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2006年4月 4日 (火)

社外監査役の責任限定契約

公開企業におきましては、社外取締役や社外監査役の責任限定契約締結に関する定款変更議案を検討しているところが増えているようです。(新会社法427条の施行により、社外監査役、会計監査人、会計参与につきましては、定款でその旨の定めがあれば、任務懈怠の際の責任限定契約を締結することが可能となりました)

定款モデルをみますと、「金○○○円以内以上で会社があらかじめ定めた金額、もしくは法令で定める賠償責任限度額、のいずれか高いほうとする旨の契約を締結する」とありますので、そもそもこの「○○○円」というのは、具体的にいくらが妥当なんでしょうか?また、○○○円以内以上であらかじめ会社が定める金額というのは何を算定基準とするのでしょうか?ここは皆様の企業におきましては、どういった金額を記載しているのでしょうかね?ちなみに、社外取締役の責任限定契約締結に関する定款の例ですが、NECは1500万円となっており、ライオンは1000万円、オムロンも1000万円と定められています。つまりオムロンを例にとりますと、社外取締役の損害賠償責任の限度額は、その税込報酬の2年分か、もしくは1000万円以内で会社が定めた金額、のどちらか高額なほう、ということになりそうです。この1000万とか1500万という数字が現行の社外取締役の2年分の税込み報酬額を表しているのかどうかは定かではありませんが、いちおう上記のような定款の定め方は会社法427条1項の規定に忠実なものだといえそうです。ただ、この「○○○円以内で、会社が定める金額」という条項を規定しないと定款として不備があるかどうかは、ちょっと疑わしいようです。現に、セイコーエプソンなどは、社外監査役や会計監査人の責任限定契約締結に関する定款変更議案では「ただし当該契約による責任限度額は、法令の定める範囲内とする」とだけ定めているようでありまして、ほかにも(社外取締役に関するものですが)同様の規定を定款で定めている公開企業もみられます。

また、社外監査役の責任限定契約締結については、「広く優秀な人材を登用するためには不可欠」との提案理由が妥当しそうですが、セイコーエプソンのように会計監査人にもこの契約を締結する旨の定款変更理由にはどういった説明をするのでしょうか。「広く優秀な人材・・・」といった説明はちょっと考えにくいですよね。公認会計士協会では、藤沼会長による広報として、広く一般企業が会計監査人との責任限定契約締結へ向けての定款変更議案を提案することを希望する旨伝えておられますし、会計参与の行動指針におきましても、まずは会計参与への就任のためにはこの責任限定契約締結の可否を検討せよ、といった提言がなされています。そこで、どういった株主への説明があれば、会計監査人等の責任限定契約締結に関する定款変更が通るのでしょうか。このあたりは、会社の機関となり、(もしくは取締役との計算書類の共同作成者となり)取締役に対して、専門家としての意見を堂々と言える環境作りには不可欠である、といった役割論とか、新会社法のもとで、監査役と会計監査人との十分な意思疎通のためには、どちたにも十分な意見表明の体制を確保する必要がある等、その会計担当者としての役割が、新会社法のもとではさらに重要視されることを強調する必要があるのではないでしょうか。

(匿名法務部員さんのご指摘により、一部訂正いたしました。いつも深夜に自宅でエントリーしているものでして、きちんと資料を把握しておりませんでした。ご指摘ありがとうございました)

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コメント

おはようございます。
重箱の隅ですが、○○○円以内ではなく「以上」かと思われます。
この件に関しては私も担当者としてよくわからない点があり少し悩まされております。
セイコーエプソンやサッポロHDなどは金額の記載がないのですが、条文上は「定款で定めた額の範囲内で」となっております。そうしますと一定の範囲を金額でもって表さなければならないのではないか?上の人間は「金額書くとやらしいからなしでいこうよ」と言うけどそれは427条に反するのでは?仮に金額を記載するとして「○○○円以上で会社が定めた金額」とは契約の中で定めた金額ということか?などなど。
後段の部分については同じことを信託銀行から言われました。やはり監査法人としては業界団体からの限定契約締結のプッシュがなければ個々の企業に対してそれぞれ締結のお願いをするというのは難しいように思います。限定契約を結んでいるということはもしかすると監査法人が責任を持った監査をする自信のないことの現われか?などと一般株主が考えたり・・・・
この件について論じられてる方が今のところ少ないのでこれからも引き続きお願いいたします(笑)

投稿: 匿名法務部員 | 2006年4月 4日 (火) 08時48分

ご指摘ありがとうございます。早速、確認のうえ訂正させていただきました。どこでも同じような悩みをかかえていることがよくわかりました。
金○○○円以上であらかじめ会社が定めた金額が存在しない場合で、かつ社外役員の基本給がゼロ、完全出来高払い、出来高は事業年度末に確定するという条件で、1年目に不祥事関与が明らかになった場合、この役員さんの会社に対する損害賠償責任は全額免責されるのでしょうかね。
まあ、そんな条件はありえないかもしれませんが。たしかに、○○○円という金額を定款に記載するのはちょっと抵抗はあるのですが、やっぱり問題点を少なくするためには記載したほうがいいように思います。
会計監査人の問題も悩ましいですね。商事法務あたりで、一度どなたかが明確に解説していただけるとありがたいですね。

