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2006年2月12日 (日)

法律事務所のハコ

3月に行われる講演会の打ち合わせのため、大阪でも著名な大所帯の法律事務所(弁護士法人)におじゃましました。

高層ビルのかなり高いところの2フロアーなんですが、受付からビックリ!だったんですが、通された会議室も超ビックリ!!大阪の都心部が一望に見渡せる3面ガラス張りのすばらしいお部屋。。。弁護士会の新会館を見下ろすロケーションとは、なんと贅沢な・・・思わず自分がトム・クルーズになったような(ちと、古いか?)気分になってしまいました。

しかし、こういったすばらしい事務所を維持するというのは、さぞやクライアントから・・・・、などと考えておりましたが、いやいや、これはおそらく私が経営者的発想ではないんでしょうね。売上があるから、こういった事務所を構えることができる、というのではなく、まずこの事務所を構えて、ここへクライアントへお越しいただき、ここでビジネスとして見合うパートナーと商談をする、といったイメージのほうが正しいのかもしれません。

ここ数年、会社関係のお仕事をさせていただく機会が増えまして、いろんな財務関係の話などもお聞きすることが多くなりましたが、ようやく最近、お金の有効利用といった感覚がすこし理解できるようになりました。そもそも、弁護士の仕事といいますのは、(これは一般論でありますが)独立開業してランニングコストさえ支払えば、あまり元手のいらない商売ということでして、「儲かったら」事務所を拡張したり、事務職員を増やしたり、勤務弁護士を雇用する、といった感覚で経営をしているところが多いと思います。この感覚ですと、ボチボチの経営だと、普通に生活費を捻出して、毎日せっせと働くといったパターンです。もちろん、消費者保護だったり、刑事問題だったり、人権擁護のために好きな仕事ができるといった「贅沢」を味わうことはできるのですが、所得といったことからみると、そんなに美味しい商売ではないはずです。(たぶん・・・・)

私のビジネスパートナーの方から言われたのは、(ちょっと極端ですが)「日本の弁護士は、8割の所得を2割の弁護士が山分けして、2割の所得を8割の弁護士が取り合っている」とのこと。「そんなことないよね~~」などと軽く考えておりましたが、最近、「そんなことあるかもぉ・・・」と思い直したりしてます。そもそも、全国の弁護士が同じビジネスモデルで仕事に励んだとして、優秀な方が集まる事務所とそうでない人が集まる事務所では、同じパイを取り合ったって、2対1くらいが関の山だと思います。(これは私の16年の経験からくる勘ですが)ところが、新しいパイを増やす努力を怠らない一部の弁護士さんたちがいらっしゃって、その方々が新たにできたパイの部分を独占しているとしたら、理屈としても先の比率にはなっちゃうんじゃないでしょうか。たまたま企業法務のほうへ足を突っ込んだことで、すこしばかり理解したことは、このパイを増やすほうへ努力をされている弁護士の方々は、ビジネスモデルそのものが違うように思えてきました。たとえボス弁護士さんであったとしても、「私の事務所」といった感覚ではなく、「私の帰属する法律事務所」といった感覚で、まず借金をして、人と情報とスタイルに先行投資をして、キャッシュフローで法律事務所というハコを運営する。勇気を持って、この投資活動に進んでいくと、ときには失敗もするけれどもお金の有効活用を学び、また格差が拡大する、といったようなことの繰り返しで、今に至っているような気がします。

もちろん、弁護士の仕事は人権擁護と社会正義の実現のために職責をまっとうすることが第一義ですし、「お金儲け」が主たる目的ではありませんが、これから飛躍的に法曹人口が増えるなか、そう簡単に日本で裁判需要が増えるとも思えません。自分が関心をもつ分野の仕事をやりたいと言いましても、まずは事務所経営をしていかなければいけないわけでして、たとえ小さな事務所の経営であっても、これからは弁護士も生涯にわたって安定したキャッシュフローを叩きだせるような金銭感覚も、どっかで身に付けるべきではないかな・・・と、著名事務所のフロアーから地上へ降りる、豪華なエレベータのなかで考え事をしておりました。

