ライブドアと社外取締役
証券取引等監視委員会は、ライブドア法人(東証マザース)を有価証券報告書虚偽記載罪の容疑で東京地検に告発をしたようです。資本剰余金として計上すべき自社株売却益を、売上に不正計上したことが直接の容疑となっている、とのこと。ライブドアの平松社長は、記者会見で、現在の3名の取締役は6月の総会で退任し、社外取締役2名を含む5名の取締役が新たに選任されるであろう、との発表を行いました。
いよいよ、ライブドア騒動も、ここからは第2クールに突入することになりそうですが、(ちょっと現実から離れて考えてみたいのですが)果たして堀江色、宮内色の強かったライブドアに関して、いったいどんなコーポレートガバナンスが機能していれば、この2004年11月前後の企業不祥事は防止できたのでしょうか。あるいは、こういったオーナー色の強い企業においては、どのようなガバナンスを採用していても、不祥事防止は困難だったのでしょうか。まず、今回の状況(新聞などによる報道内容)からみて、監査役、会計監査人は(粉飾スキームを考案することに積極的に加担していたようでして)全く不祥事防止には機能しえなかったようです。そもそもオーナーとの長いお付き合いの中で、コンサルタントが役員に就任した経緯があるわけですから、これらの役職の方に独立した役職としての立場を期待するほうが無理かもしれません。つぎに取締役会につきましても、6名の取締役はそれぞれ中途採用のエリート社員がそのうちにライブドア関連企業の取締役を兼務していたような状況でありまして、これもトップの暴走を抑止することは全く期待できなかったのではないでしょうか。残るガバナンスとしては企業情報(財務諸表)の開示と社外取締役制度の導入ですが、ライブドアの有価証券報告書あたりは、かなり以前から「おかしな経営ではないか」と疑う投資家もいらっしゃったわけですから、ある程度は機能していたようにも思います。
これまでライブドアには社外取締役がいなかったわけですが、もし社外取締役が存在したら、どうなっていたのでしょうか?企業不祥事は防止できたのでしょうか?十分な独立性が確保されたような社外取締役がいたとすれば、おそらく堀江氏は社外取締役に重要な情報を開示しなかったかもしれませんね。ただ、取締役会におけるリスク管理や情報の共有に関する内部統制システムをきちんと構築したうえで、社外取締役を導入した場合には、社外取締役としましては、仕事の範囲が明確となり、また一般株主へ説明すべき事項も特定されてくるでしょうから、ひょっとすると違法行為を未然に阻止することができたかもしれません。もちろん、そんな「やっかいなこと」になるくらいなら、最初から堀江氏としては社外取締役制度を導入しないわけでして、上記は単なる空想にすぎないことになってしまいますが、ただ、こういった不祥事を経験するなかで、社外取締役の独立性に関する情報開示や、取締役会が定款や法令を順守するための仕組みに関する情報開示が進むことによって、ガバナンスのあり方を投資家が上手に評価するようになるかもしれません。
3月1日、東京証券取引所では企業情報の開示に関する規則が改正されまして、「コーポレートガバナンス報告書」の開示が求められることとなりましたが、投資家の比較に資するように、社外取締役(社外監査役)と会社との関係について詳細な開示が求められると同時に、執行業務全般におよぶ内部統制システムの状況に関する開示も求められるようになりました。(旬刊経理情報3月20日号、東京証券取引所の木村調査役の解説記事が詳しいです)もちろん、社外取締役制度の実効性といったものは、ご承知のとおりまだまだ確定的に企業不祥事防止や、株主価値を高めることに寄与する、といった実証的な検証はなされていないかもしれません。しかしながら、今回のライブドア騒動を振り返った場合、株主の多くの被害を未然に防ぐことが可能だと思われるのは、企業情報としての財務情報の適正な開示であり、またこれに加えて社外取締役ではなかったかと思います。最近の野村証券のアンケート調査によりますと、投資家にとって「コーポレートガバナンスの状況」といった開示項目については、投資判断を形成するにあたって、それほど重要性を感じないといった回答が多かったようですが、このたびのライブドア騒動が発生した現時点で、このコーポレートガバナンス報告書の持つ意味というものは、すこしばかり以前とは異なるものとなるのではないか、とひそかに期待をしております。
