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2006年4月30日 (日)

大規模パチンコ店のコンプライアンス

5月1日より改正風営法(風適法)が施行されることになりまして、パチンコ&パチスロ店(以下、単にパチンコ店といいます)の営業にも大きな影響(刑事罰の厳格化および刑事罰確定による行政処分との関連性)を与えることになります。私の事務所も、大規模ではありませんが、関西でちょこっと展開しているパーラー運営会社の顧問をしている関係から、パチンコ店運営にかかるコンプライアンス関連の相談を受けることがあります。昔はヤミの世界とのつながりとか言われておりましたが、最近は普通の上場企業以上にステークホルダーとの関係はクリーンですし、コンプライアンス経営にも熱心に取り組んでいらっしゃるところが多いですよね。

きょう、ろじゃあさんのブログでおもしろい記事をみつけましたが、大規模パチンコ店がジャスダックに上場申請をしたところ、経営に問題があるとのことで上場申請が却下されてしまう、ということのようです。(朝日新聞ニュースはこちらです)出玉の景品を換金する業界慣行の合法性があいまいなため、投資家保護を果たせないと判断した、といった理由が書かれています。(このあたりの「三店方式」に関する説明はろじゃあさんのブログに詳しく説明されています)パチンコ機器製造会社やカードシステム会社は既に上場を果たしていますので、大規模パチンコ店の上場は悲願だと思いますので、さぞや上場申請をされた企業は悔しい思いをされていることでしょう。なお、ジャスダックに上場申請をした大規模パチンコ店(2社)につきましては、主幹事は日興シティグループ証券と大和證券SMBCです。また悲願達成に向けて、上場申請に先立ち、企業のコンプライアンス経営向上のため、有限責任中間法人PTBを設立しておりまして、(審査委員の顔ぶれをみますと、日経ビジネスの昨年度「日本の弁護士ベスト20!」に掲載されておられる弁護士の方がお二人もいらっしゃいますし、またコーポレートコンプライアンスで有名なあの教授のお名前もあります。すごいメンバーなんですね)ものすごい気合です。

「三店方式」によるパチンコ景品の換金システムが「合法性に問題あり」ということで審査が却下される、というのはまちがいなく「表向きの理由」でして、本当の理由はちがうところにありそうです。これはもうご承知の方も多いとは思いますが、いわゆるパチンコ店と風俗営業における営業許可との関係からです。もう少し具体的に申しますと「警察権力とパチンコ店との関係の歴史」からくるわけでして、風適法違反による行政処分といいますのは、警告で済むのか、違反店舗のみの営業停止で済むのか、全店営業停止となるのか、営業許可取消になってしまうのか、まったく予想がつかないのが現実です。こういった現実を許してしまったのは、その責任の一端は弁護士にもあると思います。以前私がエントリーのなかで「風俗産業の顧問をしていたころのお話」をカミングアウトいたしましたが、警察許可(正確に申し上げますと、許認可権限は都道府県の公安委員会にありますが)に対する行政処分に対決する弁護士の数が圧倒的に少ないために、(風俗専門の弁護士といわれるのもやっぱりカッコ悪いというのもあるかもしれませんが・・・いや、それ以上に弁護士倫理に触れるかもしれませんね・・・・・)刑事罰と違って大幅な裁量権を警察が握っている状況がこれまで脈々と続いているわけです。したがいまして、パチンコ店などもおそらく「企業不祥事発生時における、経営に重大な影響を及ぼすリスクの適正な管理」ができないのではないでしょうか。こればっかりはどんなに偉いセンセイ方が第三者機関の委員になっていようと、どんなに立派な証券会社が主幹事になろうと、警察がジャスダックに対して「パチンコ店を上場させるの?もし営業許可が取り消されて投資家が被害を被ったら君達も同罪だけどいいのかな?」といったカタチで質問をしてきたら、ジャスダックもビビってしまうことになってしまうのではないでしょうか。ましてや、この5月1日の改正風適法施行後におきましては、18歳未満の出入りやパチンコ機器の無承認による改造などの事実が発覚して刑事罰を課される場合には一発で営業許可取消といった行政処分の厳罰化が待っているわけでして、パチンコ店の運命はますます警察の手のひらに乗っかってしまうのが現実であります。

ということで、現状のままではパチンコ店と警察とは営業許認可権をちらつかせての「持ちつ持たれつ」の関係が今後も継続するところでしょうし、本当の大規模パチンコ店のコンプライアンス経営(リスク管理)が実現するのは、ひとえに企業不祥事発生時における行政処分の予測可能性に尽きるものと私は考えております。ヤミの世界との関係を断ち切ってきたこれまでの努力と同じように、警察との関係もクリーンにできるのかどうか、そのあたりもコンプライアンス経営にとっての課題でしょうが、そうなると今度は本当に「三店方式の合法性」について、警察が黙っているのかどうか、そのあたりはなんとも微妙な問題が出てくるかもしれませんね。(ちなみにパチンコ機器製造会社やプリペイドカードシステム会社が上場しておりますのは、やっぱりそういった会社に警察OBの方々が天下っておられるからなんでしょうね・・・、いえ、これは私のただの憶測にすぎませんが・・・・)

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2006年4月28日 (金)

だまされる弁護士

ひさしぶりの耐震強度偽装事件関連ですが、このブログで耐震強度偽装を自主申告したものとして、情状酌量の余地があるのではないか、と私見を述べておりましたイーホームズの藤田社長が先日逮捕されました。逮捕当初は、耐震強度偽装とは無関係な虚偽増資(いわゆる見せ金)に絡む逮捕事実(電磁的公正証書原本不実記載罪)ということでしたから、「これで逮捕されるんだったら、世間の中小企業の社長さんは、ヒヤヒヤしてるんじゃないかなぁ」との印象を持ちました。でも、これまでの報道されている事実関係が真実だとしますと、けっこうこの虚偽増資はタチが悪いようですし、ヒヤヒヤしてる中小企業の社長さんの例とはかなり異質なものではないか・・・といった印象に変わってきました。

増資の1年後にイーホームズの上場準備のために過去の経理関係を調べていた会計コンサルタント会社から、「見せ金ではないか」と指摘を受けたらしいのですが、そのときにイーホームズの社長は弁護士と相談をして、「実際に貸付が行われているのだから増資は適法である」との弁護士名による意見書を提出したそうです。その意見書をもらった会計コンサル会社は、あとは何も言わずに、そのまま調査が続行されたようです。昨日あたりに報道されたところによりますと、そもそも共犯とされている司法書士から2700万円を借りた後、増資登記がなされ、直後に関連会社へ貸付がなされたそうですが、すぐにその金員は藤田社長の個人口座へ振り込まれ、その後すぐに同額が司法書士へ交付されたとのことです。おそらく、相談を受けた弁護士は、この関連会社への融資関連書類と、その後藤田個人へ返済されたことを証明する書類だけを確認したのではないか、と推測されます。個人口座からすぐに司法書士へ還流したわけですから、これを秘匿して弁護士に意見書を書かせるという手口を使ったとしますと、弁護士の社会的信用を悪用したものとしてかなり違法性は高いものと考えられます。

私は同業者であるこの弁護士の方について、「だまされた」立場だと思っておりますので、同情申し上げるところもあるのですが、さてなぜこうも簡単に騙されてしまったのか、すこし解せないところがあります。増資分である2700万円は会社資金ということですから、関連企業に貸し付けられたものであったとすれば、イーホームズ社へ融資金の返還がなされるべきでしょうが、そのあたりの確認はなぜしなかったのでしょうか。同額が個人口座へ振り込まれた、ということでしたら、それだけで不自然ではないでしょうか。さらに、この2700万円を利用して資本金が5000万円になったことで、このイーホームズ社は確認指定機関としての資格を有することになります。実際に増資登記を行った直後に資格が認定されたことと、会計コンサルタント会社が「見せ金ではないか」と疑念を抱いた後に調査をしていることと考えあわせますと、「見せ金」でないということを確信するためには相当に資金の流れを確認しておく必要があったのではないでしょうか。そういったことを考えますと、この弁護士の方にも全く落ち度がなかった、とは言えないようにも思えます。

2年ほどの間に7回もの増資を繰り返し、その増資のたびに大きな仕事を受注できる資格を取得していき、上場できるだけの体力をつけていった、ということですから、その構造についてはライブドアの株式分割にも共通するところがあるように思われ、これが見せ金の繰り返しであったとすれば、順法精神の欠如として、逮捕も当然のことのように思えます。耐震偽装事件の本丸に向けて、検査機関がどのような役割を果たしていたのかといった実体に興味が集まるものと思いますが、私はどっちかといいますと、この見せ金疑惑の進展のほうに興味を抱いております。

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2006年4月27日 (木)

報告書形式による内部統制決議

一昨日の「帝人の内部統制システム整備決議」のエントリーには、たいへん多くのアクセスを頂戴しまして、どうもありがとうございました。m(_ _)m アリガトォ~★
一日のPV(ページビュー)5000超といいますのは「ホリエモン逮捕と罪刑法定主義」を超える当ブログの新記録でして、やはり世間の「内部統制実務」への関心の高さを物語るものとして、私もビックリしている次第です。ただ、過去に何度も申し上げておりますが、このブログは私個人の私的な見解を述べているだけでして、ときどき(これは無理があるなぁ・・)と感じているようなことでも、平気で垂れ流している見解もございますので、どうか内容の吟味につきましては、ご覧になっていらっしゃる皆様方の責任において斟酌いただきたいと思います。また、「これはおかしいぞ」と感じるところがございましたら、どうかご遠慮なくコメントを残していってください。よろしくお願いいたします。

ということで「帝人の・・・」が大ウケだったことに気をよくして、というわけではございませんが、感謝の意味を込めまして、もうひとつだけ続編で本日(4月26日)に東証適時開示で公表されておりました総合リース事業のセンチュリー・リーシング・システム株式会社(東証1部)の内部統制システム整備決議(内部統制システムの整備に関する基本方針について)を検討してみたいと思います。

