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2006年5月22日 (月)

なぜ「内部統制」はわかりにくいのか(2)

前回のエントリーには、まるさんや、コンプライアンス・プロフェッショナルさんより、たいへん有益なご意見を頂戴しました。(休日にもかかわらず、ありがとうございます。m(_ _)m ~★)「内部統制の議論」と「コーポレートガバナンスの議論」との関係についての私論はまた後ほどということにしまして、「なぜ内部統制の議論はわかりにくいのか」につきまして、ほかの要因についても考えてみたいと思います。

昨年あたりから、日本でも「企業買収」や「M&A」という言葉が当たり前のように使われ、敵対的買収などがさかんに報道された折、日本はアメリカの20年前と同様の事態になっている、とのコメントをよく耳にしました。実際、日本での企業買収実務におきましては、アメリカの判例や企業価値算定方法など、買収実務に参考となる先例が豊富に存在しており、よくわからない問題が発生したときにも、アメリカの先例を参考にしていると、なんとなく日本における問題解決策が読めるようなイメージを持ちました。

ところが、同じように「企業価値」と密接な関係をもつ「内部統制」についてはどうでしょう。アメリカに参考となる先例はあるのでしょうか。「日本版SOX法」・・などと、金融商品取引法(の一部)が呼称されるほどですから、アメリカに本場SOX法があるではないか、COSOフレームワークがあるではないか・・・・と反論されるかもしれません。しかしながら本場のSOX法といっても4年の歴史しかないうえに、まだ70パーセントの上場企業には適用されていません。コントロールシステムを導入することのコストに見合うベネフィットが得られるかどうかについての検証方法(調査方法)すら定まっていないのが現状です。前回のエントリーとも関連しますが、果たして「内部統制」といったものが、「開示強制され、クリア条件を強制される」システムとしたほうがいいのか、それともその企業の特殊性や成長段階に応じて「経営陣が経営管理体制として保有する秘伝、職人芸」のままのほうが株主への利益還元に資するのか、ホンネのところ、よくわからないところがあるんじゃないでしょうか。

なにわともあれ、コーポレートガバナンスの理論と結びついてしまった(とされている)わけですから、我々社外監査役たる立場にある者にとりましても、これを「開示強制され、会計専門家による評価の対象とされ、最低条件をクリアしなければいけない」ものとして検討しなければいけないわけですので、すくなくとも、この日本版SOX法における「内部統制」、会社法における「内部統制」といったものは理解する努力はしなければいけないのが現実の「オトナの対応」なわけであります。

ということで、それでは金融庁会計審議会内部統制部会から公表される「実務指針」を参考にして考えてみようか・・とも思いますが、まだ公表されていませんね。あっそういえば、3月に八田先生からお聞きした話によりますと、5月にアメリカのSECとPCAOBの合同ラウンドテーブルがあるので、そこでの報告や今後の方針などが日本の実務指針の参考になる、とのことのようでした。予定どおり5月初旬と5月10日にラウンドテーブルが開催されたようでして、5月17日、18日ころのSECやPCAOBのリリースによりますと、SOX法の適用が当分の間免除されるのではないか、と推測されていた(全公開企業の)70%にのぼる中小公開企業にも、結局のところSOX法の適用を(2006年12月以降に開始される事業年度より)強制することが決定されたようでして、そのかわり中小公開企業に対する適用基準を柔軟に検討する、とのこと。(ん?ということは実務指針は複雑化するってことでしょうか?)また、これまで適用が強制されていた公開企業に対する内部統制監査についても、①重大な欠陥と重要な不備との区別の判断基準の可視化②トップダウン型のリスクアプローチの積極的導入③監査に関与する他の社員との仕事の共有④内部統制監査と財務諸表監査の統合的作成などの検討が開始されたようでして、これでは日本の内部統制部会が昨年12月に公表した「あり方」案のほうが先行しているのではないか、とも錯覚してしまうような現実であります。(最近のラウンドテーブルの報道内容につきましては、どこの大手監査法人のHPでも解説されていないので、私自身が拙い外国語能力を駆使して英文HPより解釈したところです。もし誤りがございましたら、ご指摘をお願いいたします)

日本が参考にしようとしていたアメリカのSOX法実務が、いままさに企業の負担増加にあえぐ姿を目の当たりにして変容している現実があるわけでして、「内部統制」がわかりづらいのは当然のように思えます。これではますます「内部統制」をいかに考えるべきか、悩みの種は増えるばかりであります。(またまた、つづく)

