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2006年3月 7日 (火)

企業価値と司法判断(新会社法下での再考)

昨年5月にこのブログを立ち上げたわけですが、ブログ立ち上げ当時は、私自身が日ごろ考えていることの備忘録として、おもに「企業価値と司法判断」との関係など、いろいろと勝手気ままにエントリーをしておりました。(ドリコムブログの時代を合算しますと、もうすぐ1年が経過するわけですねぇ。)最近はライブドア事件を再考するつもりで、当時のライブドア・ニッポン放送裁判の判決や鑑定書などを読み直してみたりしておりますが、ちょっと気になった点だけ「備忘録」程度に書き留めておきます。

1 司法判断は「企業価値」論には踏み込まないのか?

これは昨年、敵対的買収防衛策の発動要件である「企業価値委員会の出した結論」などについて、もし司法判断が及ぶとすれば、どういった審査内容になるのか、といった問題提起をしていたところであります。おそらく裁判所は、敵対的買収者が出現した場合に、現経営者らと買付希望者のどちらのほうが株主価値の最大化をより実現できるのか、といった問題には「企業価値の算定」といった実質的な判断関与はせずに、(私個人としましては)対象企業における防衛策発動要件の手続審査のみ行うにすぎないのではないか、といった意見を述べておりました。そもそも企業価値の算定などといった問題は、司法判断にはなじまないといった根拠からであります。この意見内容は、ライブドア事件総集編などの新聞雑誌におきましても、著名なM&A専門弁護士の方や学者の方々も同様の意見を述べておられるケースが多いようでして、大方の通説的な意見ではないでしょうか。

ただ、この意見が新会社法のもとにおける司法判断にも、そのまま通説的な見解として通用するかどうか、ちょっと検討すべき点もあろうかと思います。といいますのも、合併手続などに反対する株主に認められる「株式買取請求権」につきまして、現行商法と新会社法では異なる条文構造をとっております。つまり現行商法408条ノ3では「承認の決議なかりせば、その有すべき公正なる価格で買い取り請求ができる」とされておりますが、新会社法797条などによりますと、合併に反対する少数株主は「公正な価格による」買取請求ができる、と規定されています。つまり、これまでは買取請求権行使の対象となる株式価格については、純粋に合併がないとすると、そのまま対象企業が保有していたであろう市場価格さえ判明すればよかったのでありますが、これからは裁判所は(商事非訟事件において)反対株主の買取請求権の価格を「合併による会社価値向上分というプレミアムを含めた株式価値」として算定することになりそうです。おそらく裁判所は、新会社法施行後におきましては、今後ますます増えると予想される株価決定非訟事件のなかで、この買収プレミアムの算定を真正面から受け止める必要があるわけです。ということは、先に述べました敵対的買収防衛策の発動の可否を判断するような場合におきましても、現経営陣による企業経営と買収希望者のもとにおける企業経営との企業価値比較のような作業も、特別に排除しなければならない理由はなくなるわけでして、「司法の判断にはなじまない」という通説的な理由で一蹴することもできなくなってくるのではないか、とも思えます。

2 ライブドア高裁判決とLBO

よく、ライブドア・ニッポン放送裁判の控訴審判決の判断理由が検証されておりますが、そのなかで原則として現経営陣の支配権維持目的による新株発行(新株予約権発行)は、その発行目的からみて不公正な新株発行に該当するために、例外的な場合、つまり買収希望者が対象会社の資産を「食いもの」にしようとしている場合であることを立証しない限りは発行差止が認められる、といった判断が先例的意義を有しているものと評されています。そして、その「食いもの」にするケースの例示として、対象会社の資産を担保として金銭融資を受け、これを買収することも含まれておりまして、これに対してはLBOはフェアな買収方法のひとつであって、上記高裁判断は過剰な制限ではないか、といった批判もなされておりました。しかし、いろいろなLBOに関する文献などを読んでおりますと、LBOによる手法で敵対的買収をかけるケースを検討した場合、その方法によっては会社を食いものにするケース(短期で買収効果を回収するケース)と、そうではなく対象企業の長期のキャッシュフローで返済を行っていくスキームによるものとは完全に区別されるべきでして、そうであるなら、企業価値の算定に司法が関与することによって、会社を食いものにするLBOなのか長期的な企業価値向上を狙ってLBOを仕掛けるのかは、判断の区別が可能になるのではないか、と思ったりしておりまして、高裁の判断理由も(ある意味で)適正なものではないかと思い直しております。

新会社法と買収防衛策との関係につきましては、一般には種類株式の利用方法や開示条件などが話題になっておりますが、上記のとおり司法判断の審理対象問題などにつきましても、すこしばかり影響が出てくるのではないか、などと考えておりますが、いかがでしょうか。(手元になんの資料もない状態でエントリーしておりますので、高裁判例の紹介部分などはかなりラフです。ご了承ください)

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コメント

大変興味深い内容で、特に前者についてはアメリカでも議論が盛んな点なので、いつか自分のブログでも簡単に紹介してみたいと思っているのですが、後者のLBOについて「会社を食いものにするケース(短期で買収効果を回収するケース)」というのが、どういう場合なのか(あるいは、どのような文献で分類がなされているのか)を教えて頂けると幸いです。
「短期で買収効果をあげられる」場合というのは、買収者側に事業改善やコア・非コア選別の高いスキルがあるということを意味するようにも思われ、「会社を食いものにする」というイメージと必ずしもそぐわないように思われたので・・・アメリカでもチェーンソー・アルなどが「解体屋」と呼ばれますが、リストラクチャリングのケース・ブックなどでは、効果的なリストラのノウハウを持っていたということで採りあげられたりもするんですよね・・・

投稿: 47th | 2006年3月 7日 (火) 04時24分

>47thさん

おひさしぶりです。
コメントありがとうございます。
アメリカの議論というものをまったく知らずに、どちらも書いておりますので、47thさんの正統派のご紹介を期待しております。LBOの問題に関しては、若干文献などでも紹介されているところがありましたので、つぎのエントリーの際に検討させていただきます。ただ、この高裁判断というのは、ずいぶんと批判されているようですが、今後の議論進化のためのいい材料を提供されているのではないか、と(少なくとも私は)考えているところです。

投稿: toshi | 2006年3月 8日 (水) 02時38分

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