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2006年1月24日 (火)

なぜ堀江氏は逮捕されたのか?

事務所で不動産関連事件の訴状を起案しておりましたら、ある新聞社の方よりお電話をいただき、堀江氏が逮捕されたことを知りました。すでに任意で事情聴取が始まっていたことは知っておりましたし、関係者全員が地検に集められている状況でしたので、「ひょっとしてそのまま逮捕かも」と考えておりましたが、やはり驚きました。

ご承知のとおり、私は「堀江氏にXデーは来るのか?」のエントリーのなかで、堀江氏に逮捕はない、と予想しておりましたので、早々と予想がはずれたわけでして、「敗軍の将、兵を語る」の部類になってしまいますが、逮捕容疑が子会社社長による「偽計取引」ということでしたので、もっとも令状がとりやすい事件に焦点をあてたものとして、検察の捜査方針に関しましては概ね想定の範囲内であったと思います。(ただ、果たしてこの「偽装取引」「風説の流布」が今後も公訴事実として維持されるかどうかは不透明であります。当然、身柄はいったん確保するが4名中、事実を真摯に供述し、かつ関与が薄いと認められる者については不起訴(起訴猶予)、といった事態も想定されますので。ただし、私的には今後の同種事件の参考のためにも、ぜひ逮捕事実に関して、そのまま公訴を維持してほしい、と願っているわけですが。)

逮捕事実に限って考えますと、子会社代表者が一連の偽計取引の実行者ということで、ライブドア役員3名は「主犯に近い共謀者」という位置づけではないか、と思われます。(情報が乏しいために報道内容からの推測ですが)

それではなぜ堀江氏は逮捕されたのでしょうか?一連のスキームにおけるお金の流れ、「取引仕組み図」の発覚、指示メールの存在など、いろいろな証拠の存在が判明したわけでして、ライブドア本体が子会社による偽計取引に関わっていた事実は間違いなさそうですが、それでは宮内氏が(堀江氏の)関与を否定しているにもかかわらず、堀江氏の「共謀」を裏付ける証拠はどこにあったのか?ナゾです。もし、これまでの報道内容から、(偽計取引について)堀江氏の直接関与を裏付ける証拠が存在することが判明しておりましたら教えていただきたいと思います。堀江氏が違法性を認識しつつ、具体的な指示を出した、とされる証言がすでにあるのかもしれませんが、組織の流れからみて、伝聞(また聞き)によるものかもしれません。今後の取調べにおきましては、堀江氏が直接指示を出す、もしくは堀江氏に直接判断を仰ぐ立場にあった人達への厳しい追及がなされ、そこで直接の指示、了承の事実を固めていく、といったことが必要になるのではないか、と思います。

それにしても不気味なのは、このたびの一連の事件報道のなかで、ライブドア監査役、会計監査人への非難めいた感想がこれまでほとんど聞かれないところです。とりわけ監査役につきましては、6年もの間、弁護士資格を有する方がライブドアグループ会社を監査していたわけですから、普通に考えましたら、いろいろな関与が噂されてもいいように思いますが、そういった報道は一切なされておりません。そもそも監査役といったものが、コンプライアンス経営にとって、あまり期待されていない、といった社会風潮なのでしょうか。そうであるならば、同じように社外監査役としての立場にあります私としても、(社会から期待されていないことについて)すこしさびしい気もします。また捜査の舞台が「本体の粉飾決算」に移るのであれば、後日監査責任者の立場といったものがクローズアップされるのかもしれませんが、ともかく不気味であります。

24日以降、関西ローカルですが、何本かのラジオの報道番組に出演します。ブログで書いていることと、「公共性」の高い放送局を通してしゃべる内容が違うかもしれませんが、そこは「オトナの事情」ということでご容赦ください。。。

(追記1)

約1年前から内偵を進めていた、という報道があります(産経ニュース)この報道内容(上層部からゴーサインがでたのが1月16日だったこと)や、いくつかの株式分割、株式買収、売り抜けの事実の総合評価が「偽計取引」に該当するとみられていることなどから、考えると、「偽計取引に関する共謀(共同の謀議)」が「あったかなかったか」といった事実認定に関する争いとは別に、そういったシステム自体が「偽計取引」に「該当するかどうか」といった評価に関する争いにも発展するのではないでしょうか。ただ、もともと証券取引法157条1項の存在からも明らかなとおり、この分野の法は構成要件の網を広くかけていて、もともと「あいまいな」規定でも罪刑法定主義には反しない、といった考え方が浸透しているかもしれませんので、若干不明瞭(と思われる)な容疑事実でも、オッケーなのかもしれません。ただ、あくまでも「投資家保護のために市場の不正行為を追及する要請」と「企業が安心して市場で金融活動を行うことができる自由」とのバランスをどこでとるべきか、こういった視点はかならず必要ではないかと思うのですが・・・・。

