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2006年2月28日 (火)

会計参与の行動指針パブコメ案

新会社法によって新たに導入される「会計参与」の行動指針案が日本公認会計士協会と日本税理士会連合会より合同でリリースされました。(会計参与の実務指針公開草案

会社法の規定に基づき作成された会計参与の行動指針(概要)としましては、その33ページに記載されているフローチャート図が参考になるところです。とりわけ注記事項についてはなかなか興味深いところですね。ただし、これまでに私が疑問を呈しております問題(会計参与が辞任せず、計算書類につき、取締役との計算書類の共同作業が困難な場合、いったい計算書類の確定はどうなるのか・・・)といった疑問点につきましては、依然不明瞭なままだと思われます。(この疑問点の整理および解釈上の試論につきましては、従前のエントリー「会計参与の悩ましい問題への一考察 をご参照ください)またこの問題の整理は、「新・会社法100問」の77番目の問題および解説にすこしばかり掲載されております。

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2006年2月27日 (月)

内部統制と新会社法(1)

私が社外監査役を務める株式会社も、いよいよ「新会社法」の施行を予定した動きが目立つようになりました。すでに6月の株主総会の運営についても(旧法、新法)検討済みですが、会社法362条4項6号、5項への対応につきましても鋭意準備中でありまして、とりわけ財務報告の信頼性に影響を与える(使用人の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制)重要な内規、規約の改定作業に追われている状況です。もちろん、会社法施行までに体制整備を行わなければいけないわけではありませんが、(体制整備に関する事項を決議すればよい)まずは規約と企業内の業務執行の実務との乖離が生じている部分は最低限度、修正しておかなければなりません。とりあえず、監査法人からアドバイスをいただくこともできませんので、外部から公認会計士の方をコンサルタントとしてお招きしたうえで、財務報告の信頼性に重要な影響を与える規程の選択、実務とISO取得時における実務指針との整合性、業務執行プロセスの明確化と、その実務にあわせた規約の変更などなど、一連の作業を進めているところであります。また、このあたりの作業は、会社法における内部統制システムの構築と、金融庁主導による内部統制システム構築提言と、ほぼ重複するところではないかと予想しておりますので、もっとも効率的な整備を可能とし、かつ企業不祥事を防止するには効果的である、と判断いたしました。

さて、昨日紹介させていただきました野村総研のアンケート結果によりますと、まだまだ体制整備が完了した、と言える企業も少ないのではないかと思いますが、「取締役や従業員の職務が法令定款に適合することを確保する体制の整備」といいましても、おそらく人的、物的設備を具備しただけでは「整備」したことにはならないかもしれませんね。なぜかといいますと、いくら立派な体制を整備したとしましても、普段のモニタリング機能(整備状況が目的達成のために効果的に運用されているか、また業務上のリスクを低減するための仮説を検証しうるデータを生み出しているか)が発揮されていなければ、取締役の忠実義務を尽くしたことにはならないでしょうし、取締役会の専権事項とされている関係からみて、そのモニタリングの報告が、担当取締役より、取締役会に上程審議されていなければならないからです。おそらくCOSO報告書によるマネージメントを念頭に置いたものであるならば、こういったシステムまで含めて「体制」と捉える必要があるでしょうし、そうであるならば、「整備する事項を開示して、その開示内容に沿って作ってしまえば一件落着」にはならないはずです。

そもそも会社法施行規則公表以前のパブコメ案(法務省令案)にありました第一条(施行規則では削除されております)では、この「株式会社の業務の適正を確保する体制に関する法務省令」は、我が国の株式会社の企業統治の質の向上に資することを目的とする、とありました。体制整備そのものの行為規範性も重要かもしれませんが、この目的からみますと、整備を決めた体制とはどういったものなのか、常に株主の監視の下に置くために「事業報告によって開示すること」も同様に重要なのだと思われます。おそらく今後は、事業報告や普段のIR活動のなかにおきまして、体制整備に関する進捗状況とともに、その体制の運用状況についても開示されなければいけないでしょうし、そういった開示によって初めて内部統制システム構築が良質な企業統治と関連付けられることになるのではないでしょうか。

でも、企業としては「体制整備事項」については、IR活動として、なるべくいろんなことを書きたいという気持になるかもしれませんが、一方においてはたくさんのことを書いてしまいますと、後で株主からキビシイ指摘を受ける可能性も高まってくるわけでして、そのあたりのバランス感覚のようなものも必要かもしれません。なお、これまでも大和銀行事件などに代表される、いくつかの司法判断におきまして、「内部統制構築義務違反」といった争点が出ておりますが、こういった体制整備事項の取締役会専権化、整備事項決議の義務化によって、取締役の善管注意義務違反といったもの(任務懈怠責任といったもの)が特別に認められやすくなるのかどうか、そういったあたりを次の機会に考えてみたいと思います。(私は、この内部統制というものを会社法のレベルで検討した場合、憲法の勉強に出てくる制度的保障の理論に近いものを想像してしまいます)

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2006年2月26日 (日)

日本版SOX法の衝撃(その2)

営業秘密関連事件(営業行為禁止等仮処分事件)の和解交渉が大詰めに入ってしまいまして、ちょっと力を入れてエントリーを書く時間がありませんので、小ネタで失礼します。

2月22日に野村総研よりおもしろいアンケート結果が出ております。(日本版SOX法に関するアンケート調査結果 上場380より回答を集計)2005年12月の時点で、約3割以上の上場企業が、金融庁の発表している内部統制のあり方に関するとりまとめ案(財務報告の信頼性確保に関する)を見たことがない・・・というのが意外でした。また、ちょっと残念なのは、日本版SOX法への取り組みについての意識として、できればお金をかけずに必要最小限度で行いたい、という回答と、他社と同程度で取り組みたいといった回答を合計しますと、全体の85%に及びます。この結果は、日本版SOX法というものが、「なんだか内部統制というものの内容はよくわからないけれども、必要だと言われれば対応するしかないでしょう」といった、非常に受身的なイメージしか抱かれていない風潮が根強いことを物語っているのでしょうね。野村総研が解説しているとおり、アメリカ企業は企業改革法下におきまして、「リスクの洗い出し」「対応負担の軽減のためのリスクの重要性判断」など、非常に内部統制システムを積極的に活用している対応のようでして、その結果は対照的なようです。

最近も、会社法の施行が迫ってきたこともあり、内部統制構築に関する研究会や講演などが普及しているようですが、日本版SOX法を検討する際に、アメリカの本家SOX法302条、404条の直輸入版が妥当かどうか、今一度検討する必要がありそうです。PwCで実際にSOX法の社内運用、評価実務に携わっている方のお話をお聞きしましたが、どうも日本企業とアメリカ企業の「事務担当部署」の考え方に微妙な違いがあるように感じました。私はアメリカ留学などの経験がないものですから、たんなる推測にしかすぎませんが、あちらの事務担当部署には営業と同様に利益取得のノルマのようなものが見受けられ、総務法務などの部署においても一定の「目に見える」カタチ、としての成果が期待される、ということのようです。「私はこの事務によって○○円の年間利益(政府補助金)をもたらしました」「私は○○人の社員の不正を見抜きました」などなど。日本の企業では、特別○○人の不正を見抜き、○○人の懲戒処分へ貢献した、といった評価はあまり聞いたことがないのですが。事務方の意識レベルにもし差があるならば、こういった内部統制システムの運用や構築といった場面におきましても、その費用負担の意識や、運用評価の積極性などにも大きな差異が出てくるのではないでしょうか。また、日本の企業には、アメリカの企業にはない監査役という制度があります。委員会設置会社は少なく、上場企業の大部分が監査役会設置会社です。第三者による監視がコーポレートガバナンスの柱とされているアメリカ主導による制度(内部統制システム)が、その一端を身内の人間である監査役が担う日本の制度として「快く受容できる」ものとなるのかどうか、まだ私には未知数であります。こういった日米の企業文化の違いとか制度の違いといったものが、これからの日本の内部統制議論、とりわけ金融庁主導による「財務報告の信頼性確保」のための内部統制システム構築の議論にどのような影響を与えるのか、すこしばかり注意をしてみたいと思っています。

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2006年2月24日 (金)

「公正ナル会計慣行」と長銀事件(その4)

1月10日のエントリー(公正妥当な企業会計慣行と長銀事件その3)におきまして、こういった「公正ナル会計慣行」の解釈指針といったものを詳細に検討した書物とかありませんかね・・・と漏らしておりましたが、ちょうど1月21日発売の「判例時報1911号」25ページ以下で、弥永真生教授が「会計基準の設定と公正ナル会計慣行」といった論文を発表されました。また、1月25日発売の「商事法務1755号」37ページ以下では田路弁護士、圓道弁護士共著によります「リース会計基準変更に関する法的検討」といった論稿も著されまして、近時の長銀事件、日債銀事件の刑事・民事判例などとの比較においてタイムリーな法的整理が試みられております。個人的にはものすごく興味のあるテーマなんで、たいへん興味深く、どちらも拝読させていただきました。(いつもブログを拝見しておりますぴてさんのエントリーで知りました)

私などが論評できるようなものではないことを重々承知のうえで、単なる感想として申し上げるならば、まず田路弁護士らの論文につきましては、ASBJ(財務会計基準機構・企業会計基準委員会)による(基準の)見直し方針が固まった「リース会計基準」の変更に焦点を当てて、その法的な妥当性と拘束力を検討するといった内容のものでありまして、「公正なる会計慣行」の法的問題点を非常にわかりやすい具体例を中心に論じていらっしゃいますので、内容がまことにわかりやすいものになっております。一方の判例時報における弥永教授の論文は、その判例分析の手法といい、法的論点の検証といい非常に精緻でして、「公正なる会計慣行」の法学的、会計学的意味を鳥瞰するにはたいへん貴重な論文といえるかと思います。(注の数がたいへん多く、参考書籍なども網羅されているような感じがします)

商法監査の対象として、これまで公正なる会計慣行があったと思料される「リース会計基準」を、ASBJが見直す場合に、新しく作られた「リース会計基準」はいつから公正なる会計慣行になるのか、そしていつから「唯一の」会計慣行となるのか・・・といった問題の捉え方は議論をする材料としましては非常にわかりやすい事例だと思います。ただし「公正ナル」といった意味をどう捉えるか(会社法のなかの計算規定の目的、つまり会社の財産および損益の状況を明らかにする目的といったものを広く解釈するのか、狭く解釈するのか)、その法的拘束力といった意味をどう捉えるか(唯一の会計慣行となったときに初めて法的拘束力があるとみるのか、二つ以上の会計慣行が存在する場合にも、それ以外は合理的な理由がないかぎり違法とみれば、それも法的拘束力があるとみるのか)など、論文を比較しましても、まだまだ一義的には論じられていないところが散見されます。浅学者が偉そうに言うのもおかしいのですが、まだまだ問題点を整理するにあたっては、用語の共通化が必要な分野ではないか、と感じました。

それと、弥永教授の論文のなかで、ある会計基準が適用されて、その新基準が公正なる会計慣行になるためには、どこかの企業が適用し始めて、将来的に他の企業も適用するであろうことが確実と思われる状況であれば「会計慣行」となりうる(おそらく現在の多数説)としながら、会計慣行性が喪失される要件としては、あくまでも「事実認識である(たとえば、同業種、同規模の企業において、旧会計基準を適用しているところが少なくなったなど)」とされていることにちょっと疑問を抱きました。「会計慣行たりうるか」といった要件について、「慣行になるとき」には大きく法的な「評価」に依存するにもかかわらず、「慣行でなくなるとき」には、評価ではなく「事実」に重きを置く、というのはなぜなんでしょうか。(このあたりは、やはり会計基準委員会による基準作成作業が(証券取引法などで委任されていないかぎりは)法的な規範性は持ち得ない、しかしながらなんとか法的な規範性に近いもの、と解釈したいといった趣旨からなのでしょうか)「評価なら評価」「事実認定なら事実認定」といったように統一的に要件をまとめておかなければ矛盾が生じてしまうように思えるのですが、いかがなものでしょうか。

ところで、ASBJなどが策定する会計基準といったものも、その運用指針を含めて読んでみますと、常に社会事象を詳細に検討した上で決定したものでもなさそうですね。社会事象というのは、おもに企業アンケートなどの結果に依存する傾向が強いのではないでしょうか。ストックオプション等に関する会計基準などを見ても、専門外の私からすると、本当にストックオプションの費用というものは存在するんだろうか、存在するにしても、費用認識など明確に把握することなんてできるんだろうか、会計学という学問への主義思想によって、識者の方でも意見が異なるんではなかろうか、などなど普通に素人的疑問が湧いてきますし、ましてや会計基準が変更される場合などでは、なぜ旧基準が一義的に不合理だと判断できるのか、意見もバラバラなときもあるんじゃなかろうか、などと考えたりしております。本当にまじめに考え出すと、会計士さんの指導はあくまでも「公正なる会計慣行」のひとつであって、別の「公正なる会計慣行」もあるよ、といった場面はけっこうあったりするんじゃなかろうか、と思ったりもします。このあたりは、また続きでツラツラと考えてみたいですね。