これ、先日私がある企業から相談を受けた「体制整備事項決定決議」と非常によく似ております。なにが似ているかと申しますと、いわゆる「報告書形式」なんです。最初に経営理念などの基本方式を掲げておいて、細目(いわゆる会社法施行規則100条1項1号以下で整備事項として列記されているもの)については「うちはこんなことをしております」といった現状報告形式で記述するものです。自社において、コンプライアンス経営、リスク管理体制の整備のために必要と思われるものを決定すればよいのですから、自社の体制を確認したうえで現状として整備されていると考えれば、こういった「運用しております」「適宜実施しております」形式もありなんでしょうね。私が相談を受けた企業も、こういった報告書形式での整備事項決定決議であれば、将来的に株主様から「具体的な人的組織、物的組織を構築する、と開示しているが実際には構築されていないのではないか?」とつっこまれる心配がないということで、現状確認報告の方式を採用したいとのことでした。

たしかに、体制整備事項として、自社の理想を追求するあまり、「あれもこれも」と欲張って決議してしまいますと、後でなにか問題が発生した場合に取締役の善管注意義務違反の内容としての「内部統制構築義務違反」の根拠を株主様に提示してしまう結果になってしまうおそれもありそうですし、できればサラっと流しておいて、様子を見ながら後で追加決議をしよう、といった対応も賢いのかもしれません。ただ、私個人としましては、せっかく開示するのでしたら、これまでの経営管理システム構築の仕上がり具合と、自社のリスクを洗い出した結果としての問題点克服方法(体制整備の目標事項)を同時に示すような決議内容にすべきである、と考えます。なぜかと申しますと、おそらく2008年3月以降の事業年度から強制適用されるであろう「金融商品取引法」に基づく内部統制実務報告制度のための「トレーニング」を十分いまから積んでおいたほうがよさそうだ、と思うからです。

ご承知のとおり、財務報告の信頼性確保のための会計監査人による内部統制報告実務は(予定では)2008年以降に開始される事業年度より強制適用されますが、アメリカのSOX法実務と異なり(といいますが、アメリカでも見直しが進んでおりますが)、日本の内部統制監査はトップダウン方式のリスクアプローチがとられ、ダイレクトレポーティングが不採用、財務諸表監査との一体化の運用がなされます。またアメリカには存在しない「監査役の監査レベル」といったものも評価の対象となるわけです。こういった事情のなかで、経営者が作成する「内部統制評価報告書」の適正、不適正を判断するわけですから、評価する側である会計監査人は、どうしてもすでに動いている内部統制システムの構築レベル、運用レベルを参考とせざるをえないわけでして、当然のことながら会社法における体制整備決定事項を参考として、評価判断の材料とすることは十分予想されるところであります。もちろん会社法レベルでの「内部統制システム」は財務情報の信頼性確保のためだけではありませんが、おそらく取締役や従業員の職務の適正を確保するための体制整備事項の半分以上は、財務情報の信頼性確保と関連するのではないでしょうか。そうであるならば、いまのうちから会計監査人による評価報告書への監査体制に耐えうるだけの具体的な整備事項の洗い出しを検討しておいたほうがよい、というのが私の意見であります。(現状報告形式ですと、内部統制監査の際における「監査役の監査レベルの評価」が極めて困難になってしまうのではないでしょうか)

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2006年4月25日 (火)

帝人の内部統制システム整備決議

(25日午前 追記あります。なお適時開示情報に基づき若干訂正しました。失礼しました)

帝人さんは、グループ統括会社「帝人株式会社」の3月30日開催の取締役会決議で、新会社法に対応する内部統制システム整備決議を行ったようですね。(グループトップ企業ですから、グループ関連企業が5月に決議するためには当然4月になろうかと思われます)4月24日付けにてその決議内容が公表されていますが、これ、他の企業の「体制整備事項の決定」にも参考になりそうですね(帝人グループ内部統制システム整備決議

帝人さんの場合、1999年ころからチーフオフィサー制度を導入して、2003年には外部法律事務所を窓口とした内部通報制度の導入、内部統制システム強化を図るためにトータル・リスクマネジメント制等を導入されたようですので、全社的(全グループ的)経営管理態勢は十分整っていたところでの整備決議のようです。したがいまして、内容を拝見しておりましても、随分と余裕がありますね。整備事項の順番も基本どおりに10項目掲げておられますし、さすがにリスクマネジメントを重視していることが決議内容からも十分理解できますし、リスクマネジメントといいましても、後ろ向きではなく「戦略性」を感じさせる内容だと思います。ちなみに、新会社法への対応を検討したところ、すでに9割の事項は運用も含めて整備されていることが判明したが、取締役の職務の執行に関する情報の管理、保存に関する体制についてのみ、どういった項目を採り入れるべきか迷っておられた、とのことです。(企業会計5月号124ページ以下で、帝人株式会社グループ常務理事の方のお話が掲載されています。ご興味のある方は併せてご一読ください)

さて個々の内容についてでありますが、このブログで注目しております「取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制」でありますが、これは驚き(!)ですね。いきなり独立社外取締役を数名導入し、その独立性は自社の定める要件をクリアすること、とありますね。そういえば「辰のお年ご」さんも、社外役員の導入とか「効率性」に絡めて考えていらっしゃったような。。。取締役会の意思決定の妥当性確保のためには独立社外取締役が複数名ボードに名を連ねていなければいけない、ということハッキリと明言されていらっしゃいますので、(おそらく帝人アドバイザリーボードの要請もあるんじゃないか、とは思いますが)このあたりは今後いろいろなところで論議を呼ぶかもしれませんね。(なお、社外取締役や社外監査役の導入と内部統制システムとの関係につきましては持論もございますので、これはまたの機会にエントリーしたいと思っています

ほかにも監査役スタッフの整備に関する事項、独立社外監査役の占める位置づけ、そしてなによりも帝人という企業らしさを整備事項のなかに採り入れたところなど、たいへんすっきりと巧みに作られていて、「美しい」と感じました。(監査役補助者に「会計的知見」を要求するところなど、さすが監査役に会計士協会の大御所を擁する一流企業らしいスゴミがあります。まあ、このあたりはグループ企業の監査役を兼務できるほどの「補助者」だからこそ、かもしれませんが)しかし「コンプライアンスの責任者としてCSRO(Chief Social Responsibility Officer)を任命し、CSR室を所管せしめる。これにより帝人グループ横断的なコンプライアンス体制の整備及び問題点の把握に努める。」ですか・・・。この役割って、どれだけの重責なんでしょうか。いずれにせよ、企業トップの「コンプライアンス」に関する理解(というか重要性認識)がないと、こういった発想は出てこないんじゃないでしょうか。

grandeさんのブログにも、ご専門家の立場からのコメントが掲載されております。やっぱり会計士さんの視点はいたって実務的ですね。

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2006年4月24日 (月)

タイガースとタカラヅカ

最近は著名ブロガーの方々の間で消費者金融関連のエントリーが盛んにアップされておりまして、私もコメントしたいところなんですが、実名ブログですし、顧問先との関係もあって慎まざるをえないところがあります。(ちょっと寂しいです・・・)また、この話題も、毎日のように顔をあわせているセンセイがどっちかの顧問弁護士なので、差しさわりのない範囲でのエントリーになってしまいますが、どうがお許しを。。。

いよいよ阪急と阪神が持株会社方式によって統合される可能性が高まってきましたね。もちろんファンドとの値段交渉(TOBの基本価格)次第ということではありますが、新聞報道などではもはや秒読段階のような様相です。いっぽう京阪電鉄はこの統合に反対を表明して、関西経済界に反対声明への協調を呼びかけているようです。

私はコテコテの南大阪人でして、この統合には賛成も反対もないのですが、ただどう考えても阪急にとっても、阪神にとっても有益なシナジー効果が得られるようには思えませんし、いまもって統合することが「本気なのか」理解できません。もし阪神が鉄道事業でシナジー効果を得るのであれば「中之島新線」の開通を2年後に控えた京阪との事業提携であることは明らかでしょう。「新線」の最終駅は直線距離で1キロにも満たない野田阪神駅(阪神電鉄本社のあるところ)ですから、現在急ピッチで開発が進んでいる中之島ウォーターフロントを介して神戸、大阪、京都がつながるわけでして、関西の地域住民からすればもっとも歓迎すべき統合です。(いっぽう、もし阪急と阪神が統合してしまうと、京都地区における事業が競合する京阪と阪急の事情からみて京阪にとっては相互乗り入れのウマミがなくなってしまいます)また、阪神と阪急では鉄道敷設地域がほとんど同じですから、災害が発生したり、地価下落などによるリスクを分散することもできません。優秀な社員の方々をたくさん抱えていると思われますが、どっちもこれまで同じような事業(不動産事業、鉄道事業、商業施設事業)をしていたわけですから、統合したとしましても、これまでの延長線上でのお仕事になってしまわないでしょうか。阪神の役員の方は「百貨店の利用価値が高まり、また仕入先の統一などによって合理化もはかれる」とおっしゃってますが、それは傲慢な考え方だと思います。そもそも梅田に人が集まるのは阪神文化があり、阪急村があり、そこにJR、大丸、ヨドバシカメラ、そしてなによりも闇市の時代から綿々と続く商店街があるからであって、残念ながら30年前の梅田における阪急阪神の影響力は、現時点では5分の1程度にまで落ちてしまった気がします。梅田まで歩ける距離を走るJR東西線とちがい、中之島新線はまちがいなく「お金を落とす」市民の歩く方向を変えますし、このまま阪急阪神統合チームで梅田再開発を進めても、クリスタ長堀ほか数々の失敗例と変わらない結果に終わってしまうのではないでしょうか。(まさか地価の上昇を見込んで2000億円を投じる、ということではないでしょうね?もちろん収益還元法による将来予測に立った企業価値の算定ということでしょうが、何を基準に割引率というか期待値を検討するのか、そのあたりをどなたかにお聞きしてみたいものです)

