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2006年4月 7日 (金)

監査契約解消時の監査法人のコメント

4月5日の日経ベタ記事で電子カルテ販売の株式会社シーエスアイが、中央青山監査法人との会計監査契約を合意解約した、ということが報道されていました。この3月30日に公表されました企業会計基準委員会作成にかかる実務指針「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務指針」に沿った収益認識の時期が、企業側と監査法人側と一致しなかったということが原因のようです。(シーエスアイの公表事実はこちら)

シーエスアイの説明によると、販売商品はソフトあり、ハード機器あり、そして保守取扱サービス契約ありということで、いわゆる複合取引の典型例のようですが、やはりそのなかでもソフトウェアの「販売代理店」を通じての販売形態において、販売代理店へ売りつけたときとみるのか、販売代理店が最終ユーザーに販売した時点とみるのか、そのあたりが最大の問題点のようです。素人的な発想ですが、結局のところ、シーエスアイと販売代理店との力関係(協力会社、提携会社といえるかどうか)、販売代理店の在庫滞留時におけるリスク負担(過去に大量の返品処理、値引き販売の実績があるかどうかなど、異常取引の存在)、単に基本契約書だけが存在していて文書管理(納品、検品書、売上確認書などの存在)に問題がなかったか、などの総合的判断によって、いつの時点を収益認識時期とするか決めることになるのではないでしょうか。

そこでまたまた素人的な疑問なんですが、もし上記の私の分析が正しいとするならば、こういった新しい会計基準自体が公正妥当な会計慣行に該当するとしても、その基準の適用にあたっては、ビッグ4と呼ばれる監査法人さんは、どこも同じ結論に至る確信はあるのでしょうか?もし確信があるとするならば、公開企業にとって、同様の事態に至ったとき、監査法人との間で意見の相違がみられる、といった場面において監査人を変更するためのアクションをとる実益があまりないようにも思われます。このあたりは、新会社法によって会計監査人と監査役(監査役会)との連携強化といったことが言われているなか、今後の監査役実務に大きな影響を与えるところだとも認識しております。

そしてもうひとつの疑問は、上記の新聞報道にもありますが、中央青山監査法人の広報室は「個別の顧客についてコメントは差し控える」とのことでして、合意解約に至った理由とりわけ、なにゆえ企業との間で意見が一致しなかったのか、なにゆえ意見不表明と認識するにいたったのか、そのあたりのコメントは一切控える、という態度は会計監査人が会社の機関となるこれからの時代も妥当なのかどうか、といったところであります。もちろん、弁護士以上に公認会計士の方々は顧客企業の秘密を守る態度にかけてはシビアでありまして、日常の業務において信頼される源であることは十分承知しております。しかしながら、「監査は誰のためにあるのか」といった基本的な問題もありますし、そもそも顧客側が合意解約の事実を適時開示しているような場合には、(コンサルタント内容を開示するわけではなく、あくまでも財務諸表監査の評価結果を基礎つける事実なわけですから)むしろ意見相違に至った経過程度は開示したほうが、株主や一般投資家その他利害関係人の利益に資する結果となるようにも思えるのですが。。。(私はどうも、今回の中央青山の判断につきましては収益認識時期に関する見解の相違ということだけでなく、今後の収益認識時期判定のための、つまり財務情報の信頼性確保のための内部統制環境整備が不足していたことにも起因しているのではないか・・・とも思ったのですが、そういったあたりを弁明していただけますと、会計基準の進化にもつながるのではないかと考えたりしております)会計学の基本の部分がよくわかっていないのかもしれませんが、ついつい自分が監査役だったら、合意解約にいたる経過において会計監査人とどのような対応をとっただろうか、とすこし想像したりしておりました。

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コメント

お久しぶりです。この会社さんのことはさておき、一般論として合意解約の理由として株式会社から公表されたものが監査法人の認識と異なる場合は監査法人はどう行動すべきなのでしょうね。
株主のための監査とはいえ、直接の権利義務関係は企業との間に発生すると考えられるわけで、会社と監査法人との間の監査契約に基づいてクライアントに対する守秘義務を負っている状況にありますから、監査法人からコメントを求めるのは酷なような気がします。他方で公表されたものが認識と異なる場合まで黙秘を通すことは不作為による虚偽表示的な意味合いが強くなりますから、守秘義務に反しない範囲で企業からのリリースを否定することになるのでしょうね。ただ、合意解約の過程でリリースの内容は相当もまれているはずで、公表内容については監査法人も同意しているとみるのが自然なような気はしますが。

