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2006年6月30日 (金)

定款変更議案の分割決議

hardwaveさんも取り上げていらっしゃいますが、今年の株主総会でも、定款の一部変更議案が3分の2の賛同を得られずに否決されたり、賛同見込みがなくて事前に提案を取り下げ(修正?)された上場企業が見受けられたようです。以下は毎日ニュースからの抜粋です。

 会社法で、四半期配当など配当を柔軟に行ったり、取締役の解任要件を厳しくする定款変更などが可能になった。  任天堂は、配当を最終的に決める場を株主総会から取締役会にする定款変更が、必要な3分の2の賛成を得られず否決された。「高い配当を実施してきたことなどを訴えたが、少し及ばなかった。次の株主総会で改めて提案したい」と説明する。ミツミ電機も事前の議決権行使状況から可決が難しいと判断し、提案を取り下げた。  企業年金連合会は配当に関する定款変更議案201件のうち、株主が賛否表明する機会がなく、取締役の権限が強くなりすぎると判断した127件に反対。取締役の解任要件を厳しくする議案19件はすべて反対した。

新しい会社法が施行されて、経営の自由度が増したと言われておりますので、今後も株主総会議案として、「定款の一部変更議案」というものはけっこう上程されるケースが多いと思います。しかし、否決された企業の「結果に関するお知らせ」を読んでみますと、たくさんの定款変更箇所を予定していたとしても、そのうちのたった一つの変更予定条項に一部の機関投資家が納得しなければ、すべての変更部分の「否決」につながりますので、結局のところ「なにも定款を変更できなかった」という結果に終わるわけですね。しかし、この結果については、会社側、株主側どちらにとっても不本意なことになるのではないでしょうか。やはり、こういったときは定款変更議案に関する分割決議というものも考えておいたほうがいいかもしれませんね。とりわけ、実質株主がなかなかつかみづらいような企業においては利用する価値もありそうに思います。

今年3月31日に発表されました「企業価値報告書2006」の63ページ以下におきましても、定款変更議案の分割決議を利用することが提案されておりますし(ただし企業価値報告書では、買収防衛策導入に関する定款変更に焦点をあてておりますが)、実際に2003年の東京スタイルの株主総会においても(MACが暴れていたときでしたっけ?)定款変更議案を4分割にして、それぞれの提案について賛否を表明できるようにしていたようです(ただし議案を一つとして扱った、とのこと)理屈で考えてみましても、一つ一つの定款変更部分をひとつの「議案」として上程することは可能なように思えますが、実務上では総会の議事進行に関してはあまり法律で定められておりませし、一括審理的な発想からひとつの議案として運用されていると考えられます。また、定款変更議案については、会社法施行規則66条1項1号(取締役の選任に関する議決権行使書面の作成手続、個々の候補者ごとに賛否を問えるような形式に関する規程)のような規則もありませんので、一括して議案を上程する、というのも法の趣旨ではないか、と思われます。ただ、こういった理由から通常、一括してひとつの議案として審議されるのであれば、積極的に「ひとつの議案にはひとつの決議でなければならない」といった原則に例外を許さない理由はないわけでして、決議自体を分割して、否決された部分と可決された部分で決議の効力を分けることも、総会の議事運営の裁量の範囲内にあるものとして、法的に可能ではないかと思います。ただし、定款は会社の根本規範として、いろいろな部分で条項が相互に関連しているところもありますので、分割の方法としては、相互に関連性をもたないような箇所で分断しておいて、さらに会社側から株主に対して分割決議を行うことの承認を得た上で、採用すべきではないか、と考えております。

まぁ、そもそもこういったことを考えないで済むように、企業としては総会前に株主の皆様方に十分説明をすることがもっとも重要なことであるのでしょうが。。。

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2006年6月29日 (木)

「事前警告型」買収防衛策の承認決議

株主総会シーズンもあと一日(29日)を残すのみとなりまして、定款変更議案や、総会決議案として、事前警告型の買収防衛策を総会の決議にはかる企業も飛躍的に増えたようです。以下は新聞報道からの抜粋です。

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買収防衛策導入141社  「事前警告型」が95%

 今年に入り買収防衛策を導入したり導入を表明したりする企業が相次ぎ、既に昨年1年間の5倍を超える141社に達したことが、野村証券金融経済研究所の調査で24日、分かった。うち敵対的買収者の出方を見て対抗策の発動を決める「事前警告型」と呼ばれる防衛策が95%を占め、主流になっている。

 会社法施行に伴い、外資による国内企業買収を容易にする「三角合併」が来年5月に解禁されることなどを背景に防衛策導入企業が続出。経営者の自己保身につながるような防衛策に対する株主の目は一段と厳しくなっており、開催が本格化した株主総会で防衛策導入の是非をめぐる議論が焦点になっている。
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敵対的(と思われる)に買収をかけてきた企業の買収提案と、対象企業の現経営陣が提示する対抗案をじっくり株主が検討する時間を確保する、といった防衛策導入目的はよく承知しているのですが、いまでも、この「事前警告型」のプランへの疑問というのが拭いきれません。東京地裁決定(平成17年7月29日決定、夢真・日本技術開発事件)の存在や、会社法施行規則127条の存在(防衛策の事前開示)から、なんらかの買収防衛策の導入や、それが平時になされることにつきましては、おそらく適法と判断される場合があることは理解できるのですが、「敵対的買収者とのルールを一方的に事前に決める」ということが、果たして株主総会の決議になじむものかどうか、といったあたりがどうも釈然としません。たしかに、企業年金連合会や外国の機関投資家の要望によって、あるいはこれまでの裁判例にしたがって、買収防衛策の導入に株主意思による承認が必要ではないか、との意味合いから総会決議事項として、株主意思を問うことをよしとする判断があるのかもしれません。しかしながら、果たして事前警告型の防衛策導入という事項が株主総会の決議事項たりうるか、といった問題をクリアできたとしましても、そういった決議事項が「公正な決議」といえるかどうか、まだまだ議論の余地があるのではないか、と思っております。

