ITと「人」の時代
正月休みに日経新聞の元日版を読みましたが、面白かった記事といえば、ほとんどがIT関連の記事でした。そういった記事を読みながら、つくづくIT化の波が押し寄せるということは、「人」の問題を抜きにしては考えられないといった思いを強くいたしました。
「ニッポンの力」と題する特集記事のなかに、アメリカテキサス大学の技術職員後藤和茂さん(37歳)を紹介する記事がありますが、世界で10指に入る超高速コンピューターを設計する人であっても、「紙とペンで、自分の経験と勘を頼りに」CPUを一人で設計するとのこと。12月21日のエントリーでも書かせていただきましたが、システムの開発も同じことではないでしょうか。設計図は誰かが作るわけで、障害が起こった場合には、その作者の「経験と勘を頼りに」復旧および改良がなされるはずでしょうから、東京証券取引所が「どんなシステムを導入するか」ということ以上に「誰が(新しいシステムを)設計するのか、誰が継続的に保守していくのか」のほうがよっぽど重要ではないでしょうか。もし、一人の力で保守することができないのであれば、そういった一人の「経験と勘」をどうやって、他の人に継承するのでしょうか。「文書化」された設計図面、保守マニュアルを受け継げばいい、共有すればいいとするシステム開発会社と、それ以外の人間的な信頼関係を築く工夫が必要とするシステム開発会社と、どちらの評価が高いのでしょうか。
同じく、「ニッポンの力」と題する特集記事で、スタンフォード大学名誉教授の青木昌彦さん(67歳)を紹介する記事も興味深いものでした。それぞれの制度が経済システムにどのような影響を及ぼすか、といった比較制度分析をご専門とされていらっしゃる青木氏の見解によりますと、日本の90年代は「制度変化の10年」だったとされ、その最も大きな原因は情報革命と指摘されています。「情報技術の普及によって、暗黙知の重要性が急速に低下した」。暗黙知・・・・・、文字にならない知識、知恵が企業組織内部に蓄積され、これを伝承共有するといったシステムの重要性が低下した、ということだそうであります。日本企業の長所を残しつつ、国際競争力を高めるためにも、日本型資本主義の試行錯誤が欠かせないとのご意見はまこと、そのとおりだと思います。従業員が共有する理念、価値観など市場で瞬時に売り買いができない「企業の重要な部分」を今後(当然に増加が予想されている)M&Aや事業再編の場面において、どう反映させるべきか、知恵を出しあう必要がありそうです。
そして、ソフトバンクが2007年開校をめざす「サイバー大学」。
「情報社会への移行に合わせて、教育も変革する必要がある。ささやかな一歩から踏み出す」目指すものは、「技術専門学校」なのでしょうか、それとも「人の考え方、生き方まで変えるような教育学校」なのでしょうか。IT社会と人との関係をもっとも象徴的に考えることができそうなテーマではないでしょうか。今後の展開が実におもしろそうです。
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