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2006年4月 1日 (土)

法人処罰の実効性を考える

やっとココログも平常運転に戻りつつあるようでして、コメントもストレスなく、つけていただけるようになったようです。さなえさん をはじめ、メールでご意見を頂戴しておりました方々、ご不自由をおかけしました。とりわけ、「カネボウTOB問題」につきましては、「一般株主の会」の方々や、証券取引法、M&Aに精通された法曹実務家の方のご意見なども頂戴しておりまして、きちんとお礼もしておりませんので心苦しいかぎりです。ご覧のとおり、私はブログという性格上、できるだけ公平な(というか冷静なというか)立場から、自分の能力の及ぶ範囲において意見を書かせていただきましたが、ブログの最後のところで疑問を呈しておりました「支配権プレミアムの考え方が、再生処理案件にも及ぶのかどうか」といった点につきまして、「ふぉーりんあとにーの憂鬱」(47thさんのブログ)が(個別案件とは離れたものとして)解説されていらっしゃいますので、そちらを一度十分に拝読させていただいたうえで、また続きを書かせていただこうかと思っております。

いつも、こうやってどなたかにフォローしていただいているのが私のブログの悪いところ(先日、ある方に「あなたのブログはおもしろんだけど「起承転結」の「結」がない、とご指摘いただきました・・・)なのかもしれませんが、またまた新聞報道などと読んでおりまして気になりましたのが、今日の本題である「法人処罰の実効性の問題」であります。企業不祥事の防止ということが、いろいろなところで叫ばれ、またその対応策に四苦八苦している官公庁も多いようですが、目立ったところでは独占禁止法の改正による「自主申告によるリーニエンシー制度」がいきなり機能したとされる「水門工事」事件、ライブドア法人起訴による両罰規定適用問題、そして今朝の新聞では、粉飾決算時における監査法人の刑罰適用問題が掲載されております。こういった法人処罰(ここでは刑事罰だけでなく、課徴金賦課のような行政処分も含む意味で考えております)規定を設けることが、果たして企業不祥事防止につながるのかどうか、といった素朴な疑問であります。

たとえば自然人の場合、刑事罰を受けますと、多くの事件について「執行猶予」が付くわけです。そして、再度悪いことをすれば、今度は「実刑で刑務所行き」が確実、ということでその刑事処罰の運用自体が犯罪者の再犯を防止する重要な機能を果たしているわけです。しかしながら、法人処罰の場合は、純粋な応報主義といいますか、「犯したことに対して正当な罰を受けてしかるべきである」ということだけを満足させればいいのでしょうかね?たとえば上の事例におきましても、罰則の内容というのは、罰金や課徴金の賦課ということでして、「解散命令」のような処分はよほどのことなない限りは罰則の内容にはならないと断言できそうです。よく従業員の犯罪行為が発覚した後に、企業トップが「今後二度とこのような不祥事が起きぬよう、コンプライアンス体制を徹底し・・・」とリリースをしておりますが、こういった賦課処分による法人処罰は、「なんか不祥事が発覚したら、その都度お金を払えば(もしくは、営業を30日間停止してしまえば)解決済み」という思想につながってしまい、本当に再犯を防止するだけの抑止力があるかどうかは、極めて疑問があります。むしろ、企業としても、「従業員の犯罪」というリスク管理の問題として捉えてしまえばいいわけでして、(年間100の売上があるとして、売上向上のためにはやむをえないところの「年間1件の不祥事」があって、5を損失と考えて、差し引き95を予想しておく、とか)自然人への刑罰適用とは、その運用面において大きな差があるように思えてなりません。

さらにレピュテーションの問題ということもあります。法人が課徴金を賦課されたり、罰金処分を受けた場合、その企業はそれでけで社会から受け入れられなくなるんでしょうか。そういった面において日本は寛容であり、おそらくほとんど影響はないと思います。有名人が覚せい剤や破廉恥罪で逮捕され、有罪になったことは記憶していても、過去5年の間に多大な罰則を受けた企業というものをどれだけ記憶しているでしょうか。もし記憶しているとすれば、それは法人の犯行、ということよりも「犯行を隠蔽しようとした」とか「犯行発覚後の社長の対応がまずかった」という犯行後の問題をマスコミから指摘されたケースがほとんどではないでしょうか。こういったことを考えておりますと、企業不祥事防止のための法人処罰の実効性というのは、刑罰規定をもうけるだけでは、ほとんど機能しないのではないか、と思います。