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コメント
違法とされるのは、結局何だったのでしょうか。それが分からないうちに対策と言われても。
投稿: unknown | 2006年3月14日 (火) 09時36分
ご指摘ありがとうございます。なるほど、私の文章をお読みになっても、そこのところを定義付けしないとわかりませんよね。あくまでも仮定の話ですが、ライブドア代表者らが、会計監査人と相談をして、子会社や投資事業組合を用いて本体への虚偽の利益を計上した、といった一連の行為と捉えたらいかがでしょうか。(告発事実よりは少し広いですが)そういった行動に対して、独立性の強い社外取締役といった存在は果たして機能するのかどうか、そこらあたりのことを指している、とお考えください。
投稿: toshi | 2006年3月14日 (火) 11時06分
容疑は「粉飾決算」のようですが、しかし、本当に「粉飾」と言い得るのかは、会計学上、諸説あるようです。
このように会計学上諸説ある場合に、ある説に従って会計処理した場合、それを「粉飾」と非難されるというのは、酷な話に聞こえます。
法律でも、諸説ある場合に、会社の顧問弁護士が「合法」と意見を出し、その結果実行したのに、結局「違法」であった場合、どう考えるのでしょうか。また、コンプライアンスの観点から、このような場合、「社外取締役」がこういう結果を防げるか、ということも疑問があります。
投稿: unknown | 2006年3月17日 (金) 13時10分
ちょっと議論に参加させていただきます。
法律や会計の世界では、意見が分かれるものがいろいろとあるのは事実でしょう。このような事案において、弁護人として、そのグレーな面をついて何とか無罪に持ち込もうという戦略をとることを考えることがあるかもしれません。それも一つの方向でしょう。そういう案件は受けないという弁護士のあり方、やはりおかしいと思われるものを、しっかりおかしいといい続けるあり方も、意味があると思います。同様に、信念に基づいて、粉飾でない、という意見の方がいることは健全だと思います。そのこと自体は批判しません。
ただ、いろいろ説がある、だから断言は難しい、だから無罪、というような見方を支持するか、という問題を質問として考えたとすると、小職ならば、そのような考え方に対しては距離をとりたいと思うところです。個人の考えにすぎませんが。
価値ニヒリズムが物事を停滞させることに対する強い危惧を感じるのです。
また某社の奇策の後に、法改正や制度改正があること。やはり尋常ではありません。市場の観点で見て、非常に問題だという立場でおります。なお、私見では、当時のToST-Net1での取引は違法だと考えております。
価値観の争いをする意図はございませんが、意見としては、一つ提示しておくのがいいかなと考えた次第です。
投稿: 辰のお年ご | 2006年3月18日 (土) 00時00分
はじめまして。
>法律でも、諸説ある場合に、会社の顧問弁護士が「合法」と意見を出し、その結果実行したのに、結局「違法」であった場合、どう考えるのでしょうか。
これは弁護士をしておりますと、けっこう経験しますよ。とくに企業法務の仕事をしておりますと「逃げ」にはいってしまいたくなるときがあります。ただ、辰のお年ごさんがおっしゃるように、弁護士としての自説をきちんと明確に述べて、その結果に対しては責任を負い、またクライアントの評価にさらされるのが一番健全なのではないかな・・・と思いますね。結論がどっちか、ということよりも、たとえば「合法」だという自説を述べて最善を尽くして「違法」となってしまったときの企業の抱えるリスクと、「違法」と述べて、企業がなにもしないで結論を受け入れるリスクとを比較してあげることも弁護士の大切な仕事ではないでしょうか。
コンプライアンスの観点から「社外取締役」が機能するのかどうか、私も非常に興味を持つところです。私もunknownさんと同様、かなり懐疑的です。toshiさんは、おそらく企業価値の向上ということよりも、こういった不祥事防止というところに価値を見出そうとされていると思いますが、実証的見地だけでなく、これも社外取締役の役割論とも関わるところでしょうね。
