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2006年5月 9日 (火)

続・経営の自由度ってなんだろう?

一昨日のエントリー(経営の自由度ってなんだろう?)で、最近定型的に使用されるフレーズ「会社法では経営の自由度が増した分、株主への説明責任が増える」というのが、どうも理解しがたい、と述べましたが、それとちょっと関連する記事を見つけました。

読売ニュース(株主還元に数値基準、企業年金連合会が検討開始

そういえば、取締役会設置会社で会計監査人を設置している会社の場合、取締役の任期を選任後1年以内の最終決算期に関する定時株主総会までとする株式会社であれば、取締役会決議によって剰余金の分配が一年に何回もできることになりましたから、こういった点をみると経営の自由度は増した、といえることは間違いないですね。おそらくこのたびの定時株主総会において取締役の任期1年、剰余金配当は取締役会で決議できる、とする定款変更議案を定時総会に提出する株式会社もけっこうあるんじゃないでしょうか。ただ、会社法459条1項によれば、株主の配当議題提案権を定款で奪うことができる反面、取締役の任期は1年になるわけですから、取締役の配当政策に不満がある株主は取締役の選任を否決すればいいわけでして、この規程の趣旨をみますと、定番フレーズのように「経営の自由度が増した分、株主への説明責任も増えた」ように思えます。

でも、この読売新聞ニュースのように、機関投資家が配当性向を最低30%以上でないと取締役に対して異議を述べる、といった一定の基準を設けてしまいますと、それは既に「説明責任」の問題ではなくなってしまいますよね。配当政策に不満があれば選任議案を否決すればいい、といった趣旨であれば、そこにはなぜ配当率を低くしたのか、取締役は株主を説得して、配当政策に合意していただく余地もありますから、「説明責任」ということがピッタリあてはまりそうですが、最初から「何%以上の配当性向がなければ異議を述べます」といった基準を策定してしまいますと、そもそも「説明責任」を議論する実益がなくなってしまいます。5年間の配当性向を平均して1年あたり何%、といった基準であればまだしも、もし1年ごとに何%の基準に達しなければダメ、というのであれば、いったい株式会社の取締役らは何を株主に説明すればいいのでしょうか。

報道ベースですが、(新会社法施行によって)取締役会の裁量の幅が広がったために、企業年金連合会は経営監視を強める必要がある、との判断からこういった数値基準を検討するに至ったとのことですが、数値基準を設定するということは、なにも経営を監視していないに等しいことにならないでしょうか。たとえば投資ファンドなんかが「あなた達が経営している会社は、これだけの内部留保がありながら、ここ数年新たな設備投資や財務政策をなんらとっていないじゃないか。それなら配当を増やしなさい。それでなければ異議を述べる」といった要求をするのが正解なんじゃないでしょうか。(これだったら、十分会社の開示情報を分析したうえでの要求と思います。)普通に考えれば、連合会が株式を保有している会社の開示情報については何も見ないし、分析もしないで、ただ最終数値によって機械的な処理をすればいいということに(理屈のうえでは)思えて、これまでの企業年金連合会が発表している「議決権行使基準」の内容とは明らかに異なるもののようです。もちろん、株主の権利行使は万能ですし、運用を受託されている機関投資家の立場からすれば何をしたってかまわないと言われればそれまでではありますが、企業の経営戦略やガバナンスの情報を開示することによって、できるだけ持続的成長力のある株式会社の企業価値を一般投資家に判断できるように市場の育成を図るのがこれからの政府の目標ではなかったのか、と思いますし、会社法が期待しているのは、そのための株式会社の説明責任ではないか、と理解しておりますが、これはあくまでも私の考えが単に甘いものであって、実際には、このたびの企業年金連合会の検討内容などから考えますと、やはり経営自由度の増加と株主への説明責任の増加とは、現実の世界では無関係なのではないか、との疑念がぬぐいきれません。どっかでアメリカ流のガバナンス理論を採り入れて、またどっかで大陸的なガバナンス理論を採り入れて、それらを「耳に心地よい言葉でつなげ合わせ」たような、そんな曖昧さが新会社法には存在するような気がしています。

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