たとえ違法行為に及んだとしても、その防止のための努力についてはどこかで報われるようなシステムを考えていただかないと、コンプライアンス経営へのインセンティブが失われるわけでして、事前の弁明の機会がほとんど存在しないことと併せ考えますと、おそらくこのたびの改正によってコンプライアンス経営が推進されることにはならないと思います。また、このお正月にも報道されておりましたが、国土交通省や地方自治体は、たとえ(自己申告による)リーニエンシーによって刑事告発がされなかったり、課徴金納付免除の措置がとられる企業が出てきたとしても、排除命令が確定した段階で、なんの特別措置もとらずに営業停止処分、指名停止処分は平等に行う、ということを宣言しました。たしかに独禁法上では司法取引によって課徴金納付義務が免除されたり、刑事告発されずに済むということがあったとしましても、これと同等に経営面への重大な影響を与える営業停止、指名停止措置については免れないとしますと、これまた優先的に違法行為を申告するにあたってのインセンティブが半減してしまうんではないでしょうか。こういったことからも改正独禁法の存在だけをみて、企業のコンプライアンス面での行動規範としての効用といったことには若干疑問が残るような気がします。

たしかに、昨今の談合事件は「官製談合」としての性質を有しているので、民間企業だけで根絶することは困難かもしれませんが、その真摯な取り組みを一般市民に理解してもらい、企業内部においてコンプアイアンス経営を向上させる方針としては、まず建設会社の企業連合会のようなところが「通達」ではなく「声明」として根絶を訴え、企業団体として、自己申告した企業に対しては賞賛の意をもって評価する旨を明確にする必要があると思います。また、私が中堅ゼネコンの破産管財人などを行った経験からして、こういった企業不祥事が発覚すると、すぐに「ダーティー」な部分は下請にかぶらせるようなシステムを大手ゼネコンさん考案される傾向にありますので(もちろん、すべての・・・というつもりはありませんが)、こういったときこそサプライチェーンCSRを表明すべきでしょう。つまり、自ら下請に使った企業が、談合行為の責任を負担しなければならないケースにおいては、元請である大手ゼネコンも連帯して責任を負担することを鮮明にして、大手ゼネコンは、下請企業のコンプライアンス経営を推進することをも具体的な施策を含めて明確に表明すべきだと思います。さらに、企業による自己申告だけでなく、大手ゼネコン各社個別にホットラインを設けて、従業員、役員個人が犯罪行為を自己申告することを奨励するシステム、これを構築し広報する努力が必要です。

もちろん、口で言うほどたやすい問題ではないことは承知しておりますが、ただ、上記くらいのことを明確に宣言してもらえないような企業につきましては、そもそも改正独禁法が施行された当初より、コンプライアンス経営を志向していない企業である、とみなされてもやむをえないのではないでしょうか。

※ 先日、大御所の教授様よりご質問を受け、ようやく本日「諸君!」のバックナンバーが手元に届きました。週末にでも、また「井上薫判事の再任拒否問題」続編をエントリーすることで、ご質問への回答とさせていただきます。

|

« 耐震強度偽装と内部統制の限界 | トップページ | ロハスな新会社法学習法 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 改正独禁法と企業コンプライアンス:

« 耐震強度偽装と内部統制の限界 | トップページ | ロハスな新会社法学習法 »