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2006年4月30日 (日)

大規模パチンコ店のコンプライアンス

5月1日より改正風営法(風適法)が施行されることになりまして、パチンコ&パチスロ店(以下、単にパチンコ店といいます)の営業にも大きな影響(刑事罰の厳格化および刑事罰確定による行政処分との関連性)を与えることになります。私の事務所も、大規模ではありませんが、関西でちょこっと展開しているパーラー運営会社の顧問をしている関係から、パチンコ店運営にかかるコンプライアンス関連の相談を受けることがあります。昔はヤミの世界とのつながりとか言われておりましたが、最近は普通の上場企業以上にステークホルダーとの関係はクリーンですし、コンプライアンス経営にも熱心に取り組んでいらっしゃるところが多いですよね。

きょう、ろじゃあさんのブログでおもしろい記事をみつけましたが、大規模パチンコ店がジャスダックに上場申請をしたところ、経営に問題があるとのことで上場申請が却下されてしまう、ということのようです。(朝日新聞ニュースはこちらです)出玉の景品を換金する業界慣行の合法性があいまいなため、投資家保護を果たせないと判断した、といった理由が書かれています。(このあたりの「三店方式」に関する説明はろじゃあさんのブログに詳しく説明されています)パチンコ機器製造会社やカードシステム会社は既に上場を果たしていますので、大規模パチンコ店の上場は悲願だと思いますので、さぞや上場申請をされた企業は悔しい思いをされていることでしょう。なお、ジャスダックに上場申請をした大規模パチンコ店(2社)につきましては、主幹事は日興シティグループ証券と大和證券SMBCです。また悲願達成に向けて、上場申請に先立ち、企業のコンプライアンス経営向上のため、有限責任中間法人PTBを設立しておりまして、(審査委員の顔ぶれをみますと、日経ビジネスの昨年度「日本の弁護士ベスト20!」に掲載されておられる弁護士の方がお二人もいらっしゃいますし、またコーポレートコンプライアンスで有名なあの教授のお名前もあります。すごいメンバーなんですね)ものすごい気合です。

「三店方式」によるパチンコ景品の換金システムが「合法性に問題あり」ということで審査が却下される、というのはまちがいなく「表向きの理由」でして、本当の理由はちがうところにありそうです。これはもうご承知の方も多いとは思いますが、いわゆるパチンコ店と風俗営業における営業許可との関係からです。もう少し具体的に申しますと「警察権力とパチンコ店との関係の歴史」からくるわけでして、風適法違反による行政処分といいますのは、警告で済むのか、違反店舗のみの営業停止で済むのか、全店営業停止となるのか、営業許可取消になってしまうのか、まったく予想がつかないのが現実です。こういった現実を許してしまったのは、その責任の一端は弁護士にもあると思います。以前私がエントリーのなかで「風俗産業の顧問をしていたころのお話」をカミングアウトいたしましたが、警察許可(正確に申し上げますと、許認可権限は都道府県の公安委員会にありますが)に対する行政処分に対決する弁護士の数が圧倒的に少ないために、(風俗専門の弁護士といわれるのもやっぱりカッコ悪いというのもあるかもしれませんが・・・いや、それ以上に弁護士倫理に触れるかもしれませんね・・・・・)刑事罰と違って大幅な裁量権を警察が握っている状況がこれまで脈々と続いているわけです。したがいまして、パチンコ店などもおそらく「企業不祥事発生時における、経営に重大な影響を及ぼすリスクの適正な管理」ができないのではないでしょうか。こればっかりはどんなに偉いセンセイ方が第三者機関の委員になっていようと、どんなに立派な証券会社が主幹事になろうと、警察がジャスダックに対して「パチンコ店を上場させるの?もし営業許可が取り消されて投資家が被害を被ったら君達も同罪だけどいいのかな?」といったカタチで質問をしてきたら、ジャスダックもビビってしまうことになってしまうのではないでしょうか。ましてや、この5月1日の改正風適法施行後におきましては、18歳未満の出入りやパチンコ機器の無承認による改造などの事実が発覚して刑事罰を課される場合には一発で営業許可取消といった行政処分の厳罰化が待っているわけでして、パチンコ店の運命はますます警察の手のひらに乗っかってしまうのが現実であります。