投稿: cfe-lawyer | 2006年3月18日 (土) 02時37分
コーポレート・ガバナンスが機能していたかという論点からややずれているようですが、私なりの見解を申し上げたいと思います。
東証自体が、コーポレートガバナンスに関する開示等に以前から力を入れてきていますが、そもそも、先生が指摘されるような実態のライブドアが、上場企業としての資格があったのかというと、私はそうは思いません。
他にも、粉飾や有価証券報告書の虚偽記載により上場廃止となった企業はありあすが、全体として、安易に上場をさせすぎた弊害が出ているのだと思います。
企業での実務の中では、特にオーナー企業と思えるようなベンチャー企業に対して、色々な証券会社が上場を炊きつけ、企業をその気にさせて、体制作りをさせて、上場させるというケースを多く見ております。ここに、上場についての証券会社の営利誘導があるわけです。
そして、上場準備作業はかなり大変な作業でもあることから、おのずからトップ主導の中央集権で作業を進めざるを得ません。上場を目指すという目的の元に、トップの指示で体制作りを進めるわけですから、トップに対する牽制が弱くなり、逆にワンマン性が強くなるという構造的な問題があるのです。
確かに、上場は、企業にとっては資金調達面やブランド形成の点からは大きなメリットが認められますので、証券会社等にたきつけられるとその気になるわけです。もちろん、経営者の上場益狙いという個人的な私欲もそこには入ってきます。
このようなメリットが認められる以上、コンプライアンス上問題があるような企業まで、上場を目指してくる現実があるのです。上場をするための上場基準を満たすためには明らかな虚偽や偽造工作をしなければならないケースがあるのです。場合によっては、証券会社や監査法人がそれを知っているケースもあります。
そして、その上場基準を形式的に満たし、証券会社からの意見等も踏まえて上場が決定される制度が今の制度ですから、市場にとって上場させるにふさわしい企業なのか、企業として上場させるだけの体制が整っているのか?などはあまり考慮されない、つまり上場企業としてふさわしいかどうかについても、コーポレート・ガバナンスの点についてや内部統制については十分な審査がなされているとは思えない状況だと私は評価しております。
このような状況を考えたとき、上場前は、特に極端な中央集権・経営者主導になるため、コーポレート・ガバナンスによる牽制が効きにくい状況になっているわけですから、上場後にその影響を薄めてコーポレート・ガバナンスを充実させろといわれても無理があるわけです。
市場全体が、あるいは社会全体が、上場企業に対する厳しいチェックをし、場合によっては上場させた証券会社や証券取引所、上場前の監査法人のチェックの有効性に目をむけ、責任を厳しく追及し、上場が甘い構造的な部分にメスを入れていかなければいけないと思います。
投稿: コンプライアンス・プロフェショナル | 2006年3月18日 (土) 11時54分
皆様、ご意見ありがとうございます。
>unknownさん
会社の顧問弁護士のケースにつきましては、cfe-lawyerさんがおっしゃるところに近いかなぁ・・・といったところです。コーポレートガバナンスの問題は、企業のリスク管理とも関連するものだと思いますので、たとえ会計学的に「粉飾」に該当しない(究極的には)場合であったとしましても、「強制捜査」「上場廃止」につながるような事件発生を未然に防ぐことができるかどうか、といった問題の立て方は可能かと思います。
なお、社外取締役の役割については、まさにunknownさんがおっしゃるようなご意見をお待ちしておりました。たとえばこのライブドアの事件において、なぜ社外取締役が存在したとしても、事件発生を未然に防止できないのか、そのあたりは、もちろん推測の域を超えるものではありませんが、じっくりと議論したいところなんです。
>辰のお年ご さん
いつもありがとうございます。
私は「この事件について、あなたの価値観を持ち込むのはおかしい」と説得申し上げるのは、裁判官に対してのみです。したがいまして、私もこのブログで価値観の対立を慫慂するつもりもございません。