阪神と阪急でいったいどこにシナジー効果が生まれるのか。関西人であり、仕事場から梅田まで自転車で買物に出掛ける私としましては、まったくもって理解不能であります。(阪急としましても、時期的に「欲しい、欲しい!!」とは言えない事情もあるかもしれませんね。なるべく安く買いたいわけですから・・・・・・)

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2006年4月21日 (金)

株主代表訴訟の改正点(2)

さきほどまで弁護士団体の会議(宴会?)のために宝塚温泉に行っておりましたので、またまた疲れのたまった状態でのエントリーになってしまいますが、先日の責任追及の訴え(株主代表訴訟)の会社法における改正点への対応(監査役としての)について考えてみたいと思います。

株主代表訴訟の改正点(1)におきまして、提訴請求が監査役に対してなされた場合に、(とーりすがりさんが提訴するという可能性もあるではないか、と指摘しておられましたが、ここでは提訴すべきかどうか、監査役が逡巡している一般的な状態を前提とします)3つほどの問題点を掲示させていただきました。でも、その後でよく考えてみますと、ほかにもいろいろと問題点が浮かんできます。たとえば資力のほとんどない取締役を対象として、ある少数株主が正義感をもって(監査役に対して)善管注意義務違反による損害賠償請求訴訟を提訴せよ、と通知してきた場合なんか、監査役としたらどういった対応をしたらいいのでしょうか。会社法施行規則218条の条文を素直に読みますと、その少数株主の請求に理由がないと判断した場合には、その旨(判断の基礎となった資料などを添付したうえで)理由を通知すればいいのでしょうけれども、その取締役に責任があるかどうかはわからないけれども、そういった訴訟提起によって会社に重大な損害を発生させる可能性があるということで提訴しない、と判断することはできないように読めますよね。会社に損害を発生させる可能性があるとして訴えを提起しない判断を下すことができるのは、監査役がその対象となっている取締役に責任があると判断することが前提となっているわけでして(規則218条3号)、「責任があるかどうかは別として」といった態度は許されないように読めます。しかしながら監査役も会社との関係では委任関係にある以上は、少数株主にとっては正義感で訴えを提起したい(したがって会社に加害目的をもって訴えを提起したい、というわけではない)と考えていても、大多数の株主の意思としては「訴訟によって返還が期待される利益よりも、その訴訟を真剣に闘うことによって開示される会社の無形資産の損失のほうがはるかに大きい」といった場合には、そういった株主の意思をくみとって行動すべき立場にあるのではないでしょうか。そうしますと、監査役としては手持ちの資料などからみて、その対象取締役の責任判断は困難(この場合、いいかげんに取締役の責任なし、とは言えないでしょう。判断の根拠となった手持ち資料は責任追及請求をしている株主に開示するわけですから、後の裁判の結果次第では、いいかげんな判断をした、と受け取られる可能性もあるわけでして、監査役自身が善管注意義務違反の対象となってしまうことになりそうですし)だけれども、多数の株主の意思としては、裁判を提起すべきではない、といった意思が斟酌できるような場合、どのように対応したらよいのでしょうか。

条文に書いてない以上は、こういったケースは不提訴通知を発送できないがゆえに、監査役はともかくも多数の株主の意思に反してでも(つまり善管注意義務に反してでも)会社を代表して訴訟を提起していかなければならないのでしょうか。それとも、こういったケースにおいては提訴請求をしている少数株主には会社の利益を害する目的がある、と認定してしまうのでしょうか(しかしながら、少数株主は、自ら会社内部の資料にアクセスできる立場にないわけで、簡単に会社に損害を加える目的がある、とまでは言えないように思いますが)うーーん、どっか問題の前提が間違っているんでしょうかねぇ。またまた問題点の提示だけで、回答がなくてすみません。

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2006年4月20日 (木)

続・職務執行の「効率性」確保のための体制とは?

会社法施行規則100条1項3号に定める「取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制」とはなんぞや??ということで、今週日曜日にエントリーをいたしましたが、これまた「この道に詳しい」先生方にいろんな意見を頂戴しておりましたところ、失礼ながらきちんとお返事もしないまま放置しておりました。(奥様に「早くお風呂に入りなさい」といわれつつ、自宅のパソコンに向かい、必死の思いでコメントを載せていただきましたME先生、おそらくご自宅での内部統制は奥様がすべてマネジメントされているものと推察いたしました・・・)いえ、放置していたことは事実なのですが、とりあえず皆様方のご意見を真剣に考えつつ、自説について再考しておりました。

そもそも、「効率性」といった言葉は日本語の一般常識的な意味合いでは「無駄がないこと」といったイメージがまず最初に浮かんできます。ただCOSO報告書の日本語訳などでは、内部統制の目的の一つとして「業務の有効性と効率性」といった言葉で「有効性」と並列的に用いられるところですから、「有効性」に近いイメージ、たとえば「効果的であること」といった意味合いで考えるほうが適切かもしれませんね。ところで、(会社法における体制整備構築とはまったくベツモノとは承知しつつ、あえて)金融庁企業会計審議会サイドで考えられているところの「内部統制報告実務」を参考にしたいのですが、財務報告の信頼性確保を目的とした「経営者における評価対象」としての内部統制システムに登場する「有効性と効率性」という概念は、非常に重要な位置づけがされているようです。つまり内部統制システムというのは、一連の「プロセス」を評価するわけですから、そこには「時間軸」があります。たとえば最終的には年度(もしくは四半期)決算における財務諸表の正確性が確保されるためのものではありますが、「決算期」といったある時点の数字が正しいのかどうか、その数字が出てくるプロセスを「試査」することによって実査したのと等しいものと評価するための「コツ」は、これまでも会計監査人の知恵によって監査の対象とされてきたわけでして、これはまさに財務諸表監査にともなう内部統制監査だったはずです。ただ、これはあるひとつの時点における数字完成までのプロセスを評価するものであって、一年間ずっと同じプロセスが、その企業に生き続けていたのかどうかは、まったくもってわからないところであります。それで、このたび「内部統制報告実務」で導入されるであろう内部統制システムの構築というのは、財務報告の正確性確保のための業務執行に携わる全ての従業員に(賛同するか批判するかは別として)ともかくトップの行動規範が浸透する体制が整っているかどうか(これを評価するためにCOSOフレームワークの5つもしくは6つの構成要素があるはずです)そして、決算期間の最初から最後まで、とりあえず同レベルのシステムが継続して機能しているかどうかということを経営者自らが評価して、報告することになります。

たとえて申し上げるならば、ガン検診におけるCTスキャンとPETの違いではないでしょうか。CTスキャンはデジタルカメラの世界です。そこに撮影される2次元の世界を解読して、ガンを発見します。しかし最新型のPETは体内に検査用に取り込んだ細菌の動きを観察してわずか数ミリのガンまで発見してしまいます。つまり時間軸を採り入れたデジタルビデオの世界です。時間空の世界を観察の範囲に取り込むことによって、いままで正確に見えなかった病根が見えてくるというものでして、まさに内部統制システムの構築というのは、情報の信頼性を高め、企業の管理体制の質を向上させるものだと考えられているわけです。そこで、「業務の有効性・効率性」に資するためにシステムが機能していたかどうかは、この時間軸のなかで「システムが一年間機能していたのかどうか」評価するためにとても大切な問題になってくるわけでして、(たとえば立派なITシステムを導入したとしましても、そのプロセスの一部が導入企業の担当者レベルにおいてはブラックボックス化していて、システム故障の際に機能不全に陥る可能性があったとすれば)システムの導入が「業務にとって効果的でない疑いがある」という評価を受け、おそらく1年にわたってずっと正確な財務情報を形成しつづけるようなものではなかろう、と判断されてしまう可能性が出てくるはずです。

さて、会社法・会社法施行規則における「取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制」(施行規則100条1項3号)を解釈する場合、上記のような考え方は応用できるのでしょうかね。ME先生がご指摘のとおり、監査役協会の出している本などでは、効率性を求めることと、コンプライアンスを求めることとはときに矛盾する可能性があるとされております。(これは以前、書面決議などについてエントリーしたときにも指摘させていただきました)もちろん業務の無駄をなくすこと自体、株主から経営を委託されている取締役にとりましてはたいへん重要な経営管理態勢だとは思いますが、そもそもそのような意味での「効率性」ですと、果たして監査役の監査の対象として意味がないんじゃないでしょうか。(現行商法施行規則193条6号によりますと、委員会等設置会社における監査委員会の職務の執行に必要なものとして、「執行役の職務の執行が効率的に行われるための体制に関する事項」も含まれておりますが、これなども同様の意味で、ほとんど意味をなさないように思われます)そこで、さきほどの金融庁サイドにおける内部統制報告実務と同様の考え方からしますと、コンプライアンス経営、リスク管理といった企業内部からの健全経営を確保するために整備された体制が「継続的に」機能しているかどうか、これを満足させるために取締役の職務執行の「効率性」が要求されるのではないか、と考えてみると結構おもしろいんじゃないでしょうか。このように考えますと、道具としては前のエントリーでも書きましたとおり「取締役による業務執行の決済規程」とか「取締役会上程基準」などと結びつきますし、またそういった規程に則った実務がなされているかどうかを評価する機関の制定や活動報告なども監査役の監査の対象となるわけでして、規定の意味がかなり深化することになろうかと思います。

いずれにしましても、これは私自身の試論にすぎませんので、またいろいろな方にご意見、ご批判頂戴できましたら幸いです。

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2006年4月18日 (火)

株主代表訴訟の改正点(1)

