株主代表訴訟の改正点(1)
きょうは朝から京都地裁で裁判のため相当疲れておりまして、問題点だけを留めておきまして、また明日にでも続きをエントリーしたいと考えております。(ということで備忘録程度のものです)株主代表訴訟(責任追及等の訴え 会社法847条1項)の改正点の目玉として、監査役による不提訴理由通知制度というものがあります。(同条4項)この5月以降、株主から会社に対する訴訟提起の請求が監査役に届いた場合、新会社法の適用によって監査役(それぞれ)は、この請求による対象取締役に対して訴訟を提起するか、それとも不提訴の理由を通知して、訴えを提起しないものとするか、きちんと判断をしなければなりません。(経過措置政令16条)自分が社外監査役なもんで、ときどき監査役としての「危機管理」を想定しているわけですが、とりあえず株主から取締役に対する責任追及等の提起請求がなされた場合、その責任追及等請求のあった日から60日以内に不提訴とする理由を株主に通知する必要があります。その理由といいますのは、会社法施行規則218条によりますと、株式会社が行った調査内容、請求対象となっている者の責任または義務の有無についての判断、そして請求に理由があるにもかかわらず提訴しない場合にはその理由などと記載することとなっております。
会社法では取締役の責任(対会社に対する善管注意義務違反など)は原則として過失責任となっているわけでして、もし監査役が不提訴の理由を述べなければいけないとしたら、その「過失」の評価をしなければいけないケースも出てこようかと思います。(もちろん過失責任の立証責任が転換していると認められる事例の場合には、それほど苦労はしませんが)そこで当然のことながら、取締役に責任が認められるかどうかを判断するために、訴え提起を求めている株主の主張内容が「対象取締役に過失ありと評価するに値するほどのものかどうか」を精査する必要が出てきます。そこで、以下のような「監査役としての疑問」が出てきます。ひとつは監査役は株主の提訴請求の根拠となっている主張だけを判断すればいいのか、それとも主張構成にとらわれずに、責任が認められそうな他の根拠事実まで広く取締役の責任を判断すべきなのか、ふたつめに、株主が主張している請求原因が不十分だと認識した場合、主張内容を整理して当職の質問に回答するよう株主に求めてもいいものかどうか、もし求めてもいいとした場合に、先の60日間というのは、その株主からの回答がないような場合でも伸長はされないのか、そして三つ目ですが、もし株主側に十分な釈明回答がない場合、その事実を対象取締役を被告とする株主代表訴訟における、担保提供命令の申立に利用してもいいのかどうか、といったことです。(とりあえず問題点の指摘のみにとどめ、私見はまたその2で述べさせていただきます)こういった監査役からみた不提訴理由通知制度のあり方というものは、すでにどっかで解説されているのかもしれませんが、ちょっと私なりに述べさせていただきました。
| 固定リンク
コメント
>請求のあった日から60日以内に不提訴とする
>理由を株主に通知する必要があります。
提訴するという可能性もありますよね。
実際、本来株主からの請求を待たずとも、監査役は取締役に責任原因があればその追及をなすべき義務がありますよね。
で、株主が請求をしてくるというのはおそらく会社に損害が発生している局面でしょうから、監査役としては、請求が来る以前に当該損失の帰責について結論を出していないといけないわけですよね。その意味では請求が繰るような場合においては、不提訴として理由を通知するのが通例なのでしょうね。
ま、株主の主張内容によっては判断をやり直す(もう一度事案を洗いなおす)必要も出てこないとも限らないわけですが。
投稿: とーりすがり | 2006年4月18日 (火) 16時19分
>とーりすがりさん
もちろん、責任追及の訴え提起の請求に対して、会社を代表して取締役を提訴する、という選択も考えられます。ただ、監査対象の範囲とも関係しますが、取締役の行動に対する監査役としての対応は違法行為差止や辞任要求、あるいは株主への説明や監査役会を招集して他の監査役と協議をするなど、いろんな選択肢がありそうです。したがって、損害が発生したから直ちに訴訟における立証方法の吟味をせよ、とまでいえるかどうかは微妙なところではないでしょうか。また提訴しないといった結論については会社の勝訴見込みとは別に、訴訟となって会社資産が公開されたことによる損害発生のリスクなども検討しておかなければならないように思われます。
投稿: toshi | 2006年4月19日 (水) 02時09分
素人の目からしますと、会社に発生した損害はいったいどこにチャージされるのだろうか?といった疑問が常にあります。
もちろん責任も様々ありますし、その処し方も様々ですが、たとえば役員が報酬を返上するとか辞任したからといって会社に生じた巨額の損失が填補されるわけではありませんし、その損失は結局会社(ひいては株主)が負担することになります。
また、最後に書かれた点に関してですが、責任追及訴訟をすることが真に会社の利益にならない場合もある、そのような場合には一つの経営判断として訴訟しないという選択も有り得るというような主張も見かけます。確かにそのような場合もあるのかもしれませんが(役員の資力の問題とか)、そのような場合であっても不提訴の理由をきちんと開示して、株主の理解を得ないといけないということになるのでしょうね。
投稿: とーりすがり | 2006年4月19日 (水) 14時32分
弁護士のM・Eです。ただ今福岡から最終便で戻ってきました。山口先生のブログにここ何回かコメントさせていただいているうちに、コメントする以上、自分なりに意見をまとめなければならない、そのためには勉強しなければならないなというモチベーションが生じたことに気づきました。なるべく関心のある分野についてコメントさせていただきたいと考えるようになりましたので今後はときどきコメントさせていただきたいと思います(山口先生。先生のブログをお借りしての発言となりますが、お付き合いさせてください)。
さて、今回は自分なりの考えがまとまっているわけではありませんが、非常に面白い問題提起をしていただいたので思わずコメントさせていただきました。不提訴理由通知書についての山口先生の問題提起については,(おそらく実務上はそれほど深刻な問題にはならないのではないかと考えておりますが)、理論的には非常に面白い問題ですね。
代表訴訟を提起しようと考えておられる株主に対するアカウンタビリティを業務執行の監督を担う監査役の側で何処まで尽くすのかということが基本的なスタンスであることはおそらく異論はないと思われますが、監査役としてどこまで調査して回答すべきなのか、内部監査室とどこまで連携すべきなのか、取締役に対するヒアリング等についてどこまで行い、株主に対して積極的な説明を尽くすことも重要な視点であり、積極的に対応することこそが究極的にはCSRに資することになり、IR上も有益である、従って、積極的に取り組むべきではないかという考えもあり得ると思います。
更に、代表訴訟が提起されることを想定した場合、経営者側の視点にたって、不提訴理由通知書を通じて経営者の責任を追及することが困難であるということを監査役の側で真摯に検討して具体的な事情を進んで開示することにより、その後、仮に取締役等を被告として代表訴訟が提起された場合に、取締役の責任追求が困難であるのではないかという印象を裁判所に抱かせ、取締役の免責に資するという機能を果たすことも期待できるのではないか、その意味で、経営者側から積極的に理由するインセンティブを付与しうるのではないかという観点が考えられると思われます。
しかし、他方、そうはいっても、会社側としては、レピュテーションリスクを招来するような事態を避けたいので詳細な説明は回避したいと考えることも自然のように思われます。
一般的な感想にとどまり恐縮ですが、山口先生の説を拝聴下上で、今週末あるいは来週に改めてエントリーさせていただきます。会社法施行規則100条1項3号についても非常に楽しい議論になっており、じっくり考えたいと思います。
山口先生同様、私も今週はハードなため、週末にいろいろ考えたいと思います。
投稿: M・E | 2006年4月20日 (木) 01時19分