投稿: neon98 | 2006年4月 7日 (金) 23時10分

こんにちわ。
いつも拝見して、勉強させていただいています。

さて、売り上げ計上は、出荷基準で計上していればパッケージソフトやハードの場合、3月31日に出荷しても期中の売り上げになます。(開発ソフトは別です)
たぶん、
1.裏で買い戻し特約付の代理店への押しこみ販売
2.在庫のない架空売り上げの計上、
3.決算期をずらした関係会社等への期末における異常な売り上げ計上、
4.商品価値劣化による減耗損の計上の拒否
5.マージン等の来期への計上の繰り越し
等が会社と監査法人がもめた原因と文面からは考えられます。
1.だけならば、過去の決算における返品実績から通常「適正」のお墨付きを保留しておくと思いますが、その他のケースは調査すればすぐにわかります。

この時点での、監査法人と契約を解除したとの会社の発表の実態は、監査法人が監査辞退を申し込んだと考えられます。
「適正」を出せない、粉飾(会計処理というほうが適切でしょうか)があり、顧客の秘密保持と責任のがれから、監査法人の方から辞退するのが通常と思います。

たぶん、今期は中小の監査法人に切れかえて、ある程度黙認してもらって、決算を行い「適正」をもらうのではないでしょうか。

内部告発があって、配当を出していると背任に問われる可能性が・・、ここからは先生の専門でした。

また、いろいろ勉強させてください。

投稿: spring | 2006年4月 8日 (土) 17時27分

一部補足というか、間違いがありました。
売り上げは出荷基準でもかまいませんと書いてしまいましたが、納品先の検収書が出荷日の日付になっていないと、期を越した売り上げになるので、代理店等との力関係が関係してきます。

投稿: spring | 2006年4月 8日 (土) 18時41分

>neon98さん
問題点の後半部分へのご指摘ありがとうございます。
そうですね、やっぱり「株主のための監査」といいましても、契約は個別企業との間でなされているわけですし、また「守秘義務」はすべてのクライアントとの信頼の要でしょうから、軽々しくリリースするわけにはいかないのが現実なんでしょうね。ただ、私としましては、この「合意解約」ということがかなりの「異常事態」と受け取られるものであるならば、やはり担当責任者たる監査人もなんらかの「情報開示」が要求されてもしかるべきか、とも思います。監査人が「意見をのべることができる」とされている商法や会社法の要件に該当するような事例ではありませんが、やはり「合意解約」は新聞報道されるような事態ですから、義務とまでは申しませんが、投資家のためになんらかのサインがあってもいいのではないかな・・・とも思ったりしております。

>springさん

はじめまして。
問題の前半部分へのご指摘、ありがとうございます。なるほど、かなり具体的な推測ですね。しかし1から5までは、どれも「ヤバイ」ものばっかりですね(笑)あまり個々具体的な問題に突っ込んでしまいますと法人の信用毀損問題になって、このブログが「ヤバイ」ことになってしまいそうなんで、一般論として拝読させていただきました。。。ハイ。。
しかしよく考えてみますと、もし(一般論として)springさんがご指摘の状況があったとするならば、これは監査法人側からみた場合、リリースすることは単なる「守秘義務」の問題を飛び越えて、「法人の信用毀損」になってしまいかねない、という問題も出てきてしまいそうですね。
「意見は出せない」「これ以上無理を言われるならば辞任します」という流れも、ありそうですが、今後会計監査人の「不正報告義務」が会社法上で問題になるところと関連するかもしれませんね。(この個別事案が、ということではなく、一般的な問題として、ということで)

投稿: toshi | 2006年4月 8日 (土) 22時48分

toshiさん
お久しぶりです(toshiさんのオフィスの前はよく通るのですが・・・)。
私もこの件につき、思うところがいくつかあり、TBさせて頂きました。
見解の相違で監査契約が解消されるって事が過去にも何度かありましたが、引き受ける方は勇気がいるでしょうね。こういうケースの場合、前任会計士の主張が正しいように思いますし。

投稿: ligaya | 2006年4月 9日 (日) 15時41分

>ligayaさん

こちらこそご無沙汰しております。TBありがとうございました。疑問に詳細にご回答いただき、いろんな点で納得しました。(感想は、そちらのエントリーに付記いたしました)
弁護士も前任者を受けて事件中途から担当するケースもありますが、やはり顧客との信頼関係維持や、前任者との事務引継ぎはやりにくいですよ。
「どうしても・・・」というケース以外は、私はあまりやりたがらないほうです。