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2006年2月23日 (木)

内部監査室の勤続年数の功罪

きょう、午前中から東証一部上場の某企業(本社)で「内部統制システム構築(2006年2月における現状認識)」といったテーマで講演をさせていただきました。会社法施行後の内部統制構築論や、金融庁主導の財務報告の信頼性確保のための監査対応型システムのお話が中心でしたので、法務、財務関連の部署の方へは(そこそこ)有益なお話ができたかなぁ・・・とも思っておりましたが、ITシステム構築関連の部署の方には、すこし物足りなかったのではないか、とも反省しております。(こういった社内勉強会の場合、関心あるテーマを扱う難しさがありますね)

内部監査室の方から講演中に質問をいただいたのが、不正検査士(CFE)の資格を内部監査室のメンバーが社内で保有することのメリットなどに関するものでした。果たして社内でオフィシャルな資格を取得しても、あまりメリットがないのではないか・・・・といったご趣旨だったようです。じつは最近こういった質問をときどき受けることがあります。講演終了後にその内部監査室のメンバーの方々と食事をさせていただきましたが、この会社の場合、内部監査室の勤続年数は比較的短いのが通例のようです。監査業務は親会社以外にも、日本子会社や海外の子会社にもおよび、相当忙しい部署のようですが、まぁいわゆる昇進のための通過点の職種のひとつ、といったイメージがございました。(もちろん、これは私が抱いたイメージでして、その企業自身が内部監査の意義を軽視している、といった意味で申し上げているわけではございません。念のため)企業グループ全体を比較的短期間に鳥瞰することが可能ですし、事業活動のなかでどういったリスクが潜伏しているのか、バランスよく習得する機会にもなりますので、最近はこういった内部監査担当者の職性というのも珍しくないようです。私も内部監査担当者の方とお話をさせていただくときは、その方の在籍年数と、その企業における内部監査室の平均勤務年数などをお聞きすることにしております。私の知りうるかぎりにおきましては、「内部監査のプロを育てる」長期勤続型を重視する企業と、「将来幹部候補生の通過点」として短期勤続型を重視する企業にはっきりと分かれるところが非常に興味深いですね。

社内の内部監査担当者の方が、公認コンプライアンス・オフィサーや、CFE(公認不正検査士)といったオフィシャルな資格を保有する動機としましては、やはりその監査といった業務に精通したいという強い意欲が必要でしょうから、短期勤続型の企業においてはあまり向かないかもしれません。せっかく勉強して取得したにもかかわらず、そのころには「はい、次の部署」と命じられては「宝の持ち腐れ」になってしまう可能性もあります。ただし短期勤続型というのは、内部監査室自身がつねに新陳代謝をはかることができて、それまでの監査業務を他人が客観的に審査できるという意味では、「監査室自身のコンプライアンスルール」としては健全なのかもしれません。一方、長期勤続型となりますと、その独立性が確保されている場合には「監査のプロ」を育成することが可能となり、会計監査人や監査役の情報収集能力の向上や、企業の事業内容に合致した適正な監査が可能となりますが、内部監査自身の品質管理がむずかしくなってしまい、いわゆる「内部統制の限界」を作り出してしまう要因にもなってしまいます。

もちろん、内部統制システムは、その企業組織に合致した形で自由な設計が許容されるところでしょうが、こういった内部監査室を支えるスタッフの「あり方」につきましても、できるだけその長所と短所を認識されたうえで、構築する必要があるのではないでしょうか。(きょうはどうもごちそうさまでした。)

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2006年2月21日 (火)

少しばかり言い訳と問題整理(追記あります)

(2月22日未明 PSE法関連およびオリジン株関連の追記あります)

きょうは、夕刻から次年度日弁連会長さんに就任される方の会合に出席させていただきました。いえ、そんな偉い方を以前から存じ上げている、というのではありませんでして、じつはその日弁連会長さんとともに働く「日弁連事務総長」に就任される方が、私の所属する大阪の弁護士団体から初めて輩出される、ということで、(私に限っては)そちらの「お祝い」のほうがメインでした。単身赴任かどうかはわかりませんが、2年間大阪の事務所を離れて東京で執務する、というのは「たいへんな決断」だと思いますし、優秀さと人柄を兼ね備えた類まれなる能力を存分に「司法改革仕上げの時代」に発揮していただきたいと祈念しております。

ということで、ちょっとエントリーを書く時間がなくなってしまいまして、スキップさせていただきますが、昨日の「PSE法問題」につきましては、コメントの中で(続編)程度の意見を書かせていただきました。たしかに、議論は尽きないのですが、法律実務家がこの話題を取り上げて実益があるとすれば、今後なんらかの「事件性」が必要かもしれません。(経過措置の期限後に対象商品を中古品として販売して処罰されるとか、在庫商品が無価値となって損害を被った中古販売店が国家賠償訴訟を提起するとか)ただ、今後のPSE法問題が議論されるなかで、法律や条例、施行令、通達など、企業の事業活動になんらかの影響を与える国の活動に対して、企業はどう対応すべきか、企業は消費者や一般市民の利益を代弁することが可能なのか、といった問題点へのヒントを提供してくれる可能性がありますので、すこし論点を絞ったうえでまたエントリーさせていただこうか、と考えております。

またドン・キホーテと「法の精神」(その1の続編)にコメントいただき、ありがとうございました。またまた貴重なご意見を頂戴しまして、本当に私の「前提事実」に関する知識不足を痛感しております。これももう少し検討したうえでコメントとして掲載させていただきます。

(2月22日未明 追記)

PSE法問題につきましては、ろじゃあさんが少し前にフォローされておられたようです。ろじゃあさんは、ご自身の趣味(本業?)で、音楽用の電気機器にはお詳しいようですし、(思い入れのこもった)かなり掘り下げた内容のエントリーを立てておられますので、そちらも参考になります。(TB先をご覧ください)しかし、経済産業省の方のブログが閉鎖された、というのはスゴイ反響ですね。記者さんからの情報によりますと、経済産業省のほうへもマスコミがだいぶ向かっているようですし、今後の動向が気になるところです。

あとドンキ、イオン、オリジンによる株式取得問題には、タワー投資顧問が重要な鍵を握る大量保有者として浮上してきたようでして、またこちらも動向が注目されますね。(ちょっとこの動向を無視したままで、法の精神の続編がエントリーできなくなりましたね。。。)こういった大型のM&Aの多面的攻防戦を眺めておりますと、やっぱり大型監査法人は最低4つは必要かなぁ・・・・と、(きょう、お昼に会社法講演会の打ち合わせをさせていただいた某大先生のお言葉の受け売りですが)。日本版SOX法対応の内部統制監査の浸透にはプライスウォータ・ハウスクーパースの力も大きいものがありそうですし・・・。

※そういえば「とーりすがりさん」の「某省令」に早くも誤りが散見されています、とのコメント、またまた気になりますね(笑)以前もずいぶんと早くから「9本が3本になりますよ」と、まるで天の声のように聞こえてきましたし・・・・・。

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2006年2月19日 (日)

PSE法の「猶予期間切れ」目前

皆様は「PSE法」というのをご存知でしょうか?平成13年4月に施行されたのですが、この4月に適用猶予措置の期限が切れまして、いよいよ本格的な「中古品販売禁止法」として違反者(法人を含む)には最高1億円の罰金が課されることとなります。かの有名な坂本龍一氏や高中正義氏ら、ミュージシャンの方もPSE法の改正要望のために署名運動を開始しておりまして、先週後半からボチボチと報道機関もニュースとして取り上げるところとなりました。

PSE法といいますのは、「電気用品安全法」のことでありますが、電化製品の危険性から消費者を守るために平成13年4月から施行されたものでありまして、電化製品の製造販売業者の検査章(PSEマーク)の付いた電化商品以外(ただし、指定商品に限ります)は「業者として」販売してはならない、といった法律であります。なお5年前に施行された法律でありますが、とりあえずこの5年間は電化製品の中古品流通について猶予期間を置いておりましたが、いよいよこの平成18年3月31日をもって、PSEマークの付いていない電化製品は販売製造はできなくなりまして、したがってPSEマークの付いていない電化製品については中古品としても流通することはなくなってしまいます。詳しくは経済産業省の説明をお読みください。(また、2月18日に読売ニュースで報道された記事はこちら)

おそらく、今後このPSE法関連のニュースが今後各マスコミによって報道される機会が増えるものと予想しておりますが、ビジネス法務として取り上げる意義も若干ございます。その理由は①電気製品の安全性確保の要請と環境保護問題が真っ向から対立する可能性があること②耐震強度偽装問題や証券取引市場規制問題などと同様、「事前規制」と「事後規制」のあり方が問われること③中古品販売業者の死活問題となり、営業の自由、財産権保障といった憲法上の権利をどこまで制約できるか、といった議論などなど、企業コンプライアンスといった方面での論点が山盛りと思われるからであります。おそらく感情的な意見や、行政よりの意見など、今後さまざまな議論がなされることと予想されますが、適宜、このブログでも「企業と行政規制の接点」といった視点から、取り上げてみたいと考えております。

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ドン・キホーテと「法の精神」(その1の続編)

ドン・キホーテと「法の精神」(その1の続編( ̄~ ̄;)??)

昨日のエントリーには、たくさんのコメント、メールありがとうございました。コメント同様、メールでも法科大学院の先生や、ご専門の方などから詳細なご意見を頂戴しました。おそらくこういったご意見をいただくのも、私のエントリーを側面からフォローしていただいておりますコメンテイターの方々のお力によるものであります。厚くお礼申し上げます。<(_ _*)>

さて、気持ちよく(その2)に移ろうか、と考えておりましたところ、ご覧のとおり、たくさんの「反対意見」(^◇^;)を頂戴いたしまして、ちょっとすんなりと「司法判断への影響」へ移ることも困難な状況になってまいりました。個別の事件へのコメント、といったものも、ちょっとマズイかもしれませんが、私は「違法」か「そうでないか」といったことへのコメントは避けておりまして、「たとえ違法ではなくても、グレーゾーンか真っ白か」といった「法解釈」の埒外のところを考察するつもりですので、まぁこの程度であればご容赦いただけるかもしれません。それと、(これはいつも逃げ口上のように申し上げておりますが)私は企業買収に関する法務を仕事で扱えるほどの弁護士ではございませんので、コメントの与える社会的影響度は乏しいものでして、単なる「社外役員」という立場から経営者的判断としての「素人意見」でありますので、どうか大目に見てやってください。( ̄∇ ̄;)

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

私は(そんな)素人考えで、「ドンキ(株式会社ドン・キホーテ、以下同じ)の市場取引による買い集めはグレーゾーンだ」と考えたのですが、いたって良識あるご意見では、ドンキによるオリジン(オリジン東秀株式会社、以下同じ)買集めは真っ白である(=グレーではない)、とのご意見が多いですね。コメントをいただいた方のご意見はそこでお読みいただくこととしまして、学者の先生より頂戴したご意見なども、大方はオリジン株式のドンキによる購入は、株主の自由な意思によって売却が可能な「市場取引」で購入したわけであるから、オリジン株主には機会はきちんと公平に与えられており、よって自由かつ公平な取引であるといったことを理由として掲げられております。また、TOBが失敗したからといって、買収をあきらめないといけないか、というとそうではなくて、TOB失敗後に市場取引において株を取得して支配権の獲得をめざすことは、資本主義の観点からは禁止されるべきではない、といったご意見です。

そもそも、「グレーか、真っ白か」といった議論の立て方にも、異論があろうかと思いますが、日経新聞のインタビュー(2月17日付け朝刊)記事におきまして、ドンキの法律顧問の先生も「当初から一連の取引によって3分の1超をめざすならグレーだが、今回の経過からすれば真っ白だ」とおっしゃっておられるようですので、「グレー」「真っ白」といった分類自体は、あながち間違いでもなさそうです。(その分類が法律的にどう反映されるべきか、といったことはまた続編で述べてみたいと思います)そのうえで、皆様方のご意見を頂戴しまして、私自身も「グレー」→「真っ白」に考え直そうかなぁ・・・とも思ったのですが、もうすこし疑問もありそうな気がしますので(その1の続編)として考えてみました。

証券取引所で売買される株式有価証券について、市場外で3分の1超の株式、いわゆる経営支配権を有するに足りる株式を取得する場合には、原則として公開買付によることが強制される理由につきましては、皆様方のおっしゃるように株式会社の支配権移動に伴う投資家保護(情報開示の要請および投資家への売買機会均等の確保)に基づくものといえます。オリジン買収目的によるTOBが不成立に終ったドンキは、その後市場価格で15%ほどの株式を取得してきたわけでして、一般投資家にとっては自由売買の確保された状況での売却がなされた結果として、なんら投資家保護に欠けるところはなさそうです。ただ、オリジンの株主にしてみれば、どんな気持ちでオリジン株式を売却したのでしょうか。ドンキが2800円の買付価格でTOBを開始した→ホワイトナイトのイオンが3100円の買付価格で登場した→2月11日にはドンキのTOBが不成立となった→ドンキは再度のTOBはしないとの宣言をした→イオンの50%超のTOBも、ドンキが保有株式をイオンに譲渡することがなければ不成立となる可能性が出てきた(イオンは第三者を通じて、株主への情報提供のために、ドンキの株式買取希望の打診をはかった)→ドンキ「今の段階ではなんともいえない」→TOB成立の可能性が不透明となった→「売ってしまおう」(3100円前後で市場売却)→ふたを開けるとオリジン株の46%をドンキが取得していた→株価急落(3100円から2780円)。

