金融商品取引法における「内部統制」最新事情
本当は「悪魔の監査(2)」をエントリーしようと思っておりましたが、せっかく一日かけて青山学院に行ってまいりましたので、そのご報告だけでも先にしておこうかと思います。(火曜日は「飛び石連休」ですし、会社でお読みになる方も少ないでしょうし。。。それにしても、「飛び石連休」という言葉も最近あまり使わなくなりましたね)
きょうは一日、青山学院大学でACFE(公認不正検査士協会)主催によりますシンポジウムに出席しておりました。「内部統制最前線」と題して、現時点における金融庁企業会計審議会内部統制部会における議論の現状報告や、これを取り巻く企業や外部監査人の対応方針などが主たる論点でありまして、実際に企業会計審議会委員である八田教授、町田教授(いずれも青山学院大学会計プロフェッション科教授)のお話は今年6月成立するであろう、金融商品取引法における内部統制報告実務のあり方を知る貴重な機会となりました。
八田教授や町田教授がどのように申していた、と書いてしまいますと多少問題があるかもしれませんので、両先生方の意見をお聞きした上での私の認識および印象としてメモしておきます。(したがいまして、ここに書いてあることはすべて私の責任でして、○○さんがこう言っている、といった印象はお持ちにならないようお願いいたします)
1 やはり金融商品取引法上の内部統制は、会社法上の内部統制(体制整備)とは別モノと捉えられているようです。そもそも内部統制という概念は1950年代(つまり上場企業監査の創世記ですよね)から会計監査とともに発展してきたものであって、基本は財務諸表監査における外形の正しさを保証する手段の一つなんであります。これからおそらく進化するであろう、内部統制実務というのは、企業が作成する内部統制報告書と、外部監査人が作成する内部統制監査報告がセットになって初めて結実する、というもの。会社法でも内部統制構築といった問題がいろいろと出ておりますが、そこで内部体制管理として言われているものは、すでに各企業では実施されているものばかりではないか。ただ、そういった管理を「目に見える形」で開示するところに企業統治のあり方が問われているわけであって、本来的には各企業が自主的に経営判断として取り組むべき問題である、といった捉え方が基本にあるような印象を持ちました。一方の金融商品取引法における内部統制のあり方は、その統制報告書の内容については代表者が確認書を提出して、違反には刑罰まで用意されるわけでして、外部監査人としてもその監査にはキビシイ対応が要求される。
2 IT統制の利用、というものに内部統制部会が注目しているのは、なにも高度なITソリューションを利用しなければ金融商品取引法に対応できる内部統制システムが構築できない、といったことを支援しているものではないようです。これまでは、IT問題についてあまりにも企業トップが一部社員にまかせっきりにしてしまい、その重要性をおそろかにしてきたのではないか、ただし内部統制問題とITとは不可欠な関係にあることは確かでして、その重要性をトップ自身が管理する意識がないと、かえってブラックボックス化してしまうのではないか、そういった危機感から、IT統制は財務情報の信頼性と切り離して考えることはできない、という問題意識を鼓舞する必要があって、あえて部会において問題提起する意図があった。(これも私の印象)したがいまして、今後策定されるであろう、実務指針におきましても、どこの公開企業にも高度なIT活用が要望されるわけではなく、ただ情報漏えいや、システム障害、メールなどの管理のあり方など、一般企業として当然に不正(誤謬)防止のために要求されてしかるべき問題点への対応(とりわけ企業トップの意識向上のため)が要望されるのではないでしょうか。
3 内部統制の目的として、資産の保全があげられておりますが、これは「財務報告の信頼性確保のための内部統制には限界がある」ことを意識したうえで、日本の監査役(監査役会)にこそ、この限界をカバーして、企業トップによる不正を防止してほしい、といった期待を込めたものであります。(私の印象)いま、本当に監査役の歴史を変えようとする現実が目の前にある。ここで監査役が企業トップの不正を防止するような行動をとらなければ、内部統制実務自身にも影響が出てくる。このあたりは、会社法の体制整備事項としても「監査役と取締役会との連携」に関する問題がありまして、監査体制の整備のために監査役が取締役会に要望すべき事項(の中身)というものが問われているところでありますので、監査役の行動への期待というものは、いずれの分野の議論でも大きな問題となっていることがわかります。(この監査役の悩みをトップに切り出すのは、監査役自身しかないのであります。)
4 もっとも注目されるのが、今後金融商品取引法成立後に出されるであろう「実務指針」でありますが、これ、企業側にとって詳細なものが発表されることを期待しないほうがいいような気がします。(これも私の印象)むしろ、これから3年間ほどの準備期間があるわけですから、自社にとって内部統制報告書を作成するための実務指針のあり方は、これまでの公表されている「あり方案」などを参考としながら「訓練」しなければいけないんじゃないでしょうか。ここは監査法人による努力も必要になってくるのかもしれません。
いずれにしましても、今後の議論展開に影響しそうなのが、アメリカにおける企業改革法の実務適用に関する見直しであります。(それにしても、アメリカの企業改革法見直しの議論はビックリするような展開になっていますね)この2月、3月にもラウンドテーブルが継続しておりまして、そこでの見直し決定事項が、これからの金融商品取引法における日本の運用方針決定に参考にされることは間違いないようですね。ライブドア事件への対応によって、一時的に進展が遅れていた金融庁の内部統制への取り組みも、やっと動き出す気配がありそうです。
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