まず、「ルール」というものは、本来、相手方を拘束するものである以上は法律によって決められるものか、契約によって決められるべきものであるはずです。事前警告型の防衛策が、相手のルール違反によってなんらかの相手方に対する権利侵害を正当化するものであるわけですから、法によってそのような権利侵害が正当化されるか、もしくは相手方の事前の承認を必要とするとみるのが正論ではないでしょうか。(事前警告の存在を知りつつ、あえて買収手段に入った相手方の行為を「ルールの承認」とみなすのはちょっと暴論でしょう)そうであるならば、対象企業の株主総会の決議によって、そういった相手方のサンクションを伴うルールを決めて、そのルールに従うことを強要する正当性などあるはずもなく、そのような決議(もしくは定款変更)は公正とはいえないと思われます。また、一歩譲って、総会で承認しているのは「他社を拘束するルール」ではなく、「自社の行動ルール」にすぎない、と解釈できるとしましても、相手方といいましても、その相手方が問題となるのは、たとえば20%の対象企業の株式を取得した場面でありまして、れっきとした「株主」なわけです。対象企業の現時点における多数派株主が、将来登場するかもしれない少数派株主の権利を一方的に制限する(もしくは制限することを承認する)、ということは果たして現時点の多数派株主に許される行為なのでしょうか。これは明らかに株主平等原則に反する行為であって、会社法にいくつか規定されている少数株主の排除規定のように、明文で例外が認められる場合以外には認められないのではないか・・・とも思えますし、「自社の行動ルール」と解釈した場合であってもやはり「公正な決議内容」とは言えないように思います。本来、株主総会で否決されたとしましても、こういった事前警告型の買収防衛策を導入することは可能でしょうが、株主総会で承認を得たことが、発動時における適法性を高めることにはならないだけでなく、そもそもそういった承認決議というものは無効になる可能性もあるんではないでしょうかね?私はこういったM&A関連の専門家でもなく、まったくの素人考えではありますが、どうもそんな気がしてしかたありません。

雑誌「ビジネス法務」(中央経済社)の1月号で、事前警告型買収防衛プランの考案者でいらっしゃる藤縄弁護士のインタビュー記事が掲載されておりますが、そのなかで(14ページ)、「しかし、より率直に言えば、個別企業が防衛策を入れるよりは、代替案が提示される機会を確保するような工夫を公開買付ルールに盛り込む方向に改正するほうが、本来あるべき方向性だと思います。弁護士の仕事は減りますが、立法で手当てしたほうが社会的コストもはるかに安いはずです」、(17ページ)「たとえば、公開買付規制などは、税法と同じくらい頻繁にかわってもかまわない、やってみてダメだったら変えればよい、と私は思っています」と述べておられます。そもそもルールを事前に決めるのが事前警告型の核心部分でしょうが、そういったルールというものは、証券取引法あたりで、きっちりTOBルールのひとつとして規制すべきでなければ、その正当性は認められないのではないかなぁと思うのですが、いかがでしょうかね。

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2006年6月28日 (水)

刑事裁判における民事賠償額判断

とりあえず無事総会も終わりましたので、あまりビジネスに関係のない話題をひとつ。

何日か前の報道(日経ニュース)ですが、傷害事件や横領事件などを中心に、刑事被告人の被害者(被害会社)に対する民事上の損害賠償判決を、刑事事件の裁判の中でやりましょう(付帯私訴)ということで、法務省が導入を検討されているそうです。岡口裁判官もすこし疑問をお持ちのようですが、これって損害額に関する争いがあるケースでは、一般の民事事件で審理する機会は保障されているのでしょうかね?そうでないと、せっかくの迅速な刑事裁判が、民事上の紛争のために長期化してしまわないか、との危惧があります。

また、被害者側、被告人側からの問題点をあげますと、まず被告人側からみると、情状をよくするために示談の努力をするわけですが、こういった損害額確定手続がありますと、被害者側がむやみに示談に応じてくれなくなるおそれがあるのではないか、と思います。とりあえずの示談というのは、刑事事件の判決が出るまでに行うことが、現実の被害救済のためにも有意義な面がありますが、もし被害者側が損害額確定までは民事上の話し合いはしない、と決めたとなりますと、高額の賠償判決は出ても現実には一銭も被害賠償金を手にすることができない、といった事態も考えられます。そのあたりを、実務の運用でどう考えていくか、これからの課題ではないでしょうか。

被害者側からの問題点をあげますと、余罪の被害者の取扱です。傷害事件や財産的犯罪の起訴といったものは、直近の1件を起訴して、それまでの多くの犯罪行為については余罪として情状の点で斟酌するケースが圧倒的ですよね。そういった場合、その直近の1件の被害者については民事的な救済を受けられても、ほかの余罪の被害者については救済は無視される、ということになるのでしょうか。これでは、事件によって、あまりにも被害者に不公平な結果になりはしないでしょうかね。

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お世話になったT監査役とK監査役

K監査役、T監査役殿

明日(28日)、そろって退任されますが、この2年間、本当にお世話になりました。会社勤めの経験もない世間知らずの私を、いろいろとご指導いただきまして、本当に感謝しております。Tさんは、某都市銀行出身でこの会社には先代社長時代から16年在籍されました。資本政策や財務、取引先対策など、この2年間に教わったことはたくさんあります。とりわけ人的ネットワークの活用の大切さを教えていただいたことは貴重な経験でした。話し好きなTさんが会社を離れることに少し不安を覚えておりましたが、なんと出身銀行OB会の副支部長になって、またちょこちょこ大阪の中心部に顔を出されるんですね。やっと最近になってTさんから認めてもらえるようになった、と思っていましたが、そんな頃にお別れするのは寂しいかぎりです。

Kさんは、ずっとこの会社で勤務され、最後の数年間を常勤監査役として頑張ってこられました。まさに私がこの会社の社外監査役として「会社に興味を持つ」きっかけを作っていただいたのはKさんです。監査役と経営陣とのスタンスを教えていただいたのは、Kさんであり、会社を愛するがゆえに、社長に苦言を呈する(だいたい、監査役から要求する内容は社長にとっていつも億劫なことですよね)姿は凛としていて、そういったなかで「顧問弁護士」としてでなく、「社外監査役」として法曹が企業に関与するおもしろさを見出しました。Kさんも、私に影響されてか、公認コンプライアンス・オフィサーの試験を受験され、みごと合格されました。Kさんのお歳で、それほどの情熱をお持ちであることは畏敬の念すらおぼえます。7月からは京都の会社でまたお勤めになる、とのことですが、どうかオフィサーの資格を次のお仕事に役立てていただければ・・・と期待しております。

この会社も、明日の総会で株主の皆様から信認を得ることができましたら、いよいよ弁護士と公認会計士という社外監査役2名と、部長上がりの常勤監査役1名という、一気に平均年齢が40代となるフレッシュな監査役会を構成することになります。私が理想とする企業会計新時代に期待される監査役像に近いイメージで、企業経営を側面から支える役割を考えていきたいと思っております。