こういった流れのなかで、もしオリジンの株主が、新聞報道等により勝手に「ドンキはTOB不成立で撤退した」と誤解したり、自分の見込みでそのように考えて行動していたのであれば、(経済的な損失もないでしょうし)それは文句もいえないでしょう。しかしながらオリジンの株主にとって、「市場で売る」ということは「ドンキに株式を売る」ということとは同じ意味ではないはずです。昨年来、経済産業省や法務省で「正しい企業価値の把握、正しい敵対的買収防衛策のあり方」が議論されているわけですが、そこで私が素人なりに少しばかり学んだことは「防衛策は株主価値の最大化のために設置発動されねばならない」といったことだと理解しております。ただ、そうであるならば買収する側にも、対象企業の株主価値の最大化を考えた手法がとられてしかるべきだと思うわけです。強制公開買付制度によって情報開示がなされるのは、その支配権移動によって経営陣が変更される(可能性がでてくる)ことで、企業価値(株主価値)が上がるかどうかを株主が判断できるためではないのでしょうか。そういった情報提供の機会もなく、判断の機会もないままに売却(もしくは保有)した株主にとってみると、「あのTOBはなんだったの?」といった気持ちになって、オリジン株主にとってみれば「背信的な行為」にはみえませんかね。もし村上さんが阪神電鉄株式を大量保有したときと同じ手法をドンキが採用したのであれば、オリジン側としてもすぐに(株主に十分な検討の時間を与えるために)別の敵対的買収防衛策の検討に入ったものと思いますが、ドンキは正々堂々とTOBを仕掛けてきたわけですから、その対抗策としてもイオンのTOBといった手法を採用したわけです。けっきょくドンキは3100円前後で市場でオリジン株を買い進めたわけですが、それなら期間延長、買付価格変更によって堂々と「イオンよりもうちのほうがオリジンの株価を高める自信がある」とオリジンの株主に説得しなかったのでしょうか。私はそのあたりが「違法ではないけども、公開買付制度の趣旨に反しているのではないか」とまだ逡巡しているところであります。

また、TOBに失敗したからといって買収をあきらめないといけないというのはおかしい、TOBを再度かける費用に比べると法律意見書をとって行動に出るほうが自社株主への説明もつきやすい、という意見も「なるほど」とは思います。しかし最初から25日間という短い買付期間を設定して、オリジン側から(株主への熟慮期間を設けるために)期間延長の正式な要望がなされたにもかかわらずドンキはこれを拒否しています。これって、ある程度失敗リスクも容認していたのではないでしょうか?もちろんそこにはイオンの登場といった予期せぬ出来事もあったのでしょうが、それなら株主のために25日で熟慮期間が十分と考えていたとしても、せめてTOBを失敗しないように、予期せぬ出来事による期間延長くらいは検討してもよかったのではないか、とも思います。さらに、コストの問題ですが、このケースでは株主の代弁者たるオリジンの社外取締役が活躍する場面はないわけでして、誰がオリジン株主の利益を代弁するのかといった問題があると思います。こういった場面において、オリジン株主への情報開示のための費用といったものは、ドンキ側において負担することも、あながち不当とはいえないのでドンキ株主への説明責任はつきそうに思いますが、いかがでしょうか。むしろ、TOBにおいては2800円といったプレミアムの上乗せ価格を提示しておきながら、その直後に3100円で買い集めた行動のほうは、ドンキの株主に対して説明はつくのかどうか、本件とは関係ありませんが、すこしばかり疑問を呈したいところであります。

長々と書いてしまいましたが、私も「違法かどうか」といった解釈論ではなく、あくまでも法の趣旨から逸脱していないかどうか、といった感想を述べたまででありまして、斟酌している事情自体、不適切なものがあるかもしれません。また以前のエントリーにも書かせていただいたとおり、私自身はドンキ店舗の大ファンであります。いつの日か、企業イメージが向上して、「ドンキ、変わったやん」と若い女性に噂されるような店作りに邁進していただきたい、と願っている者のひとりであります。また、おかしなところがございましたら、お教えいただければと思っております。

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2006年2月17日 (金)

ドン・キホーテと「法の精神」(その1)

きょう、ドンキとオリジンの企業買収関連ニュースを読んでおりましたら、下記のような日経流通新聞の記事が掲載されていました。元記事はこちらです。(ひょっとして消えてしまうかもしれないんで、めずらしくテーブルで囲んでおきました。

オリジンTOB、ドン・キが断念、イオン保有株譲受へ――幹部級で条件交渉。(2006/02/12)

 持ち帰り弁当・総菜店チェーン、オリジン東秀を巡り、ドン・キホーテとイオンが競い合った株式公開買い付け(TOB)は「ホワイトナイト(白馬の騎士)」として全株買い付けに乗り出したイオンに軍配が上がった。ドン・キホーテは十日、TOB不成立を発表し、買収を断念した。ドン・キホーテが保有する三〇・九二%のオリジン株をイオンに譲渡する可能性が高まってきた。

 「(買い付け)価格の引き上げ競争にはしたくなかった。(保有株の取り扱いについては)ドン・キホーテの株主に最善の方策をとる」。安田隆夫ドン・キホーテ会長は十日、淡々とこう話した。ドン・キホーテはオリジン株三三・四%以上の取得を目指し、九日まで実施したTOBは成立せずに終了。市場での買い増しや再度のTOBは「実施しない」と表明し、事実上の「撤収宣言」を出した。

(記事は本文の一部を掲載しています。)[日経流通新聞MJ][提供:日経テレコン21] 

この記事では「市場での買い増しや再度のTOBはしない」と安田隆夫ドン・キホーテ社長は2月12日の段階で述べた、と報道されています。たしかに、2月12日のプレスリリースでは市場での買い増しはしない、とは書いてないわけでして、ひょっとすると日経流通新聞のミスかもしれません。しかし、本当に市場での買い増しはしない、といった発表をいったんしていたのであれば、ちょっと問題かもしれませんね。

ライブドアとニッポン放送の仮処分事件のときには、ライブドアのニッポン放送株買い集め方法(TOSTNET-1)の適法性が問題となったわけですが、それに類似した手法として、このたびのドンキのオリジン株式買い集め方法が問題になっています。TOBを途中で介在させているものの、その事前と事後の市場外取引、市場取引によって一気に46%まで買い進めてきた行為が証券取引法に定めた公開買付ルールに違反しているのではないか、といった問題です。この問題、論者によって立場が三つに分かれるようですね。

ひとつは、ドンキの一連の株式取得行為は、証券取引法違反である、とする説、ひとつは現行の証券取引法の趣旨からして、適法であって不公正でもなんでもない、とする説、そして違法ではないけれども、法の趣旨に反する「グレー」な取引である、とする説。私は最後の説に与したいと思っております。そもそも、違法か、そうでないか、と言われると「違法ではない」と回答すると思うんですが、だからといって「じゃあなんにも非難されないような合法行為か」と問われると、やっぱり(上記の日経流通新聞の記事のほうがまちがっていると仮定しましても)非難されるべき行動ではないでしょうか。そもそも、ドンキはTOBでオリジン株の取得を失敗しているわけですが、もしオリジンの株主に自身の買収による企業価値上昇を説明するのであれば、株価変更、期間延長といった手法によるべきですし、また対抗しているイオンがTOB期間中であって、ドンキのように対抗して市場で株式を取得できない状況にあるわけですから武器対等の原則からみてもフェアではない、と思うんですが、いかがでしょうか。

昨日のエントリーにコメントをいただいた みたさん への回答にも少し書かせていただいたのですが、法哲学というのか、法社会学というのか、そのあたりの勉強不足でよくわからないのですけれども、世の中には違法と断定できる行為と、合法と評価できる行為の間に、脱法行為とか不公正な行為といったグレーゾーンがあるような気がします。たしかに法というもので強制されない領域なんで、違法とはいえないのですが、「法の精神」が支配する領域であって、たとえば慣習とか常識とか、法の趣旨などから、自主的にルールに則った行動が期待される領域というものだと思います。

このグレーゾーンといった領域も、あるときは「クロ」に、そしてあるときは「シロ」にもなりうるものだと思います。なぜなら、自主的にルールが守られるかどうかということは、そこで行動する人間の合理的な理性の程度によって期待される度合いが変わってくるからです。たとえば証券取引法の適用される領域というのは有価証券市場です。現在は、おそらくプロの世界の人たちに焦点をあてて、プロの人たちの合理的理性に期待をしているわけですが、あと数年もすると投資サービス法が誕生して、そこには団塊の世代といわれる「素人さん」たちが参加する世界が到来するわけでして、そういった素人さんレベルでの合理的理性には、プロと同じものを期待するほうが無理です。そうしますと、自主的ルールに委ねてきたような問題も、素人さんにはそのルールがわからないわけですから、そこは法をもって強制的に律していかなければいけない領域に変わっていくわけです。

そのようなわけでして、とりあえず現状では、このドンキの株式取得行為につきましては、違法とまでは言えないけれども公開企業の経営支配権を取得しようとする者が、その常識を働かせて自主的に遵守すべきルールには違反しているのではないか、と考えております。企業コンプライアンスという言葉が単なる「法令遵守」という表現では語りつくせないとよく言われますが、こういったグレーな領域について、企業の姿勢といったものも、やはり企業コンプライアンスのあり方に影響を与えるのではないでしょうか。

また、企業コンプライアンスといったような抽象的な言葉で語るだけでなく、たとえばオリジン側が、今後新株予約権を用いた第三者割当などによる買収防衛策を講じた場合には、こういったドンキの行動は、どのように影響するのでしょうか。ライブドア、ニッポン放送事件を経験した日本の裁判所は、やはり昨年と同様の判例理論を展開することになるのでしょうか。こういった点については(その2)で考察してみたいと思います。いずれにしましても、ドンキの株価はストップ安となりました。一連の行動は、ドンキの株主の価値を高めるものと評価されるのかどうか、ここも問題になりそうですね。

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2006年2月16日 (木)

証券監視委員長インタビュー

2月15日の日経と毎日の朝刊に、証券取引等監視委員会の高橋武生委員長の「ライブドア事件に関するインタビュー」記事が掲載されております。個人的に興味のあるお話だったので、二誌分を整理して備忘録として残しておきます。

・ライブドアに関心を寄せたのは3年前のこと。10件ほどの案件をチェックしていたものであり、その都度、刑事事件として立件できないかどうか検察に相談していた。昨年の秋から冬にかけて、事件化のめどがついた。監視委員会が仕事をしていないので、検察が出てきたというのは、いかにも劇画的な話。明らかにおかしな議論だ。(注 検察主導型と言われて、証券取引等監視委員会はなにをしていたのか、と非難されたりもしてましたが、実際にはすでに3年も前から、ライブドアに目をつけていたのは監視委員会だったんですね)

・一年に2万数千件のインサイダー取引(の疑い)があり、我々はその一つ一つを監視しており、証拠を集めて分析し、違法行為と判断してはじめて事件にできる。これまで47件の強制捜査をしてきたが、そのうち検察と合同したのは40件。検察との合同捜査は極めて重要であり、今回も合同捜査がなかったら、メールの消去などで証拠が隠滅されていただろう。逮捕権を持つ検察と十分相談してからやる。(注 これはスゴイですねぇ。一年間にインサイダー取引と疑われ、監視の対象となるのが2万数千件。現在の証券取引委員会の職員が360名で、そのうち300名が実際に監視業務に従事しているとしますと、一人当たりの年間調査件数は80件。年間300日勤務するとなると、一件あたり3日から4日程度で結論を出さないといけない計算になります。本当にこんな短期間で証拠収集分析って、果たしてできるんでしょうか?こういった実情から判断しますと、規模が大きかったり、反復継続されていたり、いわゆる「目立った」取引でないと、とても立件される可能性は少ないんじゃないでしょうか。)

・金融庁からの組織分離など、組織をいじるのには抵抗がある。まだまだやっと一応の働きができるようになった段階だ。監視委員会が金融庁の支配下にあるといった考えは誤っている。我々を指揮する権限を持つ者はいない。違法行為の調査では逮捕権を除いて行政機関として持てる権限はすべてある。ないのは企画立案と行政処分を行う監督権限だが、「建議」という形で法律や制度の立案を行い金融庁に動いてもらえる。われわれが市場ルールを作るのも一案だが、今の陣容では自信がない。金融庁と対立してでも、立法化をめざしていく。(注 市場ルールを作るということよりも、立法化をめざす、というのはどういった意味なんでしょうか。刑罰強化とか、金融庁からの独立といったことなんでしょうかね。)

