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2006年3月23日 (木)

NEC子会社の架空取引と企業コンプライアンス

すでに新聞、ネットニュースなどでご承知のとおり、NECの100%子会社であるNECエンジニアリング株式会社(NECE)の技術職幹部(部長級)の方が約5年にわたって合計200回の架空取引をくりかえし、5年間で売上額363億円、営業利益93億円を上乗せして公表していた、とのでして、親会社であるNECは米国会計基準に基づいて過去の連結財務諸表を訂正するようであります。(NECのリリースはこちら)また、新聞報道などを総合しますと、まず架空売上の計上につきましては、自分が担当していたプロジェクトが赤字に陥り、穴埋めを図ろうとしたのが発端と供述しているようでして、さらにこの社員の方は納品先から5000万円ほどのキックバックを着服してまして、おもに飲食代に使用したとして、事実を認めているようです。よくわからないのは、仕入先、納品先とも共謀していたようでありまして、この平成17年12月まで、納品先からは実際に売買代金が振り込まれていた、ということですから、このあたりは調査内容をさらに検討してみませんと、不明です。連結財務諸表を公開している親会社(NEC)としましては、架空利益の金額が(長期とはいえ)ライブドアの架空利益の倍近くですから、「あくまでも従業員個人の所業であって、会社ぐるみではない。直ちに刑事告訴する予定である」と公言しとかないとマズイですよね。NECは3月16日に突然の社長交代がありましたが、新社長にとりましては、就任早々頭の痛い問題を抱えることになってしまったようです。

企業コンプライアンス、という観点からみますと、まず内部監査によって発覚したとはいえ、調査の発端は、この納品先からの売掛金回収が滞ったことがきっかけ、ということですから、内部統制が十分機能していた結果である、とまではいえないかもしれません。ただ昨年12月から外部専門家を導入して3月には一応の結果報告が出たわけですから、公表までの時間は比較的早かったのではないでしょうか。(おそらく本人との調査結果に基づく面談もあったでしょうから)もし、新聞報道にありますように、仕入先、納品先と意を通じて架空取引を継続していたこと、本人が購入書類、納品関係書類そして社内稟議書まで偽造していたことなどが事実であるとすれば、5年間内部監査、会計監査によって架空取引が判明しなかったことについても、いわゆる「内部統制の限界」に属する部類なのかもしれません。

ただし、疑問もありそうです。NECEの売上高の推移を概観してみますと、2001年3月期は493億円、2002年520億円、2003年560億円、2004年626億円、2005年825億円となっておりますが、いっぽう本人の架空取引による架空売上額につきましては、2002年3月度16億円、2003年度46億円、そして2004年度は167億円となっています。つまりNECEとしては2004年度あたりでは実際には100億円程度の売上減少であるにもかかわらず、この架空取引によって前年度よりも60億円近い売上増となっているわけでして、果たして年間売り上げの20%にも及ぶ架空取引というものが、たった一人の部長級の従業員の行動として、だれも「おかしい」と疑わなかったのでしょうか。在庫管理という面からみた場合、「おかしい」と疑えば、容易にチェックできるような気がしますが、とても私の頭では想像がつきません。さらに、このNECEの売上構成をみてみますと、たいへんリスク管理が行き届いているようで、システムソリューション事業33%、ITプラットフォーム事業が32%、アプライアンス関連事業が35%といったあたりで推移していたようです。ところで、こういったリスク管理を行っているところに、一事業部門だけで100億円以上の売上増加という事態が発生したとすれば、当然各事業部門への資源配分のバランスは崩れるわけですから、「どうしたの?」って話題になるのが自然ではないでしょうか。そのあたりは、売上を粉飾するケースによくある兆候だと思われますから、内部監査部門あたりが動き出すのがあたりまえのように思うのですが。こういったあたり、私にはとても強い疑問を感じますが、いずれにしましても、内部統制の限界ということでは済まされない問題点も含んでいるように思いますが、もし私が根拠としている数字におかしな点などがございましたら、またご指摘いただきますと幸いです。

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コメント

こんにちは。私も日経の記事を拝読して同じ疑問をいだきました。会社側が相当早い段階から気づいていて目こぼししていたが、目こぼしをできない事情が生じてこういう処理に至ったのではないでしょうか。ばれなければ会社の役に立つ膿もあるので手術の時期を工夫したと。全て邪推ですが。toshiさんがそうはっきり書くわけにはいかないでしょうが、おそらく同様に目こぼしできなくなった事情について関心を寄せておられるのではないかとお察し申し上げます。

投稿: bun | 2006年3月23日 (木) 08時40分

toshi先生、おひさです。(今回は無事、ビジ法1級合格いたしました。今年は8,4%の合格率だったそうです、?度目の受験でようやく・・・ということで・・笑)