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コメント

ライブドア監査役、会計監査人への非難めいた話は、AERAの記事に日本版エンロンと揶揄されてましたよ。 

投稿: seka | 2006年1月24日 (火) 04時39分

はじめまして
会計監査人事務所は捜索を受けていましたが、これから別件にまで捜査が進むなかで、いろいろと非難される事態になるのではと。

監査人は、弁護士と元警察OBの方ですが、おそらく「お飾り」だったんじゃないでしょうか。そういえばあまり話題にのぼりませんが

投稿: gutsgo0079 | 2006年1月24日 (火) 09時37分

山口先生、ご無沙汰しておりました。

本日のブログの内容について、いくつか情報をアップさせていただきます。報道内容ですが、どこまで、信憑性があるものなのかは、分かりません。(いずれもYAHOOニュースからの情報です)

1.共同通信によると、ライブドアの監査を担当している光陽監査法人の監査会計士(ライブドアも担当していた)が、ライブドア関連のコンサルタント会社の代表取締役になっているとのニュースがありました。
 これなどは、完全なお手盛りで、適正な監査が行われていない可能性を思料させる情報です。
 別のニュースでは、この監査会計士は、当初は同社の役員(当時の社長は、逮捕された4人のうちの一人)で、適正意見を書いた後に社長に就任したというものもありました。完全な癒着があったと思われます。

2.これも共同通信からの配信によると、宮内取締役が東京地検の調べに対して、株式交換による企業買収は、一連の経緯を社長に報告し、了解を得ていたと、堀江氏の関与を認める供述をしていることが分かったとしています(本日のYAHOOニュースで見れます)。さらに、同記事では、宮内氏はこれまで堀江氏の関与を否定していたが、逮捕直前に一転して社長が出席した幹部会でも説明していたと話しているとされています。

3.堀江氏の逮捕については、本日のYAHOOニュースに毎日新聞配信の記事があり、その中で、東京地検の捜査の舞台裏がかかれております。そこでは、東証で全銘柄の売買が停止したため、経済混乱を早く収拾させるため、当初の設定より10日ほど、地検が逮捕を前倒ししたとしています。

以上、断片的ですが、公表されている情報で、関係のありようなものを、取り急ぎ、アップさせてもらいました。

投稿: コンプライアンス・プロフェショナル | 2006年1月24日 (火) 11時06分

ホリエモンは何故逮捕されたのか?多分、直接的な原因としては、任意の取調べの最中、強硬に否認して挑発し、取調官を怒らせたからじゃないでしょうか?いわゆる「不合理な弁解に終始し・・・」みたいな状況なんじゃないかと思います。ホリエモンは、追い込まれても、黙秘しようというのではなく、とりあえずしゃべって切り抜けようとするタイプだと思うので。