・違反行為の予防には課徴金制度は効果があるが、証拠が不十分なのに課徴金をとるのはよくない。有価証券報告書への虚偽記載を見抜くのは内部告発がないと困難だ。(注 やっぱり内部告発重視なんですね。このたびのライブドア事件につきましても、1年ほどで立件にこぎつけることができたのも、間違いなく内部告発なんでしょうね)

以上、まったくの備忘録でした。(注)は私の感想です。

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2006年2月15日 (水)

内部統制監査の立会い

前から勉強させていただこうと思って、楽しみにしておりました某ビッグ4の監査法人の「内部統制監査」に半日、立会いさせていただきました。段ボール箱いっぱいの証憑と取っ組み合って、総務財務を呼んであれこれと聞きとりをする・・・・・、といったイメージを抱いていたのですが、ちょっと様子が違いましたです。

監査責任者(代表社員)を含め、いつもの監査チームのメンバーが揃っているんですけど、みんなパソコンとにらめっこで、物静かに会合。私があっちこっちで、あれやこれやと質問するんで、ひょっとしたら「オジャマモン」だったかもしれません。会計基準の変更や減損会計に関する理論上の疑問点などもいろいろ聞けましたので、私にとりましては、大きな収穫でした。

こういった内部統制監査というものは、どこの企業でもやっているんでしょうか?ともかく、これまでの会計監査においても、その財務報告の信頼性を検証するために、内部統制評価は行われていたわけでして、その「延長線上にある」監査形態だと認識できます。まだ、いわゆる日本版SOX法を前提とした内部統制監査といったものは実務指針も出ておりませんし、どこの監査法人でも「試験部隊」の方が担当していらっしゃるので、そういった(金融庁の企業会計委員会内部統制部会が進めている)内部統制監査とはベツモノの「地味な」監査なのであります。ただ、この物静かな監査は、けっこう重要な作業をしているわけでして、おそらく私の勘では、これまで財務報告の信頼性を評価するための「内部統制評価」といったものは、その会計監査人独自のコツみたいなものがあって、その個人的なスキルに基づいて評価していたところがあったわけですが、それは職人芸のように、そのままではなかなか伝承できないんですね。そこで、早期の会計士の交代などがあったとしましても、標準的な能力をもった会計士さんであれば通常認識しうる程度の監査評価方法の図式化、記録化を図る、といったイメージで作業を進めていらっしゃるのではないかなぁと感じた次第です。

それと、ちょっと意外でしたが、こういった会計士さんのやっておられる内部統制監査といったものも、けっこう企業コンプライアンスに留意されているところでした。(したがいまして、経済産業省主導で公表されておりました内部統制システム構築モデルについても、きちんと勉強されていらっしゃるようでした)いわゆる発見リスクといったものも、私のイメージでは「誤謬」発見の可能性に絞られたものだと思っていたのですが、統制レベルを認識するための証憑の有無や種類によって、その企業の経理操作によって犯罪に値する行為が存在するのではないか、といったかなり積極的な不正発見目的の監査に近い形での運用もなされているんですね。なんでそこまで?とも思ったんですが、内部統制に不備があってリスクが発生しているのか、内部統制にある程度の信頼を置けるなかでの「限界」事例としてリスクが発生しているのか、そういった検証も必要だから、とのことでした。(なるほど・・・)いずれにしましても、(たいへん失礼ながら)内部統制監査といった手法につきましては、総じてまだまだ模索中といった面もあるんじゃなかろうか・・・と推察した次第であります。(会計士の先生方、いろいろとおジャマして申し訳ございませんでした)

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2006年2月14日 (火)

住友信託は戦術ミスか?(統合合意破棄訴訟)

ちょっと本業が忙しいために、日経の夕刊しか読んでいないのですが、住友信託と旧UFJ銀行との統合合意破棄に関する損害賠償請求訴訟において、東京地裁は原告住友信託の約1000億円の支払を求める訴えを完全に棄却したそうです。(被告はMUFG)

UFJ銀行は、住友信託に対して(統合に関する基本合意書)を白紙撤回した時点においては、その合意書には法的拘束力はあるものの、最終契約を締結する義務を負わせるものではない。ただし、白紙撤回時においては、まだUFJ側は住友信託に対して、独占交渉義務、誠実協力義務はあったから、債務不履行は認められる。なお、その不履行による損害賠償の範囲は、その最終契約が履行されたならば得られたであろう利益(履行利益)と、債務不履行とは因果関係がないために認められず、その他の損害については、原告はなにも主張立証していないから、損害賠償請求権は認められない

といったあたりが判決の骨子でしょうか。

昨日のエントリーで、私は希望的観測のもとで、以下のように判決骨子を予想しました。

>この程度の判断であれば、明確に原告側が主張していなくても、弁論主義には反しないものと考えられますし、裁判所の判断の自由度も確保されるかもしれません

私は契約違反において定められた違約金の金額などは、民法の条文にもかかわらず、比較的自由に裁判所が斟酌することがあることと、独占交渉に関する住友信託の期待権を侵害した場合の構成としては不法行為構成もあるんじゃないか、と思っておりましたので、たとえ弁論主義のもとであっても、信頼利益(一般に履行利益と対比される概念です)については柔軟に認めてもらえるんじゃないのかな・・・と考えていたのですが、私の予想以上に弁論主義を徹底した厳しい判決でしたね。ちなみに、弁論主義といいますのは、民事訴訟の基本原則でして、当事者が争点として呈示していない問題については、裁判所は判断しない、といったものでして、本件でいいますと、「たとえ住友信託が、UFJ信託との統合が困難となったことで、その統合後に得られたであろう利益を賠償請求することができなくても、いままでに統合準備のために要した費用については賠償義務がある」「そして、その準備に要した金額は○○円である」といった主張をすべきなのに、そういった主張を(予備的にも)していないのだから、裁判所としては債務不履行は認めるものの損害賠償金額についてはなんら算定しない、というものです。昨日の私の懸念はこのあたりのことを指したものです。

こういった判決内容を捉えて、日経夕刊は原告側に戦術ミスがあったのでは?との見出しをつけています。しかし、上記のように「場末の弁護士」でも懸念されたような弁論主義から発生する問題点について、高額納税者に登場される著名な先生が見落とすはずもなく、おそらく戦術ミスといったものではなくて、予備的にでも信頼利益を損害と主張できない事情背景があったものと推測いたします。

推測その1

そもそも、東京地裁の保全処分(差止)では一度、勝訴しているわけです。「契約は守られなければいけない」といった趣旨を保全処分時の裁判官は重視して住友信託側をいったん勝訴させているわけですから、そんなに弱気になる必要はなく、堂々と履行利益の賠償を求めてしかるべき、との判断は首肯しうるところですし、また住友信託側の株主に対しても、経営者らの行動の妥当性を示すためには強気で攻めるべき、との判断もありうる。

推測その2

判決文や準備書面を読んでいないので、あくまでも推論ですが、ここで住友信託側も債務不履行構成で信頼利益論を持ち出してしまいますと、高裁での一発逆転が苦しくなる、との見込みが働いたのではないでしょうか。履行利益と信頼利益に分別すること自体を原告側が認めてしまいますと、割合的因果関係論のような極めて難しい相当因果関係論を持ち出さないかぎりは、損害額の差というものは20対1くらいの開きで、「どちらか」に決してしまいます。もちろん原告側が「1」でもとれたら訴訟をした意味がある、ということならば信頼利益をとりにいく方法もあるでしょうが、とりあえず「1」をとりにいく予備的請求を立てて一部勝訴した場合、もはや不法行為構成などに戦術を変えて(20と1の中間をとりにいくために)高裁で勝負しようとしても、原審での原告の主張に高裁が引きづられてしまう可能性が高くなる、との判断も考えられます。したがいまして、「1」をとりにいくのは得策ではない、との考えが根底にあった、との推測がはたらきます。

3 推測その3

そもそも、基本合意書を締結する際に、相手方企業の取締役会決議に基づいて独占交渉権付与の合意をとりつけたわけでして、たとえ相手方企業の株主が1社だけ(UFJHD)だったとしても、将来的には企業統合をめざすものであるがゆえに、株主総会特別決議が必要な契約だったのではないかとの疑念もあります。そういった相手方と独占交渉契約を締結するのであれば、住友信託側としては独占交渉契約の解除権放棄や、白紙撤回時における損害賠償金の予約条項といったものを導入しておくべきであった、との経営判断も成り立ちそうです。そういった役員の責任問題を回避するためには、やはり住友信託としては白紙撤回を無条件に認めてしまうような主張はたとえ予備的にでも、しにくかったのではないでしょうか。

以上はあくまでも、報道ニュースからの推測でありまして、また判決全文などを読んだうえでの感想は変わるかもしれません。いずれにせよ、企業再編にからむ経営者判断を考える先例的意義としましては、判決全文から、「どういった時期にどういった合意をすれば、法的拘束力が認められるのか」「経営判断が適正である、と評価されるためには、団体法上および取引法上、どのような手続をふみ、どういった規程を盛り込んでおけばよいのか」「白紙撤回のリーガルリスクはどのあたりまで、と予想しておけばよいのか」といった研究を怠らないことだと思いました。

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2006年2月13日 (月)

住友信託・MUFG統合判決(予定日)

いよいよ月曜日(2月13日)は地裁レベルでの判決日だそうです。(朝日ニュース)ちなみに、昨年9月末ころに私が和解の行方として関連エントリーを立てましたが、当事者としましては、いちおう判決内容をみてから、ふたたび和解協議を行うことも十分予想されます。

私のような「ごくごく平凡な弁護士」からしますと、合意書の法的拘束力や、損害賠償額の算定方法といった争点がどう判断されようと、その結論はどちらでもよいのですが、せっかく今後のM&A実務に指針を与える判決になるのでしたら、一般の法務担当者や経営者にも将来の予測可能性が容易に認識できるような「わかりやすい判決」であってほしいですね。双方当事者の詳細な言動や、合意書の文言、破棄された時期などを仔細に検討したうえで、その法的拘束力が決定されるものなのかもしれませんが、できるだけシンプルな法的構成をとれないものでしょうか。

先日、読売新聞ネットの見出しが勝手に(営業目的のサイトで)引用されていたことで、引用した企業のほうが不法行為責任を問われる、という判決が出ましたが、あの判決ではネット上の新聞見出しには「著作権」は認められないけれども、新聞社のサイトが、営業目的で勝手に引用されない利益というものは、法的保護に値するといった理由付けがなされていました。著作権の範囲やその算定額の硬直化を防ぎつつ、微妙に当事者の利害調整を図り、なおかつ同種事案に関する将来見込みを提案しているように思います。将来における同種事案を解決するための指針としては上手な判決だなぁと、感心しておりました。今回の裁判でも、民法556条(売買一方の予約完結権)や同557条(手付による解除)あたりの条文の法理を引用して、独占交渉権によって相手を制約する期間としては2年はあまりにも長いので、そんな長い期間を付した合意といったものには法的拘束力はない、とか独占交渉権を破棄する権利が(UFJ側に)留保されていたものと解釈すべきとか、そのあたりで結論が出てくると、とてもわかりやすいと思うのですが、いかがでしょうか。そのうえで、先の読売新聞ネット事件のように、もし事実経過からみて、原告被告双方の利害調整が必要だと考えるのであれば、別の法理、たとえば交渉に伴って(付随して)発生した住友信託銀行側の独占交渉期待権(あるいは契約締結期待権)侵害を一種の不法行為責任とみて、そこで住友信託側に一部損害金の発生を認めるとか、そういったあたりで検討していただくと、将来の同種事案への予測可能性が比較的高まるように思えますし、個々の事案における利害調整も可能になってくるのではないでしょうか。(この程度の判断であれば、明確に原告側が主張していなくても、弁論主義には反しないものと考えられますし、裁判所の判断の自由度も確保されるかもしれません)

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2006年2月12日 (日)

法律事務所のハコ

3月に行われる講演会の打ち合わせのため、大阪でも著名な大所帯の法律事務所(弁護士法人)におじゃましました。

高層ビルのかなり高いところの2フロアーなんですが、受付からビックリ!だったんですが、通された会議室も超ビックリ!!大阪の都心部が一望に見渡せる3面ガラス張りのすばらしいお部屋。。。弁護士会の新会館を見下ろすロケーションとは、なんと贅沢な・・・思わず自分がトム・クルーズになったような(ちと、古いか?)気分になってしまいました。

しかし、こういったすばらしい事務所を維持するというのは、さぞやクライアントから・・・・、などと考えておりましたが、いやいや、これはおそらく私が経営者的発想ではないんでしょうね。売上があるから、こういった事務所を構えることができる、というのではなく、まずこの事務所を構えて、ここへクライアントへお越しいただき、ここでビジネスとして見合うパートナーと商談をする、といったイメージのほうが正しいのかもしれません。