投稿: toshi | 2006年4月 4日 (火) 13時56分

あわわ…そんな手厚いお礼を言われるほどのことは…恐れ多いです。
ここの規則113条がパッと読んだだけではさっぱりわからんちんのとっちめちん(古)ですので注意して読む必要がありますねぇ。
コメント内の事例設定の場合、確かにちょっと考えさせられますね。
ただ、規則113条の文言に「在職中に」「受けるべき」「財産上の利益の額」の「事業年度ごとの合計額」とあったはずですので、やはり最低責任限度額の算定基準額として前事業年度の出来高額も含まれるように思われます。
でも出来高も0だったら全額免除も可能でしょうね。そうは言ってもあくまで法律上「可能」ということでその不祥事の中心人物だったりした場合には事実上は難しいように思われます(誰か間違っていたら教えてくださいませ)。
しかし、toshi様はうちの役員と同じことを思いつきますね(笑)

投稿: 匿名法務部員 | 2006年4月 4日 (火) 22時34分

山口先生
会計監査人との責任限定契約について、定款変更の理由をどうするか、と先生が正当に指摘されている点に関して、小職からは、関連する問題を1点。どういう場面を想定して、どういう損害賠償義務が発生するのだろうか、を考えておく必要があるのではと思っています。責任限定契約の対象は、会社法の423条1項に基づく会社に対する損害賠償責任です。会計監査人に任務懈怠があった場合で、かつそれが会社に損害を及ぼす場合とは、どのような場面というべきでしょうか。

粉飾を見過ごしたことにより、投資者などが損害を受けた場合や債権者が債権の回収ができなかった場合は、会計監査人の第三者責任(429条)の問題ですから、責任限定契約の対象外ですよね。また証取法上の監査証明をした監査法人などが投資者に対して損害賠償責任を負う場合(21条1項、22条、24条の4等)についても、責任限定契約ではカバーされません。むしろ会社に損害が発生している場合を想定するとすれば、どのような場面があるのでしょうか、あまり論じられていないようにも思いますが、関連させて考えておく必要がありそうです。
例えば、会社経営陣側と監査法人が通じて粉飾(損失隠し)をした、というような場合、証取法21条の2で会社が投資家に対して(無過失の)損害賠償責任を負った場合、会計監査人に対して責任を追及することがありうるかもしれません。この例は、通謀があるので責任限定が認められない場合になってしまいますが、「通謀」まではなく、軽過失程度であった場合には、責任限定契約の条項を論じる意味のある場合があるのでしょう。その他としては、粉飾が見過ごされ、違法配当がなされた場合あたりはどうでしょうか。法務省担当官は、違法配当は「有効」だと胸を張っていますので、会社から責任追及できる相手方は462条に規定される者に限定される。しかし、それでも全額回収できないような場合に、会計監査人が責任を負う余地があるということにでもなるのでしょうか。ちょっと長くなってしまい、失礼しました。

投稿: 辰のお年ご | 2006年4月 5日 (水) 22時16分

たしかに違法配当の場合は、私も同様の意見です。このあたりは被害者が「第三者」か「会社」か、「過失か」「重過失か」といった問題が錯綜するために、私もちょっと軽々しく論じることはできないのですが、おっしゃるとおり検討しておく価値はあると思います。
そういえば、中央青山と足利銀行(被害株主のほうではなくて預金保険機構のほう)訴訟における中央青山の抗弁について、法律的な構成が面白なったんですが、その後フォローしないままに現在に至っております。こういった会計監査人の責任問題の参考になるかもしれません。私のエントリーのどっかにあったんですが、ちょっと時間的に調べるのがむずかしくなってきました(笑)
コメントありがとうございました。

投稿: toshi | 2006年4月 6日 (木) 02時40分

この4月から総務に配属になりたいへん参考にさせていただいております。
責任限定契約ですが、§427は 「契約」を締結することで、総会や役会の決議なしに限度額内に免じるためのものという理解でよろしいのでしょうか?

投稿: 或る総務の一生 | 2009年6月11日 (木) 13時02分

こんにちは。
基本的にはそのような理解でよろしいかと思います。
ただ、責任限定契約の基本的な内容については、取締役会における承認決議をとっているところが多いのではないでしょうか。契約書案を付議するでしょうし、また更新の際にも同様かと。
また、あらかじめ定款に責任限定契約を締結することができる旨が定められていない場合には定款変更が必要ですから、その場合には株主総会決議が必要ですよね。

投稿: toshi | 2009年6月11日 (木) 14時28分

早速の御回答ありがとうございます。

当社定款には§426の取締役会決議による免除と§427責任限定契約の条項が盛り込まれております。

§427の”いずれか高い額”の文言に目がいってしまい、社外取締役との契約締結自体が取締役会決議を不要とすることに気が付きませんでした。

事故が起こる前に取締役会決議を得て(契約して)おくか、事故が起こってから免除決議を得るか(得られにくいでしょうか)ということになるのですね。
契約書案も取締役会での承認も定款に規定がある場合、法定要件ではないですね。

これからも参考にさせていただきます。
ありがとうございます。

投稿: 或る総務の一生 | 2009年6月11日 (木) 16時04分

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