法律のプロとしての厳しさ
昨日、本日と「会社法における内部統制構築(体制整備)のあり方」と題する講演をさせていただきました。昨日は日本監査役協会関西支部と公認会計士協会近畿三地区合同研究会で、そして今日は特定企業内研修会です。日本を代表するトップ企業の監査役さん方の内部統制論のレベルは非常に高いものがあり、顔から火が出るくらいに恥ずかしい対応をしてしまった場面もありました。また、本日も内部統制整備責任者の方からの厳しい注文もあり、その対応に四苦八苦しておりました。
法務のプロとして、この内部統制論を扱う「心構え」というものを、とても考えさせられる二日間でした。それぞれの立場で、この問題を会社のなかでどう生かしていくか、といった意気込みは本当に熱心なものがあり、まずは講演をする立場の者として、この意気込みに負けない「心意気」が必要であります。弁護士は、どうしても高いところから卓見したような口調で講演をしたがるようなところがありますが、本件に関してはそれはマズイ。私は善管義務、忠実義務を負わないような取締役の行動といった視点が喜ばれるのではないか、と思っていたのですが、昨日、今日と、そんな責任回避の話を聞きたいと思っている方は少なかったようです。真剣に自社に内部統制システムを導入することで他社に負けない企業価値向上策を考えている、その熱心さに応える必要がありました。「予防法務」ではなく「戦略法務」なんです。
また、(これは講演の後でツラツラと考えたことなんですが)なぜ弁護士が法律でメシが食えるか、ということですが、私はそもそも「訴訟」という既得権領域があって、そこでの独占事業が保障されているからではないか、と楽観しておりました。しかし、本当のところは、それだけではなくて、むしろ「裁判」という「ケンカ」の場面でカラダを張ってるから(少なくとも、外見上はそうみえるから)ではないか、と思うようになりました。コンプライアンスや不正検査の件でもそうですし、またこの内部統制構築の提言でもそうですが、こういったクライアントの相談案件でメシを食うためには、カラダを張る必要がありますね。ちょうど刑事事件の処理能力と民事事件の処理能力を総合的に合わせたような能力、つまり半分はクライアントの悩みを共感して背中を押してあげたり、自ら「馬鹿といわれること」をかえりみずに先頭に立ってあげたりして、あとの半分では後日クライアントとの紛争にならないように自らのスキルを磨き続ける冷静な自己研鑽ではないでしょうか。内部統制というたいへんホットな話題に仕事の上で関与できたことで、これまでにないほど貴重な経験をさせていただいておりますが、また同時にプロとしての甘さを毎日痛感させられているところであります。
弁護士人口が増えていくと、訴訟件数が飛躍的に増えない限りは、そのひとりひとりの収益は落ち込んでしまうと言われておりますが、どうもこれは後ろ向きな考え方ではないでしょうか。(先日の「法律事務所のハコ」のエントリーとも通じるところがありそうですが)時代はもう「誰がカラダを張って守ってくれるのか。誰が綱を引っ張って会社をいい方向へ誘ってくれるのか」を弁護士に問うようになってきたのかもしれません。(そのぶん、お金もかかるかもしれませんが)先日のドンキ、オリジンの紛争の際、ドンキ側弁護士によるオピニオンレターが開示されましたが、堂々とカラダを張って「ドンキは真っ白である」と言い切って矢面に立つ姿と、熟考によって裏打ちされた論理展開の冷徹さが、これからの企業法務に対応する弁護士に「魅力」を感じさせる要素の中心なのかもしれませんね。ともかく反省、前向き、反省の毎日であります。。。
※ちなみに、3月下旬は2度ほど他の公認会計士さんや同業者の方の「内部統制」関連の講演を拝聴させていただくこととしました。非常に楽しみにしております。
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コメント
山口様
ご無沙汰をしております。
胆力。これが生命線だと思っております。
三宅伸吾拝
投稿: 三宅伸吾 | 2006年3月11日 (土) 04時34分
>三宅伸吾さん
おひさしぶりです。
弁慶の勧進帳も、それまでの勉学に勤しんだ背景があるからこその胆力です。私の世界でも、三宅さんの世界でもそうですが、十分な調査と深い思考に裏打ちされていなければ「胆力」ではなく「虚勢」に終ってしまうような気がします。
「胆力」・・・肝に銘じておきます。
投稿: toshi | 2006年3月11日 (土) 11時54分
先生、ご活躍されていますね。
エントリーを読んでいますと、オフィサーフォーラムでの江上剛氏が、
「どんどん畑を耕してください。畑耕し放題です。」と冗談まじりで言われた言葉が思い出されます。
会社が求める専門家は、後方で支援してくれる人ではなく、先頭きって鍬を振り下ろしてくれるような人なのでしょうね。
投稿: ぐっばる | 2006年3月12日 (日) 00時23分
>ぐっぱるさん
「活躍」どころか、まだまだ「下積み」です。
畑を耕すにも、まだ「鍬」がなくて、「スコップ」程度しか持ち合わせておりません(笑)
ところで、先頭きって鍬を振り下ろすには、社外役員としての立場のほうがいいのか、それとも顧問として外部コンサルタントといった立場のほうがいいのか、どうなんでしょうね?
最近、こういった問題について逡巡しております。
また遊びに来てくださいね。
投稿: toshi | 2006年3月13日 (月) 02時46分