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コメント

弁護士のM・Eです。昨日、6月上旬に行う、日本版SOX法の講演についての準備を行いました(今週は、重たい事件の準備書面や株主総会のリハーサル等で時間が取れないため)。昨日、今日と非常に面白い議論がなされていますね。
 今回、私なりに内部統制のグランド・デザインを整理しました。
①企業がそもそも備えていた内部統制というシステムそれ自体のあり方と、②内部統制概念が会計の世界で始まり、それが管理経営の世界に波及してきたことと、③②の管理経営の文脈ではありますが、内部統制のデファクトスタンドードとなったCОSОの考え方が不祥事防止の観点から、管理経営の対象を従業員から経営者にまで拡大したことと、④財務報告に係る内部統制と、会社法の内部統制、公益通報者制度等、各制度の立法趣旨から内部統制への係わり方、に区別して考えることが便宜ではないかと思います。コンプライアンス・プロフェショナルさんが指摘しておられるのは、①の機能が、企業価値の増加につながるということですが、投資家のみならず、従業員や取引先に対する目配りも必要ではないでしょうか。
財務報告に係る内部統制(日本版SOX法は資本市場の公正さ確保のため、通行手形としてどの上場企業も備えるべき条件として、裁量がなくなったという整理しております。


SOX法

投稿: M・E | 2006年5月22日 (月) 12時00分

MEさん

いつもありがとうございます。先生のセミナーはネットで広報されておりますので、よく承知しております。
おそらく事務所からコメントいただいているものと思います。重たい準備書面は早めに作成したほうが気が楽になりそうですから、どうかコメントの完成はゆっくりで結構でございます。

投稿: toshi | 2006年5月22日 (月) 12時38分

 M・Eです。ありがとうございます。来週月曜日までには目処をつけ、再度チャレンジしたいと思います。山口先生はその間、様々な話題に挑まれるのでしょうが、楽しみに拝見させていただきます。

投稿: M・E | 2006年5月22日 (月) 13時34分

 従業員ないし取引先への目配りが足りないということですが、そのようなことはないと思います。株式会社制度の内容から内部統制システムを位置付けただけであり、その結果内部統制システムが構築・運用され企業が存続し、企業価値が向上することが、まさに従業員や取引先の保護に繋がるわけです。
 実質論はともかくとして、理論として考えるならば、企業が存続しなければ、これらのステークホルダー対する配慮はありえず、ステークホルダーにも主従があることを忘れてはいけないと思います。株式会社制度や所有の経営の分離という本質論からすれば、ステークホルダーの中心に添えられるのは、株主であることは間違いがなく、内部統制というものをその点から論じたに過ぎません。株式会社そのものを成り立たせるステークホルダーと従たるステークホルダーとはやはり区別されざるを得ないと思います。

 なお、内部統制の分類については、M.Eさんが分類した②~④については、内部統制の変遷を言ったものですが、分類自体は意義があるものと思われます。ただ、現実問題として、会社法の内部統制と証券取引法(金融商品取引法)の内部統制とは、神田先生も指摘されているように、両者は異なるものであり、区別が必要であること、そして財務報告の信頼性が害されなくても(というより、財務報告が出る前に)企業不祥事で株価が急落すれば投資家の保護はできないことを考えれば、より合理的な制度として投資家を保護するための内部統制システムも、あるいは会社法が求める内部統制も要は、会社法が定めるコンプライアンス体制の構築をベースとする内部統制を構築することが必要になってくるわけです。1年単位の財務報告の信頼性の確保よりももっと短いスパンで日々の株価の暴落から投資家を保護することが、実質的には投資家の保護に資するといえるのではないでしょうか。そのためには、証券取引法でいう財務報告の信頼性確保の内部統制にまして会社法の内部統制の整備が求められると考えることができるわけです。
 