7月には、私が自信をもってお勧めします南堀江の日本料理のお店でご慰労申し上げますので、どうか明日は最後のお役目、頑張ってください。そして、会社を離れた後も、ときどき叱咤激励をお願いしますね。本当にありがとうございました。

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2006年6月27日 (火)

会計監査人の内部統制(4)

中央青山監査法人の行政処分問題も、カネボウ事件調査委員会の調査報告書(骨子)が出され、そして中央青山監査法人が金融庁へ報告書を提出した段階となったことで、監査法人としての内部統制問題も輪郭がつかめてきたのではないでしょうか。基本的には金融庁から指摘を受けたレビューパートナー制度(パートナーレビュー制度?)のあり方を重点的に改善することや、内部通報制度を充実させることなど、いわゆる組織における「性悪説」に立った組織改革が中心になっているように思われます。カネボウ事件調査委員会報告(骨子)にも、「性善説」に立った審査体制は、こういった大きな組織になるとリスクが大きいと評価されておりまして、その監査体制の甘さが指摘されているところであります。

ただ、いつもこういった管理体制の調査報告や見直しが公表されるときに思うのですが、今回のような事件が発生した場合に、「あるべき体制」が整備されれば、事件は防止できるのでしょうか?(かりに防止できる、と断言できたとして)どのようなシステムの機能によって事件が防止されるのでしょうか?あらかじめ、あるべき体制を整えても防ぎきれない「内部統制の限界」はある、そして、それはどういった場合なのか、といったことは留意点として指摘しなくてもよいのでしょうか?そういった諸点をきちんと押さえておかないと、いくら立派なことが書かれておりましても、調査報告書にせよ、体制改善報告書にせよ、あまり説得力がないように思いますが、いっこうにそういった今回の事件と改善策による防止可能性との因果関係については触れられておりません。監査法人の内部統制というのは、ある意味、公認会計士協会が祈念してやまない「自主規制による不正防止の強化」の要であるはずですよね。もしこれが有効に機能しなければ、現在検討中の「監査法人への刑罰適用(両罰規定)」が実現してしまうことも視野にいれておかないといけないのではないでしょうか。とりわけ、このカネボウ事件調査委員会報告書では、平成14年3月期から同16年3月期のレビューパートナーについては、関与社員がカネボウとあまりにも親密に粉飾の計画を立てていたから、巧妙な虚偽の説明を看破し、カネボウの問題点を的確に把握することは相当に困難だったと結論付けていますが、この結論からすれば、「性悪説」によるレビューパートナー制度に改善したところで、きちんと見抜けるようになるのかどうかはまったく疑わしいところではないでしょうか。ともかく会計のプロであり、またレビューパートナーのプロでもある会計監査人本人が事件に関与した場合、そういった制度の穴をうまく抜けて企業と共謀してまた不正経理に加担する、といった事態は容易に予想できるところでして、この改善策がなぜカネボウ事件再発防止に役立つのか、私にはまったく理解できないところであります。また、そもそも会計士さんの集団組織に「性悪説」を前提としたシステムはタテマエのうえで妥当しますかね?会計士さんには不正摘発といった職責はなかったんじゃないでしょうか。現在の法律を前提とするならば、審査をするのは、監査の品質管理のためであって、タテマエのうえでも「何か悪いことに関与しているのではないか」といった疑いを前提とした制度は許容されないんじゃないのかなぁと思ったりもしております。

先週、公認会計士協会近畿支部の方とお話をしていたときに、会計監査人の内部統制について、上場企業の監査役はどうやって、その相当性を判断したらいいのか、実務はどうなるのか、とお聞きしてみましたが、「おそらく企業向けに配布予定の内部統制に関する説明書を監査役に渡して、そのとおりにやってますから、と説明する。監査役もよくわからないうちに、そうですか・・・と言って相当性あり、と判断する、といった流れになるんじゃないでしょうか」との説明でした。そりゃ、ご自分が監査役を務める企業が粉飾決算をしているのであれば、責任を会計監査人に転嫁するよりも真っ先に監査役の責任を問われてもしかたないかもしれませんが、他社で同じ監査法人の会計監査人に不祥事が発生した、といった場合、その内部統制が問題になることもあるわけですし、「おたくはあの会社と同じ監査法人に監査をお願いしているはずですが、なんで監査役はその内部統制を相当と判断したの?」と問われたら、結構困りますよね。どう答えましょうか。それこそ「内部統制の限界論」とか「専門家集団における信頼の権利」でも持ち出しましょうかね?いろんな意見があってもいいとは思うのですが、上場企業の監査役たる者、会計監査人(監査法人)の内部統制の相当性判断はかくあるべし、といった個々の哲学は持っておいたほうがいいのではないでしょうか。(そこまで悩む監査役が出てくると思って会社法施行規則が出来たかどうかは不明ではありますが)

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2006年6月26日 (月)

特別取締役制度

企業価値というものを、社外役員の立場からマニアックに考えてみようと思って始めたこのブログも、気がつくとすでに14ヶ月目に突入しようとしておりまして、(以前のドリコムの時代を含めるともすこし長いのですが)これからもマニアックな視点というものは忘れないようにしたいと思いながら、今日は会社法373条の「特別取締役制度」についてすこしばかり備忘録として書き留めておきます。

6月19日の日経新聞では上場企業720社の回答をもとに、会社法対応調査結果が掲載されておりまして、同日の日経産業新聞では、詳細な回答集計表も掲載されています。定款変更議案との関係から、事業報告のネット開示や取締役会決議省略制度を多くの上場企業が導入予定であることは予想どおりでしたが、ほとんど関心がないとされているのが「特別取締役制度」の導入です。ちなみに、上記集計結果によりますと、「今後導入を検討している」を含めても1,3%、「当面、導入する考えはない」は96%ですから、ほとんどの企業で「特別取締役制度」は検討の対象にすらなっていない、ということのようです。以前、このブログでは「会計参与」の制度について深くツッコんでみましたが、「特別取締役制度」についても本当に重要財産委員会制度の後継制度として不人気のまま、終わってしまうものなんでしょうかね。ただ、鉄道事業会社のなかで、2006年3月度の不動産事業のROA(総資産利益率)がダントツのトップであり、資産の有効活用において優秀な成績を残している京王電鉄は、この5月における内部統制システムの整備に関する基本方針のなかで、取締役の職務執行の効率性を確保するために、この特別取締役制度を活用することを明言されておられますし、「意外とコーポレートガバナンス研究の先端をいく企業においては、特別取締役制度に注目しているのではないか」とも考えたりしております。

