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2006年4月12日 (水)

課徴金の減額とコンプライアンス

3月30日に開催されました独禁法基本問題懇談会(第10回)の議事概要によりますと、課徴金と企業コンプライアンスに関する各委員の意見がいくつか掲載されておりまして、いろんなご意見があることがわかります。(ちなみに、この独占禁止法基本問題懇談会の趣旨についてはこちらです)

1 企業のコンプライアンス体制の整備を条件に課徴金を減額するような制度とし、社内的な徹底を後押しできるような仕組みとしてはどうか。

  私も同感です。これ、もっとも私の意見に近いものです。

2 課徴金の減額要素として、企業のコンプライアンス体制を考慮するのであれば、とおり一遍のものでは意味がなく、細かく見ていく必要があるが、それは困難である。

  課徴金減額システムをコンプライアンス体制と関連付けるときにもっとも問題となるのがこの指摘された点だと思います。おっしゃるとおりとおり一遍のものでは意味がないと私も思います。ただ、課徴金賦課の前提として、「あるべき体制」作りへの基準のようなものを策定して、アメリカの連邦量刑ガイドラインのように、一定の基準に到達しているような体制を構築しているものであれば減額の対象とする、といったことにすれば、(たしかに困難な部分もありますが)制度として運用は可能ではないでしょうか。

3 コンプライアンス体制が整備されていれば、そもそも違反行為は生じないのではないか

 「人間の組織」に関わる体制である以上、どんなに立派な体制が整備されても、違反行為が100%発生しない、といったことはありえないと思います。内部統制システムに限界があることは通説ですし、違反行為が発生したときに、社会的な被害を最小限度に食い止める体制自体もコンプライアンスの役割ですから、このご意見は企業コンプライアンスを議論する前提を欠いているものと思います。

4 課徴金減免制度において、今後コンプライアンス体制を整備することを減免適用の条件としてはどうか。他方、違反行為時にコンプライアンス体制が整備されていたことを理由に課徴金を減額することには反対である。

 刑事裁判におきましては、被告人が法廷で「二度と同じ過ちを繰り返しません」と宣誓することで、ある程度反省している姿が見受けられるとして刑の量刑が減軽されることも考えられます。しかしこれを法人への課徴金賦課システムに応用したとしましても、「ばれなければやったもん勝ち」の風潮を助長するだけであって、なんら企業コンプライアンス体制を企業が導入するインセンティブにはなりえないものでしょう。また、それこそ体制整備をしたかどうか、の判断は(なんらの基準もない場合には)極めて難しいはずです。

5 コンプライアンス体制の整備以前の問題として、繰り返し違反行為を行う事業者が多いので、確定排除措置命令違反に対する刑罰を重くし、再犯を防止すべきである。

このご意見はそもそも課徴金制度は企業コンプライアンスとは無関係であって、インセンティブを考えるにあたっては、課徴金減免制度よりも一般刑事罰の重罰化によってコンプライアンス体制の充実を図るべき、とのことであります。ちなみに、今回の独禁法改正によって、こういった確定排除措置命令違反行為への処罰の加重はすでに施行されております。課徴金制度というものにあまり期待を寄せない立場であれば、これも企業コンプライアンス体制の充実に影響を与える考え方だと思います。しかしながら、この意見も一度違反行為を行った企業にとっては(量刑の基準が明確にされているような場合であれば)有効かもしれませんが、違反行為を犯したことのない企業にとりましては、普段の不祥事防止への取り組みが有効に評価されないために、あまり効果は期待できないのではないでしょうか。

以前このブログにおきましても、イーホームズ(耐震強度偽装事件における建築確認の審査権限を有する会社)の事件公表に一定の評価をすべきかどうか、いろいろと議論がありましたが、実証的な研究が難しい分野であるだけに、こういった独禁法の場面などにみられるとおり、議論される場が広がればいいですね。

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