内部統制と新会社法(2)
なぜ新会社法は、株式会社の経営陣(取締役、取締役会)の職責として、内部統制システムの構築といったことを明文で求めているのでしょうか。金融庁主導による「財務報告の信頼性確保」のための内部統制とは目的が異なるのでしょうか?(ちなみに、私のブログでは仕事柄、この内部統制に関する議論が多いんですが、これを扱うと一気にアクセス数が落ちるのが不思議です・・・)
企業会計審議会内部統制部会によって、内部統制報告書や監査のあり方が検討された目的は、そもそも内部統制部会の検討課題が粉飾決算や違法配当に絡む不祥事の予防対策といったことから始まりましたので、その目的は「企業不祥事防止、会計監査の適正化推進」といったところにあるのは間違いないようです。したがいまして、企業不祥事を防止する、という目的は非常に大きなウエイトを占めることは理解できます。しかしながら、会社法で内部統制を議論するようになった目的というのはいったいどこにあったのか、といいますと実はあまりはっきりしていないように思います。もちろん「企業不祥事の防止」といったところに目的がある、という意見が多数を占めるのかもしれませんが、(ちょっと屁理屈かもしれませんが)企業不祥事が発生したとしても、それがなんら世間に発覚しなかったり、会社に損害を与えなかった場合(談合など)であれば、内部統制システムの構築義務違反の事実それ自体が株主や債権者にはなんら不利益を被らせることにはならないわけでして、どうも会社法で議論するための目的としては説得力に乏しいように思われます。
そこで、私は会社法で「取締役や従業員の業務執行の適正を図るための体制整備」を明文化する必要性(内部統制システムを構築する必要性)といったものは、会社法なりの理屈によって考え直すほうが、今後の会社法の解釈指針としても適切ではないか、と思っています。まだはっきりと思考が整理されているわけではありませんが、この内部統制構築の必要性といったものは、新会社法が意図している「経営自由度の拡張」の裏腹に位置するものだと認識すべきではないでしょうか。(委員会等設置会社においていち早く、明文化された経緯なども参考になります)新会社法は定款自治原則、機関設計の自由化、経営意思決定の迅速化を図り、(規模や株式譲渡制限の有無によって差をつけているものの)株式会社の使い勝手をよくして、利用者の株式会社制度の利用につき選択の幅を広げています。しかしながら、これは一面においては便利であるけれども、一方では会社制度の使い方を間違えたり、恣意的に利用したりしますと、資金調達先である株主や取引先である会社債権者に多大な損害を与える危険性も増えるわけでして、その対策を検討しなければなりません。そこで監査役制度を強化したり、株主や会社債権者への会社情報の開示制度を強化するわけですが、これと並んで株式会社自身の迅速な意思決定の伝達が効率的になされたり、リスク管理の方法が確立されていたり、法令違反行為が未然に防止されるための「仕組み」を強化する必要も出てくるわけでして、これが会社法で明文化されるところの「内部統制システムの構築」ではないか、と思われます。「自由を保持しうるためには、責任を伴う」といった自然な感覚から会社法における内部統制のあり方を検討するのがシンプルでわかりやすい議論になるのではないでしょうか。こういった視点で、一度会社法施行規則100条で立案された体制整備として決定すべき事項の中身を検討してみてはいかがでしょうか。ある規程は会社外部からの監視(開示)と結びつき、ある規程は会社内部からの監視(モニタリング)と結びつき、またある規定は迅速な意思決定とその執行の適正性(業務の有効性、効率性、リスク管理)などと結びつくはずです。いずれも内部統制に関する法務省令案(パブコメ案)の冒頭で謳われていた「良質な企業統治を実現するため」といったガバナンスの理念との関連性が認められるのではないでしょうか。(各論は次回につづく・・・・)
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コメント
先生、書き込みがご無沙汰になっておりましたが、いつも拝見しております。
この点につきましては、私も先生と全く同感です。会社の自浄作用を果たすために内部統制体制を構築しなさいと言うのが、会社法の内部統制システムだと考えております。
現実に、神戸製鋼所総会屋利益供与事件株主代表訴訟(和解)で神戸地裁は、裁判所の所見として、「大企業は職務分掌が進み、他の取締役や従業員全員の動静を正確に把握することは事実上不可能であるため、取締役は違法行為がなされないよう、内部統制システムを構築すべき法律上の義務がある」という趣旨の見解を出しております。
企業が組織としての自浄作用を働かせるために事故防止のための合理的な仕組みを構築し、又、事故顕在化(発見)容易化の仕組みを構築し、事故が発生(顕在化)すれば体制・運用も含めて見直しを図れるような体制を整えなさい、これが本来の内部統制の考え方だと考えております。
以前、内部統制の目的として一般的に言われている4つの目的のうち、コンプライアンス及び業務の効率性・有効性と財務諸表の信頼性と資産の保全の間には、主従の関係があり、コンプライアンスと業務の効率性・有効性を主眼に据えて構築運用すべきと述べたことがありますが、これは上記のような、内部統制に関する本質的要請に基づくものです。
そして又、このように考えることが、株主からの資金の運用を任された経営のプロとしての取締役の善管注意義務としての法的性質論に整合的だと思うのでがいかがでしょうか?
投稿: コンプライアンス・プロフェショナル | 2006年3月 2日 (木) 19時13分
ご無沙汰しております。
内部統制の話題になるとアクセス数が減るんですか・・。私は飛びつきますけどね。(笑)
「内部統制」という言葉自体が、なにか大袈裟でとっつき難い印象を与えるからかもしれませんね。
私も会社法の真髄である「自己責任」と「工夫」を念頭に構築作業をすることで、変に大掛かりなシステムになること回避できるのではないかと思っています。
計算書類の信頼性は、会計参与を組入れることで対処してもいいわけですから、内部統制という言葉のイメージにとらわれずに、外部の力も借りて構築することもポイントではないかと、思っています。
投稿: ぐっばる | 2006年3月 2日 (木) 21時13分
>コンプライアンスプロフェッショナルさん
ひさしぶりに意見が合いましたね(笑)おそらくプロフェッショナルさんのおっしゃっているあたりが、内部統制を会社法のレベルで議論するときの通説になろうかと思います。ただ、最後のところなんですが、(以前も私はコメントされた方々とすこし意見が違いましたが)内部統制構築義務といったものが、ダイレクトに取締役や監査役の善管注意義務、監視義務といった評価規範と結びつくかというと、すこし懐疑的な意見をもっております。また、そのあたりは続編で、ということで。。。
>ぐっぱるさん
最近のぐっぱるさんのエントリーは商業登記と会社法といった観点から、勉強させていただいております。ファイナンス、財務戦略といったことはすでに外部の人の力を借りる(コンサルタント)のが通常でしょうから、内部統制、コンプライアンスといった部分も当然に外部の支援を受けることもありえるでしょうね。オフバランスの無形資産が会社の貴重な価値として認められつつあるわけですし、今後もいっそう企業価値の一部として認知される日が来るように考えております。内部統制を扱って、アクセス数が増えるような日がくることを期待しています。
投稿: toshi | 2006年3月 2日 (木) 23時02分