以前、「東証のシステム障害」のエントリーのときにも書かせていただきましたが、企業不祥事、とりわけ従業員や経営陣の不祥事はかならず起きる、内部統制には限界がある、という前提で議論すべきではないでしょうか。そしてもちろん法人処罰の必要性はあるわけでしょうから、罰則をもうけることは不可欠でしょうが、その際には企業の日常の不祥事防止システムの設置状況や、その運用状況などを考慮して、ある程度明確な基準を設けて量刑や課徴金判断を検討すべきではないでしょうか。また、業界団体の登録や、官公庁の入札指名基準などの運用についても、一回目は大目にみるけれども、刑罰適用後5年以内に、また罰則を賦課された場合には、永久に登録や指名からはずされる、といった厳しい規則を自主的に策定する、といったことも検討しておかないと、個々の企業が本当に不祥事を防止することを考えているのかなぁ、ポーズだけとちがうのかなぁと、そろそろ一般の国民も不信感を抱き始めるのではないでしょうか。

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コメント

NYUでは、Business Crimeという授業があって、そこでは法人処罰に対する議論がかなりディープになされたようです(伝聞ですが^^;)
私の知っている範囲では、絶対的な意味での金額レベルを上げるのもさることながら、量刑ガイドラインの中でコンプライアンス体制が整備されている場合に処罰を軽減するという形でインセンティブ付けを行っており、そうした形で用いることができれば法人処罰も有用なんじゃないかと思っているんですが、どうなんでしょうねぇ。

投稿: 47th | 2006年4月 1日 (土) 15時52分

Business Crimeですか。私の関心分野としては、非常におもしろそうですね。あまり無機質なものではなくて、心理学とか行動倫理とか、そういった「熱い」部分にも関わる科目でしたら是非聴講してみたいですね。
昨年11月5日にエントリーしました「証券取引所を通じた企業統治」のなかで、Corporate Provationについていろいろと考えてみたのですが、私も連邦量刑ガイドラインの実効性が日本でも通用すると思っています。(実際、日本でもすでに東京地裁や大阪地裁の脱税専門刑事部などではこういった考えを採用しているものと思います)ただ、上場廃止といったある意味で自主規制のなかで「廃止猶予」とか「保護観察」のような制度が前提として成り立つならば、もっと法人処罰の効用も高まるのではないだろうか、と期待はしているのですが、そのあたりは日本でも通用する制度なのかどうかは、まだ自信がありません。

投稿: toshi | 2006年4月 1日 (土) 16時35分

これまた伝聞ですが、アメリカでは法人の自由刑(一定期間会社のコントロールが株主から奪われる?)というサンクションもあるような話も聞いたので、そうしたものと組み合わせると確かに執行猶予や保護観察みたいな運用もありそうですね。

投稿: 47th | 2006年4月 2日 (日) 01時06分

はじめまして、カネボウ株主の者です。
ブログでカネボウ問題を訴えております。
カネボウの問題について議論されているのを知り、コメントさせていただきました。

私のブログの4月2日のところに、TOBの前段階における私の考える問題点をつたない説明ですが書いております。
産業再生機構が2社(カネボウ・カネボウ化粧品)を同時に売却し、それを2社(ファンド・花王)が共同して購入するという変なケースであるからこそ起こりうる、今まであまりなかったであろう事例だと思います。
もしよろしければ、ぜひご覧下さい。

カネボウ株主は、素人同士のネットでの呼びかけだけでたったの2週間で約400万株、損害額にして推定10億円以上の株主が集まるほどに怒っており、世間にこれを知って欲しいのです。
お許しください。