 むしろ、多様なステークホルダーの保護というのであれば、財務報告の信頼性のみを視野にいれた内部統制だけでは、ステークホルダ-の保護が不十分になる可能性があるわけです。すなわち、企業不祥事の発生により、企業価値は著しく低下し、企業の存続すら危ぶまれる自体が生じるわけです。最終的には、倒産や清算にいたるわけで、そうなればそこで働く従業員、その家族、取引先、その家族など多くの人が生活に支障をきたす自体が生じるわけです。現に雪印食品の事件の時には、北海道の酪農業者が大打撃を受け、生きるために酪農業を廃業した人すらいるのです。
 株主の場合は、有限責任ですから、出資額をあきらめればそれでいいわけであり、生活に支障をきたす事態まで追い込まれることはほとんどないわけです。このように考えれば社会的な影響を考えれば財務報告の信頼性確保による投資家の保護というのはあまりに片面的な見方といわざるを得ません。
 
 もちろん、金融商品取引法案の法律案が国会に提出されておりますので、上場企業としては、今後、財務報告の信頼性確保に向けた内部統制を構築していく必要があるわけです。
 しかし、私が企業実務を経験した限りでは、金融商品取引法の成立により財務報告の信頼性確保のための内部統制が法律上の義務として課されたとしても、粉飾決算や会計不祥事はかなりの確率でなくならないと思います。それは、監査法人が営利事業を目的としている以上、売上や監査契約による報酬確保のために、ある程度企業側の意向を受けざるを得ないからです。大口の顧客を無くしたくないから、やむを得ず粉飾に手を貸すというのは、今までの歴史が繰り返しており、極端な話、公認会計士の監査内容をさらに外部の人間が監査するなどの制度にならない限り、粉飾はなくならないと考えます。
 日本版SOX法として財務報告の信頼性確保の観点からの法制化は時代の流れであるといえますが、要は会計不祥事の原因を分析した場合は、監査法人が関係しているものも存在している点は見過ごすべきではないと思います。公認会計士ないし監査法人に対する監督強化を含めた手立てなくして、財務報告の信頼性確保はありえません。
 どんなに法制度を固めたところで、過去の粉飾決済における証券市場の信頼喪失に監査法人ないし公認会計士がどの程度影響していたかを考えれば、外部の公認会計士が経営者の内部統制報告(宣言書)をチェックする仕組みを考えたところで、それは所詮、お手盛りの議論でしかないわけです。

 かなり手厳しい内容になりましたが、このあたりの事情をきちんと認識した上で議論をしなければ、内部統制は単なる机上の空論になるのではないでしょうか。

投稿: コンプライアンス・プロフェショナル | 2006年5月23日 (火) 01時27分

こんにちは。「内部統制」を商売にされる方からすると従来どおりでいいよというのは禁句なわけですが、私なんぞは少なくとも会社法上の内部統制という部分に関しては内部統制というキーワードで商品売り込みの空騒ぎをするよりも従来どおりでいいよと言ってしまいたいところです。開示によりプラクティスが変わるという部分は実際には大きいので内部統制を強調する意義はあるのですが、開示により取締役の方々をビビらせる以外に内部統制なる用語を使うメリットに乏しいと感じつつあります。わかりにくさという部分は(1)従来と同じなのに従来と違うように宣伝し、大袈裟に振る舞うという部分と、(2)財務報告の信頼性確保という部分が同じ用語で議論されることが要因ではないかと考えています。会社法上の内部統制という観点からは「コンプライアンスに王道なし」ということで従来通り努力を継続すればよい(開示は一度作文すれば新たな検討は実際にはないでしょう。)し、財務報告の信頼性ということでは現状では監査法人との協議を続ける以外に特にすることはないのではないでしょうか。随分と冷めたコメントをしてしまい、申し訳ありません。

