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2006年4月10日 (月)

TOB規制と新会社法との関係

商事法務の4月5日号(1763号)は、なかなか読み応えのある記事が目白押しで、たいそうおもしろいですね。会社法に基づく内部統制実務にも影響を与える「会社法施行規則の訂正省令」(非訟事件手続法による財産管理の報告および計算に関する書類並びに財産目録の謄本又は株主表の抄本の交付に関する手数料の件の廃止等をする省令)が掲載されておりますので、これ最新の「内部統制解説本」の「事業報告書への体制整備事項の記載方法」に関する解説を読むときには注意が必要ですね。(まぁ、本年度の営業報告書では関係ありませんが、株主総会での取締役の説明内容には若干影響があるかもしれません)そのほかにも、注目度の高い田中亘助教授(成蹊大学法学部)が、「利益相反取引と取締役の責任」という新会社法上の解釈論点について、直球ストレートで真っ向勝負するような論稿が掲載されておりまして、今後の大きな話題になるんじゃないでしょうか。(私もこの「任務懈怠」と善管注意義務違反認定との関係、新会社法における利益相反取引を行った取締役の無過失責任という説明との整合性については、以前から疑問に思っておりました。立法論としてではなく、新会社法の解釈問題として論じていらっしゃるところは今後の展開に大いに期待しております)

そんななか、一番おもしろかったのが最終ページの「スクランブル」に掲載されている「公開買付規制に関する証取法の改正」という小論です。このたびの証券取引法の改正については、公開買付規制の適用範囲の明確化と全部買付義務化に関する規制は、これまでの証券取引法の領域を一歩踏み出したものであり、いわゆる「証券取引法による会社法への実質的優越」を認めたものであって、わが国法体系を根幹から揺るがす一大変革になっている、との認識です。新規発行を含めた株式取得による株券等所有割合が6か月以内に三分の一を超えるような場合も公開買付によらねばならない(27条の2)と改正されますと、実質的には公開買付規制によって会社法の割当自由原則に制限を加えることになりますし、また株券所有割合が一定以上になる場合の全部買取義務を明文化することは、圧倒的多数者の支配下における少数株主の保護という会社法の問題点を先取りしたものである、といった解説がなされております。民法と商法のように、もともと私人間における利害調整のための法律といった「制度趣旨の合致」がみられれば「一般法と特別法」という体系にすぎないのではないか、とも思えるのですが、商法と証券取引法は、それぞれ別の立法目的があるために単純に一般法特別法という関係を認めることはできないでしょうし、作者の方と同様の疑問といいますか、問題意識というものにつきましては、私も共感できるところです。昨年11月16日のエントリー(商法と証券取引法とが逆転?)でも論じましたが、これから証券取引法がいわゆる「公開会社法」たる役割を担うようになってきて、たとえば会社法の条文解釈の際にも、先の改正条文などから「多数株主に対する少数株主保護の要請」といった「会社法の解釈指針」を導き出すことが可能となるならば、会社法を議論するにあたっての発想の転換を迫られる事態にもなりかねません。昨年のエントリーの際、neon98さんからコメントをいただいたように、(アメリカの州会社法と連邦証取法の関係のように)会社法が規制していない部分を証取法がカバーするといった手法であればそれほど大騒ぎすることもないでしょうが、先の株式割当自由とか、多数株主による権利行使と少数株主保護、といった問題につきましては、会社法が何も規制していない、といった領域ではないと思います。そうしますと、双方の法律の規制態度が異なる場合に、もし証取法が会社法に優先するのであれば、公開会社の利害調整に関する民事紛争を会社法を基準として裁判所で判断する道が狭くなってしまうことにはならないでしょうか。もし、こういった認識が私の誤解によるものであれば杞憂にしかすぎませんが、もし正しい認識だとするならば、今後金融庁企業会計審議会から発表されるような内部統制報告書実務のための指針が取締役の善管注意義務の範囲を決めてしまったり、公正なる会計慣行としての会計基準委員会が発表する運用基準が、そのまま計算法規と評価されてしまったりするケースも出てくるように思います。

公開企業をとりまく利害関係者の利益調整に関する「法のあり方」については、一度よく検討すべき問題だと思いますし、もし企業会計法や証券取引法の運用自体が会社法の解釈に影響を与えることが多くなるのであれば、それは今後の会社法の学び方にも大きな変革を迫るものになってしまうのではないか、と思い悩んだりしております。株式会社の法律問題については、裁判所を通じて個々具体的な事案ごとに漸次的に検討されるべきであり、裁判所の判決を通じて政策形成がなされるべきである、といった考え方を重視したのは、私が法曹であるがゆえの自分勝手な立場からなのでしょうか。

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コメント

これらTOB規制に関する議論は、カネボウの株主にとっては少し遅すぎた、というところでしょうか。
カネボウ問題について時系列でまとめたのですが、もしよろしければ是非ごらん下さい。
このような事例はなかなかお目にかかれることは無いのではと思います。
http://kanebo.seesaa.net/article/16363367.html

投稿: カネボウ株主 | 2006年4月10日 (月) 15時41分

>カネボウ株主さん

こんにちは。
紹介いただいたエントリーは拝読させていただきました。すごい資料ですね。これだけでも本当にプリントアウトして保存しておけば、かなり貴重な資料になるように思います。
従前のエントリーでも書きましたが、この問題は支配権プレミアムとか、47thさんのおっしゃっていた再生プレミアムとは何か、という点、そして花王も含めて、当初産業再生機構がカネボウ化粧品を含めて購入した経緯など、いろいろと検討しておく必要があろうかと思い、少しずつですが参考となる書物などを読んでおります。このTOB規制の議論とは直接関係はないと思いますし、問題が表面化するときも来るのではないか、とは思っております。続編については、また公平な立場で書きたいと思っておりますので、またその節はご意見をお願いいたします。

投稿: toshi | 2006年4月11日 (火) 02時52分

ありがとうございます。興味を持っていただけただけでも幸いです。

TOB規制についてですが、
カネボウ株の総議決権の3分の1以上の相対での種類株売買については、
種類株の株主が少数であって、種類株だけを対象とした買取であるから、ということになるのでしょうか?
法の趣旨は、総議決権の3分の1を超えるような支配権の移動によって少数株主が犠牲になることのないようにとのことだと思うのですが、このような手法を黙認していては今後も悪用されてしまいますよね。
しかもこれを、半ば公的機関である再生機構が相手方であるというのであるから更に問題だと思います。

投稿: カネボウ株主 | 2006年4月11日 (火) 03時11分

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