内部統制監査の立会い
前から勉強させていただこうと思って、楽しみにしておりました某ビッグ4の監査法人の「内部統制監査」に半日、立会いさせていただきました。段ボール箱いっぱいの証憑と取っ組み合って、総務財務を呼んであれこれと聞きとりをする・・・・・、といったイメージを抱いていたのですが、ちょっと様子が違いましたです。
監査責任者(代表社員)を含め、いつもの監査チームのメンバーが揃っているんですけど、みんなパソコンとにらめっこで、物静かに会合。私があっちこっちで、あれやこれやと質問するんで、ひょっとしたら「オジャマモン」だったかもしれません。会計基準の変更や減損会計に関する理論上の疑問点などもいろいろ聞けましたので、私にとりましては、大きな収穫でした。
こういった内部統制監査というものは、どこの企業でもやっているんでしょうか?ともかく、これまでの会計監査においても、その財務報告の信頼性を検証するために、内部統制評価は行われていたわけでして、その「延長線上にある」監査形態だと認識できます。まだ、いわゆる日本版SOX法を前提とした内部統制監査といったものは実務指針も出ておりませんし、どこの監査法人でも「試験部隊」の方が担当していらっしゃるので、そういった(金融庁の企業会計委員会内部統制部会が進めている)内部統制監査とはベツモノの「地味な」監査なのであります。ただ、この物静かな監査は、けっこう重要な作業をしているわけでして、おそらく私の勘では、これまで財務報告の信頼性を評価するための「内部統制評価」といったものは、その会計監査人独自のコツみたいなものがあって、その個人的なスキルに基づいて評価していたところがあったわけですが、それは職人芸のように、そのままではなかなか伝承できないんですね。そこで、早期の会計士の交代などがあったとしましても、標準的な能力をもった会計士さんであれば通常認識しうる程度の監査評価方法の図式化、記録化を図る、といったイメージで作業を進めていらっしゃるのではないかなぁと感じた次第です。
それと、ちょっと意外でしたが、こういった会計士さんのやっておられる内部統制監査といったものも、けっこう企業コンプライアンスに留意されているところでした。(したがいまして、経済産業省主導で公表されておりました内部統制システム構築モデルについても、きちんと勉強されていらっしゃるようでした)いわゆる発見リスクといったものも、私のイメージでは「誤謬」発見の可能性に絞られたものだと思っていたのですが、統制レベルを認識するための証憑の有無や種類によって、その企業の経理操作によって犯罪に値する行為が存在するのではないか、といったかなり積極的な不正発見目的の監査に近い形での運用もなされているんですね。なんでそこまで?とも思ったんですが、内部統制に不備があってリスクが発生しているのか、内部統制にある程度の信頼を置けるなかでの「限界」事例としてリスクが発生しているのか、そういった検証も必要だから、とのことでした。(なるほど・・・)いずれにしましても、(たいへん失礼ながら)内部統制監査といった手法につきましては、総じてまだまだ模索中といった面もあるんじゃなかろうか・・・と推察した次第であります。(会計士の先生方、いろいろとおジャマして申し訳ございませんでした)
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コメント
はじめまして。会計士受験生です。
いつも興味深く読ませてもらっています。
私は、会計監査人としては、内部統制構築義務を多少強制しても、しょせんは「従業員不正を少し防止できる程度」と解釈してます。
最近の内部統制構築に関する議論では、あたかも内部統制が経営者不正までもかなりの程度で防止できるという期待が大きすぎるような気がしています。
そこで質問です。
①事業経営の有効性と効率性を高める
②コンプライアンスを意識付ける
③財務報告の信頼性を高める
という内部統制の機能のうち、特に②と③は、限定的であるのは百も承知で、その上で、内部統制構築を義務付けることが少しでもコンプライアンスなどの問題を適正化できればいいや、という認識でよろしいのでしょうか。