きょうは朝から京都地裁で裁判のため相当疲れておりまして、問題点だけを留めておきまして、また明日にでも続きをエントリーしたいと考えております。(ということで備忘録程度のものです)株主代表訴訟(責任追及等の訴え 会社法847条1項)の改正点の目玉として、監査役による不提訴理由通知制度というものがあります。(同条4項)この5月以降、株主から会社に対する訴訟提起の請求が監査役に届いた場合、新会社法の適用によって監査役(それぞれ)は、この請求による対象取締役に対して訴訟を提起するか、それとも不提訴の理由を通知して、訴えを提起しないものとするか、きちんと判断をしなければなりません。(経過措置政令16条)自分が社外監査役なもんで、ときどき監査役としての「危機管理」を想定しているわけですが、とりあえず株主から取締役に対する責任追及等の提起請求がなされた場合、その責任追及等請求のあった日から60日以内に不提訴とする理由を株主に通知する必要があります。その理由といいますのは、会社法施行規則218条によりますと、株式会社が行った調査内容、請求対象となっている者の責任または義務の有無についての判断、そして請求に理由があるにもかかわらず提訴しない場合にはその理由などと記載することとなっております。

会社法では取締役の責任(対会社に対する善管注意義務違反など)は原則として過失責任となっているわけでして、もし監査役が不提訴の理由を述べなければいけないとしたら、その「過失」の評価をしなければいけないケースも出てこようかと思います。(もちろん過失責任の立証責任が転換していると認められる事例の場合には、それほど苦労はしませんが)そこで当然のことながら、取締役に責任が認められるかどうかを判断するために、訴え提起を求めている株主の主張内容が「対象取締役に過失ありと評価するに値するほどのものかどうか」を精査する必要が出てきます。そこで、以下のような「監査役としての疑問」が出てきます。ひとつは監査役は株主の提訴請求の根拠となっている主張だけを判断すればいいのか、それとも主張構成にとらわれずに、責任が認められそうな他の根拠事実まで広く取締役の責任を判断すべきなのか、ふたつめに、株主が主張している請求原因が不十分だと認識した場合、主張内容を整理して当職の質問に回答するよう株主に求めてもいいものかどうか、もし求めてもいいとした場合に、先の60日間というのは、その株主からの回答がないような場合でも伸長はされないのか、そして三つ目ですが、もし株主側に十分な釈明回答がない場合、その事実を対象取締役を被告とする株主代表訴訟における、担保提供命令の申立に利用してもいいのかどうか、といったことです。(とりあえず問題点の指摘のみにとどめ、私見はまたその2で述べさせていただきます)こういった監査役からみた不提訴理由通知制度のあり方というものは、すでにどっかで解説されているのかもしれませんが、ちょっと私なりに述べさせていただきました。

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2006年4月17日 (月)

ヤミ金と弁護士

ここのところ会社法関係のエントリーが続きましたが、今日はビジネス法務ではありませんが、サラ金の金利制限に絡む問題点について触れてみたいと思います。

金融庁の貸金業に関する有識者懇談会は18日にもまとめる中間整理に、利息制限法の上限金利(15―20%)を超えていながら刑事罰に問われない「グレーゾーン(灰色)金利」の廃止を盛り込む方向で調整に入った。懇談会では上限金利を下げるべきだとの意見が多数を占めている。利用者への説明義務の強化や貸し付けへの総額規制の導入検討など消費者保護策の拡充を示すことになりそうだ。(日経ニュースより)

多重債務者の自己破産、債務整理、個人再生などに携わる「ごく一般的な弁護士」として、こういった記事を読んでの感想ですが(ごく一般的な弁護士と注記しましたのは、私は普通に業務のひとつとしてこういった多重債務者事件を扱っているにすぎないからです。専多重債務者救済のために運動をしている、というものではございません)、まず第一印象としましては「またヤミ金から借りる人が増えるだろうなぁ・・・」というものです。おそらく登録消費者金融としましては、グレーゾーン金利がなくなる分、リスク低減のために顧客の選別を始めるでしょうし、だからといってサラ金からお金を借りる人は「借りたい」気持がなくならない限りはグレー業者へと流れることは必至です。先の懇談会では、3月に警察庁生活安全課よりヒヤリング、その前には長野県よりヤミ金対策への取組のヒヤリングを行っておりますが、おそらく今後増えるであろうヤミ金からの借り入れ対策までは十分な検討はなされていないんじゃないでしょうか。

私もこれまでの16年間の弁護士生活におきまして、ヤミ金との対峙で「寿命の縮む思い」をしたことが二度ほどありましたが、「ここでなんかあっても、これは私が弁護士という職業を選択したことによるものであって、本望」と観念したこともありました。さすがに最近は大阪弁護士会でもミンボウ対策がしっかりしていることもあって、ヤバイ状況になる前に警察と連携する工夫も発達しておりますが、弁護士がほとんど「手弁当」で正義感のみに頼ってヤミ金と交渉しなければならない実情は変わっていないと思います。

アイフル騒動などもあって、消費者金融の貸出金利制限が実現する方向に向かうのでしょうが、次に来る事態に備えて万全の心構えをしておかなければいけないのは、警察でもなく、今の多重債務者救済を支える弁護士会そして司法書士会だと思います。こういった仕事を自らの利益ではなく、弁護士、司法書士に与えられた職責(使命)であると自覚して対応しなければいけないことを、大学の法学部やロースクールの学生の皆様には知っていただきたいと思います。法曹の先達が「血と汗と涙による長年の公益活動」によって勝ち取ってきた遺産のうえにぬくぬくと仕事をしているようでは、法曹人口急増のさなか、法曹の社会的信頼は見事に瓦解するものと予想します。

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2006年4月16日 (日)

職務執行の「効率性」確保のための体制とは?

品田太市さん、辰のお年ごさん、そしてM.Eさんなどから、たいへん有益なコメントを頂戴しておりまして、もしご興味がありましたら、それぞれのエントリーのコメント欄をクリックしてみてください。私自身はコメントされている方のご身分を承知しているから申し上げるわけでもないのですが、それぞれ問題点の整理と申しますか、問題点をかなり的確に掘り下げていただいておりまして、(なるほど、と合点のいく部分も多いわけでして)ほとんど「私的ブログ」の領域を超えてしまった感があります。(すいません、すぐにでもお返事といいますか、私もコメントを残すべきでしょうが、コメントの内容がヘビーなだけに、もう少しだけお時間をください。)法曹の方々も会社法施行を目前にして、いろんなところで「会社法における内部統制」といったテーマで講演をされているんですね。ひところは「SOX法日本上陸!」といった感じで会計士の先生方やIT関連企業の方が講演をされることが多かったんですが、やはり5月の取締役会における決議問題や、株主総会における説明義務、そして(これは来年のことになりますが)事業報告書への記載要領のことなど、会社法からみでの「内部統制」といったもののへの関心の高まりによって、弁護士の登場回数も増えてきたのかもしれません。

ということで、5月(までの)取締役会決議で、いったい会社法が大会社に要求している「会社の体制整備事項としての決議事項」の実務指針指南書のようなものがいろいろと緊急出版されているようです。やはり企業の担当者や役員からしますと、施行規則100条で規定されている各項目から「いったい何を決めたらいいのか」、具体的なモデル案が欲しいですよね。私も自分が講演をする関係上、そういった指南書をチョロっとみたりしておりますが、どの指南書も「取締役の職務執行が効率的に行われることを確保するための体制」を整備するということは、いったい何を決めたらいいのか、(施行規則100条1項3号)頭を悩ませていらっしゃるようですし、決議事項の具体案もマチマチのようであります。そもそも、良質な企業統治を実現するためのものであって、その最良の選択は企業それぞれ異なるはずですから、モデル案も「どれが正解で、どれが誤り」といったものはないと思います。また職務執行の効率性などといった概念は、なかなか監査役の相当性判断にもあまりなじまないような項目でしょうから、それほど神経質にならなくてもいいんじゃないか、と思ったりしております。(多少おかしいかなぁとか感じたら、また6月以降の取締役会で修正決議をすればいいでしょうし)

ただし「アバウトでもいいじゃん」と申しましても、6月の総会で株主様より説明を求められて、「取締役会における決議事項の概要」(決議したことの全てではありません、ここは訂正省令で訂正されているところですのでご注意を。訂正省令は事業報告書に関するものですが、株主総会における説明に関しても「概要」で足りるものと思われます)を説明できなくてはカッコ悪いので、いちおう筋の通った回答ができる範囲では決議をしておく必要はありそうです。そこで私だったら何を決議するか、ということですが、私は昨年11月29日に公表された法務省令案の「内部省令案」に立ち返って決議事項の検討をすべきではないか、と思っております。ご承知のとおり、会社法の省令は当初9本だったものが本年2月7日の時点で3本にまとめられたのですが、これによって内部統制省令の一部が削除されております。したがいまして、省令の整理のために削除されたところが大半でして、この削除された条文は内容が誤っていたとか、不適切だったということで削除されたものではないわけですから、今回の整備事項として何を決定すべきか、を考えるにあたっては、「業務の適正を確保する体制に関する法務省令案の概要」部分とともに、削除された条文の趣旨といったものも参考になるものと考えております。

そしてこの「法務省令案」の「概要説明」部分を読みますと、「取締役の職務執行の効率性」という問題はほかの4項目とは並列で記載されていないことがわかります。また法務省令では削除されてしまった「取締役の責務」(省令案の3条3号)では、「株式会社の業務および効率性の適正の確保に向けた株主または会社の機関相互の適切な役割分担と連携を促すものであること」と定められております。結局、規則100条の取締役会が決議すべき体制整備事項のうち4つはコンプライアンス・リスクマネジメントと密接に結びついているものでしょうが、この「効率性」確保といった項目はほかの4つとは異質なものでありまして、そもそも自民党の小委員会が法制審議会に提言していた政策的なニーズに合わせたもの、つまり国際競争力を高めるために大会社にスピード経営が可能となるような機関設計、自治権を与えて、そのかわり健全な経営が可能となるような自浄作用を促す、といったあたりと結びつく項目だと思われます。そこで、削除されております省令案の3条の規定ぶりからすると、この「取締役の職務執行の効率性確保」のために法務省が整備してほしい、と考えていたところは(公開大会社の場合には)機関相互の適切な役割分担と連携に関連する体制整備事項ではないか、と推測いたします。そこで、私としましては、もし「効率性」に関連する決定事項として掲げるのであれば、(機関相互、といった用語とは少しずれますが)常務会と取締役会の関係、取締役と執行役員の関係など重要案件の意思決定システムのあり方とか、取締役の職務分掌規程、取締役会上程事項に関する規程、(定款が変更されたことを前提として)書面決議、電話会議、テレビ会議等の利用基準の策定、特別取締役制度の利用基準、社外役員との情報共有のための決議などがお勧めかと思っております。(なお取締役と監査役との連携に関する事項につきましては、規則100条3項3号に規程されているところの問題かと思われますので、ここでは取り上げないものとしております)