ここ数年、会社関係のお仕事をさせていただく機会が増えまして、いろんな財務関係の話などもお聞きすることが多くなりましたが、ようやく最近、お金の有効利用といった感覚がすこし理解できるようになりました。そもそも、弁護士の仕事といいますのは、(これは一般論でありますが)独立開業してランニングコストさえ支払えば、あまり元手のいらない商売ということでして、「儲かったら」事務所を拡張したり、事務職員を増やしたり、勤務弁護士を雇用する、といった感覚で経営をしているところが多いと思います。この感覚ですと、ボチボチの経営だと、普通に生活費を捻出して、毎日せっせと働くといったパターンです。もちろん、消費者保護だったり、刑事問題だったり、人権擁護のために好きな仕事ができるといった「贅沢」を味わうことはできるのですが、所得といったことからみると、そんなに美味しい商売ではないはずです。(たぶん・・・・)

私のビジネスパートナーの方から言われたのは、(ちょっと極端ですが)「日本の弁護士は、8割の所得を2割の弁護士が山分けして、2割の所得を8割の弁護士が取り合っている」とのこと。「そんなことないよね~~」などと軽く考えておりましたが、最近、「そんなことあるかもぉ・・・」と思い直したりしてます。そもそも、全国の弁護士が同じビジネスモデルで仕事に励んだとして、優秀な方が集まる事務所とそうでない人が集まる事務所では、同じパイを取り合ったって、2対1くらいが関の山だと思います。(これは私の16年の経験からくる勘ですが)ところが、新しいパイを増やす努力を怠らない一部の弁護士さんたちがいらっしゃって、その方々が新たにできたパイの部分を独占しているとしたら、理屈としても先の比率にはなっちゃうんじゃないでしょうか。たまたま企業法務のほうへ足を突っ込んだことで、すこしばかり理解したことは、このパイを増やすほうへ努力をされている弁護士の方々は、ビジネスモデルそのものが違うように思えてきました。たとえボス弁護士さんであったとしても、「私の事務所」といった感覚ではなく、「私の帰属する法律事務所」といった感覚で、まず借金をして、人と情報とスタイルに先行投資をして、キャッシュフローで法律事務所というハコを運営する。勇気を持って、この投資活動に進んでいくと、ときには失敗もするけれどもお金の有効活用を学び、また格差が拡大する、といったようなことの繰り返しで、今に至っているような気がします。

もちろん、弁護士の仕事は人権擁護と社会正義の実現のために職責をまっとうすることが第一義ですし、「お金儲け」が主たる目的ではありませんが、これから飛躍的に法曹人口が増えるなか、そう簡単に日本で裁判需要が増えるとも思えません。自分が関心をもつ分野の仕事をやりたいと言いましても、まずは事務所経営をしていかなければいけないわけでして、たとえ小さな事務所の経営であっても、これからは弁護士も生涯にわたって安定したキャッシュフローを叩きだせるような金銭感覚も、どっかで身に付けるべきではないかな・・・と、著名事務所のフロアーから地上へ降りる、豪華なエレベータのなかで考え事をしておりました。

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2006年2月10日 (金)

ライブドア法人処罰と偽計取引関与の構図

10日午後、証券取引法監視委員会は、ライブドア関連事件で逮捕された4名とライブドアおよびライブドアマーケティングの法人2社につき、証券取引法226条に基づき、検察庁に告発をしたようです。ちょっと意外でしたが、「風説の流布、偽計取引」容疑でライブドア本体まで両罰規定を適用して(証取法207条)告発したようですね。私はライブドア本体の法人処罰もある、とは考えていたのですが、それは堀江氏らによる、ライブドア本体の粉飾決算(有価証券報告書不実記載罪)犯則容疑の告発と一緒に、と予想していたものですから、少しばかり驚いています。

なぜ、「風説の流布、偽計取引容疑」でライブドア本体処罰にまでたどり着けるのか?

以下は、私の単なる憶測(推測)にすぎませんので、何度も申し上げますが、どうか投資判断の資料にはなさらないでください。

ポイントはふたつあると思います。ひとつは、おそらく告発事実(もしくは今後検察庁によって起訴されるはずの公訴事実)のなかに、「ライブドアは・・・・」といった「風説の流布、偽計取引」への直接関与を示す文言が含まれているはずだ、というものです。なぜこのように考えるかといいますと、証取法207条の文言では、個人の犯罪行為とその個人が所属する法人業務との関連性が要求されているからです。したがいまして、もし両罰規定を適用するのであれば、どっかにライブドア本体がこの風説の流布、偽計取引について、その業務として関与していたことを指摘する必要があるんじゃないでしょうか。これまで私は、このマネーライフ社の株式買収、LDMの株式売却の一連の行動につきましては、投資事業組合とLDMに関与していた関係者およびLDMのみの法人が処罰の対象になると考えておりました。といいますのも、たしかに投資事業組合の実質的支配者がライブドア本体であったとしても、ここの鍵を握っていた野口氏が亡くなったことによって証言を得ることが困難となり、「実質的支配」の認定が難しくなったのではないかな・・・と思っていたからです。「LDM株売却金の還流状況」および「投資事業組合への資金流入経路」がほぼ確実に判明したとしても、その目的を誰かがしゃべってくれないと、高度の立証を要する刑事事件でのライブドア本体の立件が確実とはいえないような気がしました。今回、ライブドア自身が「風説の流布、偽計取引」に関与していた、といった心証を証券取引等委員会が得たということでしたら、この「実質的支配」を固めることのできる(野口氏に近い)誰かの証言があったのではないか、と推測いたします。

ふたつめは、堀江氏の無罪可能性に関する懸念であります。いくら粉飾決算や株式分割による虚業の手法が判明したとしましても、堀江氏自身が黙秘を続けているかぎり、その無罪の可能性がゼロとは言えません。もし両罰規定を適用して、ライブドアを起訴したとしましても、証券取引法207条の規定によりますとその法人に所属する個人の犯罪行為があったことが前提となっておりますので、堀江氏が無罪となった場合には、その両罰規定適用の基礎を失ってしまい、ライブドア自身も無罪となります。このたびの法人告発(およびそれに続く起訴)によって、ライブドアの周辺環境も大きく変わってくるかもしれませんが、もし「法人無罪」といった事態になりますと、それこそ経済界を大混乱に陥れることになりかねません。そこで捜査、犯則調査機関としては、堀江氏がたとえ無罪となったしても、ライブドア本体だけは確実に有罪とする手法を検討しておかなければなりません。

そこで、よく報道ニュースを見ますと、告発事実のなかに、逮捕された4名は、ライブドアおよびLDMの従業員らと共謀のうえ・・・とされています。つまり、逮捕者らとは別に、身柄を確保されていないほかのライブドア従業員が犯罪行為に加担していることが読み取れます。ということはおそらく、この身柄拘束をされなかったライブドアの従業員の証言といったものが存在するはずです。どういった経緯かは不明でありますが、まず投資事業組合が実質的にはライブドアのダミーである、といった証言を引き出すことができて、さらに今後告発されるかもしれないが、その立場上、告発を見送られるか、起訴猶予処分が予定されているような(もしくは略式起訴で終ってしまうような)「犯罪行為」の存在を争わない従業員を介在させたのではないでしょうか。(そのような見返りを条件とした司法取引的な証言聴取があった、ということも考えられます)たしかに、こういった構成であれば、ライブドア本体と風説の流布、偽計取引とを結びつけることもできそうですし、また、たとえ堀江氏が無罪を争って長期裁判になろうが、その結果無罪を勝ち取ろうが、「ライブドアの従業員による犯罪行為」は存在するわけですから、公判を分離してライブドア本体の刑事処分を確定させることが可能のように思われます。

ただ、ライブドア本体を弁護する立場からいたしますと、この従業員の犯罪行為の存否を実質的に争えないとしましても、かならず法人処罰の適用を受ける、といったものではなく、法人自らが従業員の犯罪行為を相当な注意をもってしても防ぎきれなかったことを立証すれば、その処罰を免れる道はあります。たしかに証取法207条には、法人処罰を免れるための方策についてはなんら規定されておりませんが、判例はたとえ法人処罰に関する免責規定が付されていない行政刑罰規定であっても、法人による不可抗力の主張は認めているわけでありまして、今後は堀江氏個人の利益擁護とは別の観点から、ライブドア法人を防御する弁護人が登場するかもしれませんね。(また、誤った事実の引用や、法律適用、解釈のおかしなところなどあれば、ぜひぜひご指摘ください)

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企業秘密漏洩のリスクマネジメント(その2)

(10日午前 追記あります)

元モーニング娘。の加護チャンが深夜レストランでの喫煙シーンを撮影され、プロダクションは本人の番組降板を含む謹慎処分を決定し、「管理不行届を猛省している。今後このようなことのないよう、十分管理監督いたします」と発表しました。さて、本人を管理監督する、とはいったいどういったことを今後加護チャンになさるのであろうか?

一昨日、エントリーいたしましたみずほ銀行元課長の企業情報漏洩の件での逮捕を受け、みずほ銀行は同様の文章で今後の内部管理体制の強化を誓約しております。コメントをいただいたケロタさんのおっしゃるとおり、この方は前職(つまり犯行時)こそ営業店に勤務されていたものの、現在の職務が本店の内部監査室(組織図によりますと)調査役(ひょっとすると、本当に機密漏洩などを監視する部署かもしれません)、ということでありまして、みずほ銀行においては、そのショックは計り知れないものではないでしょうか。みずほ銀行の内部管理体制への取り組みなどを読んでおりましても、おそらく金融機関としての日本で最も高い水準にある内部監査体制を保持しているものと思われますし、そういった体制をもってしても、営業店舗における顧客との癒着、犯罪への加担、コンプライアンス体制への意識の希薄化といったものは回避できないところがあることを物語っているようです。そういったことを考えますと、さきほどの加護チャンと同様、これ以上に内部管理体制を強化するって、いったいどういうことをされるのか、具体的に教えていただきたいところであります。

ろじゃあさんがコメントくださったように、どうもきょうあたりの報道によると、行内にいても、先が知れてるということで、このフロント企業の代表者といっしょに事業を始めたかったようでして、行内における人間関係あたりが、内部管理体制などとは別次元で犯行の動機になっていた可能性もあるようです。(あくまでも報道内容が真実ならば・・・ということですが)ただ、それであってもいきなり顧客1200名分の情報を700枚のコピー用紙にプリントアウトして、社外に持ち出すという行動は、かなり異常と思われますが、どうなんでしょうか。金融機関の営業店舗であれば、誰でもこういった情報はアクセス可能であり、また紙ベースもしくは電磁的方法による複製作業といったものが日常茶飯に行われているとしたら、もはや対処の方法もなく、たまたまフライデーされた加護チャンの喫煙のように、見つかったのは運が悪かっただけで、どこでも流出している、といった状況になってしまってるんじゃないでしょうか。よくよく自分の仕事を振り返ってみますと、コンプライアンス委員会の委員などの提案でも、こういった事態が発生して、「さらなる内部管理体制の向上策」の考案といったものは、実は経営陣の監視義務違反にならないような方策、つまり「後ろ向きのコンプライアンス」であって、本当に会社のレピュテーションを低下させないことを目標とした「前向きのコンプライアンス」を目指しているのか、自信がなくなるときがあります。

そういった面においては、胡桃さんがコメントでご紹介いただいているような、先進技術を利用した犯罪抑止効果のある機械に頼りたくなる気持もわかります。また、アクセスに際しての情報共有化を進めて、コピーはかならず複数人によって行うような業務執行体制をとることなども検討されるところです。しかしながら、こういった運動を行内で進めるとなると、本当に社内における行員のストレス悪化につながる危険性もあるんでしょうね。一昨日のエントリーでは、私は行員の「犯罪発覚の容易性に関する認識」が抑止効果を持つのではないか、とも述べましたが、実は今回の件では、どうもフロント企業の役員ということは知らなかったようでして、純粋に企業情報を持ち出して、今後の事業に役立てようと考えていたようです。競争相手への企業情報の譲渡につきましても、業務上横領だけでなく、不正競争防止法の改正などによりまして、ずいぶんと罰則が強化されておりますので、その目的如何にかかわりなく、情報漏洩に対しては企業がキビシイ態度で臨むことを行員に周知徹底する以外には防ぎきれないのではないでしょうか。(そういった意味では、fujiさんがコメントされているように、厳罰化によって防止しなければいけない部分もあるかもしれませんね)あとは高額の予算導入による営業店舗のシステム変更以外にはありえないように思えます。こういった犯行をやろうと思えばできるけれども、おそらくすぐに発覚するであろうから、やっぱりやらない、と思えるようなシステム、そういったものが各企業の業務プロセスを見直すなかで、ひらめくかどうか、情報保護の安定性そのものが商売道具である金融機関にとっての大きな課題だと思います。

(2月10日午前 追記)