投稿: カネボウ株主 | 2006年4月 2日 (日) 04時31分

また、それだけでなく、
産業活力再生特別措置法を悪用したスクイーズアウトをちらつかせて、更には応募しないと、将来TOB価格より下回る価格となるのは確実であるかのような脅迫まがいの文面のTOB公告でした。
そして、金融庁の指導によって出されたとも聞く異例の公告訂正があり、前回の公告に虚偽があったこと、そして価格算定根拠があらゆる最悪の条件を積み重ねた都合のいいものであったことが明らかになっています。
しかも最初の公告文が郵送されたのに対し、公告の訂正については周知されず、これに気づかず応募した人も多いという現状です。

この二つのTOB公告を見るだけでも、あまりの手口の酷さに驚かれると思います。
私が見てきた限りでは史上最低のTOBです。
よろしければ、ぜひご覧下さい。カネボウのホームページに載っております。

投稿: カネボウ株主 | 2006年4月 2日 (日) 04時51分

>カネボウ株主さん

一般株主の方々の盛り上がりはすごいと思います。私はエントリーにも書きましたが、M&Aや証券取引法関連の専門家ではありません。ただ、自分の社外役員としての職業的関心から、こういった企業価値に関連する事件にアンテナを張っております。そういった意味で専門家的な見識を披露することはできませんので、そのあたりお含みください。
おそらくダイエー問題とも絡めて、なかなか現段階ではマスコミもツッコミにくいのではないか、と思います。そのあたりはお察しのとおりかと。
先日のPSEの問題もそうでしたが、純法律的にみるならば「どうかなぁ」と思う問題も、予想外の社会的反響によってスキームが変わってくる、といった事態も考えられますし、問題点を広く伝え、いろんな立場の方々と議論することは意味があるものと思っております。そういった意味では、47thさんが指摘しておられる問題点につきましても、私も真摯に検討してみたいと考えております。

投稿: toshi | 2006年4月 3日 (月) 02時39分

私が個人的に関心を持っているのは、会社が課徴金なり罰金を課せられた場合に、その支出が最終的に役員らにチャージされることの是非、です、
これについてはたとえば上村達男「取締役が対会社責任を負う場合における損害賠償の範囲」商事1600号(2002)でも触れられております。

法人に下された巨額の罰金がそのまま取締役にチャージされることについて上記論文は否定的ですが、私は仕方のないことだと思いますね。

この点、両罰規定の是非とか、おっしゃられるような法人処罰の効果も問題となるとは思います。個人的には、損害賠償や利益の吐き出し以外は、法人に罰金を課すよりも、その役員に自由刑を積極的に課すべきだと思いますが、経済界は反対するでしょうね。

まとまりなくてすみません。

投稿: とーりすがり | 2006年4月 3日 (月) 07時04分

お返事ありがとうございます。盛り上がっているということだけでもご理解いただけたら幸いです。
TOBについては、70%超の議決権を取得するのに、何故TOBに拠らずに相対で出来るのか、種類株だからと言われても、この点も証取法を見ても素人には疑問に思ってしまいます。

カネボウには無数の被害者がいますし、弁護団が出来るだけでもマスコミから注目を浴びる社会性のある問題で、そして50人からなる弁護団が出来ているライブドアと比べても株主の帰責性は無く、弁護士の方から見てもおもしろい?事例だと思うのですが。
もし興味を持って頂いた法曹の方などおりましたら、是非お力をお貸し下さい。

投稿: カネボウ株主 | 2006年4月 3日 (月) 21時12分

>とーりすがりさん

おひさしぶりです。最近コメントいただけなかったので、ちょっと寂しかったです(笑)
いつも有益な情報をありがとうございます。商事法務1600号、弁護士会の図書館で閲覧してみたいと思います。
もし役員個人に責任が及ぶということになりますと、「企業法務と刑事弁護」という分野で食べていく弁護士(法律事務所)が増えそうですね。あっそのまえに取締役になる人がいなくなってしまうかもしれませんね。

投稿: toshi | 2006年4月 4日 (火) 13時43分

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