法律事務所のハコ(続編)
たいへん好評でしたので、「続編を書きますね!」などと言っているうちに、すっかり忘れておりました「法律事務所のハコ」シリーズですが、その第2弾をエントリーいたします。(というか、読者の方もすっかり忘れておられたと思いますが・・・笑)
いまから数年前、大阪弁護士会は「弁護士法人化問題」で大揺れに揺れておりました。なんで大騒ぎになっていたか、と申しますと、「弁護士事務所の法人化を認めてしまうと、法人成りした東京の大規模事務所が大阪事務所(支店)を開設することは目に見えている!そうなったら(おいしい事件を東京の事務所にとられてしまって)大阪の法律事務所は経営が立ち行かなくなるではないか!我々の業務問題どころか、市民への適切な法的サービスを提供する能力さえ低下してしまうぞ!!」「法人化大反対!」・・・・・・・・・いや、これは誇張でもなんでもなく、本当に大阪の弁護士の大半が同様の懸念(不安)を抱いておりました。私自身もそういった不安を確信に近い状態で抱いておりました。最終的には、東京の大規模法律事務所のアソシエイトの登録換え問題なども事務レベルでいろいろと対策を検討しておりました。
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さて法人化が自由となり、数年が経過しました。この5月の「自由と正義」(日弁連が発行している弁護士向けの月刊誌)で大規模法律事務所のパートナーの方々の座談会が特集記事として掲載されておりました(ちなみに、NOT、AMT、MHM、NT、AKの5大法律事務所)業務内容や経営方針、人事問題、渉外と国内事件の比率など、どれもたいへん興味のある内容でしたが、5つの大規模事務所とも声をそろえて「法人化はメリットがありませんので検討しておりません」「地方事務所ですか?うーーーん(苦笑)、当事務所の日常業務として受け入れるような需要が地方にあるかどうか・・・。とりあえず考えておりません」(5大事務所のアンケート結果でも、地方事務所開設の予定なし、とのこと)
・・・・・・・・・( ̄△ ̄;)エッ・・?
あの大阪の騒ぎはなんだったんでしょう・・・・・・・。( ̄▽ ̄;)?
この座談会記事を読んで「たいしたもんだなぁ」と感心いたしましたのは、以前の「法律事務所のハコ」でも少し感想めいたことを書いたのですが、大規模事務所は「パイを取り合って大きくしよう」といった気持を持ってお仕事されているわけではないんですね。そもそもどこの大規模事務所も「渉外系」として産声を上げて、外資系企業の日本参入の拡大とともに組織力をつけてきたわけですが、その限界を感じてか、今度は国内企業におけるリーガルサービスの需要の掘り起こしに尽力して、規模を売り物にできる「法化社会」を作り上げてきたわけです。簡単に申し上げるならば、「儲けたから大きくしよう」ではなくて、借金して大きなハコを作ってしまったから、長期的な視野にたって、このハコに見合う仕事を開拓していこう、といった気概に満ち溢れた「この10年」だったんではないでしょうか。だから地方のパイを奪って、大きくなろう、などといったチマチマとした戦略など、東京の大規模事務所の経営陣の先生方はまったく持っていらっしゃらなかったんではないでしょうか。「お金持ちになりたいんじゃなくて、自分がやりたい仕事のために、たまたま大規模事務所が必要だった」といったところが真実だとすれば、地方で「自分がやりたい仕事のために手弁当で頑張って人権救済活動に勤しむ」ことと、それほど大きな違いはないように読めたのですが、いかがでしょうか。(ただ、大規模法律事務所というのは、その業態からみて経営リスクの分散化が非常に困難であって、経営陣は夜も眠れないときがあるんじゃなかろうか・・・といったことも少し感じました)
新会社法が施行されて、外資脅威論のようなものが再燃し始めておりますが、果たして本当に外国の優良企業は日本市場をターゲットとして日本の企業買収に動き出すのでしょうか。それほど本当に日本のマーケットは魅力的なんでしょうか。案外、あの数年前の大阪弁護士会と同じような風潮が蔓延しているだけだったりして・・・・、などと考える今日この頃でありました。
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コメント
toshi先生,おはようございます。
今回のエントリは非常に興味深いもの
でしたので,一言コメントさせて頂きます。