朝日新聞ニュースとして、秘密漏洩罪の罰則強化に関する個人情報保護法改正案原案が作成された旨の報道がありました。今国会に提出されるかどうかは、今後慎重に判断する、とのことです。この罰則強化の流れというのは、私の上記意見と同じ趣旨かと思われますが、今朝、コンプライアンスプロフェッショナルさんより、詳細なコメントを頂戴しておりますので、対応策のひとつとして検討してみたいと思います。相手が「フロント企業」ということですと、コンプライアンスプロフェッショナルさんのように、いくつかの対応パターンもあるかもしれません。企業としましては、社員個々の不祥事といったものは「常にありうる」と認識したうえで、リスクを最低限度に抑える手法も検討すべきでしょう。ただ、私も経験がありますが、各企業で発生しうる不祥事リスクを洗い出せと指示しても、簡単に洗い出して、対応策を創造するのはムズカシイです。どうしても日々の業務に追われて、後回しになってしまいがちです。担当者が頑張ろうしても、現場がなかなか協力してくれないこともあります。こういったところにも、企業トップもしくは担当取締役の熱意の有無が影響する、というのが実感ですね。

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2006年2月 9日 (木)

小口債権に関する企業の対応

「企業秘密漏洩のリスクマネジメント」や、法務省令モノ(会社法施行規則関連)に、たくさんのコメントをいただき、ありがとうございます。どうもコメントを拝見しておりますと、貴重なご意見(熟読検討に値するご意見)が多いようで、私がコメントをさしはさみますと、10個しか並ばないココログのコメント欄からはずれてしまうのがもったいないので、もう少しだけ「放置」させていただきます。9日午後にでもコメントをお返しするか、関連エントリーをアップさせていただきたいと思います。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

破産管財人をしておりまして、破産財団が配当可能資産を保有するケースでは、最後に配当を行う必要があります。新破産法では、この配当がずいぶんとややこしくなっておりまして、とても気を使う作業になるわけですが、財団債権や優先債権のように、他の一般債権者に優先して支払う必要のある債権者が多く、かつ金融機関だけが何十億といった債権届けを出しており、リース債権者のように、一般企業が数十万円単位の破産債権の届出をしているようなケースですと、配当率がわずかの場合、「数百円」しか配当がないことも珍しくありません。

さて、振込料を支払ってしまうと配当金がなくなってしまうような場合、こちらから債権者ごとに連絡をして、対応方法を検討するわけですが、この企業の対応がいろいろと分かれておもしろいところです。(ただし、この取扱は旧破産法下による配当を念頭に置いたものであります。)

1 郵送料を差し引いた金額分の切手を送付してください、とする企業。これは裁判所の対応マニュアルにも合致しておりまして、こちらとしても面倒がなく、一番ポピュラーな対応方法です。たとえば配当金が200円の場合、120円分の切手を配当計算書とともに送付いたします。領収書はファックスで送信してもらうことにしています。

2 郵送料相手方負担で、納付書を送ってきて、これで郵便局で支払ってください、とする企業。比較的お堅い企業によくみられるパターンです。あくまでも、配当金額ピッタリの送金手続にこだわるところでありますが、こちらの手続が面倒なため、あまり歓迎したくはありません。

3 配当計算書を送付した段階で、配当金債権の放棄手続をとってくる企業。税務処理の関係で、破産手続が終結する前に、届出債権全額を放棄する旨の内容証明通知を発送してくる企業が多いのですが、比較的個人企業に近いところでは、こういった「めんどくさいことはかなわん」といった趣旨で放棄の意思表示をしてくるところもあります。

4 振込料を自社負担することを承知のうえで、100円の振込を要求する企業。外資系の金融機関などは、このパターンが多いですね。先の納付書と比べると、あまりこちらの事務手数料が増えませんので、助かります。財務報告の信頼性を確保するための「費用」と考えておられるのかもしれません。

5 振込料を下回る配当金とわかるや、「そちらまで職員が取りにうかがいます」と言って、日時をきちんと連絡してから現金を事務所に受け取りに来る企業。立派な領収書ももらえて、こちらとしては有難いのですが、電車賃を使って、職員が2時間かけて事務所まで100円を受け取りにくる、というのは、なんとも効率性が悪いのではないでしょうか。よくわかりませんが・・・・・

6 「そんなん電話で相談せんと、勝手に切手で送りつけてくれたらええのに・・・」とぼやく企業。これもけっこう多いです。一方的な行為であったら、そのまま処理できるのに、事前に相談を持ちかけられたとなると、その債務者の行為を容認したことになってしまい、担当者の責任になってしまうことを恐れていらっしゃるのでしょうか。なんとなく気持は理解できます。

大企業、中小企業といった分類ではなく、ホントに上記のような小口債権の取扱はマチマチであります。いろいろと企業における業務の効率性やコンプライアンスが話題になっておりますが、さてこういった取扱の差異をみておりますと、企業の内部統制システムといったものも、自社の何を重視すべきか、といったところで、いろいろな考え方があることがわかります。(なお、新破産法による配当処理につきましては、大阪地裁の場合は振込手数料を先に財団債権として処理いたしますので、こういった取扱の差異はなくなりました。東京地裁では、ちょっとわかりません。念のため・・・・)

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2006年2月 8日 (水)

企業秘密漏洩のリスクマネジメント

銀行では起こりえないであろう、と言われていた「行員による裏組織への顧客情報漏洩」が実際に起こってしまったようです。みずほ銀行元課長(51歳)による顧客情報漏洩

昨年2月から3月にかけて、ということですから個人情報保護法施行前の事件ですが、どうしてこのようなことが起こったのか。昨日逮捕された宝塚市長の贈収賄事件と同じく、親しくしていた友人が別件で逮捕されたことをきっかけに問題が発覚した、ということですから、組織の内部管理体制といったものは機能しえなかった、というほかはありません。内部統制システム構築、といいましても、こういった事件の発生を食い止める有効な手段というものはすぐには思いつきません。しかしながら、今後みずほ銀行に及ぶ顧客への対応(クライシスマネジメント)や金融庁による業務改善命令による営業損失などを考えますと、明確な改善方法を検討する必要性もありそうです。

通常、営業秘密漏洩リスクといったものは、漏洩防止規定の策定→「秘密」認識の全社的共有→秘密取扱部署、統括者の特定→秘密認定、保管手順の遵守→物理的セキュリティの確保→運用のモニタリングといったPDCAサイクルを用いるところが多いと思います。

そこで、このみずほ銀行のケースで考えてみますと、秘密(顧客の取引履歴や個人情報)へのアクセス権者であったかどうかがまず問題になりそうです。「本店調査役」だった容疑者の肩書きが、いわゆる内部調査担当だったものかどうかは不明ですが、本来顧客情報にアクセスできる立場であったとすれば、なんら防止策としては機能しえなかったことになります。つぎに、物理的セキュリティにつきましても、持ち出された企業秘密が暗号化されている場合には、容易に譲渡することができないことになりますが、果たしてこのケースではどういったセキュリティが施されていたかは不明であります。ただ、一方におきまして、業務の効率性や予算を考えますと、ただ厳重にすればいい、という問題でもありません。

企業による防衛策といった面とは別に、やはりアクセス権者による漏洩の危険も考えた場合、社員ひとりひとりが「漏洩発覚の可能性とペナルティの厳格化」について認識していただくような啓蒙活動も必要になってくるのではないでしょうか。たとえば、仕事上、プライベート上の付き合いのある友人知人からの頼みごとであっても、今回のように事件が発覚する可能性はあるわけでして、また発覚した際のペナルティが割に合わないものであることまで、十分認識してもらうしか方法がないように思います。社内とは異なり、社外の知人と共謀したうえでの犯行といったものは、内部通報制度によってもなかなか発覚しにくいところが、マネジメントの難しいところです。

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監査役からみた会社法施行規則(1)

私のブログをお読みになっていらっしゃる方々は既にご承知のことと存じますが、2月7日、会社法施行規則(法務省令)が公布されました。よくコメントいただく方が、だいぶ前に「今度は3本になるよ」ってコメント頂戴していましたので、まぁ予想通りでした(・・・・しかし、どんな方が私のブログをご覧になっていらっしゃるのか、ホント怖いです)

総会担当者の方、経理の方、役員の方、中小企業の経営者の方、士業、証券会社の方などなど、それぞれ関心のある分野が異なるでしょうし、おそらくあっという間に「会社法規則解説号」が企業法務界を席巻するでしょうから、私など解説する能力も必要もございませんが、やはり自分の役職からみた会社法施行規則について一言。(おそらく「月間監査役」でもすぐに解説が掲載されると思いますが)

1 会社法施行規則の運用指針として、「法務省令案」の雑誌は残しておく

商事法務の臨時増刊号や、ビジネス法務の別冊付録として、「法務省令案」の冊子がございますが、これ、単に改正点の比較のためでなく、今後の施行規則の運用指針を探るためにも大切に利用したほうがよさそうですね。昨日のエントリーとも関係しますが、法務省令案には「訓示規定」や「努力義務」、そして「規則の目的」といったものがけっこうたくさん規定されていたわけですが、規則が3本にまとめられたことなどから、大きく省略されているところがあります。「その他、これに準ずる事項」などの例示列挙事由の該当性などを判断するためにも、法務省令案に掲載されていた指針を参考にしたほうがいい場面もありそうです。

2 「業務の適正を確保するための体制整備に関する決議事項」の監査

おそらく会社法施行後初の取締役会に向けて、今後どこの企業でも、「どうしたらいいの?」と話題になりそうな点がここではないでしょうか。施行規則が公布され、規則の施行日と会社法の施行日が同じ日に設定されているわけですから、これから開催される取締役会で会社法が施行される日に決議の効力が発生するように、将来効のある(停止条件付き)取締役会決議をあらかじめとっておくこともできそうです。なお、監査役の監査業務が適正に行われるような仕組み自体もこの体制に含まれるということですから、体制整備の監査というだけでなく、体制作りにも監査役は一部加わるということでしょうね。しかし、内部統制構築の議論によく出てくる「業務執行の効率性」監査というものが、会社法上は「取締役の職務執行の効率性」だけに限られて、会社全般に及ぶ業務執行の効率性までは監査の対象とならないのか(それは内部監査担当者の業務なのか)、損失の危険の管理に関する規程その他の体制といったものの監査は、いわゆる狭義のリスクマネージメント基準の範囲でよいのか、それともクライシスマネージメントまでを含むものなのか、など、その監査範囲についても、企業によって判断の自由度がかなり高いのではないでしょうか。

3 事業報告に関する監査

敵対的買収防衛策の妥当性監査とか、監査役自らの一年間の活動状況の監査とか、会計監査人との連携(会社法施行規則では、監査役候補者は財務、会計などの識見が高いことを要求しているように読めますが、いかがでしょうか)など、どうやって事業報告書の適正であることを監査すればいいのか、現時点ではよく理解できません。おそらくこれから、いろんなところで議論されていくことでしょう。また、電話会議などを含む「監査役会のあり方」なども、社外監査役による出席状況、発言状況などが事業報告書に記載されるということであれば、今後早急に検討されるべき課題ではないでしょうか。会社債権者や株主へ情報を的確に開示することで「理想的なコーポレートガバナンスを構築する」ためには、監査役が善管注意義務を尽くすための「最低限度の業務」とは何か、を考えることも大切でしょうが、せっかく監査役の業務の自由度が増えるわけですから、IR活動にまで結びつくような積極的な企業価値向上策につなげていきたいものですね。(不定期にてつづく)

※ちなみに、ぴてさん(ぴてのひとりごと)が、施行規則のうち、インターネット掲載に関するエントリーを、またぐっぱるさんが、業務の適正を確保するための体制整備に関するエントリーを、さっそくアップされています。こういった「会社法施行規則ネタ」がございましたら、TBしていただけますと、たいへん刺激になりますので、どうかお気軽にお願いいたします。

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2006年2月 7日 (火)

会社法施行規則公布前夜の疑問

葉玉検事さんのブログによりますと、いよいよ会社法施行規則が正式に公布されるようですね。(これで正式に会社法の施行日も決まるということになりますね。)社外監査役という立場から注目点を探してみますと、監査役監査の範囲、社外監査役の事業報告における開示内容簡略化などが法務省令案からの修正があるようです。また、取締役会としましては、業務の適正を確保するための体制整備に関する決議事項も、若干の修正を経てやっと内容が確定することになりそうです。(また、正式な規則が公表された時点で検討してみたいと思っています)

ところで、いままであまり意識してこなかったのですが、こういった「会社法施行規則」というのは、法務省が法(会社法)による委任のもとに発令する「命令」(行政法上の用語として)に該当するわけでありますが、この「命令(法規命令)」に違反する株式会社の行為に対してはどういった制裁(法的効果)が加えられるのでしょうかね?現行の商法規則といったものは、商法による委任に基づいているわけですが、規則の対象とされている細目が非常に明確になっておりますのであまり問題にはならなかったわけですが、このたびの会社法施行規則では、会社法全体に及んで300ほどの委任事項を統括しているものですから、なかには会社の権利義務の範囲を明確にしている規則や、法令の解釈指針となっている規則(行政規則の範囲?)法令の実施手順を定めた規則などが混在しているように思われまして、「果たしてこの条文って、ほんとに法令による委任の範囲内?」と疑問に思えるものが散見されるのではないでしょうか。第一、パブコメへの法務省の回答などを閲覧しておりますと、会社法施行規則(案)124条の「責任追及訴訟における訴え提起の方法」などは、そもそも法務省自らが「訓示規定」と認めている条項を取り入れていた(ただし修正される見込み)わけですから、その法的拘束力というものはないわけです。つまり、会社法規則のなかには、そもそも法的拘束力を有するものと、そうでない訓示規定、努力義務、精神規定といった「違反しても法的効果を伴わないもの」も含まれていると解釈してよいのでしょうか?また、たとえ一見すると法的拘束力を有するようにみえる規則であっても、会社法の解釈や、立法意思の推測などから、規則の内容が「法の委任の範囲外」といった施行規則も含まれている可能性があり、「この規則は会社法違反の規則だからしたがわない」といった対応も考えられるのではないでしょうか?たとえば、会計監査人設置会社において、事業報告書の監査を行うのは監査役のみでありますが、会社法が「社外役員」に独自の意味を持たせていることまでは理解できるものの、開示情報として、ここまで詳細に社外役員の活動報告を事業報告書に記載することは「法の委任の範囲外である」と解釈して、活動報告を簡略化した事業報告書を適法として監査報告することも可能なんでしょうか?あるいは「これは訓示規定だから今後努力はします」とだけ報告しても適法なんでしょうかね?

