« 村上ファンドと阪神電鉄株式(速報版) | トップページ | 混乱の先に見える「株主」とは・・・ »

2006年5月 4日 (木)

神田教授の「会社法入門」

4004310059 最近、内部統制システム関連の勉強をしておりましたところ、昭和57年に出されました神崎克郎教授(関西学院大学法科大学院教授、当時神戸大学)の「法曹時報34巻4号」の論文で、「内部統制組織の構築」が論じられておりまして、たいへん驚いた次第です。なぜ神崎先生が「内部統制」を商法のなかで議論しようとしていたのか、と申しますと昭和48年に出されておりました「取締役会を構成する業務担当以外の取締役の監視義務」に関する最高裁判例と、当時さかんに議論されておりました「企業の社会的責任論」(いまのCSRと違い、ずいぶんとイデオロギー色の強かった議論ですよね)に焦点をあてて、アメリカの内部統制システム構築に関する判例などを参照しながら、会計の世界ではなく、法律学の世界で「内部統制構築を議論する意義」を公表されていたのです。取締役の監視義務を、個々具体的な事案のなかで議論する「場当たり的な」事実認定(およびその法的評価)では、取締役にとって、どこまでの監視をすれば免責されるのか、非常に曖昧であって、萎縮的効果も発生してしまうため(その結果、取締役の職務執行の効率性まで失われてしまう)、取締役の「やるべき範囲」を自ら構築して、その代わり業務の適正を確保する体制の構築整備に努力していれば、監視義務違反には問わない、といった理論を提唱されていました。

いままさに新会社法のもとで、内部統制システムが重要な柱として議論されるに至り、この神崎教授の論文で用いられている「内部統制システム」の定義も、ほぼ同じままに会社法の条文、会社法施行規則の条文に採り入れられておりまして、24年も前に神崎先生が遠くに見つめておられた「法律学における内部統制システムの構築」が、ついにこの5月、姿を現したことになります。残念ながら、神崎教授はこの「内部統制の法律学における意義」が世に現れる瞬間を見届けることなく、若くしてこの3月に逝去されましたが、その魂は神田教授の岩波新書「会社法入門」76ページで(わずかではありますが、しかし明確に)記述されております。

ろじゃあさんもご紹介されていらっしゃいますが、この「会社法入門」、私などが評論するなど、到底畏れ多いのですが、感動モノであります。私はまず「あとがき」から読みました。あの「会社法(弘文堂)」のはしがきを読んだときと同じか、それ以上の感動を覚えました。あえてここではご紹介いたしませんが、どうか会社法を学ばれている方、この「あとがき」をご一読ください。どんな感想を持たれるでしょうか。私は一読して、なんかとっても肩の力が抜けて、楽な気持になりました。それから、内容的には「株主代表訴訟の問題点」「会社の法令違反行為と取締役の責任」あたりに、ビックリするくらい斬新でおもしろいことが書かれております。各論につきましては、またブログのいままでの関連エントリーと絡めて考えてみたいと思っています。

|

« 村上ファンドと阪神電鉄株式(速報版) | トップページ | 混乱の先に見える「株主」とは・・・ »

コメント

はじめまして、いつも勉強させて頂いてます。神田先生の「会社法入門」私も読ませて頂きました。私と同じ学生にとって、会社法を勉強する際いきなり条文に溢れた技術論に触れるのではなく、この「会社法入門」で会社法のありかた、背景、そういったものを頭に入れた上で学ぶべきだという感想を持ちました。

投稿: かっち | 2006年5月 4日 (木) 10時39分

toshiさん、ごぶさたしています。ゴールデンウイークはのんびりされてますか?
私も神田先生の本、さっそく購入しました。(会社に置いてきてしまったんでまだ読んでおりませんが)ただ、最初に立ち読みしたときに、後書きのところはサラっと読んだんですが、「そうか、やっぱり会社法って難しいんだ・・・」とかえって肩に力がはいりそうになりました(笑)
短いページ数から「概括本」とばかり思っていましたが、そうでもないんですね。

投稿: halcome2005 | 2006年5月 4日 (木) 10時41分

山口先生

ご無沙汰しております。

私もこの本はすでに読ませていただきました。感動ものというか、会社法の骨の部分の考え方から、簡にして要を得た記述、さすがだなと思いました。神田先生の弘文堂の基本書でも薄いのに、さらに新書本で会社法を書き切るあたり、さすがに神田先生と感じております。

それにしても、我妻先生、団藤先生、三カ月先生、芦部先生、鈴木竹雄先生、兼子先生、平野先生、松尾先生、そして神田教授、高橋先生(憲法)と、本質を突いた簡にして要を得た記述は東大教授陣の伝統はまだ生きているのかなと改めて認識した次第です。最近は内田、山口、大村教授による学習書路線が主流になっていますが、それら書物も含めて、東大法学の底力を見せられた気がしております。そうそう、江頭教授も忘れちゃいけませんね・・・。

投稿: コンプライアンス・プロフェショナル | 2006年5月 4日 (木) 13時44分

>かっちさん

はじめまして。コメントありがとうございました。たしかに、この本では受験参考書にはなりませんね(笑)普通に語られる「論点」すら紹介されていない箇所もありますし。ただ、もしいままで商法を勉強されていらっしゃった方でしたら、どう「会社法の考え方が変わったのか」を理解するには貴重な本ではないでしょうか。まったく初めて会社法に接する方でしたら、私なら岸田雅雄教授のお書きになっている「会社法ゼミナール」(日本経済新聞社)をお勧めします。
今後ともよろしくお願いします。

>halcome2005さん
どうもおひさりぶりです。
おっしゃるとおり「概括本」ではないですね。実は私も最初、本当の入門書だと思っていたんですが、ある会社法の講師の方が「素晴らしい」と評価されていらっしゃったので、手にとってみましたら、ホント同感でした。
また、ご感想などお聞かせいただければと思います。

>コンプライアンス・プロフェッショナルさん

私はどうもこの「会社法入門」といった題名に違和感を覚えております。明らかに弘文堂の基本書とは異なる内容ですよね。「入門」ではあるかもしれませんが、これって初めて会社法に触れる人には「感動」が伝わるんだろうか、と。(ずいぶんと余計なおせっかいですが・・)
以前、このブログでもすこし書きましたが、私は受験生時代、星野教授の民法概説を基本書として使用していました。受験生時代はなんだか物足りない内容だな・・と不安視しておりましたが、実務家になって読み直してみると、ビックリするくらい利益考量のバランスがよく、緻密に考えられた説であることはわかり感動しました。(実務家になってからのほうが利用度が高くなりました)
東大法学(というのかどうかわかりませんが)者の方の底力というものは、じつはまだまだ私のような浅学の者にとっては半分も理解できていないのかもしれません。。。

投稿: toshi | 2006年5月 5日 (金) 11時33分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 神田教授の「会社法入門」:

» 「会社法」がついに施行... [Kashiroman's BLOG "ブログの王子様"]
2006年5月1日についに「会社法」が施行されました。実務も大変でしょうが、この日は、日本の法律の世界で大きな転換を向かえた日だと思います。それについて考えてみました。 [続きを読む]

受信: 2006年5月 6日 (土) 03時18分

« 村上ファンドと阪神電鉄株式(速報版) | トップページ | 混乱の先に見える「株主」とは・・・ »