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2006年5月12日 (金)

「公開会社法」への道しるべ

会社法の講演をさせていただいて幸運だったことは、講演のためのいろいろな調査研究をしているうちに(といいましても仕事を抱えながらですから、そんなにたいしたことはできませんでしたが)、会社法の条文や制度趣旨だけでなく、これからの「会社法のたどる道」に関して、あれこれと考えることができたことでしょうか。

ここのところの中央青山監査法人に対する金融庁の行政処分や、それに続く実務界の混乱ぶりをみておりますと、どうも自民党の政務調査会、金融調査会、法務部会の合同小委員会が提言した内容のとおりに、会社法制が動いているような気がします。気になる提言といいますのは、平成17年10月21日にだされました「わが国の企業統治、会計監査制度等のさらなる強化に向けて」と平成16年12月17日に出されました「最近の資本市場、コーポレートガバナンスの諸問題に関する中間論点整理」のふたつであります。(塩崎センセイのHPからの引用になっておりますが他意はございません。ただ、ほかのところから引用できなかっただけであります。塩崎センセイは大阪の若手経営者育成に尽力されておられまして、これからも竹島問題などでバンバン頑張っていただきたいと思っております。ただ当時の小委員会委員長という立場ですんで、自らのHPで提言内容を公開されていらっしゃるんだと思います)

これらの提言によって、実際に会社法の要綱試案にもなかった内部統制システム構築(取締役等の職務の執行の適正を確保するための体制整備事項の決定)に関する規程が会社法に盛り込まれたことは有名な話でありますが、それ以外にも会計監査人の独立性確保に関する公認会計士協会の自主規制や、有価証券報告書への虚偽記載の厳罰化(これは改正証券取引法)、監査の品質管理の重要性を第一に考えた「監査法人の内部統制の不備を理由とした」金融庁の業務停止処分、監査法人の内部統制状況の監査役への報告義務(会社計算規則)、そして社外監査役の属性、とりわけ「財政または会計に関する知見の有無」の事業報告書における開示など、数え上げるときりがないほどに、会社法の実務への運用方針に多大な影響を与えているのは間違いないと思います。さらに、まだ導入はされておりませんが、会計監査人に「不正発見義務」を負担させる旨の提言がなされており、その適用の前提としての監査法人自身への刑罰の適用問題と、このたびの厳罰化(行政処分という意味ではありますが)といった現実が、まさに「会計士さんたちの倫理の法制化」へと向かう道の途上にあることを物語っているように思えてなりません。もちろん、そういった誠実義務が課されるぶん、会計士監査の報酬の適正化も盛り込まれております。

そして、これらの提言内容をみて、一番驚くのは「会社法」から「公開会社法」を分離して、これまでの商法ではなく、証券取引法を根本とした法律の制定が最終目標のように提言されております。先日、商事法務のコラム「スクランブル」をこのブログでも取り上げまして、スクランブルの筆者の方は、証券取引法の改正によって、実はこれまでの会社法の基本方針として規程されていた諸制度が変容されていくのではないか、との危惧を抱いておられ、私も同じようなことを考えておりました。そうなってきますと、今後の会社情報の一般投資家への開示はさらに重要性を増してゆき、提言にあるとおり、監査役と会計監査人との連携、強調の必要性が増すために、提言どおり「監査役には財政、会計等の専門的知見を有するもののみ就任できる」といった結論に至るような気がいたします。

昨日の私の講演でも同業者の方々に申し上げましたが、果たしてこういった新会社法の目指す方向を、われわれ法曹がどう考えたらよいのか。株式を公開している会社の「法の支配」はいったいどのように考えるべきなのか。どこで法の支配を貫けばよいのか。日々の業務に追われて、会社法の解釈ばかりに目を向けておりますと、まだまだ会社法そのものがどこかへ動き出していく、その胎動を見過ごしてしまわないものか、講演の準備などをしておりまして、懸念するところが大きくなってきました。この「公開会社法への道しるべ」シリーズ、これからも折に触れて書き連ねていきたいと思っております。

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