体制整備に関する事項ですから、積極的に会社の管理体制に資するものであればいいわけですが、会社法に規程された問題である以上、株主への説明責任をまっとうできるものでないといけない、とも思われます。上記のような事項を決議しておけば、とりあえず筋の通った説明が株主様に対して行えるのではないか、と考えております。

※そういえば、会社法施行前の最後の訂正省令パブコメ回答(4月14日の法務省HP)におきまして、パブコメへの意見として法務省は「社外役員は、内部統制システム構築等にとって重要な役割を果たします」との意見を述べております。社外役員と内部統制システム構築の関係って、いままで議論されていましたっけね?社外役員を増やすことは、内部統制システムの向上に資する、ということなんでしょうか。

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2006年4月14日 (金)

内部統制限界論と新会社法

taka-pooさんのご指摘によって、蛇の目ミシン工業事件最高裁判決の全文を読んでみました。原審は「外形的には(被上告人である取締役ら)には善管注意義務違反が認められるが、取締役らの置かれた状況からは義務を履行できうような期待可能性が認められなかったので、過失はない」として取締役らの責任を否定していたのですが、最高裁は、「期待可能性はあった」として過失を否定し、取締役らの責任を認めています。なお、この最高裁判例を読んだかぎりでは、原審(高裁)の判断構造(善管忠義義務違反と帰責事由は異なる、といった構造)をそのまま踏襲しているのか、それとも伝統的な商法上の通説である善管注意義務違反=過失、という考え方に立脚しているのか、いまひとつわかりにくいのですが、明確な分類をしているものではありませんので、いちおう伝統的な見解による判断だと(私は)認識しました。つまり善管注意義務の存否については、これを評価事実とみて、いろいろな事情を総合的に考慮したうえで結局のところ、取締役らには善管注意義務違反が認められると締めくくっているものだと考えております。

さて、最近は会社法における内部統制システム構築(体制整備)義務ということもいろんなところで議論されておりますし、それはこれまでの取締役の善管注意義務のひとつにすぎない、とも言われておりますが、それでは企業会計審議会主導の内部統制理論で言われているところの「内部統制限界論」といった論点は、果たして会社法のなかではどういった位置づけになるんでしょうか?ここのところは、たとえば会社法立法担当者でいらっしゃる葉玉さんのブログにおいて「会社法の内部統制は企業会計審議会で議論されているものとは残念ながら無関係といわざるを得ない」と明言されておられますし、また企業会計審議会内部統制部会長の八田教授にお聞きしても「会社法で議論されているものとは直接の関係はない、すくなくとも法務省関係者が審議に加わっていたものではない」とおっしゃっておられますので、COSOフレームワークを直接のモデルとしている企業会計審議会主導の「内部統制」には限界論が妥当しても、会社法における内部統制(体制整備)にはまったく妥当しない議論なのかもしれません。

先日、青山学院での八田先生のご講演でも「内部統制の限界」というものはハッキリと存在するとされていました。これは日本版SOX法が施行される場合であっても、ダイレクトレポーティングが採用されず(つまり会計監査人が評価するのは、その企業トップの作成する報告書そのものであって、独自にその企業の内部統制構築の状況を調査報告するものではない)、また内部統制システム構築による目的達成(コンプライアンスの充実、財務情報の信頼性確保、業務の有効性効率性向上)を阻害する「限界」があることと併せ考えますと、実際に評価を担当する会計監査人の法的責任を、かなり広い範囲で回避できるからではないでしょうか。ちなみに、一般に「内部統制の限界」といわれておりますのは、いくら厳格な文書化をはかって内部統制システムを構築したとしても、人為的な「うっかりミス」のような誤謬を回避することはできませんし、また経営者がまったく内部統制システムを無視したり、取締役すべてが共謀して不祥事に走る場合には、それ以外の第三者には内部統制システムが有効に機能しているかどうかはわかりません。また統制環境を整備するのに、その企業の売上と比較してあまりにも多大なコストがかかるような場合でも、その費用対効果の観点から統制システム構築を断念することも「内部統制の限界論」の実例として掲げられております。「どんなに立派なシステムを構築したってミスは起こる」というところから出発しますと、こういった限界論は認めざるをえないように私も思います。

ただ、これを会社法の議論のなかに取り込むことは可能なのかどうか、これからの議論の進展に待たなければいけないと思われます。しかし、たとえば取締役の善管注意義務の内容として内部統制システム構築義務があったかどうかを判断する際に、蛇の目ミシン工業事件の判断過程のように、(たとえば取締役の監視義務の可否を問う場合などを例にとりますと)システムの現状からみれば経営者の不祥事を防止するためのシステム構築義務違反だが、経営者トップが業務担当取締役と共謀して隠密裏に違法活動を継続していたような事例において、それは内部統制限界の典型であるから過失(監視義務違反)があるとまではいえない、といった論理展開が可能なのでしょうか。どうもすんなりとこの「内部統制限界論」を会社法適用場面において利用することには躊躇せざるを得ないように思われます。もしこれを広く認めるのであれば、最終的には「過失なし」とされる場面が増えてくるでしょうし、取締役、監査役にとりましては歓迎すべき立場かもしれませんが、情報の信頼性確保を目的としてみた場合と、職務の適正確保を目的としてみた場合とでは、おのずと内部統制システムが機能不全に陥る要因も変わってくると思います。そのあたりから、会社法における内部統制と証券取引法(金融商品取引法)で議論されるものとの差異があることが明らかになってくるのではないでしょうか。

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2006年4月12日 (水)

課徴金の減額とコンプライアンス

3月30日に開催されました独禁法基本問題懇談会(第10回)の議事概要によりますと、課徴金と企業コンプライアンスに関する各委員の意見がいくつか掲載されておりまして、いろんなご意見があることがわかります。(ちなみに、この独占禁止法基本問題懇談会の趣旨についてはこちらです)

1 企業のコンプライアンス体制の整備を条件に課徴金を減額するような制度とし、社内的な徹底を後押しできるような仕組みとしてはどうか。

  私も同感です。これ、もっとも私の意見に近いものです。

2 課徴金の減額要素として、企業のコンプライアンス体制を考慮するのであれば、とおり一遍のものでは意味がなく、細かく見ていく必要があるが、それは困難である。

  課徴金減額システムをコンプライアンス体制と関連付けるときにもっとも問題となるのがこの指摘された点だと思います。おっしゃるとおりとおり一遍のものでは意味がないと私も思います。ただ、課徴金賦課の前提として、「あるべき体制」作りへの基準のようなものを策定して、アメリカの連邦量刑ガイドラインのように、一定の基準に到達しているような体制を構築しているものであれば減額の対象とする、といったことにすれば、(たしかに困難な部分もありますが)制度として運用は可能ではないでしょうか。

3 コンプライアンス体制が整備されていれば、そもそも違反行為は生じないのではないか

 「人間の組織」に関わる体制である以上、どんなに立派な体制が整備されても、違反行為が100%発生しない、といったことはありえないと思います。内部統制システムに限界があることは通説ですし、違反行為が発生したときに、社会的な被害を最小限度に食い止める体制自体もコンプライアンスの役割ですから、このご意見は企業コンプライアンスを議論する前提を欠いているものと思います。

4 課徴金減免制度において、今後コンプライアンス体制を整備することを減免適用の条件としてはどうか。他方、違反行為時にコンプライアンス体制が整備されていたことを理由に課徴金を減額することには反対である。

 刑事裁判におきましては、被告人が法廷で「二度と同じ過ちを繰り返しません」と宣誓することで、ある程度反省している姿が見受けられるとして刑の量刑が減軽されることも考えられます。しかしこれを法人への課徴金賦課システムに応用したとしましても、「ばれなければやったもん勝ち」の風潮を助長するだけであって、なんら企業コンプライアンス体制を企業が導入するインセンティブにはなりえないものでしょう。また、それこそ体制整備をしたかどうか、の判断は(なんらの基準もない場合には)極めて難しいはずです。

5 コンプライアンス体制の整備以前の問題として、繰り返し違反行為を行う事業者が多いので、確定排除措置命令違反に対する刑罰を重くし、再犯を防止すべきである。

このご意見はそもそも課徴金制度は企業コンプライアンスとは無関係であって、インセンティブを考えるにあたっては、課徴金減免制度よりも一般刑事罰の重罰化によってコンプライアンス体制の充実を図るべき、とのことであります。ちなみに、今回の独禁法改正によって、こういった確定排除措置命令違反行為への処罰の加重はすでに施行されております。課徴金制度というものにあまり期待を寄せない立場であれば、これも企業コンプライアンス体制の充実に影響を与える考え方だと思います。しかしながら、この意見も一度違反行為を行った企業にとっては(量刑の基準が明確にされているような場合であれば)有効かもしれませんが、違反行為を犯したことのない企業にとりましては、普段の不祥事防止への取り組みが有効に評価されないために、あまり効果は期待できないのではないでしょうか。

以前このブログにおきましても、イーホームズ(耐震強度偽装事件における建築確認の審査権限を有する会社)の事件公表に一定の評価をすべきかどうか、いろいろと議論がありましたが、実証的な研究が難しい分野であるだけに、こういった独禁法の場面などにみられるとおり、議論される場が広がればいいですね。

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2006年4月11日 (火)

蛇の目ミシン工業事件最高裁判決

一審、原審では元取締役らの会社に対する責任が否定されていた「蛇の目ミシン工業事件」におきまして、最高裁は元取締役らの過失を認める判断に至ったようです。蛇の目ミシン工業事件の報道はこちらです。