投稿: toshi | 2006年4月10日 (月) 02時19分

皆様、私ごとき若輩者のコメントにレスありがとうございました。

私の投稿は、監査法人担当の取締役が社長に職務をはずされて、社長が代表社員、私が、社員の説得を担当した時の実体験からの話です。

私は、粉飾の事実は知ってましたが、(なの、会計情報はすべて見れる立場でしたから、一発でわかります)勝手にその取締役たちが密室で行っていたこと、責任を問われても困りますが・・・。

監査法人の監査辞退は、辞退という形を取ることで、万一、他の監査法人が検査して、適法だった場合の、訴訟リスクに備えること、「適正」をださない監査法人となると営業上の問題があることから辞退という形を取るとのことでした。

私、個人は法律のど素人なので、ここで投稿するのはおこがましいのですが「不適正」をだすのも監査法人の社会的使命なのではと思い、また、会社側からの契約解除については守秘義務を超えて、監査法人としての見解を述べることができるようにしなければ、いつまでたってもいたちごっこのような気がします。

>法人の信用毀損問題

については配慮が足りませんでした。
お詫びします。
問題あるようでしたら、削除していただいて、かまいません。

今後とも、勉強させてください。

投稿: spring | 2006年4月11日 (火) 08時51分

山口先生
ちょっとこの部分の議論のコメントをさせていただきます。(以前書き込みをしようとしていたのですが、途中で消えてしまい、その後少し時間があいてしまいました)
1 法人の信用毀損について、刑事の問題とすれば、刑法233条では虚偽の風説、偽計が必要ではないでしょうか。加害目的であれば、問題となるでしょうが、監査を担当していた監査法人が、辞任の理由を開示することが直ちに信用毀損になるとすれば、却って問題の放置につながりそうですが、どうでしょうか。
2 守秘義務については、監査法人等は公認会計士法27条が規定していますが、正当な理由なく、その業務上取り扱つたことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならない、とされています。
3 会社法では、辞任した会計監査人は辞任の理由について辞任後最初の株主総会で意見を述べることができるとの規定がありますよね(345条5項)、そして取締役はそのような会計監査人に対して、株主総会の招集について通知しなければならない(345条3項、5項)ですね。
監査法人として、辞任の内容を公表しないということも一つのあり方かもしれませんが、公表しようと思えばできるし、株主総会に出席してその内容を明らかにすることが、場合によっては、必要なことがあるのではないか、と考えますが、いかがでしょうか。
最後に、守秘義務契約があるとして、辞任の理由を株主総会で開示したときに、守秘義務違反になるのでしょうか。どのような意見の相違であるか、またそれぞれ正当な根拠がある場合か、開示の目的はどうか、ということを考慮しなければならず、正当な行為といえるだけの状況・主観的意図などが必要でしょうけれども、直ちに守秘義務違反なのでしょうか。開示の範囲が広すぎると問題となる余地があるかもしれませんが、仮に違法行為に相当する場合にも、その辞任に関連する会計処理について、口を閉ざさなければならないのでしょうか。契約の相手方は会社であり、会社の利益という観点で、仮に会計処理がおかしければ、経営陣の意見とは別の意見が示されることことそが、株主としても必要なのではないか、と考えたのですが。いかでしょうか。いろいろな場面で関連する論点があるでしょうから、議論の材料として、もう少し検討する余地があるという指摘をさせていただきました。

投稿: 辰のお年ご | 2006年4月15日 (土) 12時48分

>辰のお年ごさん

最後にご指摘いただいた点につきましては、たしかに議論をもうすこし詰めたほうがいいですね。とりわけ会計監査人が会社の機関となる会社法のもとにおきましては、情報の開示と公認会計士の守秘義務との関係が問題となる場面というのも想定されるかもしれません。カネボウ粉飾事件のときに、いろいろと議論されましたように、これからの企業と会計監査人との関係が変わっていくのであれば、また問題の前提が変わってくるかもしれませんが。
違法行為に相当するような場面ということでしたら、私は株主への説明責任を尽くすためにも守秘義務を負った事案につきましても開示の必要はあろうかと思います。単なる意見の相違というのではなく、不正発見に絡むような問題であれば、適時開示ということまで踏み込むべきではないでしょうか。
私は刑事問題としてではなく、民事責任問題として「信用毀損」といった用語を用いたつもりでしたが、それこそ一般投資家に発信することに重要な社会的利益が含まれているような場合であれば、開示の要請が強まり、守秘義務違反、信用毀損による権利侵害といったリスクは低減されてくるものと考えております。

投稿: toshi | 2006年4月17日 (月) 00時21分

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