有価証券報告書における開示情報ということでしたら、上場廃止といったエンフォースメントが働くわけですが、会社法施行規則違反といった行動は、果たして法的拘束力によって強制されるものなのかどうか、あんまり考えたことがなかったもので、ちょっと疑問に感じました。(おそらく今回の規則の中身を見た人のなかで、私と同じような疑問をもった方もいらっしゃるんじゃなかろうか、と期待しておりますが・・・)

(追記)

さっそく7日朝から法務省のHPでリリースされていますね。雑誌や特集号で、開示情報のひな型とか、解説とか、いろいろと忙しくなるんでしょうね。

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2006年2月 6日 (月)

ライブドアへの民事賠償請求(考察)

(2月6日お昼に追記あります)

少しばかり、ライブドア問題から離れておりましたが、いよいよ東京の弁護士法人が、ライブドアを提訴するための原告株主をブログで募集されていたり、また新聞報道やいろいろなブログなどで「ライブドアへ賠償請求することの可否」などについて議論されることも多くなりつつあるようですので、すこしばかり私なりの意見をまとめておこうかと思います。いつも申し上げているところでありますが、ここに記載したものは、私個人の意見でありまして、投資に関する有益な情報を提供する目的ではございませんので、あしからずご了解ください。

1 ライブドアへの民事損害賠償請求の法的根拠

まず、あらかじめ仮定しておかないと話が進みませんので申し上げますが、ライブドア本体が「粉飾決算」を行っていた、といったことが前提となります。いま民事損害賠償で話題になっておりますのは、ライブドアの個人株主さん方が、このたびの刑事問題による株価急落によって大きな損害を被っている、そのために損害賠償を求めたい、といったあたりでしょうから、ライブドア本体に対する株主からの責任追及といった視点で考えてみたいと思います。また、フジテレビのように、株式保有にあたってライブドアと個別の契約を締結しているような株主については除外いたします。(フジテレビあたりは、そもそも売却したくでも、できない状況にあったと思われますので。ただし、「フジテレビの思惑はどこに」のエントリーにおきまして、「辰のお年ご」さんが非常に有益なコメントを残していらっしゃいますので、フジテレビの第三者割当増資に関連する損害賠償請求の法的根拠につきましては、そちらをご参照ください)そういたしますと、法人の役員の不法行為責任に基づく法人への責任追及(民法44条、709条、715条)あたりが最もオーソドックスな法的根拠ではないか、と考えられます。

こういった不法行為責任によってライブドア本体の賠償請求を基礎付ける場合、原告株主の方々がクリアしていかなければいけない問題はいろいろと山積しているように思いますし、こういった問題点を原告代理人がどのように乗り越えていくことができるのか、非常に興味深いところであります。

①「粉飾決算」の特定 

株価に影響を与えるほどの「重要な部分に関する」虚偽記載があったとされる決算は、果たしてどの有価証券報告書の、どの部分を指すのか、明らかにする必要があります。刑事事件で証券取引等監視委員会が告発の対象とする「粉飾決算」はいろいろな目的によるものを含みます。経営環境が悪化していたために、株価上昇を目的として不実の記載をしたようなケースであれば比較的特定部分は明らかですが、今回のライブドアのケースでは、倒産の危機を脱するために粉飾を行ったことが目的だったのか、積極的なM&Aに乗り出すために粉飾を行ったのか、そのあたりはまだ不明なままですから、株価変動に影響を与えた粉飾とは一体どの部分が重要であったのか、これを特定する作業が必要になってくると思われます。

②株主の受けた損害とは?

最も関心の高いところだと思いますが、検察庁や証券取引等監視委員会の強制捜査の前後における株価変動を基準に「損害」額を算定したいというのが現実ではないでしょうか。ただ、この考え方を採用するには、すこし問題点を克服する必要がありそうです。第一に、なんといっても強制捜査の被疑事実はライブドアマーケティングの偽計取引、風説の流布に関するものであって、ライブドア本体の粉飾決算に対する容疑ではありません。ライブドアの関連会社の強制捜査によって、「これからライブドア本体もアブナイ」といった見方が広がって株価が急落したわけですから、そもそもライブドアの株価が下がったのは、検察庁の捜査によるものではなく、あくまでも市場の論理によるものであります。したがいまして、逆の見方をすれば、現在のライブドア本体の株価が、ライブドアの真の価格を表しているという保証もありません。第二に、証券取引法においては、課徴金制度が新設されておりますが、粉飾決算が行われた場合の企業本体への課徴金の金額算定は「不当利得」をもとに算定されている、と言われております。つまり、粉飾によって会社にためこんだ利益を吐き出させるといった思想のもとで算定されているわけですが、そこでの基準というものは、粉飾決算の行われた前後の時期において、粉飾が行われた場合とそうでない場合との株価予測の比較、というものを念頭に置いています。(詳細は省略いたしますが)課徴金制度というものは、懲罰的な意味を持つとなりますと、憲法の定めた二重処罰禁止(刑事処罰を二重に課すことは許されない)の思想に抵触するおそれがありますので、説明としては「実効性の上がらない民事賠償制度の補完」を主たる制度目的としておりますので、そういった制度趣旨のタテマエとの比較からみましても、「検察庁登場の前後」で損害を検討する、といった考え方は(課徴金制度との整合性といった点から)すこし苦しいところがありそうです。また、第三に、検察庁登場の前後で損害額を算定しようとしますと、登場前の株価、つまり粉飾決算によって形成されていた株価を株主が正当に享受しうることが前提となります。しかしこの考え方は、不当な粉飾決算によって形成された株主の利益そのものを法的に保護することになってしまい、粉飾決算そのものを(裁判所が)容認していることになってしまうんじゃないでしょうか。こういった疑問点が呈されるところでありまして、問題点をクリアしていくことはかなり困難な部分もありそうです。

③粉飾決算と損害との相当な因果関係

たとえ①および②の問題点をクリアできたとしましても、ライブドアの経営陣におきまして、将来的にライブドア子会社の刑事問題に発展すること、またそのことによって市場が株価急落という相場をつけること、粉飾時における株主らが、長期的に株を保有していることへの予見可能性があったと評価できるかどうか、このあたりも微妙な問題を含むものと思われます。

2 法的根拠その2(改正証券取引法21条の2)

現実には、あまり証券取引法上の民事賠償制度といったものは活用されていないのですが、継続開示資料に虚偽記載をした会社本体の無過失責任を規定しているのが、証券取引法21条の2であります。この規定によりますと、有価証券報告書(半期報告書を含むが四半期報告は含みません)に不実の記載をした上場企業自体の無過失責任を問うことが可能となります。また、損害額も推定されておりますし、事実上因果関係についても立証責任が転嫁されておりますので、原告株主にとりましては、この証券取引法上の法的根拠を利用するほうが得策のように思われます。ただ、この規定による損害賠償請求につきましても、以下のような問題点を考慮する必要があろうかと思われます。

①粉飾決算の時期

上記の改正証券取引法は、平成16年12月に施行されたものですから、適用は遡及されませんよね。(まちがっておりましたら、ごめんなさい)つまり、継続開示資料への粉飾決算の行われた時期が平成16年12月以降でなければ、ライブドア本体の粉飾決算へ応用することがムズカシイのではないか、と推測されます。(もちろん、新株発行時における目論見書などへの粉飾、といった点が問題となるケースですと、すこし話は変わってきますが。あくまでも継続開示資料への粉飾ということを問題にしております)

②「公表」の解釈問題

上記の改正証券取引法21条の2で、無過失責任が追及できるのは、粉飾の事実が「公表された」場合に限定されます。つまり、ライブドアの社長である平松氏が今後、「当社のいついつの有価証券報告書の記載事実には虚偽があった」とリリースしてくれるとわかりやすいのですが、なかなか期待できないのではないでしょうか。先日も、有価証券報告書と決算短信の数字が合わないと指摘された際に、すばやく決算短信の数字に誤りがあったとのリリースはされましたが、有価証券報告書の数字に誤りがあったとは公表しておりませんでした。さて、ライブドア本体を離れて、それ以外に「公表」と解釈される場合があるか、と考えますと、おそらく粉飾決算を問題とした刑事事件で、裁判が有罪と確定された場合が考えられそうですが、それはかなり先のことでしょうし、すぐに民事訴訟のなかで活用できるかといいますと、なんとも心もとないかぎりです。

③損害請求権者の限定

また、上記証券取引法21条の2によって、無過失責任を追及できる原告株主は、「公表のあった以前1年以内に株式を取得した者」に限定されます。つまり、公表される日時が問題となるわけでして、もしこの先、ずいぶんと先の日を「公表日」と解釈されますと、このたびの検察庁登場による株価急落によって損をされた株主の方々にとっては、この無過失責任によってライブドアを追及することが困難ではないか、と予想されます。

おそらく、ライブドア本体に関する証券取引等監視委員会による告発がなされますと、東京証券取引所は上場廃止の手続に入ることが予想されますし、そうなってしまいますと、ますますこの証券取引法による民事救済手続きを適用する場面といったものが制限されるようにも思われます。さて、私自身の個人的な見解を以上のとおり述べてきたわけでありますが、こうやって民法や証券取引法に基づく法的根拠を眺めてまいりますと、原告株主にとってキビシイ民事裁判になりそうな気もする反面、現行法の制度の「穴」をみつけて、ライブドア本体への賠償請求権および保全処分の対象となる「被保全権利」を組み立てる方法といったものも、ありそうですね。ただ、いくら場末のブログと申しましても、今後の現実の裁判に影響を与えかねない指摘は避けておきたいと思いますので、証券取引等監視委員会の告発事実が特定されるまでは、ちょっと冷静に眺めております。(ツラツラとひとりで検討していたようなことなんで、また基本的なところで考えのおかしいところとかございましたら、指摘してください・・・・・ご批判、ご意見、大歓迎ですので・・・・・)

(参考 証券取引法21条の2)

1 第25条第1項各号に掲げる書類(以下この条において「書類」という。)のうちに、重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているときは、当該書類の提出者は、当該書類が同項の規定により公衆の縦覧に供されている間に当該書類(同項第8号に掲げる書類を除く。)の提出者又は当該書類(同号に掲げる書類に限る。)の提出者を親会社等(第24条の7第1項に規定する親会社等をいう。)とする者が発行者である有価証券を募集又は売出しによらないで取得した者に対し、第19条第1項の規定の例により算出した額を超えない限度において、記載が虚偽であり、又は欠けていること(以下この条において「虚偽記載等」という。)により生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、当該有価証券を取得した者がその取得の際虚偽記載等を知つていたときは、この限りでない。

2 前項本文の場合において、当該書類の虚偽記載等の事実の公表がされたときは、当該虚偽記載等の事実の公表がされた日(以下この項において「公表日」という。)前1年以内に当該有価証券を取得し、当該公表日において引き続き当該有価証券を所有する者は、当該公表日前1月間の当該有価証券の市場価額(市場価額がないときは、処分推定価額。以下この項において同じ。)の平均額から当該公表日後1月間の当該有価証券の市場価額の平均額を控除した額を、当該書類の虚偽記載等により生じた損害の額とすることができる。

3 前項の「虚偽記載等の事実の公表」とは、当該書類の提出者又は当該提出者の業務若しくは財産に関し法令に基づく権限を有する者により、当該書類の虚偽記載等に係る記載すべき重要な事項又は誤解を生じさせないために必要な重要な事実について、第25条第1項の規定による公衆の縦覧その他の手段により、多数の者の知り得る状態に置く措置がとられたことをいう。

