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2006年5月27日 (土)

ふたたび「グレーゾーン」とは・・・

今日(5月26日)は日弁連の定期総会に出席するため、さきほどまで岡山におりまして、名物の「ばらずし」(ちらし寿司とはちょっと違う)を堪能して帰ってきました。今日の日弁連総会でも「グレーゾーン金利撤廃賛成決議」がほぼ全会一致で可決されましたが、きょうの話はこのサラ金の「グレーゾーン」ではなくて、(前にも一度議論させていただきましたが)会社法や証券取引法にからむ「違法ではないが、不公正と思われる行為」のほうのグレーゾーンのことであります。とりわけ、最近金融商品取引法案(現在、参議院で審議中)の中身を少しばかり勉強しておりまして、(といいましても、「辰のお年ごさん」クラスのようなご専門の方からみれば、恥ずかしい程度なのですが)その骨格はほぼ現行の証券取引法と変わらないのではないか、と思っておりますが、やはり「業者ルール」を金融商品に対して横断的に適用させる必要があることから、ずいぶんと「有価証券」概念、「金融商品」概念、「金融指標」概念が柔軟化して定められております。また行為規範のところも、客体を「プロ」と「アマ」に分類することから、一律の行為規範の適用ではなく、客体によって柔軟に対応できるような規定になっているようで、おそらく金融商品取引法それ自体をみても、どういった行為が違法となるのか、適法となるのかよくわからないところが多いんじゃないでしょうか。結局のところ、業者対投資家(一般市民)との間における取引ルールや、業者間のルール(取引や公開買付などの開示ルールを含む)といったことは、法を離れて、業界の慣行とか、自主規制機関の判断とか、業界団体のマニュアルのようなものによって「グレーなのか、シロなのか」を決しなければいけない領域というものが法改正後もたくさん存在するような気がします。

会社法に関しましても、先日ご紹介した法律時報の「座談会記事」や、6月1日号の旬刊経理情報の巻頭コラム(落合誠一教授による)を読んでおりますと、「違法」「適法」でなく、会社を取り巻くステークホルダーの行為や会社自身の行為が「公正か不公正か」といった問題が今後いろいろな場面で議論の対象になることが有識者の間でも予想されていることがわかります。会社法で明文上禁止されていないから「だいじょうぶ」とまでは言えなくて、たしかに明文上はオッケーのようだけれども、その行為の社会的な意味をよく考えてみると、不公正ではないか・・・・・、不公正と判断される以上は法律のうえでもなんらかの不利益を甘受してしかるべきではないか・・・・・、といった考え方の可否を、どっかで一度検討してみる価値はあるのではないかと思います。とりわけ「大きな政府」から「小さな政府」へといった規制緩和の進む社会を前提としますと、原則的には事前規制が撤廃される(もしくは曖昧化される)ことが多くなるわけで、そこに自主規制とか、委任の趣旨がよくわからない政令とか、業界団体マニュアルといった統制方法が介入する余地も多くなりそうでして、そういったものに安易に頼っていれば企業行動やステークホルダーの行動が「公正」か「不公正」かを明確化できるように錯覚してしまう可能性もあるわけです。

そこで法の適用される全ての社会ということではなく、競争によって収益を上げ続けなければならない会社といったものを前提に「公正か不公正か」の判断基準を考えてみますと、そこにはふたつの大きな仕分けができるのではないでしょうか。ひとつは会社の効率化(経済的効率)からみる基準と、もうひとつは社会的責任といいますか、他人との共存を前提とした会社の倫理面からみる基準に分けて検討する必要があるように思います。

たとえば、私がいまたいへん興味をもっております「内部統制」につきましても、ちょっと前まではSOX法404条の適用といったものが「財務報告の信頼性確保のため、企業不祥事防止のための画期的な手法」と信じられていたところですが、すでに本場アメリカでは、とても大部分の公開企業ではコスト的に支えることのできない制度であることが理解されはじめてきました。株主への利益還元の機会を奪ってまでも財務報告の信頼性確保の施策を講じることは、やはり経済的な効率といった面からも、また倫理的な面からも不公正だと評価されるかもしれません。また日本におきましても、経営陣に内部統制の重要性を気づかせることはなんら非難されることではなく、それは素晴らしいことだとは思いますが、会計監査人に評価される指針を一律に公開企業に適用させるために、その統制システムの構築を強制することが、はたして先の判断基準に照らして公正といえるかどうかは、まだ議論の余地があるような気がしています。

法律家が議論する実益のあるものとしての「グレーゾーン」とは何か、もしグレーゾーンがあるとして、シロかグレーかは誰が判断するのか、その判断はどんな構成要素によって変わりうるのか、それとも時代が変わっても、いったん誰かが「グレー」と言い出したら変わるのは困難なのか。ホント、こういった問題をきちんとどっかで考えてみると、事後規制時代における企業のリスク管理の研究にも大きな功績を残すのではないでしょうか。

※話は変わりますが、厚生労働省からたいへん興味深い報告書が出ております。

投資ファンド等により買収された企業の労使関係に関する研究会報告書

私のごく近くに、この問題にたいへん造詣の深い弁護士がおりますので、また彼の意見なども参考にしてじっくり考えてみたいと思います。

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