まだいろいろと持論を述べるほどには見解も固まってはいないのでありますが、そもそもなぜ特別取締役制度というのは(取締役会の決議要件の特則といった位置付けでありますし、取締役会決議のみで導入可能なものではありますが)、かならず1名以上の社外取締役が存在することが要件とされているのでしょうか?ここのところがうまく制度趣旨との関係で説明されている基本書というのはあまりみたことがありません。相澤さん、葉玉さんらが著した「論点解説・千問の道標」あたりにも、この特別取締役による取締会決議について5ページにわたって解説がなされておりますが、そのなかでも、「なぜ社外取締役が存在する場合でなければ特別取締役制度を用いることができないのか」については説明がなされておりません。6月20日に経団連から出されました「我が国におけるコーポレートガバナンス制度のあり方について」と題する提言におきまして、経団連は社外取締役制度に関しては否定的な見解をはっきりと示しておりますが、この新しい会社法は、社外取締役がコーポレートガバナンスにおいてどういった役目を期待しているのか、そのあたりを推測するには、この特別取締役制度の趣旨に関する公式な解説が役立つのではないかと思っておりますが、どうも「社外取締役の存在が決議要件とされていることの意味」をきちんと解説されているものがみあたらないのです。これ、素直に制度趣旨を考えますと、会社の重要な業務執行の意思決定にあたっては、社外取締役の存在はジャマな場合もあるから、そういった社外の人間に情報を伝達することなく迅速に意思決定することも可能にしたものである、と解釈してよろしいんでしょうか。でも、それだったら最初から社外取締役を導入しなければいいわけで、どうもすっきりとした考えが浮かびません。また、会計参与のときと同様、企業のパフォーマンスとの関係なども考察しながらじっくり考えていきたいと思っております。

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2006年6月24日 (土)

第2回オフィサーフォーラム

ずいぶんと前から出席通知を出しておりまして、第1回のコンプライアンス・オフィサーフォーラムで出会った方々(このブログにも数名の方が登場しますが・・・)と再会するのを楽しみにしておりましたが、大阪での本業のほうがどうしても抜けられず、第2回のコンプライアンス・オフィサーフォーラムを欠席してしまいました。青山学院の八田教授がゲスト講演をされるだけに、誠に残念、無念。。。。。ACFEの勉強会も東京が中心ですし、こういった会合については地方の人間はつらいです。(泣)

もし、フォーラムに参加された方、もしよろしかったら、どんな雰囲気だったか、どんな講演内容だったのか、コメントでも、メールでも結構ですので、教えていただけますでしょうか?

(6月27日午前追記)

コンプライアンス・オフィサー認定機構のほうから、当日の様子などをお教えいただきました。ご厚意に感謝いたします。ありがとうございました。また、オフィサー仲間であるぐっぱるさんがフォーラムの様子をブログにアップされておられます。

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2006年6月23日 (金)

奈良の放火殺人少年事件について

(週末ということで、ビジネス法務とは無関係のエントリー、お許しください。)すでに報道でご承知のとおり、奈良県で16才の少年による自宅放火(殺人)事件が発生したようですが、私の周囲には、お子さんをこの少年が通っている中高へ通わせている同業者の方がたくさんいらっしゃいますので、彼の情報というものも、朝からあれこれと聞きました。事件に関する感想などを語る資格はありませんので、詳細にブログに書くことは控えますが、それにしましても今回の事件ほど、男性と女性とで感想にはっきりと差が生じる事件も珍しいのではないでしょうか。試しに、みなさま、男性のブログと女性のブログでこの事件をどう捉えているか、比較してみるとよくおわかりになると思います。

男性はほとんどが、医師である父親との葛藤、進学校で成績が伸びない悩み、父親への尊敬とその反動といった部分に焦点をあてています。これに対して、女性はまずほとんどが「愛」を切り口に語っていらっしゃる。彼の家庭は5人家族であったが、実母と実妹との面会もできない状況での孤独感に焦点をあてています。報道では、どちらかというと、前者のほうが動機に近いとされていますが、私はどちらかといいますと、後者のほうがより動機形成への要因に近いのではないかな・・・と考えております。3年前、私は関西でトップの進学率を誇る私立高校生の傷害事件の付添人をしましたが、そのときも表面上は、医師である父親への反抗といった体裁でしたが、何度も彼と面談するうちに、彼曰く「愛情偏向への蟠り(わだかまり・・・・、私は彼の書いた反省文のこの漢字が読めませんでした・・・)」というところに辿り着きました。これは彼を担当した家裁調査官の意見とも一致しました。推測で物事を判断するのは弁護士としては「はしたない」と思いますが、今回の事件では医師の息子であるとか、進学校に通っているということはほとんど動機とは関係なく、ただただ、16才の高校生としての家庭における「居場所」のほうが動機と強く関連しているのではないか・・・、おそらく既に付添人が選任されていると思われますが、いったい彼の口からどんな真意が語られるのだろうか・・・と思案しているところです。(それにしても、あまりにもショックな事件であり、不幸にしてお亡くなりになったご家族の方々のご冥福をお祈りいたします。)

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内部統制システム構築と取締役の責任論(後編)

(ブラジル戦を前にして、誰にも読んでいただけないことを知りつつ・・・・)さて、昨日の「内部統制システム構築義務と取締役の責任論」のつづきでありますが、この6月9日に大阪高裁から出されましたダスキン株主代表訴訟控訴審判決によりますと、原審では善管注意義務違反が認められなかった取締役、監査役(つまり、業務担当取締役および早期に異物混入肉まんの販売事実を知った代表者以外の人たち、社外取締役を含みます)にも、ひとり2億円余りの範囲において連帯して損害賠償責任を認めているわけでして、この損害賠償責任の法的根拠はどこにあるのか、といったところが大いに問題となるわけであります。