私もbun様と同じ意見であります。
先生は3ヶ月の調査期間は早いほうだと書いておられますが、私は公表の時期を考えていたのではないか、と推測しています。先生が指摘しておられる数字が正しいとするならば、社内で疑われないはずがありません。コンプライアンスオフィサーという立場からすれば、相当早い時期から担当部署では認識していたのではないでしょうか。
それにしてもなぜNECEのHPで、事実関係を公表しないのでしょうか。公開企業でなければ、そういった社会的責任はないということなんでしょうかね。(特別に非難するつもりで書いているのではなく、こういった対応で十分、との認識が社会常識なのかどうか、そのあたりに疑問をもってしまったもので)

投稿: sara.onji | 2006年3月23日 (木) 11時17分

>それにしてもなぜNECEのHPで、事実関係を公表しないのでしょうか。公開企業でなければ、そういった社会的責任はないということなんでしょうかね。

NECとしては404条対応の内部統制システムを構築しているところではないかな、と。企業グループ全体の統制ガバナンスの責任は親会社にあるわけだからNECが開示すれば十分では。

投稿: maruta | 2006年3月23日 (木) 14時05分

>bunさん

おひさしぶりです。
saraさんもおっしゃっていますが、やはり早い段階で会社が認識していた可能性というのも考えられるわけですか。私の立場からは、あまり推測で物事を判断することはできませんが、企業の立場からみて、「公表すべきか、公表すべきでないか」、リスク管理という観点から悩むこともあろうかと思います。もちろん、理想論からいえば、公表すべき、という結論になるかもしれませんが、けっこう公表した後にも、公表時には会社が認識していなかった事実が出てきたりして、さらに会社の調査管理能力が問われたりして。
企業グループにおける内部統制という問題がホットな話題になっているだけに、本当に考えさせられる事件だと思っており、またフォローしていきたいと考えています。

>sara.onjiさん
どうもおひさしぶりです。合格おめでとうございます。各論問題はかなり難易度が高かったように聞いておりますが、合格率はいつもと同様ではないでしょうか。
marutaさんが指摘されていらっしゃるように、100%子会社内における個人的犯罪と捉えているわけでして、さらに財務諸表への影響は公開親会社なわけで、私もNECは親会社におけるHPで十分と判断したのではないか、と推測しています。(でも、問題が大きくなったらやっぱり自社HPで事実関係を開示すべき、とも考えますが)
また、遊びにきてください。

投稿: toshi | 2006年3月24日 (金) 10時33分

始めまして。
ライブドア支持者としてこの問題に注目しています。
ライブドアとの扱いの違いと言ったらどうでしょう。

内容的には、金額としても架空取引・5000万円着服と言う行為にしても、ライブドアがグレーだとしてもNECEの件のほうは真っ黒。より悪質という印象ですが・・・

自首したら、会社は結果粉飾決算でも無罪なのでしょうか?
ライブドアが不手際に気が付かなかったなら、証券取引等監視委員会なりが指摘をして決算報告書なりを修正したら、ライブドアもお咎め無しですんだのですか?

どちらも会社幹部が実行していて、社長が了承していることですよね。
なぜNECEだと修正で済んで、ライブドアは家宅捜索と逮捕と言う違いになるのでしょうか?

お答えいただけるお立場ではなさそうですが、ちと愚痴を言ってしまいました。
大変に参考になりそうなのでいろいろじっくりと拝見させていただきます。

投稿: 小株主 | 2006年3月27日 (月) 09時02分

大変ご無沙汰しております。西海岸の監査人です。
この件私も興味もっておりましたのでTBさせていただきますね。(その後関連ニュースをチェックしていなかったのですが、「売買代金が振り込まれていた架空売上」なんですか?全くわけがわからないですね)

「架空売上」って内部統制上はかなり重点を置いて防がれる(べき)ところなので、個人的には内部統制上どこかに欠陥がなかったわけはない、とは思います。内部統制って、予防的統制(架空売上が技術的にできないような仕組みつくり)、発見的統制(売掛金の年齢調べ・回収状況モニタリングなど)とあって、内部監査っていうのは「最後の発見的統制」ですから。Sox対応なんかで内部監査を強化したら藪から蛇が出たってところでしょうね。

内部調査をいつ行ったのか、いつ公表したのか、目こぼししてたんじゃないかとか、そういう詮索をするのは私は好きでなくて、問題があったら訂正しました、ただ、不正の事実は市場が厳正に評価します、ということになればいいと個人的には思っているのですけれど。。。

投稿: lat37n | 2006年4月 5日 (水) 12時35分

lat37nさん

おひさしぶりです。あいかわらずcoolなブログでときどき寄せてもらっています。(はて、寄せてもらう・・というのは大阪弁かも)
最後の部分はまさに「悩ましい」ところでして、CFE(不正検査士)の仕事というのは、どちらかといいますと「詮索」の世界ですね。(笑)
ある程度「不正がある」「暴きたい」というところから出発するものでして、企業の対応あたりも問題にします。
会社法には会計監査人の「不正報告義務」が規定されておりますが、このあたりも会社法はどこまで会計監査人に「不正発見」を期待しているのか、会計士さんの職責問題とも関わりのあるテーマかと思います。論点がずれておりましたらご勘弁を。
また遊びに来てください。

投稿: toshi | 2006年4月 6日 (木) 02時29分

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