株主代表訴訟の改正点(2)
さきほどまで弁護士団体の会議(宴会?)のために宝塚温泉に行っておりましたので、またまた疲れのたまった状態でのエントリーになってしまいますが、先日の責任追及の訴え(株主代表訴訟)の会社法における改正点への対応(監査役としての)について考えてみたいと思います。
株主代表訴訟の改正点(1)におきまして、提訴請求が監査役に対してなされた場合に、(とーりすがりさんが提訴するという可能性もあるではないか、と指摘しておられましたが、ここでは提訴すべきかどうか、監査役が逡巡している一般的な状態を前提とします)3つほどの問題点を掲示させていただきました。でも、その後でよく考えてみますと、ほかにもいろいろと問題点が浮かんできます。たとえば資力のほとんどない取締役を対象として、ある少数株主が正義感をもって(監査役に対して)善管注意義務違反による損害賠償請求訴訟を提訴せよ、と通知してきた場合なんか、監査役としたらどういった対応をしたらいいのでしょうか。会社法施行規則218条の条文を素直に読みますと、その少数株主の請求に理由がないと判断した場合には、その旨(判断の基礎となった資料などを添付したうえで)理由を通知すればいいのでしょうけれども、その取締役に責任があるかどうかはわからないけれども、そういった訴訟提起によって会社に重大な損害を発生させる可能性があるということで提訴しない、と判断することはできないように読めますよね。会社に損害を発生させる可能性があるとして訴えを提起しない判断を下すことができるのは、監査役がその対象となっている取締役に責任があると判断することが前提となっているわけでして(規則218条3号)、「責任があるかどうかは別として」といった態度は許されないように読めます。しかしながら監査役も会社との関係では委任関係にある以上は、少数株主にとっては正義感で訴えを提起したい(したがって会社に加害目的をもって訴えを提起したい、というわけではない)と考えていても、大多数の株主の意思としては「訴訟によって返還が期待される利益よりも、その訴訟を真剣に闘うことによって開示される会社の無形資産の損失のほうがはるかに大きい」といった場合には、そういった株主の意思をくみとって行動すべき立場にあるのではないでしょうか。そうしますと、監査役としては手持ちの資料などからみて、その対象取締役の責任判断は困難(この場合、いいかげんに取締役の責任なし、とは言えないでしょう。判断の根拠となった手持ち資料は責任追及請求をしている株主に開示するわけですから、後の裁判の結果次第では、いいかげんな判断をした、と受け取られる可能性もあるわけでして、監査役自身が善管注意義務違反の対象となってしまうことになりそうですし)だけれども、多数の株主の意思としては、裁判を提起すべきではない、といった意思が斟酌できるような場合、どのように対応したらよいのでしょうか。
条文に書いてない以上は、こういったケースは不提訴通知を発送できないがゆえに、監査役はともかくも多数の株主の意思に反してでも(つまり善管注意義務に反してでも)会社を代表して訴訟を提起していかなければならないのでしょうか。それとも、こういったケースにおいては提訴請求をしている少数株主には会社の利益を害する目的がある、と認定してしまうのでしょうか(しかしながら、少数株主は、自ら会社内部の資料にアクセスできる立場にないわけで、簡単に会社に損害を加える目的がある、とまでは言えないように思いますが)うーーん、どっか問題の前提が間違っているんでしょうかねぇ。またまた問題点の提示だけで、回答がなくてすみません。
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コメント
こんにちは。先日はご回答いただき、ありがとうございました。
山口先生がご指摘の点、じつは私もたいへん重要なポイントかと思っています。いまのところ、この問題は解釈がむずかしいところでして、今後の実務運用に委ねられるところが大きいのではないかな、と思います。
ひとつだけ参考になりますのは、月刊監査役505号(2005年10月号)におきまして、同志社大学の森田教授が、「会社法制現代化の意味ー株主代表訴訟と監査役」と題する解説文を載せていらっしゃいます。このなかで、会社法847条の衆議院による修正と現行法847条但書の関係について問題提起をされています。山口先生の問題提起に近いものですが、森田教授は、この847条但書の解釈次第では、衆議院削除条項の意味をどれだけ実務に生かせるか変わってくるのではないか、といった趣旨のことを書いておられます。株主から出された提訴請求を無効とするわけですから、もちろん「会社に重大な損害を与える」といったことは立証が会社側に存在するのでしょうが、おそらくこういった運用まで監査役が担うのであれば、専門家の意見なしには不提訴理由通知は出せないんじゃないでしょうかね。
また、勉強させていただきたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いします。
投稿: 品田太市 | 2006年4月21日 (金) 13時04分
品田先生、コメントありがとうございました。ご指摘の論稿につきましては、まだ読んでおりまんせんでしたので、一度検討してみたいと思います。しかし会社に重大な損害を与える「目的」というのは、どちらかといいますと株主の主観的要件として必要なものであって、(したがいまして、認定されるケースというのは非常に限られてくりのではないか、と)訴訟委員会が客観的に会社の利益の損失を判断する場面とは少し異なるようにも思われますがいかがでしょうか。
また有益なご意見、お待ちしております。
投稿: toshi | 2006年4月22日 (土) 02時28分