「ライブドア監査人の告白」読後感
もともとcritical-accountingさんの「会計や監査の話などなど」ブログで近刊情報を知りまして、発売と同時に読みきってしまいました。著者である田中慎一氏に近い久野氏、小林氏が先日の第一回ライブドア刑事公判でいずれも公訴事実を全面的に否認している中での発刊ですので、法曹という立場からの詳細なコメントは差し控えたいと思いますが、まだライブドア強制捜査、堀江氏ら逮捕劇の記憶が新鮮なこの時期に、地検特捜部の動き出す場面から立件に至る経過を詳らかにした書物はたいへん貴重です。おそらく経済事件の刑事弁護を担当したことのある弁護士からみると、会計士さん方がお読みになる感想とは一味違った部分で興味をもたれるのではないでしょうか。今年1月下旬頃、私のブログでも連日ライブドア強制捜査に関するエントリーをアップしておりまして、そのときに「いったいライブドアの監査役の人たちは何をしていたんだろうか・・・・」とはがゆい気持をずっと抱いておりましたが、こうやって現場におられた会計監査人の方の告白を読み、いままでの(表舞台に登場しない監査役の方々へ抱いておりましたイメージも少しばかり変わり)モヤモヤがすーっと溶解してくるような感覚を持ちました。
以前ご紹介した企業会計審議会内部統制部会長の八田進二教授の著書「内部統制の考え方と実務」のなかに、「もしライブドアに対して内部統制監査があったとしたら、今回の事件は防げただろうか」といった問いかけがあります(74頁以下)。私は八田先生が「外部監査人による内部統制監査によって、ライブドアの事件は防ぐことができた」とする結論に対しては非常に懐疑的な印象を持ちまして、堀江氏、宮内氏による経理操作はCOSOモデルによる「内部統制の限界」であって、どんなに内部統制システムを構築したって不正を防止することはできないだろう、といった諦観を抱いておりました。しかしながら、この田中氏の「港陽監査法人による2004年9月期の審査」(ロイヤル信販、キューズ・ネットに対する売上取引の真相究明)に関する監査法人の対処経過を読み、たしかに、架空売上計上に関する証拠評価に限界がある場合、もし「財務情報の重要な部分に関する内部統制の重大な欠陥」といった切り口があったら、もっと会計監査人はライブドア経営陣に対して毅然とした態度で臨むことができたんだろうなぁ、というのが素直な感想であります。会社の商品価値を適正に一般投資家に伝えるための機能も大切かもしれませんが、会計監査人が自信をもって「ダメなものはダメ」と毅然とした態度でクライアントに臨むための武器としても、内部統制監査というものが機能することを知りました。
さて、この時期に、田中氏が告白本を著されたことや、田中氏の潔い対応への感想などにつきまして、会計専門家でない私がここで述べることはいたしません。おそらく田中氏は賞賛や非難を受けることは承知の上で、ともかく真実を語りたい、といった一心でこの本を世に送り出したものと思いますので、(株式分割や株式交換、そしてプーリング法、パーチェス法等に関して、一生懸命にわかりやすく説明しようと努力するその態度をみればよくわかります)その語りたかった真実(らしきもの)の部分を、もう少し時間をかけて、私なりに咀嚼してみたいと思っております。
しかし、新興企業の場合、証券会社やコンサルタント、会計監査人から監査役に至るまで、その経営陣との「最初の出会い」がどれほど大切で、一歩間違えるとどれほど恐ろしいものか、(自分の経験も含めて)あらためて痛感いたしました。
(追記)
critical-accountingさんも早速「告白」の感想をアップされてます。(TBからどうぞ)
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