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2006年2月 3日 (金)

太陽誘電「温泉宴会」と善管注意義務

昨日のエントリー「太陽誘電の内部統制システム」には、たくさんのコメントを頂戴いたしまして、ありがとうございました。太陽誘電の株価は前日比-9円(1831円)で落ち着いており、市場では平静に受け止められたようです。コメントでは、たいへん有益なご意見が多かったようで、またきちんとご返答させていただきます。

さて、昨日紹介しました太陽誘電の「代表取締役異動のお知らせ」ですが、今日になりまして若干修正されております(修正分はこちらです)。

経費の支出が代表者の個人的利得のための支出である、ということであれば、現商法486条の「特別背任罪」の構成要件に該当する行為である可能性が高くなってしまいます。

第486条 発起人、取締役、監査役又ハ株式会社ノ第188条第4項、第258条第2項若ハ第280条第1項ノ職務代行者若ハ支配人其ノ他営業ニ関スル或種類若ハ特定ノ事項ノ委任ヲ受ケタル使用人自己若ハ第三者ヲ利シ又ハ会社ヲ害センコトヲ図リテ其ノ任務ニ背キ会社ニ財産上ノ損害ヲ加ヘタルトキハ10年以下ノ懲役又ハ1,000万円以下ノ罰金ニ処ス

もし代表者の温泉宴会が、自己の利得を図る目的で任務違背行為に及んでいたとするならば、会社としても告訴せざるをえず、また刑事罰に該当する行為ということであれば、おそらく取締役の善管注意義務違反行為が明白となってしまって、代表者が非常に苦しい立場に立たされてしまいます。(たとえ100万円を返済する意思があるとしましても、犯罪行為をそのまま黙認する企業の態度というものも、やはりコンプライアンス理念に悖るかもしれません)そこで、前日の表現では代表者も会社もマズイ・・・とお考えになったのか、修正分では「通常妥当と考えられる範囲を越えており、会社の費用として認められない部分があった」との表現のみに変わっております。たとえ取締役が任務違背行為に及び、会社に財産的損害を与えたとしましても、その行為が会社のために行われたものと認められる場合には、特別背任罪は成立いたしません。このたびの代表取締役の「温泉宴会」につきましては、たしかに善管注意義務違反かどうか問題のあるところですが、ともかく接待相手との取引拡大を狙って「交際費」「接待費」として消費したところは、すべて代表者として会社の将来を思って行ったところであり、けっして自分の利益取得や会社財産へ損害を与えることを目的として行ったものではない、ただコンパニオンを付けての宴会(夕刊フジの記事に基づく情報です)については、その接待費、交際費の使途としては常識の範囲を超えるものとして、企業のトップの姿勢として非難されるべきである、といった趣旨に変更されたものとみています。

さて、こういった趣旨の文章に変更されたことは理解できるのですが、それでは果たして温泉コンパニオン宴会を行ったことについては、代表者に善管注意義務違反行為はあったのでしょうか?この温泉宴会というものが例年の慣行となっており、取引相手方との取引継続に重要な行事であったとするならば、たしかに「みっともない行為」と非難されることはあろうかと思いますが、会社の収益には貢献している行為であって、それを善管注意義務違反である、と断定するのはすこし勇気がいるところではないでしょうか。このたびのケースでは宴会費用100万円が自主的に返還される、ということですから、これ以上の問題には発展しないと思われますが、もし「俺は辞任はするが、会社のためにやったんだし、収益向上にもなっているんだから返さない!」と言ったときには、この代表者に対して損害賠償請求をしなければ、監査役や他の取締役に監視義務違反が発生するのかどうか、このあたりが思案のしどころのように思います。

それでは、さらに「会計的」にみて、こういった「みっともない温泉宴会費用」といったものが、もし企業収益との関連性を肯定できる場合には、一応「接待費」として計上しても、財務情報の真実性に合致しているかぎりは、それ自体は違法な会計処理とはいえないのではないでしょうか。つまり不正支出があったとしても、そのことだけで会計上の違法性があったと認識することはできないようにも思われます。そこで、昨日のコメントで出てまいりました「質的重要性」を検討する必要があるのでしょうね。たとえば、温泉宴会費用といったものが、全体の企業規模からして損失が極小であったとしましても、他の会計科目の信憑性に著しく関連していたり、次年度以降の企業活動に多大な影響を与える可能性がある場合などは、その質的重要性は大きいものと判断され、これは違法な会計処理に該当するのかもしれません。たとえば「業績向上のための経費見直し」といったスローガンのもと、全社挙げて経費の節減に精力を注いでいる最中に、社長自ら温泉宴会三昧、といったことでは、そのこと自体に収益との関連性が認められたとしても、社員に与える士気減退の影響力や、内部通報を発端とする社内スキャンダルに見舞われて、レピュテーションバリューを大きく損なうリスクが大きい場合などには、やはりその「質的重要性」が無視できないものとなり、会計上の処理としては違法と判断されることになりそうです。そこで、このような「みっともない行為」を黙認して、不正な支出をそのまま接待交際費として計上することに異議を出さない監査役としては、やはり監査役としての監視義務違反に問われる可能性がでてくるように思われます。したがいまして、監査役としましては、取締役に善管忠義義務違反があったかどうか不明瞭な場合であっても、不正な支出における質的重要性といった観点から、とりあえず取締役会に報告をして、不正支出の排除に関する善処を求める対応が必要になってくる、と考えた次第です。

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