混乱の先に見える「株主」とは・・・
(5月5日お昼に追記あります)
MAC(村上ファンド)と阪神電鉄との反論合戦はいよいよ佳境に入ってきたようでして、5月4日のMACによるリリースはかなり辛辣な内容になっているようです。昨年10月にこのブログのエントリーにおきまして、(どっちの側でもいいので)私は安全対策と震災対策を最優先として説明すべきではないかと述べておりましたが、ここにきてやっと阪神電鉄の経営陣も労働組合も「安全対策が最優先であって、そのためには切り売りは許されない」と公表されるに至りました。(ちなみに村上氏は昨年10月の阪神株買収の報道前から国土交通省を訪れ、阪神電鉄の安全対策について詳細な説明を受けていたことが判明しておりますので、それなりに安全対策が企業価値に与える影響を真剣に検討していたふしがあります。)いずれにしましても、MACの「経営監視」路線による取締役選任問題は、これからの村上ファンドの将来を占う意味でたいへん重要な展開になってきたようです。
将来を占う意味で重要な展開になってきた、といえば阪神電鉄の玉井氏の発言も興味があります。(読売取材と毎日取材)社外取締役というコーポレートガバナンスにおける重要な立場にいらっしゃる方が、これからどんな役割を果たすのか。玉井さんの活躍次第で、今後の日本における「社外取締役」の有用性議論に多大な影響が出ると言っても過言ではないと考えております。全国社外取締役ネットワークの会合で有識者の方々にお聞きしましても、その事実上の役割論といいますと、現経営陣へのコンサルタント的役割への期待、株主への説明責任を尽くすことの支援への期待、そして株主利益の代弁者としての期待といった様々な期待のうえに成り立っているのが現実のようです。いずれの役割を重視するにせよ、おそらく現在の玉井氏に期待されているのは、もはや平時における株主利益の最大化ではなくて、有事における株主利益の最大化をはかることだと思われますが、いったい玉井氏の最大利益をはかろうとお考えになっている「株主」とは誰のことを指しているのでしょうか?過半数を握ろうとしている大株主なのか、それともモノ言わぬ一般株主なのか、それとも現在の総株主の混在する意見の集約なのか、それとも将来の阪神電鉄グループに期待をする(未だ現実の株主ではない)一般投資家を含めた「抽象的株主」なのか。いったいどの株主を見据えて判断をすれば社外取締役としての公正なる判断を下すことになるのでしょうか。
最近の日本における「コーポレートガバナンス」理論といったものは、どちらかといいますとコンプライアンス経営との親和性をもった議論だと認識しておりましたが、昨日ご紹介いたしました神田教授の「会社法入門」では、どうも世界的傾向として「ガバナンス理論」は企業不祥事防止といった目的とともに、企業のパフォーマンスを向上させる目的も重要視されている(したがって、会社法改正の歴史についても、この2000年以降のガバナンス改正については「規制」なのか「緩和」なのかわからない、と述べておられます)ようです。(2004年に出版されました「コーポレートガバナンスと商法の役割 中央経済社」では、ここまで明確には述べていらっしゃらなかったと記憶しておりますが)こういった認識が多数を占めるようになりますと、今後「社外取締役」に関する議論が進化するでしょうし、果たして今回のような事案におきまして、もし今後玉井氏が阪神電鉄の行く末を決定するキーマン的立場で行動されるのでしたら、「企業パフォーマンスに与える社外取締役の影響」という意味では、大きな試金石になるのではないか、と注目をしております。
(追記)
今朝の朝日ニュースでは、玉井監査役の選任提案の撤回もありうるようなことが記載されております。5月中旬(17日ころまで)に阪急とMACとの合意をめざしたい、といった阪急代表のご意見も公表されているようで、もう少しゆっくりとフォローしてみたいと思います。
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