いかんせん190頁にも及ぶ判決文ですので、短時間に頭の中で整理するのも一苦労なんですが、このあたりの争点につきまして、株主側の代理人弁護士の方々(大阪でも著名な先生ガタが並んでいるのですが)は、内部統制システム構築義務という構成で主張を組み立てておられまして、一言で説明しますと「消費者の信頼を裏切るような重大な問題が発生したことが取締役会で報告された場合には、早期に重大問題発生の事実を公表して、企業としての具体的な対応方針をすみやかに決定できる体制を整備すべき義務があったのに、これを怠ったところに任務懈怠があった」と主張されております。ところが、高裁判決では、この株主側の主張にはほとんど何も回答することはなく、MD(ミスタードーナッツ)調査報告によって、違法添加物混入肉まんが、そのまま継続して販売されていたことや、関係当事者からの脅迫に口止め料を支払っていたことなどをすべての取締役、監査役が知った後の取締役会としての対応(いわゆるクライシスマネジメント、リスク管理「体制」のことではありません)と取締役の善管注意義務の関係を詳細に論じて、最終的には義務違反があったと結論付けております。突発的な会社の重大問題が発生した際に、取締役がいかに行動すべきか、といったことに関しては「経営判断の法理」が適用されるのが常道であって、その際における取締役らの裁量の範囲は広範なものとされておりますし、アメリカほどではないにせよ、日本の裁判所も経営判断については深く審査対象とはしないのが通説的見解かと思われます。そして、この高裁判例もこれまでの判例と同様、リスク管理(クライシスマネジメント)には経営判断法理が適用されることは当然のことである、との前提を崩していないようです。ところがこの判例は、本件では「経営判断の法理」は適用されないと明言されているんですね。なぜかと申しますと、会社の存亡にかかわるほどの「会社ぐるみの不祥事隠蔽工作」が将来発覚してしまうことと、このまま取締役会で何もしないで放置していることを秤にかけて、放置することで将来的な発覚がなかった場合に賭けてみよう、といった判断というのは、一見するとリスク管理のようにも思えるわけですが、この高裁判決は、「将来発覚することは確実に予想されていたことであって、当時の状況からして、発覚しないことに賭けるほどの不確実性はない」と、詳細な証拠認定から結論を導き出すわけです。したがって、経営判断法理が適用される「リスク管理」の概念が妥当するようなものではなくて、この取締役らの放置はいわば「いつ発覚するか、その時期を遅らせるだけの問題の先送りをしたにすぎない」と評価して、取締役らは、大きな傷を受けることになるけれども、一部の取締役の不祥事と口止め料の支払という過去の出来事を公表して、すでに自浄作用が働いていることを一般消費者に伝えれば、ひょっとしたら会社存亡の危機を回避できたかもしれないのだから、その方策を探らずにただ漫然と「事実を公表しない」といった方針を決めてそのまま放置していたことは、会社の損害回避のための措置を怠ったといわざるを得ず、善管注意義務違反を認めることができる、とされております。(もうひとつ大きな論点として、そもそも取締役らが早期に企業不祥事を公表していたとしても、同じようにマスコミに叩かれ、消費者からそっぽを向かれるのであるから、放置していたことと損害との間に因果関係は認められないのではないか、という問題がありますが、ここではその論点については割愛させていただきます。なお、この点についても高裁は独自の理論を展開しておりまして、今後の法研究者の方々による議論が楽しみな部分であります)

上記のような私的な判例分析から、本件はリスク管理とは言えないといった論理展開となっておりまして、逆に申し上げるならば、もし将来的に企業不祥事を公表しないことによって、そのまま企業不祥事を「うやむやにできる」ことが状況として「あり得る」ならば、これは「リスク管理の問題」となりますから、「積極的には公表しない」といった判断も会社の損害回避のための一手段としては検討に値するものである、と読めます。純粋に考えてみますと、取締役は会社から株主価値を最大化するために委任を受けて業務を執行しているわけですから、たとえ企業の存亡に関わるような企業不祥事が発生したとしても、それが隠し通せる可能性のあるものであれば、「墓場までみんなで持っていく」ことが違法とは言えない場合もありうる、ということも考えられるのではないでしょうか。実はこの高裁判決のなかでも、(当否は別として、と前置きしたうえで)違法添加物が含まれていた肉まんを継続販売した事実は公表すべきであったかもしれないが、うまく対応していれば「口止め料を支払った」という事実まで公表しないでもよかったかもしれない・・・といった記述がなされておりまして、なにもかも公表することが企業の使命というものでもなさそうだと思うところもあります。

いえ、私自身の感情的な部分で申し上げれば、企業コンプライアンスの立場からすれば今のご時世、たとえそれを公表することで企業の存続が危ぶまれるような不祥事であったとしても、入念な準備をしたうえで自ら積極的に公表して、消費者や投資家からもう一度信頼を回復する機会を与えてもらう「わずかのチャンス」に賭けるべきであり、「墓場まで不祥事を持っていく」ことは到底、取締役の行動としては許しがたいものであると思っておりますし、私が社外役員たる立場にあれば、そのようにご指導申し上げることは間違いないと思います。ただ、そういった場合、なにを根拠に不祥事を「墓場まで持っていく」取締役の行動を違法と評価するのでしょうかね。逆に申しますと、「隠せる可能性が高い」場合に、私が社外役員として、企業不祥事を公表してしまった場合、私はその企業の株主から善管注意義務違反として代表訴訟を起こされてしまうことになるんでしょうか?

ここまできますと、昨日も少し申し上げましたが、取締役の責任論に到達することになるんじゃないでしょうか。純粋な委任契約の範囲で取締役は会社の利益のために行動すべきなのか、それとも会社法の善管注意義務の根拠としては、もっと広く「株主プラスアルファ」の利益のために行動すべきことにあるのか、それとも「株主の利益」にいう「株主」というのは、現存する株主のことだけを指すのか、それとも企業の持続的成長の先にある「将来の株主」のことも含むのか、などなど。少なくとも「取締役は一般消費者のために行動すべきである」といった単純な図式では解決できない問題を含むものでありそうですし、内部統制システム構築義務といったきわめて「企業コンプライアンス」に結びつきやすい問題を解決する場合には、今後ずっとつきまとう問題を内包しているのが、この「取締役の責任論」ではないかな・・・・・と考えたりした次第であります。(なお、この高裁判決では、おふたりの社外取締役の行動につきましても、かなり詳細に検討されておりまして、その責任論とからめておもしろいテーマも見つけることができるんですが、ちょっとここまで書いて疲れてしまいましたので、また後日ご紹介することといたします。それではブラジル戦で日本選手が1点はゲットできることを祈りつつ、このへんで。。。)

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2006年6月22日 (木)

内部統制システム構築と取締役の責任論(前編)

ここのところ、ダスキン株主代表訴訟控訴審判決に非常に興味を持ちまして、仕事の合間には、ずっと高裁の判決文を読んでおります(もちろん、生計を立てていかないといけませんので、本業優先ではありますが・・・)株主側は一生懸命「ダスキン取締役が構築すべきだった内部統制システムとは、このようなものである」と具体的な主張をされておりまして、被告取締役側も、これに対応して一生懸命反論しているものですから、どういった思考経過をたどって(高等裁判所の裁判官)が、当時の取締役らには内部統制システムの構築義務(善管注意義務)はなかったんだ、と判断したのか、非常におもしろい内容になっておりまして、今後の裁判における争い方に参考になるところが多いように思われます。