この事件の高裁判決といいますのは、取締役らの善管注意義務違反を認めながら、取締役の置かれていた事情などを考慮したうえで、過失がないことを理由に責任を否定したものとして、かなり注目された法律構成だったようです。(商事法務1745号23頁で、会社法立案担当者による解説で、忠実義務・善管注意義務違反を認めつつ、過失を否定した裁判例として掲示されております)したがいまして、各社報道には誤解された部分があるようで、そもそも「善管注意義務違反なし」と高裁が判断していたところを「義務違反あり」と最高裁がひっくり返したのではなくて、「義務違反はあるが、適法行動への期待可能性がなかった」というところを「いや、警察へ届け出るなどして、適法行動への期待可能性はあった」と過失評価のところでひっくり返したものだと思われます。(まだ全文を読んでおりませんので、推測にすぎませんが)もちろん、この裁判は現商法に基づく判断ではありますが、新会社法の下における取締役の責任論(「任務懈怠」と「過失」の関係)にも影響を及ぼすような判断内容かもしれません。

この原審である「蛇の目ミシン工業事件高裁判決」というのは、最近よく「取締役の損害賠償責任論」をテーマとした論稿に出てくるのですが、しかしながら、たとえば先の会社法立案者の「取締役の損害賠償責任」解説を読んでみたり、商事法務の最新刊に掲載されている田中亘助教授の「利益相反取引と取締役の責任(上)」を読んだりしておりますと、新会社法における取締役の会社に対する損害賠償責任論はとても解釈がムズカシイといった印象を持ちますね。なんでムズカシクなったかといいますと、「任務懈怠」という言葉が条文に入ってきたり、原則として(いままで無過失責任とされていた)取締役の特定の行為が過失責任化したり、利益相反取引のうち「自己のためにする」取引だけが、無過失責任(のようなもの)として残っていたりするために、これを統一した理論構成で説明することが非常にしんどくなったことに起因するように思われます。

過失論は責任問題、「任務懈怠の有無」は行為の違法性評価の問題だから、これをきちんと分けて検討せよ、といわれましても、偉い先生方であればすんなり理解できるかもしれませんが、私を含めて一般の会社の役員の立場からすれば、「じゃあ一体何をすれば管理義務を尽くしていて、なにをしたら違法もしくは有責と判断されるのか」まったくもってわかりにくいです。もうすこし、なんかスッキリとした解釈論というものはないのでしょうか。新会社法423条や428条の規定ぶりからみて、善管注意義務違反=過失といった伝統的な解釈枠組みはもはや採用できない、といったところが通説的見解かもしれませんが、じゃあ「任務懈怠」と「過失」はどう違うの?といった新たな疑問も生まれそうです。

私としては、会社法立案者の見解とは異なりますが、やっぱり伝統的な「善管注意義務違反」=「過失」という基本的な枠組みは維持すべきだと思います。たしかに条文上では「任務懈怠」と「責任」とは区別して書かれていますが、それはべつに「行為の違法性」と「責任論」に区別して説明する必要はなくて「過失の客観化」によって説明は尽くされるんじゃないでしょうか。医療訴訟などにおいては、すでに美容整形とそれ以外の治療行為とで、医師に要求される注意義務の内容を区別するために「過失の客観化」理論が進んでいると思うのですが、(しかも手段債務、結果債務の区別論から発生した理論ですので、診療契約に基づく債務不履行理論の「過失」です)ある程度過失の内容を類型化、客観化できるのであれば、その評価を「任務懈怠かどうか」の枠内で議論すればいいと思います。(基本は原告の立証責任として、客観的過失の不存在の立証責任が転換された場合が、たとえば423条3項や120条4項、462条、465条等で規定されている、とみればよいのではないでしょうか)法定責任として会社法が規定しているところは、まさに客観化された過失が立証された場合には、主観的な過失まで原告が立証する必要がないところに意味があるわけでして、それ以外の取締役の善管注意義務違反を立証するときには、原則に立ち返って原告は主観的な過失まで立証する必要があると考えれば、伝統的な枠組みを維持しつつ、新会社法の条文を解釈できるのではないかと思うのですが。

そもそも、会社法428条は自己のためにする利益相反取引については責任がないことの反証を許さず、第三者のためにする利益相反取引については反証を可能としているわけですから、取締役の利益相反取引といった行為態様自体が過失の程度に影響を及ぼすことを認めているわけですよね。つまり利益相反行為の行為態様に着目して、行為の違法性の問題を飛び越えちゃって、責任論で分類しているわけです。だったら、取締役に過失を認めやすい行動とか、過失を認めにくい行動を一般的に分類したって、いいのではないか・・・・・と思ったりしております。(まあ勝手な思いつきなんですが)

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2006年4月10日 (月)

TOB規制と新会社法との関係

商事法務の4月5日号(1763号)は、なかなか読み応えのある記事が目白押しで、たいそうおもしろいですね。会社法に基づく内部統制実務にも影響を与える「会社法施行規則の訂正省令」(非訟事件手続法による財産管理の報告および計算に関する書類並びに財産目録の謄本又は株主表の抄本の交付に関する手数料の件の廃止等をする省令)が掲載されておりますので、これ最新の「内部統制解説本」の「事業報告書への体制整備事項の記載方法」に関する解説を読むときには注意が必要ですね。(まぁ、本年度の営業報告書では関係ありませんが、株主総会での取締役の説明内容には若干影響があるかもしれません)そのほかにも、注目度の高い田中亘助教授(成蹊大学法学部)が、「利益相反取引と取締役の責任」という新会社法上の解釈論点について、直球ストレートで真っ向勝負するような論稿が掲載されておりまして、今後の大きな話題になるんじゃないでしょうか。(私もこの「任務懈怠」と善管注意義務違反認定との関係、新会社法における利益相反取引を行った取締役の無過失責任という説明との整合性については、以前から疑問に思っておりました。立法論としてではなく、新会社法の解釈問題として論じていらっしゃるところは今後の展開に大いに期待しております)

そんななか、一番おもしろかったのが最終ページの「スクランブル」に掲載されている「公開買付規制に関する証取法の改正」という小論です。このたびの証券取引法の改正については、公開買付規制の適用範囲の明確化と全部買付義務化に関する規制は、これまでの証券取引法の領域を一歩踏み出したものであり、いわゆる「証券取引法による会社法への実質的優越」を認めたものであって、わが国法体系を根幹から揺るがす一大変革になっている、との認識です。新規発行を含めた株式取得による株券等所有割合が6か月以内に三分の一を超えるような場合も公開買付によらねばならない(27条の2)と改正されますと、実質的には公開買付規制によって会社法の割当自由原則に制限を加えることになりますし、また株券所有割合が一定以上になる場合の全部買取義務を明文化することは、圧倒的多数者の支配下における少数株主の保護という会社法の問題点を先取りしたものである、といった解説がなされております。民法と商法のように、もともと私人間における利害調整のための法律といった「制度趣旨の合致」がみられれば「一般法と特別法」という体系にすぎないのではないか、とも思えるのですが、商法と証券取引法は、それぞれ別の立法目的があるために単純に一般法特別法という関係を認めることはできないでしょうし、作者の方と同様の疑問といいますか、問題意識というものにつきましては、私も共感できるところです。昨年11月16日のエントリー(商法と証券取引法とが逆転?)でも論じましたが、これから証券取引法がいわゆる「公開会社法」たる役割を担うようになってきて、たとえば会社法の条文解釈の際にも、先の改正条文などから「多数株主に対する少数株主保護の要請」といった「会社法の解釈指針」を導き出すことが可能となるならば、会社法を議論するにあたっての発想の転換を迫られる事態にもなりかねません。昨年のエントリーの際、neon98さんからコメントをいただいたように、(アメリカの州会社法と連邦証取法の関係のように)会社法が規制していない部分を証取法がカバーするといった手法であればそれほど大騒ぎすることもないでしょうが、先の株式割当自由とか、多数株主による権利行使と少数株主保護、といった問題につきましては、会社法が何も規制していない、といった領域ではないと思います。そうしますと、双方の法律の規制態度が異なる場合に、もし証取法が会社法に優先するのであれば、公開会社の利害調整に関する民事紛争を会社法を基準として裁判所で判断する道が狭くなってしまうことにはならないでしょうか。もし、こういった認識が私の誤解によるものであれば杞憂にしかすぎませんが、もし正しい認識だとするならば、今後金融庁企業会計審議会から発表されるような内部統制報告書実務のための指針が取締役の善管注意義務の範囲を決めてしまったり、公正なる会計慣行としての会計基準委員会が発表する運用基準が、そのまま計算法規と評価されてしまったりするケースも出てくるように思います。

公開企業をとりまく利害関係者の利益調整に関する「法のあり方」については、一度よく検討すべき問題だと思いますし、もし企業会計法や証券取引法の運用自体が会社法の解釈に影響を与えることが多くなるのであれば、それは今後の会社法の学び方にも大きな変革を迫るものになってしまうのではないか、と思い悩んだりしております。株式会社の法律問題については、裁判所を通じて個々具体的な事案ごとに漸次的に検討されるべきであり、裁判所の判決を通じて政策形成がなされるべきである、といった考え方を重視したのは、私が法曹であるがゆえの自分勝手な立場からなのでしょうか。

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2006年4月 7日 (金)

監査契約解消時の監査法人のコメント

4月5日の日経ベタ記事で電子カルテ販売の株式会社シーエスアイが、中央青山監査法人との会計監査契約を合意解約した、ということが報道されていました。この3月30日に公表されました企業会計基準委員会作成にかかる実務指針「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務指針」に沿った収益認識の時期が、企業側と監査法人側と一致しなかったということが原因のようです。(シーエスアイの公表事実はこちら)