ということで、現状のままではパチンコ店と警察とは営業許認可権をちらつかせての「持ちつ持たれつ」の関係が今後も継続するところでしょうし、本当の大規模パチンコ店のコンプライアンス経営(リスク管理)が実現するのは、ひとえに企業不祥事発生時における行政処分の予測可能性に尽きるものと私は考えております。ヤミの世界との関係を断ち切ってきたこれまでの努力と同じように、警察との関係もクリーンにできるのかどうか、そのあたりもコンプライアンス経営にとっての課題でしょうが、そうなると今度は本当に「三店方式の合法性」について、警察が黙っているのかどうか、そのあたりはなんとも微妙な問題が出てくるかもしれませんね。(ちなみにパチンコ機器製造会社やプリペイドカードシステム会社が上場しておりますのは、やっぱりそういった会社に警察OBの方々が天下っておられるからなんでしょうね・・・、いえ、これは私のただの憶測にすぎませんが・・・・)

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コメント

toshiさま
TBありがとうございます。
う~ん、toshiさんの真骨頂が滲み出ているエントリーですねえ。感服仕りました。
最近、toshiさんも含めてろじゃあの「よき常連読者」の方々は「行間を読んで」ろじゃあを補完していただくことが多くて大変感謝しております。
本件もその例でして、悪童さん案件と同様名宛人がある程度特定されているところを見事に拾っていただいたというところでございます(あとお一方も時間の問題ではなかろうかと・・・)。
しっかし、行政裁量との関係での企業のコンプライアンスという論点はなかなか日本では全面に出にくい論点だと思います。
労働組合との関係での企業のコンプライアンスと同様色々とめんどくさい話が多いからだと思います。
今回のネタはろじゃあも引き続きモニターしていくつもりです。
またいろいろ教えてくださいませ。

投稿: ろじゃあ | 2006年4月30日 (日) 02時55分

toshiさん、久々の投稿になります。
最近は内部通報制度の実務などでいろいろとわからないことが多く、仕事でも悩んだりすることが多いです。
このエントリー、私も興味深く拝見しました。うちは水商売ではありませんが、やはり警察行政との関係がありますんで、パチンコホール業界の悩みもわかるようなきがします。本当に言われるまま、といったことで、行政指導といったものは世間ではなくなったと聞いておりますが、いまも根強く残っているのが現実です。
ろじゃあさんが言われているように、いろいろとめんどくさいことが多いので、労働組合以上に弁護士さんを雇うことに拒否反応がありますね。
また、ときどきコメントします。
いつも更新ごくろうさまです。

投稿: Pへの永遠なる飛翔 | 2006年4月30日 (日) 10時21分

こんにちは。大変興味深く拝読しました。マシンの作りを規定している細則に関わることがあるのですが、そうした仕様を見ると、話が細かい分、お上の意向が露骨に反映されていると感じることがあります。位の高いお方のお話ほど抽象的で曖昧模糊としますものね。しかしそうした経験を踏まえて拝読してもご指摘はどれも誠にごもっともです。

三店方式は議論と小さな改変を繰り返しつつも延々と続くだろうと思います。ことあるごとに問題視されるということは、問題が多い仕組みと思われがちですが、その実「ことあるごとに」価値残り、生き延び続けている、ということでもありますね。「全くいつも思うけど、あれはつくづく問題だよ」と悪口を言われ続け、ストレスを発散し続けていただける間口の広さがあるということでもあるというか。

全面的に改変するには官民ひっくるめてあまりに複雑に利害関係が汲み上がってしまっていると思います。


投稿: bun | 2006年4月30日 (日) 11時28分

toshiさん,初めて投稿させていただきます。
「表向きの理由」だったのですね,なるほどです。
実際,行政裁量に関連する質問をされると,「裁量ですので・・・」としか言えないところに,歯がゆさを感じることが多々あります。
将来の行政裁量の不確実性を言われると,コンプライアンスシステムも何も働かず,システムを作っても対応できないので辛いところですね。
ノーアクションレターや行政訴訟の改革を含め,行政裁量の透明化がもっと進めばいいのですが。
今後とも,興味深く拝読させていただきます。

投稿: kitiomu | 2006年4月30日 (日) 11時45分

>ろじゃあさん
コメントありがとうございます。行政処分と弁護士の役割につきましては、ホントに問題点が山ほどあります。弁護士急増時代の職域拡大としても、また行政裁量分野におけるリスク管理の実現のためにも今がチャンスだと思います。
また、私もフォローしていくことにします。
そういえば、ろじゃあさんのブログも開設1周年を迎えたのではないでしょうかね?