本当に事案を簡略化して事実関係をご紹介しますと、平成12年の初めころから、中国の下請工場でミスタードーナッツの飲茶セット「大肉まん」を作らせて、これをフランチャイジーのお店(いわゆるミスド)で販売していたのですが、平成12年終わりころに、日本で未認可の添加物が含まれていることが発覚し、担当取締役らは、これを知りながら在庫品を全て販売してしまった、その半年後には、(関係当事者による業務担当取締役への恐喝事件なども発生したことから)社内で問題が大きくなり、全ての取締役、監査役の知りうるところとなったわけですが、社内処分を決めただけで、もう販売もしていないし、消費者になんらかの被害報告も出ていないから、ということで取締役会でも、そのまま放置する方針をとった、というものです。なお、平成14年4月ころに匿名の告発が厚生労働省になされ、直ちに共同通信社の知りうるところとなり、会社ぐるみの隠蔽が報道され、その後ダスキンは正式に記者発表した、というものであります。今回の高裁判決では、原審で善管注意義務違反がない(いや、これは不正確かもしれません。取締役らの「公表しないとした方針」と損害とされている信用毀損との間に因果関係が認められない以上、善管注意義務違反の有無を議論してもしかたない、といったほうが正確かと思われます)とされていた取締役会を構成する取締役や当時の監査役に、「たとえ販売が終了して、流通する商品がなくなり、また消費者に違法添加物による被害が認められないとしても、取締役や監査役らには、公表すべきかどうか判断する必要があり、十分な検討をすることもなく、消極的に事実を隠蔽したのは、善管注意義務違反にあたる」とされ、各2億円あまりの損害賠償責任を課されております。(事実関係の紹介部分おわり)

まず、この高裁判決の評価で問題となりそうな点は、そもそも業務担当取締役以外の取締役や監査役に責任を認めた根拠は、内部統制システムの構築義務違反という法的判断に依拠するのかどうか、という点ではないかと思われます。ひょっとするとこの控訴審判決を評論される方のなかには、この高裁判決は、リスク管理体制整備義務違反を取締役全員に認めたのであって、内部統制システム構築義務違反を認めた、と評価できるのではないか、と結論付ける方もいらっしゃるかもしれません。ただ、そもそも内部統制システムの構築責任を会社法のなかで議論する実益は、取締役の自由保障機能(誠意をもってコンプライアンス経営に努力する取締役は、むやみに監視義務違反に問われない)と、監視義務の補完機能(たとえ情報が、取締役に届いていない場合であっても、重要情報が届くようなシステムを構築することを怠るのは任務懈怠である)にあると思われますので、今回の事件のように、取締役全員が「企業不祥事の隠蔽工作」を知ってしまった後の各取締役らの対応が問題となるケースにおきましては、(会社の重要事実を取締役会で共有するためのシステムが不全だったとか、情報を共有した際における行動規範が具備されていなかったといった問題が論じられているわけではありませんので)そもそも内部統制システムの構築論を持ち出すまでもなく、いわゆる取締役の善管義務と経営判断の法理の関係で議論すれば足りるのではないか、と私は考えています。つまり、各取締役の責任を認めた本件高裁判決におきましても、一審原告である株主が主張している何点かの内部統制システム構築義務違反の事実は、いずれも高裁は認めなかったのでありまして、依然、取締役に内部統制システム構築義務を認めるためのハードルは高いものと感じた次第であります。なお、内部統制システム構築義務を原告株主が持ち出した場合に、これに対抗して取締役側は経営判断の法理を抗弁として提出することが多いと思われますが、こういったケースで原告株主側は「リスクアプローチの応用」によって反論すべきではないか、といった問題を昨年8月25日のエントリー(内部統制システム構築論と経営判断の法理)で少し書かせていただきましたので、そちらも参考にしていただきますと、議論が進化するのではないかと思います。まさに、この高裁判決は、このリスクアプローチの応用によって、経営判断の法理を突き崩しております。(判決文のなかで、「本件は経営判断の問題ではない」と明言されています)

さて、本件判決におきまして、各取締役に会社に対する損害賠償責任が認められた根拠としては、内部統制システム構築義務違反の問題ではないとした場合、それでは善管注意義務のひとつとして、取締役らには不祥事の「公表義務」が認められたと評価すべきなのでしょうか。この判決を報じたマスコミはこぞって「裁判所が公表義務認める」との見出しを打ちましたし、また一審原告株主の代理人弁護士らの記者会見におきましても、弁護士の方が「これは公表義務を認めた画期的な判決である」といったコメントが出されましたので、そういった企業不祥事隠蔽を防止するための「公表義務」といったものを認めたようにも思えます。しかしながら、どうもよく判決文を読んでみると、そういった公表義務といったものをダイレクトに認容したものでもなさそうであります。(少なくとも私はそう感じました。このあたりは異論もあろうかと思いますが)それでは、裁判所はいったいどんな法的根拠をもって、「積極的に公表することはしない」方針を固めた取締役らの責任を認めたのでしょうか?このあたりは、取締役の責任論(会社の利益と株主の利益は一致するのかどうか。取締役は誰の委任を受けて業務を行うのか。会社の社会的責任に法的価値を認めるのか)という大きな問題に関わってくるように思います。(以下、明日につづく)

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2006年6月20日 (火)

ダスキン株主代表訴訟控訴審判決(その1)

ダスキン株主代表訴訟に関与されていらっしゃる代理人の方から、「研究目的であればどうぞ・・・(でも、相手方への支援等はダメですよ)」という趣旨で先日の大阪高裁判決文の写しを頂戴しました。最近の高裁判決は、原審(地裁判決)の判決を丁寧に引用していますので、たいへん読みやすくなりましたが、そのぶんたいへん分厚くなっておりまして、このダスキン控訴審の判決文もA4サイズ190頁に及ぶ大部であります。この「ダスキン株主代表訴訟」にこだわる理由でありますが、なんといいましても、 「企業コンプライアンスと内部統制」といったテーマを司法レベルで検討する「舞台」がそろっている ところにあります。個別具体的な理由を申し上げることは、ちょっとばかり支障ががございますのでここでは抽象的な物言いしかできませんが、一審原告(株主)側は比較的明確に「取締役会を構成する個々の取締役の内部統制システム構築義務」の内容を具体的に主張して、これを争点として裁判所が判断する材料を提案しておりますし、また一審被告(取締役、監査役)側も、これに対して逃げることなく真正面から受け止めて、堂々とした反論を展開しているところに今後の政策形成的判断が出される下地が出来上がっていると思われるからであります。(個人的には、和解的解決ではなく、蛇の目ミシン事件と同様、最高裁の判断が出ることを希望しておりますが)