それとも、私の認識不足で、最近法曹・会計業界の方が内部統制を大きく取り上げていることは、もっと大きな役割に対して期待しているからなのでしょうか。
以上、法曹の方にとっての認識はいかなるものかお聞きしたくて書き込んでしまいました。
投稿: ぶしつけ物ですが | 2006年2月15日 (水) 11時24分
山口先生、監査に立ち会われたのですのね。
非常に多くの発見があったようで、何よりです。
私も、企業の内部統制態勢構築業務や上場を目指している会社の内部統制整備・上場支援業務の中で、公認会計士さんや監査法人さんの監査実務を見てまいりましたが、同じく部屋にこもってパソコンと書類を見ながら・・・という感じでした。
個人的な見解を申し上げれば、公認会計士の方や監査法人の方には、大変申し訳ないのですが、この手法は、財務諸表の信頼性確保のための内部統制監査及び有効性評価だから、許されるのではないかと考えています。
というのは、この手法では、経営者の内部統制自己評価や内部監査人の監査・調査結果を元にしているわけですから、彼らの意識やスキル、能力に大きく左右されるからです。
もちろん、不備と思われる兆候を発見すれば、そこはヒヤリング等を行う場面を私も見ておりますが、書面はあくまで書面であり、操作がいくらでも可能になる部分が大きいわけです。その辺のからくりや操作を見抜くには、徹底したヒヤリングやヒヤリング内容のつき合わせ、現場視察や流れ、作業の観察その他、積極的な調査・監査が必要になります。私が業務をしていた中でも、監査法人の方が支店に見えて現場視察にきたということはありましたが、ヒヤリングや実際のフロー等と突合せをするわけでもなく・・・という状況でした。
もちろん、もっと踏み込んだ調査や監査をやられている公認会計士さんや監査法人はあると思うのですが、彼らの職業的役割が財務諸表の信頼性確保にあり、それ自体は非常に重要であり、又必要なのですが、これをやれば即、「内部統制が有効に機能している=企業不祥事の発生は合理的な程度において防止できる」と考えるのは短絡的なように思います。
金融庁主導で、財務諸表の信頼性確保に向けた内部統制評価・監査の制度化が、証券取引法等でなされようとしていますが(改正により導入予定と聞いています)、財務会計は制度会計とも言われるように、一定の制度、すなわち、規則やルール等にしたがって作成・公表されるのですから、そう考えれば、コンプライアンスの問題ともいえるのではないでしょうか。
ですから、内部統制の構築や評価・監査も、業務の効率性・有効性とコンプライアンスをメインに行えば、それによって財務諸表の信頼性は確保されるというふうに考えるのが現実的な線として妥当なのではないかと私は考えております。そして当然、常々申し上げているように、コーポレート・ガバナンスと内部統制が一体として機能しなければ、企業不祥事の防止や企業価値の向上は達成できないと考えておりますが、内部統制の目的(3つ、ないし資産の保全を含めた4つ)を並列的に並べるのではなく、コンプライアンスと業務の効率性・有効性を意図した態勢を構築することで、財務諸表の信頼性(と資産の保全)が達成されるという主従の関係があると感じております。
このように考えなければ、上場企業でのみ通用する内部統制と言うことになってしまい(財務諸表の信頼性は非上場企業においても重要ではありますが、財務諸表が証券市場における投資家の投資判断のための基礎資料であるから、その適正性が求められるという制度趣旨から考えた場合は、非上場企業では、この要請は働きません)、本来、取締役の善管注意義務として、言い換えれば経営のプロとして当然に求められる義務として求められている内部統制とは相容れない独自の内部統制論になってしまうからです。
以上、長くなりましたが、この書き込みは、決して公認会計士や監査法人を誹謗中傷するものではなく(前にも書きましたが、財務諸表の信頼性を絶対的に確保するのが、彼らの社会的使命ですから、そこに特化するのは当たり前の話です)、ただ、国内の内部統制に関する議論が財務諸表の信頼性に偏りすぎているために、本質を見誤り、結果として内部統制が形骸化するのではないかという危惧を私自身が抱いていることからの問題提起と捉えていただければと思います。