>Pへの永遠なる飛翔さん
どうもおひさしぶりです。私なんかより企業法務に精通されていらっしゃる方でも内部通報制度の運用には悩んでいらっしゃるんですね。実際の通報制度の運用って、情報と伝達といったCOSOフレームワークの理想形からは、ほど遠いところに現実があると思いませんか?これ、また別エントリーにしてみたいと思っています。

>bunさん
こんばんは。コメントありがとうございます。
>全面的に改変するには官民ひっくるめてあまりに複雑に利害関係が汲み上がってしまっていると思います。
これまったく同感です。本当はあまり触ってはいけないところだったりしますよね。でも時代の流れで警察とホールの関係も変わっていくような気もしまして、実際のところ、私も予想つかないんですよ。

最近はbunさんのブログも経済分析など、むずかしいエントリーが多くて、ちょっとコメントしづらいのですが、また軽そうなところで(笑)コメントいれさせてもらいます。

>kitiomuさん
はじめまして。どうもコメントありがとうございます。そちらのブログ、初めて拝見させていただきました。ちょっと興味がありますので、これからしばらくの間、閲覧させていただこうかと思っております。
行政裁量に関する問題については、「強行突破」すべきか、それとも「事前の根回し」でいくか悩むところです。まあクライアントのリスク管理ということでは後者の方法をとるケースが多いわけですが。
今後とも、どうかよろしくお願いします。


投稿: toshi | 2006年5月 1日 (月) 02時35分

はじめまして、パチンコ店の存在そのものに、疑問をもっているものでして、いろいろと調べているうちに、このブログにたどりつきました。

個人的には、パチンコは完全なギャンブルであり、極めて違法性の高いもので、ギャンブル中毒による自殺や自己破産、家族崩壊を招く負のビジネスであると思っています。
店頭市場への上場や、ましてや東証への上場などなど、決してあってはならないことだと感じている者です。

パチンコは、風営法の範疇で管理されているといえども、ギャンブルそのものであり、出店の規制がほとんどないことや、実際には胴元による恣意的なリターンのコントロールが可能で、自然の確率に基づいていない点など、世界的に見て最悪の部類に属するギャンブルと言えるのではないのでしょうか?

よく言われている質問でしょうが、もし、三点方式が行政裁量として合法ならば、三点方式にて行われていたカジノが摘発されている点や、地方自治体がカジノを設立できないことを説明できないと思いますし、少なくともソープランドと同様、子供に説明できない類の話だと思います。

古物商として届けてある景品交換所(換金所)が、パチンコ店と全く関係がないと思っている人が、この日本に存在するのでしょうか?交換所への詐欺をパチンコ店が警察に届けた事例もありますよね。両者の関係は明らかで、こんな判りきったことを、否定することでしか成り立たないグレーな業界に、株主保護を求められる上場が認められることがあってはならないと思いますが、いかが?

投稿: unknown | 2006年5月 9日 (火) 22時18分

法的な観点からみた場合に「グレー」と称される産業の上場問題というのは考えてみるとおもしろいですね。
投資家を不安定な地位にさせる、といったところから出発するのではなくて、誰が「グレーである」ことを評価するのか。市場参加を許す人が評価するべきか、それとも一般投資家がグレー産業のリスクをとりながら評価するのか。市場参加者が公序良俗を検討することは市場自体にとって「迷惑」なことなのか、そのあたりどうなんでしょうか。

投稿: toshi | 2006年5月11日 (木) 02時22分

やっぱ、北朝鮮に金が流れているという印象が強いからではないですか?事実かどうかは知りませんが、パチンコ店の大半は在日韓国・朝鮮人の経営だといいますからね。税金も払ってないとかよく言いますよね。税務署と総連との密約があるとか。地下銀行とか。その辺のグレーさが払拭されない限り、やはり上場(企業の市民権)はもてないでしょう。

警察と利権。これは法治国家か行政国家かということだとも思うんですが、外国がらみはだいたいどの国でも行政優位で、司法は口出しできません。国家防衛は行政の管轄ですよね。

投稿: hamster | 2007年3月10日 (土) 12時56分

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