ともかく190頁におよぶ判決文ですし、仕事をしながらの検討ということですので、まだザーッとしか目を通しておりませんが、先週のダスキン株主代表訴訟と「公表」の重みのエントリーで疑問を呈しておりました「取締役の公表義務」といったあたりにつきましては、明確に「公表義務」といったものを裁判所が認めたわけではなく、取締役会を構成する取締役、およびそこに出席する監査役の善管注意義務のひとつとして、過去の不祥事を一般消費者、マスコミへ公表しなければならない背景事情といったものを詳細に検討したうえで、善管注意義務違反を認定した、というもののようです。原審(地裁の判断)は、違法な食品添加物使用を直接隠蔽した取締役以外の役員の責任につきまして、一審原告(株主)が主張していた損害(会社の被った損害)と取締役の任務懈怠(もしあったとしても)の因果関係がない、というところでバッサリと切ってしまいましたので、この「取締役の不祥事公表と善管注意義務違反」といった論点まで踏み込んでおりませんでしたが、この高裁判決の大きな特徴は、この論点に深く切り込んでいるところであります。「クライシスマネジメント」なる言葉がオフィシャルに判決理由中に出てくるのは、おそらく初めてのことではないでしょうか。

この判決文を一読した私の感想としましては、①理論としての「内部統制システム構築義務の存否」というものを企業の実情に沿って一生懸命展開してみても、裁判所の認定ハードル(具体的な取締役の善管注意義務違反を認定できるだけのハードル)はかなり高いのではないか、②業務執行に直接関与していない取締役・監査役の責任追及にあたって、「経営判断の法理」を突き崩すポイントとしては、全社的リスク管理(役員の責任追及の問題である以上、役員会に上程されるレベルのリスク管理事項に限られる)のあり方を丁寧に裁判所に説明するほうが効果的ではないか、といったところであります。企業コンプライアンスに関する裁判というのは、いきなり「理想としての内部統制構築義務の内容はかくあるべし」といった主張を展開するのは得策ではなく、個別具体的な企業不祥事発生の原因をきちんと事実として立証して、役員クラスの全社的リスク管理に不適切な点があったとされる判例をたくさん積み重ねて、その積みかさねた判例の集積のなかから、おぼろげながら理想となる内部統制システムの構築義務のようなものが見えてくるといった流れとなるのではないでしょうか。ぎゃくに、取締役、監査役の立場からいかに防御すべきか、ということになりますと、取締役会へ上程されるべき事項というのは、どういった基準によって上程されているかきちんと把握しているか、上程された事項について、リスク判断を行う資料がきちんとそろっていたか、その資料によって会社の損失管理について公正な審議がなされたか、反対意見については文書として残すだけの体制が整備されているか、といったあたりを基本的に押さえておく必要がありそうです。

ただし、これらの印象は、平成12年、13年ころの取締役会構成員の法的義務を考えた場合のことですし、会社法で内部統制システムの整備義務が明記されたような昨今、同じような善管注意義務のレベルかと言いますと、そうではないと私は考えております。すくなくとも今後の裁判所の「内部統制」に関する要求レベルは、取締役にとっては厳しい方向に向かうのではないかなと考えております。

ところで、ちょっと原審判決(地裁)を読んだときには気がつかなかったのですが、このダスキンの社外取締役としては2名の方が登場されるんですね。私からみれば、どちらもダスキンのことをきちんと考えて行動されていらっしゃったようですが、おひとりは被告となり、もうおひとりは被告となっておられません。その違いがどこにあったのでしょうか?そういった「社外取締役・社外監査役とダスキン事件」につきましては次のエントリーで考えてみたいと思います。(不定期にてつづく)

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2006年6月19日 (月)

社外の力を頼る内部統制

日経コンピュータの記事に最新の八田教授の講演内容が少しだけ紹介されています。(「社外の力を頼った時点で、内部統制はできていない」)ただ実際には、財務報告の信頼性を確保するための内部統制システム構築(つまり、金融商品取引法における経営者評価と監査対象となる内部統制)のためには、好むと好まざるとにかかわらず、上場企業のIT統制は必須と言えるところだと思います。このあたりを理解するためには、最新の経理情報(6月10日号)の特集「IT統制入門」が参考になるのではないでしょうか。ここでは、経営者自身による「全社的なITに対する統制」と「ITによる財務情報の信頼性確保のための統制」とを分けて検討されており、今後公表が予定されている実施基準を検討するための非常にわかりやすい解説がなされており、参考になります。

企業の全社的リスク管理のためには、どんなに最新型のIT統制システムを導入しても、そのシステムを理解できる社内の人間が必要になるわけでして、こればっかりは外部の人間に頼ってみましても、アメリカのSOX法的に表現するならば「システムに重大な欠陥がある」と評価されることになりそうです。ITシステムを導入するにあたって、どんなに有能な技術者に管理してもらっていても、問題発生時における対応はおそらく、その技術者の「経験値に基づく勘」を働かせることによって問題解決を図るわけですから、その経験値による勘を働かせるに十分な情報を社内から社外へ発信させる必要があるわけでして、どのような情報を適宜、社外の技術者に発信すれば統制システムが最悪の事態に陥ることを回避できるのか、そのあたりは社内の文系人間であっても養成は可能、と私の知り合いのSEの方がおっしゃっていました。要はそうした社内の人間の育成は、企業自身が自社のIT統制のあり方そのものをどのように考えているのか、その意識の違いが大きな差になるとのこと。まさに、「経理情報6月10日号」で解説されているあたりのことが重要なところではないでしょうか。「社外の力を頼ったときに、内部統制はできていない」といった言葉の表現するところにも通じるところだと思います。

(本日、マカオから帰ってまいりまして、都市開発とギャンブルについていろいろとおもしろい話を聞いてきたり、観てきました。香港よりもよっぽどマカオのほうが都市再開発のために興味をひく話がたくさんありますね。また、追々ご紹介させていただきたいと思っております。)

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2006年6月17日 (土)

