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2006年5月16日 (火)

行政法専門弁護士待望論

私は「行政法」を選択科目として司法試験を受験しましたが、ここ数年、受験生の負担軽減ということを理由に行政法が試験科目から廃止されておりました。(新司法試験においては公法系ということで、すこしだけ復活したようですが・・・)戦後の司法試験では、商法と行政法のいずれか選択、という時代もありましたので、本当は法曹にとってたいへん重要な法律学のひとつだと思っております。ここ数日、中央青山監査法人の行政処分(一部業務停止)といった大きな事件を中心にエントリーを書いておりましたが、こういった企業社会に影響を与える行政処分といったものの正当性を担保するためには、行政法に強い弁護士というのも社会の要請として必要ではないかなぁ・・・・と考えたりしております。

もちろん、公害関連の国賠事件を多数手がけていらっしゃる弁護士とか、環境問題の取消訴訟や不服審査手続をライフワークとして頑張っていらっしゃる方も多いとは思いますが、ご推察のとおり、ある思想とか信念に基づいて原告団長をやるとか、集団訴訟をとりまとめる、といった高尚なことを考えているものではございません。このたびの監査法人に対する行政処分のように、企業活動に多大な影響を与える行政処分の適正性や、その根拠となる政令や自主規制ガイドラインの是非などを、法律を根拠に当該行政庁と交渉のできる法律家という意味であります。東京の大手法律事務所の著名な先生が、昨年の夢真事件の際に政令の解釈問題を直談判したことなどもこれに該当すると思いますし、独禁法や税務に関しても、ときどき活躍される先生方がいらっしゃるようです。

ただ、こういった行政法に強い弁護士が育たなかったのは、クライアントと行政との関係から由来しているものだったと考えられます。いくら弁護士が「これは行政の解釈が間違っているから、ぜひとも闘いましょう」と慫慂しましても、お上にたてついて、「江戸の仇を長崎で討たれる」のではかなわない、といった風潮が強いために、結局のところ泣き寝入りを余儀なくされるといったことが多かったように思います。しかしながら、最近の耐震強度偽装事件やPSE問題の発生原因でもありますように、事前規制から事後規制(大きな政府から小さな政府)へと時代の流れが変わってきますと、企業を取り巻く「お上の規制」も廃止され、もっぱら規制撤廃のリスクは企業の自己責任に変わってくるわけでして、行政に反抗することによる「仕返し」的規制概念が今後も次第に少なくなってくることが予想されます。そうなりますと、行政処分の違法性、行政裁量の妥当性などを、企業が真正面から取り上げるインセンティブも生まれてくるわけでして、そこに「カラダを張って」企業を違法・不当な行政処分から守る弁護士の職責といったものもクローズアップされる時代が来るのではないかと思います。ただ、なんでもかんでも、訴訟に持ち込むといった対応では、そのぶん企業もリーガルリスクを背負い込むことになってしまって、あまり得策とはいえないでしょうから、「比例原則」「平等原則」「適正手続」などの諸原則を用いて、行政裁量の範囲で交渉できる能力だったり、自社だけには処分が適用されないための「行政庁側の言い訳」をこちらで考えてあげて、その既成事実をきちんと作り上げる工夫だったりするわけでして、おそらくこういった能力は机上の「行政法」の学問では身に付くことはないと思います。むしろ、任期付き公務員になって政策立案者側に回ったり、処分を下すほうに回ったり、紛争の裁定人の経験を積んだりしたほうが専門的知識を涵養するには得策かもしれません。もちろん、(これまでのエントリーでも何度か紹介しましたが)私のように、たとえ「風俗弁護士」といわれようとも(?)、風俗産業のクライアントの警察行政処分に異議を述べて、「3ヶ月間の営業停止」を「30日間の営業停止」にもっていくような経験を積むことも大切かもしれません。(監査法人とファッション○○○では、ちょっと比較もできませんが)

平成16年以降の改正公認会計士法が適用されるような監査法人の行政処分の指針をみましても、監査法人が処分される懲戒事由および処分の加重・軽減事由はきわめて曖昧なものでして、いくら公認会計士・監査審査会が発足したから客観性が担保されると言いましても、とうてい法の支配が妥当するような運用は期待できないと思われます。私自身、市場の活性化のために刑事罰ではなく、行政処分を多用することはやむをえないものと考えますが、それならばフリーハンドの世界のまま「行政処分」を放置しておくことはなんとしてでも避けるべきでして、そのためにも(とりわけ大型法律事務所におかれまして)行政手続に強い若手弁護士を育成していただきたいものです。

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コメント

toshiさん

4月に初めてこのブログを知りまして、いつも勉強させていただいております。法人の行政処分についての問題意識はいろいろなところから発せられているようです。たとえば今朝の松尾検事総長のように、法人に対する刑事処分を抜本的に見直す、といった構想もあるようです。両罰規定や、罪刑法定主義があたりまえのものではなくなってしまうのではないでしょうか。
行政法専門ということだけでなく、法人全般に関わる事後規制対策を専門にされる先生が登場することに期待をしております。

投稿: unknown | 2006年5月16日 (火) 10時30分

>unknownさん

はじめまして。コメントありがとうございます。
私も新聞記事、読みました。法人の処罰のあり方を検討していく、ということのようです。包括規定で対応していかなければならない領域の問題でしょうから、どうしても経済活動の自由を制約することになりそうで、私はたとえ法人が対象であったとしても罪刑法定主義との関係は無視できないものと考えております。金融商品取引法案に関する金融財務委員会での議論でも、いろいろな意見が取り交わされていたところです。
おっしゃるとおり、行政だけでなく、こういった市場ルールのあり方について、造詣の深い法曹が今後さらに必要になるのかもしれません。
また、遊びに来てください。
(お返事がおくれまして、申し訳ございません)

投稿: toshi | 2006年5月17日 (水) 11時04分

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