シーエスアイの説明によると、販売商品はソフトあり、ハード機器あり、そして保守取扱サービス契約ありということで、いわゆる複合取引の典型例のようですが、やはりそのなかでもソフトウェアの「販売代理店」を通じての販売形態において、販売代理店へ売りつけたときとみるのか、販売代理店が最終ユーザーに販売した時点とみるのか、そのあたりが最大の問題点のようです。素人的な発想ですが、結局のところ、シーエスアイと販売代理店との力関係(協力会社、提携会社といえるかどうか)、販売代理店の在庫滞留時におけるリスク負担(過去に大量の返品処理、値引き販売の実績があるかどうかなど、異常取引の存在)、単に基本契約書だけが存在していて文書管理(納品、検品書、売上確認書などの存在)に問題がなかったか、などの総合的判断によって、いつの時点を収益認識時期とするか決めることになるのではないでしょうか。

そこでまたまた素人的な疑問なんですが、もし上記の私の分析が正しいとするならば、こういった新しい会計基準自体が公正妥当な会計慣行に該当するとしても、その基準の適用にあたっては、ビッグ4と呼ばれる監査法人さんは、どこも同じ結論に至る確信はあるのでしょうか?もし確信があるとするならば、公開企業にとって、同様の事態に至ったとき、監査法人との間で意見の相違がみられる、といった場面において監査人を変更するためのアクションをとる実益があまりないようにも思われます。このあたりは、新会社法によって会計監査人と監査役(監査役会)との連携強化といったことが言われているなか、今後の監査役実務に大きな影響を与えるところだとも認識しております。

そしてもうひとつの疑問は、上記の新聞報道にもありますが、中央青山監査法人の広報室は「個別の顧客についてコメントは差し控える」とのことでして、合意解約に至った理由とりわけ、なにゆえ企業との間で意見が一致しなかったのか、なにゆえ意見不表明と認識するにいたったのか、そのあたりのコメントは一切控える、という態度は会計監査人が会社の機関となるこれからの時代も妥当なのかどうか、といったところであります。もちろん、弁護士以上に公認会計士の方々は顧客企業の秘密を守る態度にかけてはシビアでありまして、日常の業務において信頼される源であることは十分承知しております。しかしながら、「監査は誰のためにあるのか」といった基本的な問題もありますし、そもそも顧客側が合意解約の事実を適時開示しているような場合には、(コンサルタント内容を開示するわけではなく、あくまでも財務諸表監査の評価結果を基礎つける事実なわけですから)むしろ意見相違に至った経過程度は開示したほうが、株主や一般投資家その他利害関係人の利益に資する結果となるようにも思えるのですが。。。(私はどうも、今回の中央青山の判断につきましては収益認識時期に関する見解の相違ということだけでなく、今後の収益認識時期判定のための、つまり財務情報の信頼性確保のための内部統制環境整備が不足していたことにも起因しているのではないか・・・とも思ったのですが、そういったあたりを弁明していただけますと、会計基準の進化にもつながるのではないかと考えたりしております)会計学の基本の部分がよくわかっていないのかもしれませんが、ついつい自分が監査役だったら、合意解約にいたる経過において会計監査人とどのような対応をとっただろうか、とすこし想像したりしておりました。

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2006年4月 6日 (木)

書面による取締役会決議と経営判断法理

4月5日の日経朝刊(近畿経済)に関西の大手スーパーである平和堂とオークワが、インターネットや書面による取締役会決議ができるように定款を変更する議案を、この5月の株主総会に上程する、とありました。新会社法370条で認められる「みなし取締役会決議」を定款変更によって導入する、というものでして、新聞記事では「ネット上での取締役会決議ができるようになれば、会社としての危機管理能力が高まる」(平和堂役員)、「重要案件に迅速に対応できるようにするのが狙い」(オークワの社長室長)との担当者のコメントが寄せられています。今度の会社法施行にあたっては、用意されている道具を使って「横並び」ではなくて自社のガバナンスに関する独自性を打ち出そうとすることはたいへん有意義なことだと思いますし、先陣を切って新会社法対応策を導入する企業の姿勢は、会社としての活力を感じます。

ただ、この書面による取締役会決議というものを導入するにあたりましては、すこし慎重な対応も必要なんではないかなぁと思ったりもしております。そもそも会社法要綱案の時点で、この「みなし取締役会決議」がパブリックコメントにかけられたとき、各種団体によって賛成、反対真っ二つに分かれましたよね。(たとえば一弁と二弁は賛成、東弁と大弁は反対など。もちろん経済団体は大賛成だったと思いますが)少なくとも3ヶ月に1回は業務執行取締役による報告が取締役会において義務付けられておりますので、まぁ最低限度の取締役会の回数は確保されている、ということで意思決定の迅速化の効用を重視してもいいのかなぁとも考えられますが、迅速化と同様に、会社法で期待されている取締役会における意思決定機能の強化、監視機能の強化という面からいえば、そもそも書面決議による場合には(電話会議、テレビ会議と異なり)取締役会は開催されないわけですから、その業務執行の適正性を担保しえない場面も出てくるのではないでしょうか。とりわけ独立社外取締役など、社外役員の意思を経営に反映させるべき、といったガバナンス強化を重視する立場からいたしますと、書面決議の多用化は、せっかくの良質な企業統治導入の機会を失うことになるのではないか、といった疑念が生じるところであります。たとえば、上記のような担当者のコメントですが、「危機管理能力が高まる」というのは、おそらく迅速な意思決定のことを指していらっしゃるのだと思いますが、十分な審議を尽くさないで同意書面でもって「取締役会決議があったものとみなす」ことは、いくつかの選択肢のリスクを十分検討したうえでの判断とはいえないこととなり、コンプライアンス経営を軽視している、とも受け取られかねないものでありまして、逆にリスク管理に問題があるように思えますし、「重要案件処理に有効」というのも、果たして会社法が重要案件にまで書面決議を期待しているかといえば、それは逆ではないか(重要案件こそ、いままで以上に取締役会で決議をして、各取締役の署名捺印を議事録に要求し、それほどでもない案件についてのみ書面決議によるとか)と、私は考えておりますが、いかがなものでしょうか。純理性的に各取締役が「ダメなものはダメ、この案件はきちんと私が外国から帰ってきてから審議しましょう」とか、監査役が「この案件は、同意書面制度によって審議すべき案件ではないから不適切だ」と異議を述べることが現実に期待できるような状況ならともかく、おそらく「これは早く決定しとかないと、ライバルに出し抜かれるぞ」といった営業政策的観点のみから運用されるのであれば、単にこれまでの取締役会の運用の不便さを補うためだけの制度導入になってしまうような気がします。結局、各取締役による「不同意」への期待は薄いのではないでしょうかね。

もちろん、会社法および会社法施行規則が「みなし取締役会決議」の要件を規定している以上は、その利用は(株主総会の特別決議があれば)可能なわけですが、いくら内部統制システム構築に関する規定(規則100条)に「業務の有効性、効率性を確保するための体制整備」が謳われているとしましても、書面決議の安易な利用は避けるべきであり、あくまでも補足的な利用に限るべきであると思っております。(なお、「内部統制システムに関する取締役会決議に関する監査対応」(監査役協会監査法規委員会)においても、この取締役の業務の効率性は、業務の適正の確保と表裏の関係にたつことがある、と指摘されています。「月刊監査役」512号134ページ以下)取締役の職務の適正性担保といった内部統制システム構築からの要請との調和点としては、①意思決定機能強化のために取締役会への上程案件を増やすこととして、その代わり案件によっては審議の無駄を省くために書面決議を利用する②あくまでも署名捺印を要する取締役会の開催を原則として、書面決議は予備的なものとする③そのうえで取締役会上程規則、書面決議基準を策定する④上程規則どおりに取締役会に案件が上程されているか、決議基準どおりに書面決議が利用されているか、その相当性につき監査役会の審議事項とする⑤書面決議による場合には、そこに経営判断法理が十分妥当するように、同意、不同意の選択によるそれぞれの企業リスクがどのようなものであるか、社外役員を含めて理解できるほどの参考書類を事前に準備する、などの対策が必要ではないでしょうか。

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2006年4月 4日 (火)

社外監査役の責任限定契約

公開企業におきましては、社外取締役や社外監査役の責任限定契約締結に関する定款変更議案を検討しているところが増えているようです。(新会社法427条の施行により、社外監査役、会計監査人、会計参与につきましては、定款でその旨の定めがあれば、任務懈怠の際の責任限定契約を締結することが可能となりました)

定款モデルをみますと、「金○○○円以内以上で会社があらかじめ定めた金額、もしくは法令で定める賠償責任限度額、のいずれか高いほうとする旨の契約を締結する」とありますので、そもそもこの「○○○円」というのは、具体的にいくらが妥当なんでしょうか?また、○○○円以内以上であらかじめ会社が定める金額というのは何を算定基準とするのでしょうか?ここは皆様の企業におきましては、どういった金額を記載しているのでしょうかね?ちなみに、社外取締役の責任限定契約締結に関する定款の例ですが、NECは1500万円となっており、ライオンは1000万円、オムロンも1000万円と定められています。つまりオムロンを例にとりますと、社外取締役の損害賠償責任の限度額は、その税込報酬の2年分か、もしくは1000万円以内で会社が定めた金額、のどちらか高額なほう、ということになりそうです。この1000万とか1500万という数字が現行の社外取締役の2年分の税込み報酬額を表しているのかどうかは定かではありませんが、いちおう上記のような定款の定め方は会社法427条1項の規定に忠実なものだといえそうです。ただ、この「○○○円以内で、会社が定める金額」という条項を規定しないと定款として不備があるかどうかは、ちょっと疑わしいようです。現に、セイコーエプソンなどは、社外監査役や会計監査人の責任限定契約締結に関する定款変更議案では「ただし当該契約による責任限度額は、法令の定める範囲内とする」とだけ定めているようでありまして、ほかにも(社外取締役に関するものですが)同様の規定を定款で定めている公開企業もみられます。