現在,都会の大規模事務所に対する「脅威論」
が地方の先生方を中心に決して少なくはないと
思われますが,大規模事務所が地方の仕事を
奪うということは私もほとんど無いように
思います。
と申しますのも,これは,もう既に大規模
事務所の経営がほとんど「ビジネス」あるいは
「企業活動」の域に達しているせいでもある
わけですが,数百人の弁護士,それも決して
人件費の安くないアソシエイトを大量に
抱えている大規模事務所の場合,ある程度の
「単価」のない仕事ではそもそも旨みがない
のです(もちろん,大規模事務所が旨み
んpない仕事を引き受けていないと批判する
趣旨ではなく,ある程度の単価のある仕事で
ないと大規模事務所は潰れてしまうのです)。
では,翻って,地方にそこまで「単価」の
高い仕事があるかといくと,やはり,東京
かた離れてしまうとどうしてもビジネスの
規模は小さくなり,仕事ととしてはむしろ
あまりやりたくない部類に入ると思うのです。
丁度,日本経済の構造自体が,大企業と
中小企業で成り立っており,大企業が
全ての中小企業を飲み込んでいくかと言うと
決してそんなことは無いように,「棲み分け」
がなされるように思うのです。
大規模事務所の固定費は決して比率として
低くありません。
その意味で,受忍できる仕事には一定の
選り分けが働かざるをえないのです。
その意味で,大規模事務所が地方の事務所の
先生方の仕事を奪うと言うのは,幻想では
ないかと私は思います。
固定費が低いのは,逆に強みでもあるわけ
です。
投稿: 一言 | 2006年5月18日 (木) 07時45分
おはようございます。Toshiさんのエントリーを見て、私も内定が決まっていた修習生のころ、「国際司法書士」とか「ただの文書屋」とかボロクソに言われ、修習生なのでタダ飯を食わせてもらっている手前たいした反論も出来なかった苦しい日々を思い出しました笑(ちなみに私は大阪修習ではありません^^)。まだ「自由と正義」は手元に届いていないんですが、どうなんでしょう、渉外事務所の実態というのはまだ世間から相当誤解されているところがあって、しかしながら中の人間も全てを言うわけにはいかないという事で、perception gapは以前そのままという感じがします。他の方のブログでは仕事をしたことがあるというだけでステレオタイプの言説があったりしますし、我々も「それは違うでしょう」と思ってもあえてコメントしていないだけというのが結構あるような気がします。ま、私のような下っ端には分からない伏魔殿があるかも知れませんが笑。取り留めの無い内容ですみません。
投稿: NYlawyer | 2006年5月18日 (木) 07時54分
>一言さん
はじめまして。コメント、ありがとうございます。大規模事務所の固定経費といったものは、アソシエイト一人当たり1000万円の年収を基準に考えたり、立地条件のよいオフィス運営などを考えると、想像を絶するものがあります。私が驚きますのは、そういった経費に見合う仕事をいかに「社会的有用」なものとして作り上げてきたか、そのノウハウのところです。外資と国内の業務比率について、かなり具体的な数値を上げてお話されていらっしゃった(座談会記事)ので、国内企業において「リーガルリスク管理の必要性」をどのように高めていったのか、本当に興味のあるところです。
また、気軽にコメントお願いいたします。
>NYlawyerさん
おひさしぶりです。そういえば、以前の「法律事務所のハコ」のときにも適時コメント頂戴しましたよね。(ということは、その間もずっとご覧いただいている・・・という推定が働くわけでして、どうもありがとうございます)
いや、今回の「自由と正義」はたいへんおもしろい記事に仕上がっていますよ。ここではご紹介できませんが、おそらく東京の法律事務所の方々も興味をもってお読みになっていらっしゃると思います。そもそも「大規模渉外事務所の現状と将来」といった見出しにしようと(編集部が)考えていたようですが、出席者からの要望で「渉外」という言葉がとれたんだそうです。これは、今回の私のエントリー内容とも関連するたいへん重要な部分なんですね。
また、遊びに来てくださいね。
投稿: toshi | 2006年5月18日 (木) 11時07分
こんにちは。いつも興味深く拝見しております。toshi先生と同業の東京の者です。
私もこの特集号、読み終わりました。
一番面白かったところは、サッカーチームと法律事務所の組織とを比較した部分でした。
