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2006年2月26日 (日)

日本版SOX法の衝撃(その2)

営業秘密関連事件(営業行為禁止等仮処分事件)の和解交渉が大詰めに入ってしまいまして、ちょっと力を入れてエントリーを書く時間がありませんので、小ネタで失礼します。

2月22日に野村総研よりおもしろいアンケート結果が出ております。(日本版SOX法に関するアンケート調査結果 上場380より回答を集計)2005年12月の時点で、約3割以上の上場企業が、金融庁の発表している内部統制のあり方に関するとりまとめ案(財務報告の信頼性確保に関する)を見たことがない・・・というのが意外でした。また、ちょっと残念なのは、日本版SOX法への取り組みについての意識として、できればお金をかけずに必要最小限度で行いたい、という回答と、他社と同程度で取り組みたいといった回答を合計しますと、全体の85%に及びます。この結果は、日本版SOX法というものが、「なんだか内部統制というものの内容はよくわからないけれども、必要だと言われれば対応するしかないでしょう」といった、非常に受身的なイメージしか抱かれていない風潮が根強いことを物語っているのでしょうね。野村総研が解説しているとおり、アメリカ企業は企業改革法下におきまして、「リスクの洗い出し」「対応負担の軽減のためのリスクの重要性判断」など、非常に内部統制システムを積極的に活用している対応のようでして、その結果は対照的なようです。

最近も、会社法の施行が迫ってきたこともあり、内部統制構築に関する研究会や講演などが普及しているようですが、日本版SOX法を検討する際に、アメリカの本家SOX法302条、404条の直輸入版が妥当かどうか、今一度検討する必要がありそうです。PwCで実際にSOX法の社内運用、評価実務に携わっている方のお話をお聞きしましたが、どうも日本企業とアメリカ企業の「事務担当部署」の考え方に微妙な違いがあるように感じました。私はアメリカ留学などの経験がないものですから、たんなる推測にしかすぎませんが、あちらの事務担当部署には営業と同様に利益取得のノルマのようなものが見受けられ、総務法務などの部署においても一定の「目に見える」カタチ、としての成果が期待される、ということのようです。「私はこの事務によって○○円の年間利益(政府補助金)をもたらしました」「私は○○人の社員の不正を見抜きました」などなど。日本の企業では、特別○○人の不正を見抜き、○○人の懲戒処分へ貢献した、といった評価はあまり聞いたことがないのですが。事務方の意識レベルにもし差があるならば、こういった内部統制システムの運用や構築といった場面におきましても、その費用負担の意識や、運用評価の積極性などにも大きな差異が出てくるのではないでしょうか。また、日本の企業には、アメリカの企業にはない監査役という制度があります。委員会設置会社は少なく、上場企業の大部分が監査役会設置会社です。第三者による監視がコーポレートガバナンスの柱とされているアメリカ主導による制度(内部統制システム)が、その一端を身内の人間である監査役が担う日本の制度として「快く受容できる」ものとなるのかどうか、まだ私には未知数であります。こういった日米の企業文化の違いとか制度の違いといったものが、これからの日本の内部統制議論、とりわけ金融庁主導による「財務報告の信頼性確保」のための内部統制システム構築の議論にどのような影響を与えるのか、すこしばかり注意をしてみたいと思っています。

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コメント

fujiです。
いずこの国でもサラリーマンは社長(ボス)の言うことが絶対で、社長もまたそれを期待(もしくは俺がルールだと思っている)しているのでなかなか浸透しないのでしょうね。外圧じゃないですけど弁護士とか会計士の先生から言いこんでもらわないと追いつかない気がします。

投稿: fuji | 2006年2月26日 (日) 11時02分

fujiさん
おひさしぶりです。

たくさんのボードをみているわけではありませんが、やはり社内の取締役の方々は業務執行を担当している方が多いですし、そっちの責任をまっとうすることに必死ですから、こういった「全社的取り組み」は社長が言い出さないと前進しないのではないか、と感じております。
今回の「業務の適正を確保するための体制整備」につきましても、「誰かが考えてくれるものだ」といった認識の方が多いのではないか、と危惧しております。

投稿: toshi | 2006年2月27日 (月) 02時38分

以前もコメントさせて頂いたys1028です。

内部統制のプロジェクトに携わって、いつも思うのは、「日本企業の文化レベルの低さ」です。

日本では危機管理や財務適正の意識は低く、内部統制に関して積極的に関わろうとはしていません。

逆にいかにルーチンワーク化させるか、いかに早く終わらせるか という意識が見え隠れしており、手段目的化してしまっているように思えます。

私自身は、企業文化レベルが低い場合、COSOなど海外で作成されたフレームワークを日本で使用するには限界があるのではと思っています。

日本で内部統制を行う場合は、まず企業文化レベルを把握することが必須であり、そのレベルの向上が、内部統制を運用していくにあたっての重要な部分であると考えています。

今の日本の企業文化では内部統制を監査法人やコンサルタントの力を借りて行っても、数年後には形骸化してしまうでしょう。

全社的取組であると、社長などの経営陣が発しても、企業の規模によっては浸透することは困難であると思います。

内部統制を進めつつ、それの前提として企業の文化の底上げを図る。監査法人さんとコンサルタントとしての違いを作るという意味でも実現していきたいことです。

投稿: ys1028 | 2006年2月27日 (月) 14時34分

>ys1028さん

コメント、ありがとうございます。
今、一番懸念されているのは、おっしゃるとおり4,5年で内部統制の議論はなにも根付くことなく、別の「不祥事防止策」の発案によって消失していかないか・・・といったことのようですね。先日のPSE法のエントリーのように、お尻に火が付いて初めて議論が沸騰するようなところがありますので、どうも根付くかどうかといわれますと、ちょっと不安もありますし、企業文化としての発露として登場したものではないからだと思います。
「内部統制を根付かせる企業文化の育成」、そういった視点も大切かもしれませんね。(あまり、そういった視点から考えたことはありませんでした)
また、有益なご示唆、お待ちしております。
ありがとうございました。

投稿: toshi | 2006年2月28日 (火) 11時01分

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