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2006年2月27日 (月)

内部統制と新会社法(1)

私が社外監査役を務める株式会社も、いよいよ「新会社法」の施行を予定した動きが目立つようになりました。すでに6月の株主総会の運営についても(旧法、新法)検討済みですが、会社法362条4項6号、5項への対応につきましても鋭意準備中でありまして、とりわけ財務報告の信頼性に影響を与える(使用人の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制)重要な内規、規約の改定作業に追われている状況です。もちろん、会社法施行までに体制整備を行わなければいけないわけではありませんが、(体制整備に関する事項を決議すればよい)まずは規約と企業内の業務執行の実務との乖離が生じている部分は最低限度、修正しておかなければなりません。とりあえず、監査法人からアドバイスをいただくこともできませんので、外部から公認会計士の方をコンサルタントとしてお招きしたうえで、財務報告の信頼性に重要な影響を与える規程の選択、実務とISO取得時における実務指針との整合性、業務執行プロセスの明確化と、その実務にあわせた規約の変更などなど、一連の作業を進めているところであります。また、このあたりの作業は、会社法における内部統制システムの構築と、金融庁主導による内部統制システム構築提言と、ほぼ重複するところではないかと予想しておりますので、もっとも効率的な整備を可能とし、かつ企業不祥事を防止するには効果的である、と判断いたしました。

さて、昨日紹介させていただきました野村総研のアンケート結果によりますと、まだまだ体制整備が完了した、と言える企業も少ないのではないかと思いますが、「取締役や従業員の職務が法令定款に適合することを確保する体制の整備」といいましても、おそらく人的、物的設備を具備しただけでは「整備」したことにはならないかもしれませんね。なぜかといいますと、いくら立派な体制を整備したとしましても、普段のモニタリング機能(整備状況が目的達成のために効果的に運用されているか、また業務上のリスクを低減するための仮説を検証しうるデータを生み出しているか)が発揮されていなければ、取締役の忠実義務を尽くしたことにはならないでしょうし、取締役会の専権事項とされている関係からみて、そのモニタリングの報告が、担当取締役より、取締役会に上程審議されていなければならないからです。おそらくCOSO報告書によるマネージメントを念頭に置いたものであるならば、こういったシステムまで含めて「体制」と捉える必要があるでしょうし、そうであるならば、「整備する事項を開示して、その開示内容に沿って作ってしまえば一件落着」にはならないはずです。

そもそも会社法施行規則公表以前のパブコメ案(法務省令案)にありました第一条(施行規則では削除されております)では、この「株式会社の業務の適正を確保する体制に関する法務省令」は、我が国の株式会社の企業統治の質の向上に資することを目的とする、とありました。体制整備そのものの行為規範性も重要かもしれませんが、この目的からみますと、整備を決めた体制とはどういったものなのか、常に株主の監視の下に置くために「事業報告によって開示すること」も同様に重要なのだと思われます。おそらく今後は、事業報告や普段のIR活動のなかにおきまして、体制整備に関する進捗状況とともに、その体制の運用状況についても開示されなければいけないでしょうし、そういった開示によって初めて内部統制システム構築が良質な企業統治と関連付けられることになるのではないでしょうか。

でも、企業としては「体制整備事項」については、IR活動として、なるべくいろんなことを書きたいという気持になるかもしれませんが、一方においてはたくさんのことを書いてしまいますと、後で株主からキビシイ指摘を受ける可能性も高まってくるわけでして、そのあたりのバランス感覚のようなものも必要かもしれません。なお、これまでも大和銀行事件などに代表される、いくつかの司法判断におきまして、「内部統制構築義務違反」といった争点が出ておりますが、こういった体制整備事項の取締役会専権化、整備事項決議の義務化によって、取締役の善管注意義務違反といったもの(任務懈怠責任といったもの)が特別に認められやすくなるのかどうか、そういったあたりを次の機会に考えてみたいと思います。(私は、この内部統制というものを会社法のレベルで検討した場合、憲法の勉強に出てくる制度的保障の理論に近いものを想像してしまいます)

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コメント

toshi先生

特別取締役制度の導入なども、体制の整備に関する事項だと説明されているようですが、執行の効率化を求めるあまり、社外取締役の意見聴取の機会を阻害するおそれがあるように思いますが、いかがでしょうか。金融法務事情などの座談会記事では、そういった社外役員への説明責任を尽くす必要性を排除するためにも利用可能といった解説もされているようですが。
またお時間のあるときにでも、ご意見をお聞かせください。

投稿: unknown | 2006年2月27日 (月) 11時44分

>unknownさん

コメント、ありがとうございます。
いわゆる重要財産委員会の廃止にともなって導入される決議要件ですね。書面審理制度なども決議要件に含まれるでしょうから、意思決定の効率化のための工夫のひとつになりそうですね。(ただし、重要財産委員会と同様、本当に実務に根付くかどうかは疑問ですが)
金融法務事情の記事につきましては、まだ読んでおりませんので、何もいえませんが、またちょっと検討してみたいと思います。社外取締役の意見の反映を疎外してまで効率化をはかるべきなのかどうかは、すこし疑問がありますので。
また、詳細がございましたらお教えください。

投稿: toshi | 2006年2月28日 (火) 11時05分

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