また、社外監査役の責任限定契約締結については、「広く優秀な人材を登用するためには不可欠」との提案理由が妥当しそうですが、セイコーエプソンのように会計監査人にもこの契約を締結する旨の定款変更理由にはどういった説明をするのでしょうか。「広く優秀な人材・・・」といった説明はちょっと考えにくいですよね。公認会計士協会では、藤沼会長による広報として、広く一般企業が会計監査人との責任限定契約締結へ向けての定款変更議案を提案することを希望する旨伝えておられますし、会計参与の行動指針におきましても、まずは会計参与への就任のためにはこの責任限定契約締結の可否を検討せよ、といった提言がなされています。そこで、どういった株主への説明があれば、会計監査人等の責任限定契約締結に関する定款変更が通るのでしょうか。このあたりは、会社の機関となり、(もしくは取締役との計算書類の共同作成者となり)取締役に対して、専門家としての意見を堂々と言える環境作りには不可欠である、といった役割論とか、新会社法のもとで、監査役と会計監査人との十分な意思疎通のためには、どちたにも十分な意見表明の体制を確保する必要がある等、その会計担当者としての役割が、新会社法のもとではさらに重要視されることを強調する必要があるのではないでしょうか。

(匿名法務部員さんのご指摘により、一部訂正いたしました。いつも深夜に自宅でエントリーしているものでして、きちんと資料を把握しておりませんでした。ご指摘ありがとうございました)

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2006年4月 3日 (月)

内部統制システムと文書提出命令(その2)

昨年の5月に内部統制監査と文書提出命令というエントリーを書いておりまして、今回はその続編ということになるのですが、あれからすでに1年が経過しようとしており、法律家の間でも、そういった訴訟対策としての内部統制システム構築の話が発展するんじゃないか・・・・と、期待しておりましたが、現時点でもあまりこういった観点から、法律雑誌で解説されているような気配が感じられませんね。と、いうことは「あまり気にするような事態にはならないですよ」といった考え方が通念なのかもしれませんが、どうも私的にはひっかかるところがあります。

専門家的には、要証事実の特定性や証拠と要証事実との関連性など、それなりに難しい論点も出てくるわけですが、誤解をおそれずにわかりやすく問題点を挙げるとするならば、株主や会社債権者が、親会社や役員個人の責任を追及する裁判において、役員の不法行為や善管注意義務違反の事実、親会社の共同責任を根拠つける事実などを立証するために、内部統制システム構築のために整備された文書ほか記録物について、民事訴訟法220条に基づいて文書の提出命令を申し立てることができるかどうか、といった問題です。もし、こういった内部統制システム構築の一環としての文書が、企業にとって「自己使用文書」「職業上の秘密に関する文書」「第三者のプライバシーに関わる文書」などに該当するものであれば、その提出を拒否できるのでありますが、そうでなければ原則として相手方に開示する必要が出てまいります。(文書提出命令の判例通説あたりを概観するのであれば、伊藤眞教授の最新版「民事訴訟法」あたりが適切かと思います)いずれにせよ、平成10年に東京高裁で、金融機関の社内稟議書は「自己使用文書」には該当せずに、文書提出命令の対象になるという判断が出ておりますし、また金融商品取引法自身が一般投資家保護を目的とした法律であることや、良質な企業統治の実現を目的として、(大会社に対してではありますが)会社法でも内部統制システムの構築事項の決定義務(体制整備事項決議義務)が規定されたこともありまして、会社の職務執行の意思決定過程を明確にするための文書や、従業員の職務執行の適正性を担保するための文書などにつきましては、その文書の作成目的が単に「わが会社における自己使用の目的のため」と言い切れるかどうかは極めて問題が残るような気がいたします。そもそも、取締役の責務としましては、そういった文書の保存や、システム自体の運用状況の監視そもものについても構築義務の範囲内にあると考えられますので、「残っていない」と回答することもできませんし、企業グループ全体における統制という面からすれば、親会社が子会社のリーガルリスクを甘受しなければいけない場面というものも予想されるところであります。

このあたりの研究や企業としての対策というものは、財務報告の信頼性に関わる内部統制でも、会社法における体制整備に関わる統制でも同様の問題が生じるでしょうし、会社法における体制整備事項への「COSOシステムの落としこみ」と同様、法律を扱う人間が対処する必要があるんじゃないでしょうか。たとえば、今年5月の取締役会までには、公開企業では各社「体制整備事項の決議」をするわけですが、その場合会社法施行規則100条で定められた整備事項の柱に沿って「事業報告書で開示されること」「有価証券報告書のガバナンス報告で開示されること」を前提に、いろいろな規定や機構を設置します、と宣言するわけですよね。その体制整備目的と具体的な施策との関係次第では、企業内部に保存する文書や、システム自体が外部第三者への開示対象になりうることは意識しておく必要があるのかないのか、そのあたりは専門家がもっと議論していいのではないか、と思います。近時の文書提出命令や、事前開示制度の裁判所における運用状況と対比しながら、今後の日本版SOX法対応文書がどのように扱われるのか、ひとつの研究課題になるような気がいたします。

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2006年4月 1日 (土)

法人処罰の実効性を考える

やっとココログも平常運転に戻りつつあるようでして、コメントもストレスなく、つけていただけるようになったようです。さなえさん をはじめ、メールでご意見を頂戴しておりました方々、ご不自由をおかけしました。とりわけ、「カネボウTOB問題」につきましては、「一般株主の会」の方々や、証券取引法、M&Aに精通された法曹実務家の方のご意見なども頂戴しておりまして、きちんとお礼もしておりませんので心苦しいかぎりです。ご覧のとおり、私はブログという性格上、できるだけ公平な(というか冷静なというか)立場から、自分の能力の及ぶ範囲において意見を書かせていただきましたが、ブログの最後のところで疑問を呈しておりました「支配権プレミアムの考え方が、再生処理案件にも及ぶのかどうか」といった点につきまして、「ふぉーりんあとにーの憂鬱」(47thさんのブログ)が(個別案件とは離れたものとして)解説されていらっしゃいますので、そちらを一度十分に拝読させていただいたうえで、また続きを書かせていただこうかと思っております。

いつも、こうやってどなたかにフォローしていただいているのが私のブログの悪いところ(先日、ある方に「あなたのブログはおもしろんだけど「起承転結」の「結」がない、とご指摘いただきました・・・)なのかもしれませんが、またまた新聞報道などと読んでおりまして気になりましたのが、今日の本題である「法人処罰の実効性の問題」であります。企業不祥事の防止ということが、いろいろなところで叫ばれ、またその対応策に四苦八苦している官公庁も多いようですが、目立ったところでは独占禁止法の改正による「自主申告によるリーニエンシー制度」がいきなり機能したとされる「水門工事」事件、ライブドア法人起訴による両罰規定適用問題、そして今朝の新聞では、粉飾決算時における監査法人の刑罰適用問題が掲載されております。こういった法人処罰(ここでは刑事罰だけでなく、課徴金賦課のような行政処分も含む意味で考えております)規定を設けることが、果たして企業不祥事防止につながるのかどうか、といった素朴な疑問であります。

たとえば自然人の場合、刑事罰を受けますと、多くの事件について「執行猶予」が付くわけです。そして、再度悪いことをすれば、今度は「実刑で刑務所行き」が確実、ということでその刑事処罰の運用自体が犯罪者の再犯を防止する重要な機能を果たしているわけです。しかしながら、法人処罰の場合は、純粋な応報主義といいますか、「犯したことに対して正当な罰を受けてしかるべきである」ということだけを満足させればいいのでしょうかね?たとえば上の事例におきましても、罰則の内容というのは、罰金や課徴金の賦課ということでして、「解散命令」のような処分はよほどのことなない限りは罰則の内容にはならないと断言できそうです。よく従業員の犯罪行為が発覚した後に、企業トップが「今後二度とこのような不祥事が起きぬよう、コンプライアンス体制を徹底し・・・」とリリースをしておりますが、こういった賦課処分による法人処罰は、「なんか不祥事が発覚したら、その都度お金を払えば(もしくは、営業を30日間停止してしまえば)解決済み」という思想につながってしまい、本当に再犯を防止するだけの抑止力があるかどうかは、極めて疑問があります。むしろ、企業としても、「従業員の犯罪」というリスク管理の問題として捉えてしまえばいいわけでして、(年間100の売上があるとして、売上向上のためにはやむをえないところの「年間1件の不祥事」があって、5を損失と考えて、差し引き95を予想しておく、とか)自然人への刑罰適用とは、その運用面において大きな差があるように思えてなりません。

さらにレピュテーションの問題ということもあります。法人が課徴金を賦課されたり、罰金処分を受けた場合、その企業はそれでけで社会から受け入れられなくなるんでしょうか。そういった面において日本は寛容であり、おそらくほとんど影響はないと思います。有名人が覚せい剤や破廉恥罪で逮捕され、有罪になったことは記憶していても、過去5年の間に多大な罰則を受けた企業というものをどれだけ記憶しているでしょうか。もし記憶しているとすれば、それは法人の犯行、ということよりも「犯行を隠蔽しようとした」とか「犯行発覚後の社長の対応がまずかった」という犯行後の問題をマスコミから指摘されたケースがほとんどではないでしょうか。こういったことを考えておりますと、企業不祥事防止のための法人処罰の実効性というのは、刑罰規定をもうけるだけでは、ほとんど機能しないのではないか、と思います。

以前、「東証のシステム障害」のエントリーのときにも書かせていただきましたが、企業不祥事、とりわけ従業員や経営陣の不祥事はかならず起きる、内部統制には限界がある、という前提で議論すべきではないでしょうか。そしてもちろん法人処罰の必要性はあるわけでしょうから、罰則をもうけることは不可欠でしょうが、その際には企業の日常の不祥事防止システムの設置状況や、その運用状況などを考慮して、ある程度明確な基準を設けて量刑や課徴金判断を検討すべきではないでしょうか。また、業界団体の登録や、官公庁の入札指名基準などの運用についても、一回目は大目にみるけれども、刑罰適用後5年以内に、また罰則を賦課された場合には、永久に登録や指名からはずされる、といった厳しい規則を自主的に策定する、といったことも検討しておかないと、個々の企業が本当に不祥事を防止することを考えているのかなぁ、ポーズだけとちがうのかなぁと、そろそろ一般の国民も不信感を抱き始めるのではないでしょうか。

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