投稿: ねむねむ | 2006年1月24日 (火) 12時34分

ご無沙汰しています。
いつも果敢に攻めていく先生の姿勢は非常に清清しいです。この件、なかなか弁護士としてコメントし難いですよね。そもそもライブドアはあまり好かん、という人と、応援団のようにどこまでも支持するような人とに分かれてしまうに思えて、果たして客観的に論点の議論ができるのか、どうしても出発点である立場の相違がその後の議論に影響してしまいではないか、とも思われます。そう思って、少し距離を置いた方がいいとも思っていますが、残念ながら内心ではかなり確信に近い意見はあります。(したがって、上記2つの立場のうちの一つの陣営の一員です。)
個人的にはあまり弁護士らしい仕事はしてませんので、弁護人の観点での問題意識はありませんが、むしろ素朴な問題意識として、果たして上場企業として許されることはどの範囲か、という面で問題意識を持っています。法律家ですので条文の解釈もいいのですが、公正さとか適正さという価値概念がこれから一層重要になると考えています。むき出しの価値化ではなく、やはりきちんと裏づけのある価値観、正当性のある方向性はどうなるのだろうか、と。規制緩和の時代の中で、いろいろな事件を通じて形成されていかなければいけないのでしょうが、個別事案でのみ方向が見えるというのも、司法判断に頼りすぎるのもどうかと思っています。自由にしていればいずれ方向が浮かび上がるというような考え方には、ニヒリズムと無責任さの片鱗が見え隠れしているようで、100%賛同はできません。規制緩和の一方で、規制の強化の必要な部分があることの議論が欠落していたことへの反省があってもいいのではないか、と思っています。
個別事案でのコメントは控えたいと思いますが、これらのスキャンダル事案で、法制度上監査を担う役職の方々がどのような行動をとっており、どこまでその役割を果たしておられたのかは、客観的に議論していい問題だと思います。まさに先生が指摘しておられる問題意識に対して賛成です。健全な批判を前に、会社の機関の方々にはやはり十分な責任を果たしていっていただいて、はじめて次の市場の議論になるようにも思います。牧歌的なことを言っていられない世の中になってきていると思いますが、時代の趨勢。流れは止められないのでしょうね。
先生も当事者となる側面もあるでしょうから、現場からのご意見もあわせてうかがいたい希望もあります。

投稿: 辰のお年ご | 2006年1月25日 (水) 02時46分

>sekaさん

はじめまして。ご教示どうも、ありがとうございました。さっそく昨日、sekaさんの情報によってアエラ最新号を購入してみました。いやいや実名報道なんですね。。。ちょっと監査役、会計監査人の問題について議論するには、あまりにも生生しいので、もうすこし客観的な報道が出ましたら、またエントリーをアップしてみたいと思います。なお、会計士でいらっしゃるLIGAYAさんのブログ(右のマイリストにリンクがございます)で、なかなか面白い分析があります。
また、今後とも有益な情報お願いいたします。

>gutsgo0079さん

はじめまして。コメントありがとうございました。どうもアエラの記事を読みますと、「お飾り」どころではなかったような気もしてまいりました。まだ「お飾り」だったほうがよかったかもしれませんが。おそらく「粉飾決算」という点にスポットがあたる時期になりますと、また新たな争点が浮かび上がるのかもしれませんね。

>コンプライアンス・プロフェッショナルさん

ご無沙汰いたしております。いつも有益な情報ありがとうございます。ラジオ出演のときも、パーソナリティの方から、「なぜこんなに逮捕まで早かったのですか」と質問を受けまして、私は「市場の混乱を回避するために尽力したのではないか」と答えたのですが、本当のところは(誤解をおそれずに申し上げますと)捜索差押の段階において、容疑者が供述を拒否しても、ほぼ有罪は動かしがたい証拠固めをしていたからだと思います。落合弁護士がブログでおっしゃっておられるように、報道機関が探りを入れることが不可能なほど、有益な情報が検察には存在する可能性が高いと思います。ホンネはそんなところにあります。
また、ご意見など頂戴できましたら幸いです。

投稿: toshi | 2006年1月25日 (水) 22時59分

>ねむねむさん

はじめまして。コメントどうもありがとうございました。任意での聴取の段階でかどうかはわかりませんが、私はこのシリーズの最初のエントリーにも書きましたとおり、ホリエモン挑発説にはまだ固執しているところがあります。「そのへんのおっちゃん」が挑発するのとは異なり、やはりホリエモンによる挑発は社会的影響力が大きいところでして、戦後数々の事件においても、そういった検察への挑戦を受けてたつ姿勢というのがあったように思います。内偵の時期からみて、昨年の時間外取引あたりからだと思いますが「法律さえ守ればいい」みたいな風潮を市場に醸し出したライブドアに対する厳格な姿勢のようなものが窺いしれるように思いますね。
また、遊びにきてください。

>辰のお年ご さん

おひさしぶりです。
>法律家ですので条文の解釈もいいのですが、公正さとか適正さという価値概念がこれから一層重要になると考えています。むき出しの価値化ではなく、やはりきちんと裏づけのある価値観、正当性のある方向性はどうなるのだろうか、と。

この視点は、実はつぎのエントリーのなかで論じる予定にしておりました。ここに問題の視点を置かれた方が、私の読ませていただいたブログのなかで、もうひとりいらっしゃいました。そんなところも織り交ぜてみますので、またよろしかったらご一読ください。

また、出現してくださいね。

投稿: toshi | 2006年1月25日 (水) 23時10分

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