ひとつ気になりましたのは、
辰のお年ごさんのご意見のなかで、諸説があって断言は難しい、よって無罪という考え方は「価値ニヒリズムによる思考停止」につながるものという理解でよろしいのでしょうか?もし思考停止につながるおそれがあるならば、そこのところは十分、考えておく必要があるかもしれませんね。刑事事件における構成要件の明確性の問題とか、証券取引市場における刑事事件の手続のあり方を支える社会基盤(政策的な意味も含めて)とか。そのあたりを十分検討していかないと、またなにかグレーな部分が見つかったら、そこのところだけを黒く塗りつぶす(法改正をする)ことの繰り返しに終ってしまうように思います。
>cfe-lawyerさん
はじめまして。今後ともよろしくお願いいたします。(どうも私が存じ上げている方のような気がしますが・・・・笑)
誤解をしていただきたくないのは、私は社外取締役の役割としまして、企業の経営面における影響度への実証的価値研究を「あきらめている」わけではございません。おっしゃるとおり、不祥事防止といった面での重要性を認める立場からのエントリーではございますが、それだけに限るということでご理解されませんようにお願いいたします。
ぜひぜひ、なにゆえ「防止できない」とお考えになるのか、そのあたり先生の見解なども示していただけますとウレシイです。
また遊びに来てください。
>コンプライアンス・プロフェッショナルさん
いつもありがとうございます。
従業員数20人から30人といった小規模企業においても上場する時代ですから、企業連合で何万人という企業と同じレベルのものを要求すること自体がナンセンスなのかもしれません。実際アメリカでも14000社の上場企業のうち、SOX法適用企業は現行レベルで相当限られていますよね。上場基準のなかに、ガバナンスの基準をとりいれるべく東証もいろいろと頑張ってはいると思うのですが、やはりトップの考え方が色濃い企業では、常に統制レベルの向上に努める企業ばかりかというと、そうでもないような気がします。現実にプロフェッショナルさんは、毎日そのようなお仕事をされていらっしゃるのわけですから、上場以前からの企業体質のようなものも、すぐには変革できない実際の姿のようなものを目の当たりにされておられるんでしょうね。「開示」といっても、そういった現実を映し出すことのできない形式的なもので済むようなものだと、すこし虚しい気がします。
投稿: toshi | 2006年3月18日 (土) 18時07分
起訴状を見ると、「売上計上を認められないライブドア株式売却益(中略)を売上高に含めるなどし(略)」などとなっていますが、売却益を売上計上というのは、なんとも理解しづらい面があります。起訴状からは、有罪に持っていくのはいくつもの困難があるように見えます。
起訴状2006/3/14
http://finance.livedoor.com/img/ir/4753/file/200603222.pdf
起訴状2006/2/13
http://finance.livedoor.com/img/ir/4753/file/2006.2.16.pdf.pdf
投稿: unknown | 2006年3月31日 (金) 13時26分
unknownさんご指摘の起訴状(内容)をライブドアリリースで確認いたしました。
この起訴状だけでは、おっしゃるとおりだと思いますが、ただ「共謀内容」を含めて、「売却益の計上の詳細」についても、冒頭陳述で明らかにされるのではないか、と思われます。最近は検察官おり口頭でなされるケースも多いですが、弁護人から「釈明」を求めるものであれば、詳細な冒頭陳述は書面でなされるのではないでしょうか。
なお堀江氏の公判につきましては、公判前整理手続が採用されるとのことですから、検察官、弁護人、裁判所間において、そういった争点整理について、どこまで突っ込んだ手続がなされるのか、興味があります。
投稿: toshi | 2006年4月 1日 (土) 16時42分
やはりコメントが反映されないようですね。。。
まだココログの不調が続いているようです。
投稿: toshi | 2006年4月 1日 (土) 21時25分