4 第2項の場合において、その賠償の責めに任ずべき者は、その請求権者が受けた損害の額の全部又は一部が、当該書類の虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことを証明したときは、その全部又は一部については、賠償の責めに任じない。

5 前項の場合を除くほか、第2項の場合において、その請求権者が受けた損害の全部又は一部が、当該書類の虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことが認められ、かつ、当該事情により生じた損害の性質上その額を証明することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、賠償の責めに任じない損害の額として相当な額の認定をすることができる。

(追記)

今朝の日経新聞の「スイッチオンマンデー」を読みましたが、ほとんど記事内容とエントリーがかぶってしまいました。背景事情なども日経新聞に詳しく掲載されております。ねんのため。(やはり世間では話題になっているんですね)

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2006年2月 3日 (金)

太陽誘電「温泉宴会」と善管注意義務

昨日のエントリー「太陽誘電の内部統制システム」には、たくさんのコメントを頂戴いたしまして、ありがとうございました。太陽誘電の株価は前日比-9円(1831円)で落ち着いており、市場では平静に受け止められたようです。コメントでは、たいへん有益なご意見が多かったようで、またきちんとご返答させていただきます。

さて、昨日紹介しました太陽誘電の「代表取締役異動のお知らせ」ですが、今日になりまして若干修正されております(修正分はこちらです)。

経費の支出が代表者の個人的利得のための支出である、ということであれば、現商法486条の「特別背任罪」の構成要件に該当する行為である可能性が高くなってしまいます。

第486条 発起人、取締役、監査役又ハ株式会社ノ第188条第4項、第258条第2項若ハ第280条第1項ノ職務代行者若ハ支配人其ノ他営業ニ関スル或種類若ハ特定ノ事項ノ委任ヲ受ケタル使用人自己若ハ第三者ヲ利シ又ハ会社ヲ害センコトヲ図リテ其ノ任務ニ背キ会社ニ財産上ノ損害ヲ加ヘタルトキハ10年以下ノ懲役又ハ1,000万円以下ノ罰金ニ処ス

もし代表者の温泉宴会が、自己の利得を図る目的で任務違背行為に及んでいたとするならば、会社としても告訴せざるをえず、また刑事罰に該当する行為ということであれば、おそらく取締役の善管注意義務違反行為が明白となってしまって、代表者が非常に苦しい立場に立たされてしまいます。(たとえ100万円を返済する意思があるとしましても、犯罪行為をそのまま黙認する企業の態度というものも、やはりコンプライアンス理念に悖るかもしれません)そこで、前日の表現では代表者も会社もマズイ・・・とお考えになったのか、修正分では「通常妥当と考えられる範囲を越えており、会社の費用として認められない部分があった」との表現のみに変わっております。たとえ取締役が任務違背行為に及び、会社に財産的損害を与えたとしましても、その行為が会社のために行われたものと認められる場合には、特別背任罪は成立いたしません。このたびの代表取締役の「温泉宴会」につきましては、たしかに善管注意義務違反かどうか問題のあるところですが、ともかく接待相手との取引拡大を狙って「交際費」「接待費」として消費したところは、すべて代表者として会社の将来を思って行ったところであり、けっして自分の利益取得や会社財産へ損害を与えることを目的として行ったものではない、ただコンパニオンを付けての宴会(夕刊フジの記事に基づく情報です)については、その接待費、交際費の使途としては常識の範囲を超えるものとして、企業のトップの姿勢として非難されるべきである、といった趣旨に変更されたものとみています。

さて、こういった趣旨の文章に変更されたことは理解できるのですが、それでは果たして温泉コンパニオン宴会を行ったことについては、代表者に善管注意義務違反行為はあったのでしょうか?この温泉宴会というものが例年の慣行となっており、取引相手方との取引継続に重要な行事であったとするならば、たしかに「みっともない行為」と非難されることはあろうかと思いますが、会社の収益には貢献している行為であって、それを善管注意義務違反である、と断定するのはすこし勇気がいるところではないでしょうか。このたびのケースでは宴会費用100万円が自主的に返還される、ということですから、これ以上の問題には発展しないと思われますが、もし「俺は辞任はするが、会社のためにやったんだし、収益向上にもなっているんだから返さない!」と言ったときには、この代表者に対して損害賠償請求をしなければ、監査役や他の取締役に監視義務違反が発生するのかどうか、このあたりが思案のしどころのように思います。

それでは、さらに「会計的」にみて、こういった「みっともない温泉宴会費用」といったものが、もし企業収益との関連性を肯定できる場合には、一応「接待費」として計上しても、財務情報の真実性に合致しているかぎりは、それ自体は違法な会計処理とはいえないのではないでしょうか。つまり不正支出があったとしても、そのことだけで会計上の違法性があったと認識することはできないようにも思われます。そこで、昨日のコメントで出てまいりました「質的重要性」を検討する必要があるのでしょうね。たとえば、温泉宴会費用といったものが、全体の企業規模からして損失が極小であったとしましても、他の会計科目の信憑性に著しく関連していたり、次年度以降の企業活動に多大な影響を与える可能性がある場合などは、その質的重要性は大きいものと判断され、これは違法な会計処理に該当するのかもしれません。たとえば「業績向上のための経費見直し」といったスローガンのもと、全社挙げて経費の節減に精力を注いでいる最中に、社長自ら温泉宴会三昧、といったことでは、そのこと自体に収益との関連性が認められたとしても、社員に与える士気減退の影響力や、内部通報を発端とする社内スキャンダルに見舞われて、レピュテーションバリューを大きく損なうリスクが大きい場合などには、やはりその「質的重要性」が無視できないものとなり、会計上の処理としては違法と判断されることになりそうです。そこで、このような「みっともない行為」を黙認して、不正な支出をそのまま接待交際費として計上することに異議を出さない監査役としては、やはり監査役としての監視義務違反に問われる可能性がでてくるように思われます。したがいまして、監査役としましては、取締役に善管忠義義務違反があったかどうか不明瞭な場合であっても、不正な支出における質的重要性といった観点から、とりあえず取締役会に報告をして、不正支出の排除に関する善処を求める対応が必要になってくる、と考えた次第です。

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2006年2月 2日 (木)

太陽誘電の内部統制システム

東証一部上場の太陽誘電の代表者が、本社および子会社の経費を不正使用したとして、監査役会からの指摘を受けて辞任された、とのニュースがありました。

日経ニュース  河北新報ニュース  太陽誘電のIR(代表取締役異動のお知らせ)

新会社法下における内部統制システムの効果が発揮された、まさに教科書的な事例に思えます。それもそのはず、監査役会を構成する(非常勤)社外監査役のお二人は、会社法の教科書を執筆されている弁護士(大学の学長)、公認会計士(法政大学アカウンティングスクール教授)の方がたですから、「教科書的」なのもうなずけます。

ちなみに、教科書的に申し上げますと、代表者の業務執行に対する内部統制システムというのは、「不正の行為」「法令・定款違反」「著しく不当な行為」「著しい損害のおそれ」に触れることがないように、適切なシステムを構築すること、をいいます。なかでも「不正の行為」というのは、代表者の信認関係違背によって会社財産に損害を与える行為、と定義されます。子会社との「非通例的取引行為」というのは典型的な不正行為温床の場とされておりまして、親会社費用の負担要請の事実をどのように調査すべきか、その企業の業態などから、企業ごとに検討をしていきます。とりわけ内部通報制度(ホットライン)の親子会社共有の広報が有効であることが多いようです。

このたびも、監査役会による調査の発端となったのが内部通報制度による告発とのこと。代表者の不正支出事例というのは、取締役からの指摘がされにくいといわれ、「内部統制システムの限界」と称される部類に属する、きわめてコンプライアンスルールが効きにくい場面であります。しかも東証一部上場企業である電子部品老舗メーカーの8回の宴会費用「100万円」が問題となるわけですから、会計監査という視点からみても、不正が企業の財務報告に及ぼす「重要性」や、地域商工会との宴会の「費用性」といったところから判断いたしますと、「これくらいなら・・・」といった考えが経営陣には存在していたのかもしれません。しかしながら、(推測だけで判断するのも差し障りがあるかもしれませんが)企業コンプライアンスの企業への浸透は、なによりもトップのコミットメントにかかっているのは間違いないところですし、その重要性を早期段階で監査役会が社内外に示した、といっても過言ではないと思います。昨年来、太陽誘電は株価高騰でありますが、こういった内部統制システムの効果といったものが、株価にどのように影響するのか、興味深いところです。

この内部通報制度ですが、子会社の経費負担もあったようですから、親会社の社員だったのか、子会社の社員だったのか、そのあたりも知りたいところであります。ホットライン規則を作ってみたものの、社内にその存在さえ知られていない、といった企業もあるようです。取締役会の内部統制システムを機能させるものは、監査役すら「握りつぶせない」システムを持つホットラインかもしれません。ともかくも、監査役会の方達の英断に、これからのガバナンス論進化へ一石を投じた意味で、深く尊敬申し上げます。

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2006年2月 1日 (水)

ドンキの目指す「次世代コンビニ」とは

すでにいくつかのブログで話題になっておりますので、詳細は省きますが、「ドンキ」が「オリジン東秀」に株式公開買付を行ったところ、「イオン」がホワイトナイトとなって登場した、というお話です。東証1部上場企業どうしのTOB競合は日本ではじめて、とのこと。(そういえば、ホリエモン監修にかかる「人生ゲームM&A」では、たしかホワイトナイトの防衛カードが5点で一番高い点数だったと思います。ちなみに企業買収に詳しい弁護士カードは2点です。。。関東でも「ドンキ」と表現するんでしょうかね?大阪では「マクドナルド」→「まくど」、「吉野家」→「よしぎゅう」、「ミスタードーナッツ」→「みすど」、「ファミリーマート」→「ふぁみま」と表現しますので、当然に「ドンキ」なんですが、関東のことは存じ上げません)

私個人はドンキの大ファンでして、「羽曳野(はびきの)ドンキ」の、あの猥雑とした雰囲気をこよなく愛する者のひとりであります。名物「18禁コーナー」の「ぞうさんパンツ」など、いったい誰が買うんやろか・・・と、ひとり深夜に物思いにふけりながら、帰宅途中に立ち寄ったりするのがまた たまらない気分転換のひととき であります。

このたびのドンキの公開買付に関するリリースを読んでおりましたが、オリジン弁当(惣菜)との企業提携によって、次世代コンビニへの足固めを図るとのこと、双方にとって大きなシナジー効果を生むのは間違いないとのことが、載っておりました。またまた、企業価値を判断する専門家ではございませんので、これまでフランチャイズ契約紛争を手がけた弁護士、もしくは中食を含む外食産業の社外役員としての経験からしかモノが言えない立場ではありますが、このドンキが宣言する「次世代コンビニ」とはどんなものなんでしょうか?リリースでは、はっきりとセブンイレブン、ローソン、ファミマに対抗する!っと書いてありますから、現在主流のコンビニを超える存在になる、といったことかと思いますが、買収プレミアムを払ってでもシナジー効果が上がるといったプレスリリースにしては、あまりにも構想が抽象的ではないかな、と思いました。

そもそもセブンイレブンやファミリーマートなどの主流コンビニに対抗する、といったことが無理ではないか、と。あのビジネスモデルは、日本最先端のPOSシステムと販売代行システム、全国ロード別売上予想マップ、地主にギリギリのリスクを負担させる借り上げ方式、そしてなによりも採算の合わない店長経営者の献身的長時間労働に支えられて成り立っているはずですから、次世代コンビニを可能にできるのは、唯一現在の主流組だけであって、サークルKサンクスの合併を見れば一目瞭然なはずです。そこをどう克服されるのか、具体的な施策がないとまったく説得力に乏しいものとなります。

また、すでに3店舗ほど、ドンキの店舗内でオリジン弁当を販売しているが芳しくない経営成績に甘んじている、とのことですが、それがどこに原因があるのか、双方で検証したような説明もなければ、分析による課題克服方法すら記載されていません。突然23パーセントもの株式を取得され、しぶしぶ提携事業を始めたオリジン側からすれば、積極的な分析をしないことも理解できますが、本当にシナジー効果を高める気持を持っていれば、なんでもっと真摯に検証しないのか、とドンキ側の株主なら考えると思います。24時間経営の店舗などで「中食」重視を謳うのであれば、ショップ99のような低価格食品販売のビジネスモデルを参考にするのが定番でしょうが、そういった実現可能なビジネスモデルを検証したような形跡もありません。こういったところから推測いたしますと、ドンキ側として真剣にオリジンの企業価値を高めることで株主価値の最大化を検討されているかどうかは、疑問に感じたような次第であります。(あくまでも、素人の一株主の感想としてお聞きくださいませ)

ドンキをこよなく愛する者としましては、あの「おもちゃ箱をひっくり返したような」楽しさ、を失ってほしくないですし、ドンキの名前をはずして新店舗展開をはかるよりも、あの悲しい事件の記憶を少しずつ払拭するような「ドンキ」の名前のイメージを変えていける長期戦略でがんばってほしいと願っております。

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