投稿: neon98 | 2006年5月23日 (火) 05時22分

コンプライアンス・プロフェッショナルさん。
大変有益で詳細なコメントを拝見しました。結論だけを箇条書きにした私のコメントに対して、実務の経験を踏まえた大変有益なコメントを拝見し、参考になりました。簡潔にコメントさせていただきますと、①は、営利目的を追求する企業体には、体系的・意識的に整理されているか否かはともかく、内部統制システムそれ自体が存在しており、それを有効に機能させることが企業価値を高めることにも資することになります。内部統制が有効に機能している会社は、取引先の信頼をうみ、取引条件にも有利に作用しますし、優秀な人材の維持・確保という意味でも有効に機能し、これも企業価値を高めるという意味で、極めて重要です。次に、②~④は、単に内部統制の歴史的変遷を言ったものではなく(結論だけ書いたのでそのような誤解を招いたのでしょう)、②が歴史的変遷、③は、不祥事防止の観点から社員に対するモニタリングから経営者のチェックまで果たして初めて不祥事防止の目的を達成できることを②と密接にリンクしてはおりますが、区別する趣旨です。④は、②、③の変遷を経て、経営者に対するチェック機能をも備えた、経営管理の視点から把握される内部統制システムという制度と、会社法、金融商品取引法の各法毎が要求する法の趣旨により、内部統制が備えるべき属性が異なっております。すなわち、金融商品取引法は証券市場の公正さを確保するため、市場に上場している企業が備えるべき一定の要件を要求しているのに対し(従って金融商品取引法24条の4の4については各企業の裁量の余地はなくなると思われます)、これに対して会社法の内部統制は、どこまでの内部統制を構築しておけば取締役の免責の抗弁が働くのかという観点から、各企業にシステム整備・運用に裁量が残されているというように、法毎に内部統制に求める趣旨が異なっており、その趣旨に即応して検討すれば足りるという趣旨です。私の整理ですと、システムとしての内部統制は、業務の有効性・効率性を最重要視し、会社法の内部統制は、法令遵守に、金融商品取引法は財務報告の信頼性をそれぞれ第一義的にウエートを置いているものと理解されます。
 なお、企業の実質的所有者である株主がステークホルダーとして最も優先順位が高いという議論は法的には正鵠を射ておりますが、デイトレーダーやヘッジファンドが横行している現況をみるにつけ、偶々基準日に株主であるからといって、企業の経営者や従業員の努力により気づかれてきた当該企業価値を第一優先で享受できるのが当然だという議論には私は若干異論を感じます。ステークホルダーとしては、株主、経営者、従業員全てが等価値ではないかというのは法的にはとんでもない考えなのでしょうか(この見解は、早稲田大学法化大学院教授の上村達男教授の会社法改革にヒントを得た知見であります)。また、詳細な議論は別の機会に大いにさせていただきたいと思います。PS 山口先生、先生のブログをお借りしてこのような議論をすることになり、大変ご迷惑をおかけしました。なお、法律時報の東大の神作教授のEU法から見た会社法では、コーポレート・ガバナンスを企業の国際競争力の強化という観点から捉えていることが記載されており、参考になりました。それではまた。

 

投稿: M・E | 2006年5月23日 (火) 08時15分

M・Eさん

整理の趣旨を読み込めずに申し訳ございません。整理の内容が深いですね(笑)。私の未熟さを恥じるばかりです。

M・E先生とは、会社法と証券取引法の違いも含めた各内部統制の概念・趣旨の違いを明確に区別すべきという点では、考えは共通しているようでして、私も考え方が間違っていなかったかなと安心しております。

先生がおっしゃるように機関投資家が多い、市場の現状を考えた場合及び内部統制構築・運用実務を考えた場合、確かに株主と他のステークホルダーを区別せず、同列に扱う方がいいのだと思いますが、それを論理的に組み立てることが現時点ではできておりませんので、ご容赦ください。

こちらこそ、いつも大変参考になるコメント、私もいい勉強をさせていただいております。今後も是非、参考にさせて頂ければ幸いです。こちらこそ宜しくお願いします。

山口先生のブログの場を借りての議論は恐縮してしまうのですが、でも、皆さんの非常に有益なご指摘やコメントを見るとついコメントしてしまいたくなる性分でして・・・、山口先生、お許しください(先生より、どう見てもコメントが多くなってしまっておりますよね・・・)。

投稿: コンプライアンス・プロフェショナル | 2006年5月23日 (火) 08時42分

>MEさん、コンプロさん

私のほうが議論に追いついていないためか、バトルを整理できずに申し訳ありません。(笑)
机上のものでなく、私を含めて企業の依頼によって実際の不正検査やコンプラ事業へ参画してしまいますと、内部統制の長所や短所というものが自分なりに見えてきますよね。社風などとも関係しますし。とことん議論することが、歴史の浅い内部統制の実務を進化させることにつながるのでしたら、どんどんこのブログを利用してやってくださいませ。少なくとも私自身は大歓迎でございます。

>neon98さん
いつもコメントありがとうございます。じつは「内部統制はなぜ・・」シリーズの3話を書こうかと思いましたが、neonさんの意見を後押しするような神戸製鋼問題が発覚してしまいましたので、ちょっと寄り道をしました。
また、有益な意見お待ちしております。


投稿: toshi | 2006年5月24日 (水) 02時53分

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