「すべての人が優秀である。相互監視が行き届いている。相手のゴールにけりこめばいい、という目標がクリアである」
といった条件が揃えば、特別に「上命下服」の関係がなくてもホリゾンタルな組織はワークする、
という件は「なるほど」と感心いたしました。
しかし、たしかに理想はそうですが
はたして「優秀な人材」が集まっているかと
いいますと、これも現実にはそうもいかない
ところもありそうです。
ある程度は上命下服の世界もあるでしょうし、
アソシエイトもそれを希望するときもあるでしょう。
このあたりは中堅の事務所にとってもかなり
難問のように思います。
とりとめのない話で恐縮ですが、こういった
話題で盛り上がるブログがあってもおもしろい
ですね。
今後のtoshi先生のますますのご活躍に期待
しております。
投稿: ろーとる | 2006年5月18日 (木) 12時51分
なるほど、「渉外」が障害になった、と。。
それはさておき、私は先生のエントリーはアップされるたびに拝読しておりますので今後ともよろしくお願いします。
投稿: NYlawyer | 2006年5月19日 (金) 01時41分
>ろーとるさん
コメントありがとうございます。
私も詳しく読んでおりませんでしたが、サッカーチームの話、出てきましたね。まあでも、優秀な方が集まっておられる、というのは、現在の修習生の就職事情を客観的にみますと、当たっているのではないかなぁ・・・とは思っております。うちの事務所で修習された方をみておりましても、やっぱり「これはできる」と思われる人たちは裁判官か大規模事務所に就職されているような(いえ、みんなそうです、とは申しませんが)
やっぱり、このあたりの話を断定的に語るには、大規模事務所のパートナーあたりになってみないと・・・といったところがホンネであります。
また、いろいろとご教示ください。
>NYlawyersさん
そうですか。どうも、ありがとうございます。
私はおそらく「生涯」「渉外」とは無縁の弁護士でして、対照的な人生ではございますが、すこしでもココロの琴線に触れるようなエントリーがありましたら、また気軽にコメントしてやってください。
投稿: toshi | 2006年5月19日 (金) 02時33分
大規模事務所は「One Stop Shopping」なんですね。何でもできるよう、多くの人を抱え、料金の高さをステータスとし、そのため大規模案件しか相手にせず、相手にできないといったところでしょうか。地方の小企業では、外資の大手事務所に頼んだら、弁護士料金で倒産という笑えない話もでてくるかもしれませんよ。なんせ6分または10分単位で請求されますから。
投稿: さなえ | 2006年5月19日 (金) 08時04分
さなえさん、こんにちは。コメント、ありがとうございました。(レス遅れてすいません・・)
うちに出入りされていらっしゃる法務部の方は、大阪本社であっても、複数の東京の大規模法律事務所と顧問契約を締結しているところが多いですよ。料金の高さは承知のうえで、さなえさんが指摘しているとおり「今日は知的財産だったけど、明日は独禁法の相談できる?」といった企業のわがままに即時対応してくれちゃうわけです。(相談料は6分いくら・・・ではなかったかと思います。私のところでも10分きざみですが)なかなか大阪の事務所ではまねの出来ないビジネスモデルもありますし、関心いたしますね。
投稿: toshi | 2006年5月20日 (土) 13時15分
むかしロッキード事件が起こったとき、コーチャン氏らの米人を証人喚問する必要があったのですが、これを担当したのは大阪の弁護士でした。当時の東京には、英語で専門的なやりとりまでできる弁護士が一人もいなかったのです。
時代はうつりかわり、今では外資系を専門とする渉外事務所のようなものまでたくさんあります。そして、そこへどういった人たちが雇われているかというと、文学部の大学院を出てから司法コースに進んだり、難関法学部を出たような若手弁護士たちです。彼らは英語くらいなんでもありません。ロースクール制度になってから、他学部を出てから法曹になることが容易になりました。これからは医師でかつ弁護士とか、異様に工学にくわしい弁護士とかいろいろ出てくるかもしれません。でも、これらが需要があるのはやはり東京だけだと思います。ミス東京の弁護士とかもありかもしれません。
投稿: hamster | 2007年3月 9日 (金) 23時56分