投稿: コンプライアンス・プロフェショナル | 2006年2月15日 (水) 12時32分
興味深く拝見させていただきました。
現在、某大手都銀で内部統制に携わっているコンサルタントです。
現在では業務の文書化は終え、テストに入るとことですが、やはり日本企業の会計に対する認識や、企業文化によってかなり企業格差が出るのでは。という認識でいます。
私のBlogでは内部統制だけを取り扱っているわけではありませんが、実務をしてみてリアルな内部統制の姿とその問題や、コンサルタントがどのように関わっていくべきか。などを話していけたらいいな。と思っています。
今後とも来させていただきます。
もしよろしければ私のところも除いてみてください。
http://ameblo.jp/ys1028/
投稿: ys1028 | 2006年2月15日 (水) 13時56分
>会計士受験生さん
はじめまして。コメント、ありがとうございます。
私は最近の内部統制に関する講演などで、内部統制を語る業界と、統制違反によるサンクションの種類によって4つに分類する手法で解説するようにしています。まだまだ、「内部統制」という言葉が共通言語になっていないので、さまざまな議論のずれが発生しているのではないか、と思っています。
法曹の立場からは、やはり会社法や施行規則と関連付けて、取締役の善管注意義務違反の問題に焦点をあてて検討することが多いのではないでしょうか。
ただ、私がもっとも大きな意義を感じておりますのは、以前のエントリーでも書きましたが、会計監査という部分に経営者と会計監査人との共通言語としての機能です。なによりも、内部統制を語る責任者は企業経営者であって、会計士さんではありません。会計士さんは、経営者が自信をもって作った統制環境を審査するにすぎません。これまでの会計監査は、企業の一部の経理担当者と会計士さんとの共通言語はあっても、経営者との間では、そのような言語はなかったのでは、と考えております。財務情報を通じて企業を強くするためには、そういった共通言語が必要ですし、これからの企業会計の時代には大きな役割をになっていくのではないか、と期待しています。
また会計士受験生のお立場から、有益なご意見、お待ちしております。
投稿: toshi | 2006年2月16日 (木) 02時21分
>ys1028さん
はじめまして。コメントいただき、ありがとうございました。私などより、内部統制システムの構築実務に精通されていらっしゃるようですので、また貴重なご意見等、頂戴できましたら幸いです。おっしゃるとおり企業文化によって企業内での力の入れようがマチマチですね。文書化や、チェックリストにしましても、その企業特有のリスク管理の手法が確立していなければ、あまり効果がないのでは、と考えてしまいますし、そのあたりを真剣に検討できるかどうかは、役員らの熱意に負うところが大きいように感じています。
また、そちらにも遊びに行きますので、今後ともよろしくお願いします。
>コンプライアンスプロフェッショナルさん
いつも有益な意見、ありがとうございます。またまた示唆に富むご意見で、ちょっと別立てでエントリーを検討しておりますので、またそちらのほうでご意見を頂戴したいと思います。コンプライアンスやコーポレートガバナンス、そして財務報告の信頼性などとの関係で、内部統制の議論を位置づけるのは、いつもムズカシイ作業だと痛感しております。
投稿: toshi | 2006年2月16日 (木) 02時34分
若輩者の突然の質問にお付き合いしていただき、ありがたく思います。先生のブログ、私のような者にとっても、すごく勉強になります。
私が感じていた内部統制に関する議論への違和感は、業界等によって認識のズレが生じていることからもたされていた部分が大きいみたいですね。私もこれからもっと内部統制という概念が整理されてきて、会計・法律・経営実務の側などなどバックグラウンドの違うそれぞれの側にとって有意義なものになっていけばいいなと思います。
先生のような違う分野の方の異なる視点・からくるお考えを少しでもお聞きできることは非常に有意義です。ありがとうございました。
投稿: 会計士受験生 | 2006年2月16日 (木) 13時56分