判例を形成する弁護士の力量
ビジネス法務といいながら、このブログではほとんど独禁法関連のエントリーがありません。(過去に橋梁鋼談合事件くらいでしょうか・・・もう、記憶もあいまいですが)社外監査役やコンプライアンス委員をしている企業が業種的に「談合」とは無縁の世界ですし、事務所事件としましても、これまで縁がなかったせいか、まとまった勉強をしていないのが現状であります。しかし、新聞紙上では毎日のように談合事件が報道されていますし、金融機関の不公正取引事例など、いわゆる企業コンプライアンスに関連する事件が最近とくに目に付きます。「専門」とまではいえなくても、「あれ?これって、下請法のガイドラインにひっかからない?」「景表法的にはだいじょうぶなの?」「専門の先生のとこで相談したほうがいいかも」くらいには嗅覚を養っておかないと、法曹資格をもった役員としては恥ずかしい場合もありそうです。
ということで、ひさしぶりに神戸大学の泉水先生の「独占禁止法の部屋」のHPをたずねましたが、泉水先生もブログを始められたようで、独占禁止法の部屋ブログを閲覧いたしました。BBS黎明期の泉水先生のBBSはとてもアカデミックな話題がてんこもりで、よく書き込みをさせていただき、また大阪弁護士会での研究会の際にも、一度質問をさせていただきましたっけ?(なつかしいです。あのころはまだ大阪市大の教授でいらっしゃったと記憶しておりますが。たしか司法試験委員もされていたような・・・)
泉水先生のブログで「鑑定書書きます!?」というエントリーを拝読して、思わず「うーーーん」と唸りたくなりました。やっぱり、独禁法事件というコテコテの専門分野の畑を土足でウロウロすると、こういったプロの先生方の逆鱗に触れる場合もあるということですね??(⌒◇⌒;) 被告側が大企業で、原告側が中小企業の場合、とりわけ不公正取引などが争点となったケースですと、「せっかくおもろい事件やのに、なんで争点を明確にせえへんねん!」と怒られてしまいそうな代理人になってしまう可能性はあるわけでして(中小企業には、専門弁護士に行き着くまでの情報が届かない場合もありますし、またなんといっても金銭的余裕がないケースも多いかもしれませんが)泉水先生ご指摘のとおり、情熱が足りない場合もあるかもしれません。個別事件の処理を第一義とする私のような一介の弁護士にとりましては、こういった政策形成機能を持つ裁判のような場合、判決をもらう場合には、まず説明責任を尽くしたうえで依頼者の同意をとりつけるようにしています。やっぱりどんなに立派な判決をもらっても、敗訴してしまえば当事者の経済的利益はゼロですんで、当事者に和解のチャンスがあって少しでもお金が入りそうな(原告側)事件であれば、とりあえず当事者本人の意向を聞いておかないと、あとで懲戒モノなんですね。そこのところが大企業に挑む中小企業の代理人弁護士としましては、非常にむずかしいところであります。(まぁ、和解を少しでも有利に運ぶために、できるだけ裁判官の顔色をみながら、可能な限り、争点はきちんと明示するようには心がけてはおりますが。でも、鑑定書作成費用と和解によって相手方からとれるであろう金額の比較、などという、また頭の痛い経済的算定が待っておりますが・・・・)
ただ、ホント、当事者との関係を抜きにしましても、泉水先生のおっしゃるようなケースは弁護士としてもキビシイ判断を迫られる場合が多いと思います。このまま最高裁で敗訴して、おかしな先例を作ってしまうんじゃないか、後に続く人達の裁判の機会を奪ってしまうんじゃないか、といった若干萎縮した気持は、たとえ自分なりに十分論点の主張は尽くしたと自信をもって上告受理申立をしたとしても、ココロのどこかに抱いているはずです。私はちょっと弱気かもしれませんが、こういったケース、「争点判決」ではなく、敗訴しても「事例判決」になるように、個別具体的な事例の特色をできるだけ書き加えて、もしこの裁判が敗訴確定したとしても、類似のほかの事例にはなるべく影響を与えないように努力するかもしれませんね。
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コメント
弁護士のM・Eです。山口先生と同様、私も社外監査役を務めておりますが、会社内に法務部が設けられているような上場会社の場合には、当該会社のビジネスモデルに精通している法務マンがコンプライアンス等の問題の存否につきリーガルチェックをかけて、疑問がある場合には弁護士に相談するよう進めるというシステムになっておりますので、社外役員ながら弁護士として法的な問題点を指摘する場面はそれほど内容に思われますが、総務部が兼任しているような中小規模の会社では、確かにリーガルチェックを行う必要性や重要性が高いと感じています。但しこれらの会社の場合でも弁護士には敷居が高くても、行政書士等には気軽に相談しているようです。
これだけ法律の改正が頻繁になりますと、弁護士だからといって精通している分野は限られてきますね。現在の経験では、民法関連法、会社法を初めとした私法の他、特定商取引法、独占禁止法(下請法、景表法を含む)、破産法、民事再生法等の倒産法、証券取引法といった広義の意味での経済法、労働法関係諸法、土壌汚染対策法等の環境法について尋ねられることが比較的多いです。不正競争防止法に言及することも多くなりました。リースや、請負については事務所顧問先企業にリース会社、ハウスメーカーがあるため、好むと好まざるとに関わらず実務と理論の間をゆききせざるを得ません。山口先生のようにブログで情報を発信しながら、精力的に勉強を続けておられる方はいったいどのように勉強しておられるのかお聴きしたいくらいです。大型事務所のようにスペシャリティとして最先端をたえずフォローアップするようなことはできませんが、仕事の中で企業法務が占める割合が比較的多いため、個人的には著作権法にも興味があり、昨日は、午前中から夕方まで著作権法学会に参加してきました。先週から取り組み始めた大部の準備書面は約8割くらい完成しました(現時点で約30頁です)。明日、事務所で証拠や文献を調査して法的主張を追加して完成です。
火曜日からやっと、SOX法の講演の準備が再開できます。
投稿: M・E | 2006年5月28日 (日) 18時07分
ブログで情報を発信しながら勉強できる環境は、はっきり言ってありません(笑)です。
いまは、弁護士会のほうのお仕事と事務所の仕事をいかに両立させるか、これが大問題です。。。
でも、ボヤイてばかりもいられないため、少しばかり発想を変えて、弁護士団体の内部統制など、自ら実践してみようと思っております。すでに失敗もしておりますが・・・
投稿: toshi | 2006年5月29日 (月) 15時54分
山口先生、こんにちは。
くだらないぼやきにまじめなコメントをいただき大変恐縮です。今後ともよろしくお願い致します。例の研究会は、来月は参加できませんが、7月以降はある程度復活できそうです。
投稿: antitrust | 2006年5月29日 (月) 19時22分
>antitrustさん
こちらこそ、勝手にお呼び立てしてしまったみたいで、すいませんでした。阪急、阪神の統合効果につきましては、同じ関西在住の者として興味深く拝読させていただきました。
鑑定書に関する追加エントリーまで立てていただき、これを真に受けていいのかどうか(笑)。でも、やりたい仕事を値段を気にせずやれる・・・という環境は「ある意味」で贅沢なことかもしれません。こういった感覚をお持ちの大学の先生方が多いことを期待しております。(かなり甘いかもしれませんが・・・)また先生のエントリーにもコメントさせていただきますので、今後ともよろしくお願いします。
投稿: toshi | 2006年5月30日 (火) 10時55分