ブラザー工業の敵対的買収防衛策
新聞等ではあまり大きく報じられておりませんが、ブラザー工業株式会社が事前警告型の敵対的買収防衛策導入を取締役会で決議し、6月総会において取締役の任期1年制と合わせて株主総会決議にかける、とのことであります。ブラザー工業による大規模買付行為に対する対応(敵対的買収防衛策)のお知らせと補足説明はこちらです。新株予約権の発行登録も既にされたそうです。
昨年のライブドア、ニッポン放送事件あたりの時期には、どちらかといいますと買収策のスキームのほうにばかり目がいきましたし、それはそれで実におもしろかったのですが、夢真・日本技術開発の事件や、先日のドンキ・オリジン東秀事件などの経過をみてしまいますと、敵対的買収策を導入しようとする企業の「真意」はどこにあるのか?といった動機の部分に興味が湧いてくるようになりました。
このブラザー工業の買収防衛策には、「大規模買付ルール」という経営権取得を目的とした株式買付希望者が従うべきルールが作られておりまして、前もってこのルールが決定されることになりそうですが、そもそもこの買付希望者はこの大規模買付ルールに従わないと「株主利益を拡大するための買収希望者」とは認められないものなんでしょうか。もし、ルール自体に不合理な点がありましたら、ルールに従わないでTOBをかけても「濫用的買収者」には該当しないはずですよね。そこでこのルールの内容なんですが、「買付希望者には厳しいなぁ」との印象を抱きましたのは、情報提供完了通知をブラザー側から買付者が取得しないと、ブラザー経営陣の熟慮期間(現金買付なら60日、その他は90日)は開始されないところです。この情報提供が完了したかどうかは、主としてブラザー側の判断に任されているわけでして、買付希望者の企業価値などの把握のために、追加、追加で情報提供の要求がブラザー側から出された場合には、買付希望者はこれに誠実にしたがって回答しませんと、「濫用的買収者」に該当する可能性が高まるわけです。しかし、このルールですと、時間稼ぎのためにブラザー側経営陣が自分の一存で買付希望者のTOBの時期を遅らせることができるわけですから、果たしてルールとして合理性があるのかどうか、私はすこしばかり疑問を感じました。
それと、この買収策導入の真意というのは、有事に防衛策を発動する、ということよりも、買付希望の企業情報をなるべくたくさん提供させて、その情報をもとにホワイトナイトを探すことを画策する機会を保証することにあるのではないか、と邪推してしまいました。これはなにも根拠はないのですが、最近の敵対的買収に関する事件の推移などをみておりますと、自社における代替案を検討することも重要かもしれませんが、株主への選択肢の提供として他社との提携といいますか、なんらかのグループを形成して(ホワイトナイトを探しながら)敵対的買収への防衛をはかることも「支配権維持のために」重要な戦略のようみ見えてきたからです。
そう考えますと、日本円での現金買収の場合には熟慮期間60日、その他の場合は90日というルールですから、たとえば対価を自社株式として買収提案をかけてきた買付希望者なんかが登場しますと非常に興味深い状況になりそうですね。(もちろん、そのようなエクスチェンジTOBが可能な企業というものも限られてくるわけですが)ホワイトナイト側の提案する買収金額との単純な比較によって現経営陣の「賛同意思」を表明しにくくなりますし(株主との善管注意義務違反の問題)、企業買収が成功すれば、買付に応じた被買収対象企業の株主にもメリットがあって魅力的ですし、だいいちホワイトナイトの現金価格と将来における自社株式の価格の比較において、その多くの参考資料は買収希望者側にあるわけですから、企業価値算定のイニシアティブは買付希望企業のほうにあるのではないでしょうか。
こういったM&A関連のエントリーの際には、いつも言い訳するところでありますが、私はこういった企業買収を専門に扱う弁護士でもございませんので、あくまでも社外役員としての立場からの素人的推測にすぎません。ただなんとなく、この大規模買付ルールというものは、本当に、このルールが適用されることによって「株主全体の利益」につながるのかどうか、すこしばかり検討してみてはいかがでしょうか。
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