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コメント

こんにちは。示唆に富むエントリーで興味深く拝読しました。好きなことだけで食えればよいのでしょうがそううまくもいかず、改正の嵐を追いかけて(追いかけられて)、人数増加で経営にも注意しなければいけないとなるとこれからは本当に大変ですよね。って他人事のように考えてしまいました笑。それでは。

投稿: NYlawyer | 2006年2月12日 (日) 04時52分

>NYlawyerさん

おひさしぶりです。
あいかわらず美しいブログですね(笑)
NYlawyerさんを含め、よくブログを拝見させていただく海外の先生方は「2割の弁護士」(?)のほうだと思いますが、よく「法と経済学」的発想を勉強されていらっしゃるのは、将来の仕事のためだけでなく、所属されている事務所経営の屋台骨を背負っていくためでもあるのかな・・・・とも思ってしまいました。

ホント、いままでの弁護士の特権というのは、お金よりも「好きなことで食える」ということだったんですが、そういった特権が少しずつ失われていくのかな、と最近不安になるときがありますね。(業務改革委員会の元委員長として)
また遊びにきてください。

投稿: toshi | 2006年2月12日 (日) 10時07分

はじめまして。
いつも拝見させていただいております。
そこのビルは大阪でも有名なビルですよね。
訳あって知ってるんですが、2フロアー借りるとなると年間××××万はかかるかと・・・
私などはいつも「すごいなー儲かってるんだなぁ」と思いながら事務所の看板をぼーっと見ているだけです(笑)
また、大阪ネタ期待してます。

投稿: 匿名法務部員 | 2006年2月12日 (日) 22時48分

>匿名法務部員さん

どうも、コメントありがとうございます。私もボーっと、眺めていた口です。
本文にも書かせていただきましたが、経営の発想が根本から違うように思います。もちろん、このハコを支える弁護士さん方のレベルの高さも、大いに寄与している部分だと思いますが、なによりもパイを増やす努力を怠らないところに敬服いたします。
これからも時々、大阪ネタも交えてみますので、今後ともよろしくお願いします。

投稿: toshi | 2006年2月13日 (月) 02時35分

先日、toshiさんとお話した件との関連性を思わず連想してしまったのですが(^^;)、ろじゃあなりに大手ファームについて書かせていただきましたのでTBさせていただきました。
東京エリアの中規模事務所を巻き込んだ動きというのはまだまだ収まらないんじゃないんすかねえ。このご時勢ですので(^^;)。
また遊びきます。

投稿: ろじゃあ | 2006年2月13日 (月) 03時51分

>ろじゃあさん

いつもありがとうございます。エントリー拝見させていただき、感想はそちらのコメントに残しました。
大手ファームについては、ろじゃあさんの方がお詳しいですよね(笑)

投稿: toshi | 2006年2月13日 (月) 20時48分

>売上があるから、こういった事務所を構えることができる、というのではなく、まずこの事務所を構えて、ここへクライアントへお越しいただき、ここでビジネスとして見合うパートナーと商談をする、といったイメージのほうが正しいのかもしれません。

このやり方は新興宗教と同じですね。彼らは、まだ信者が300人しかいない段階で、きまって3000人も入るような大聖堂を建てるそうです。そうすると、訪れた信者候補が、こんな立派な聖堂をもつ団体なら、きっと立派な宗教に違いないと争って入信し、本当に3000人くらいはすぐにいくそうです。

投稿: hamster | 2007年3月 9日 (金) 23時25分

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toshiさんが「法律事務所のハコ」というエントリーを書かれております。 大阪ネ [続きを読む]

受信: 2006年2月13日 (月) 03時41分

» 弁護士事務所と営業政策?(^^;)(その1) [法務の国のろじゃあ]
困っちまったなあ・・・こんなに反響が多いとは・・・このネタ(^^;)。 ちゅうか [続きを読む]

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