香港高等裁判所

Dscn1419_1 香港高等法院(高等裁判所)を見学してきました。写真はいまいち、上手に撮影できませんでしたが、これが正門付近です。強姦致傷等の陪審制の刑事事件を傍聴しておりましたが、裁判官、検察官、弁護人など、昔ながらの法衣に白髪のカツラをかぶって公判手続を進めるあたりは、法廷の威厳を醸し出すには十分な演出です。刑事陪審員は7名ですが、みなさん陪審員としての誇りをもって審理に参加されている姿がとても印象的でした。日本でもこういった態度で陪審員の皆様が参加されればいいですね。

Dscn1422 こちらは約20年前まで使われていた高等裁判所の建物でして、これは香港のもっとも官庁の集中している丘に建っております。

ともかく湿度が高く、普通に歩いていても汗が滴り落ちてきます。贅沢品に対する値段が高く、一般庶民向けの物価は日本よりすこしばかり安いといったところでしょうか。 貧富の差の激しさをかなり肌で感じる街ですね。

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2006年6月16日 (金)

金曜日は香港におります。

皆様がご覧になっていらっしゃる時間は、すでに香港へ出発している頃ではないかと思います。すこしばかり用事で香港高等裁判所などに行ってまいります。ほとんど観光です。その後は九龍島、マカオ島あたりをめぐって帰国する予定です。(ディズニーランドもちらっと?)ということで、本日は失礼いたします。

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2006年6月15日 (木)

「モノ言う株主」について

またまた臆面もなく、ラジオのニュース番組に生出演してしまいました。(ラジオ大阪の「ニュースワンダーランド」ちなみに昨日、読売のほうで顔が出てしまいましたので、とりあえず出演風景はこんな感じです。。。。)

いきなり福井総裁の1000万円運用問題から話が始まって、かなりアセってしまいましたが、総裁に就任してから後も村上ファンドに運用を委託していたところは道義的責任があるのではないか、(法的にはなんともいえないが)といったところで結論つけましたので、なんとか無難にまとまったんじゃないでしょうかね。投資事業組合の問題とか、金融商品取引法に関する話題など、お昼のラジオ番組としては難しかったかもしれません。(あっでも、おとといのゲストはアイフル対策連絡会議の弁護士さんだったんで、そっちもけっこうハードな話題だし、多少難しくても許されるかも・・・・(^◇^;))この番組、今回が2回目の出演だったんですけど、やっぱりラジオの生番組というのは緊張しますね。

ところで「モノ言う株主」という表現が、この番組でも使われていましたけど、ちょっとどういった意味で使われるのか気になった次第であります。世間では肯定的に理解されているのでしょうか、それともなにかわがままな株主の威圧的態度を表現したものとして理解されているのでしょうか。私はきょうのライブドア臨時株主総会で取締役選任議案に反対意見を表明しているサイオンキャピタルのような株主のことを「モノ言う株主」だと認識しております。つまり本来、取締役は会社に対して善管注意義務、忠実義務を負って職務執行をすべき立場ですから、取締役の行動にそういった義務違反があったり、そのおそれがある場合には会社のために株主としての権利を行使する人達のことを指すものだと思います。したがって、これまで村上ファンドとしても、こういった取締役への要求行動があれば、それは正当なものであって「評価」に値するところかもしれません。しかしながら、少数株主を排除することを厭わずに、自らの大株主の地位を利用して、自己に有利な要求を経営陣につきつける行動は株主のわがままであって、「モノ言う株主」という表現にふさわしくないのではないか、と思っております。もちろん、多数決が支配する世界ですので、大株主が意のままに振舞う行動については「適法」である場合が大半でしょうが、そのなかには「不公正」といわれる領域に属する行動も含まれているわけでして、新会社法施行後の企業社会におきましても、(公開企業、非公開企業を問わず)この「少数株主保護といった観点からの不公正」問題がいろいろと議論されることも多くなるのではないでしょうかね。まぁこれも、短期で利益を上げるための資本参加ということなのか、それともバイアウト型の関与の場合なのか、その状況が異なるために一概に明確には言えないかもしれませんが、不公正な大株主の行動によって、少数株主が著しい不利益を被るような場合は、単に大株主のわがままを貫徹するための要求でありまして、そういった場面を捉えて「モノ言う株主」が増えた、と結論付けるのにはちょっと違和感があります。

きょうのラジオ番組でも、「村上ファンドの功罪」というテーマで少し聞かれたところなのですが、私は最初から村上氏が悪事の限りを尽くしてやろうと考えて、この「プロの世界」に入ったのではない、と推測しておりますし、またそのようにラジオでお話させていただきました。40億円、100億円程度を運用していた時代というのは、村上氏も高い志があって、真摯に「日本の会社制度を変えるんだ」といった閉塞感を打ち破る高邁な気持を持っていたのではないか、と思ったりもしております。そういった時代の村上ファンドは本当の意味での「モノ言う株主」として振舞っていたのではないでしょうか。それが日本マーケットで運用するには限界があるような高額資金を手に入れ、もはや相当無理をしなければ運用できないような状況に至ったために、そこで村上氏も尋常ではない手段に手を染めていったのではないか、と推測しております。(もちろん、これは私個人の勝手な予想でありまして、どこかの新聞で報道されているわけではありません。ねんのため・・・)

それともうひとつは、「これからもインサイダー取引疑惑で逮捕されそうな人はいますか?」・・・・・。おそらくいないでしょう。もともとインサイダー取引で強制捜査に進むケースというのは、よほどきっちりと証拠固めをしていなないと現状では無理だと思います。今回はたまたまライブドア経営陣の強制捜査によって検察庁が思い描いているシナリオの立証が可能となりましたが、それはこの事件の特徴であり、また幸運だったところではないでしょうか。もしインサイダー取引を頻繁に摘発できるようにするためには、証券取引法の行為規範を増やすか、それともアメリカのSECのような強大な権力を持っている機関の設置が前提条件だと(私は)考えております。

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2006年6月14日 (水)

今年も総会リハーサルの季節ですね。

信託銀行(代行さん)がお作りになっている役員勉強会用の総会問答集での勉強会も終わり、そろそろ本番ムードの総会リハの季節となりました。どこの上場企業も定款変更議案に対する審議についてはいろいろな質問を想定して検討されているんじゃないでしょうか。会計監査人に対する責任限定契約の導入など、なかなか説明がむずかしいところもありますが、敵対的買収防衛策の導入(に関連する定款変更)に関しては、導入を検討するケースも導入しないケースでもきちんとした説明が必要なんですね。事前警告型の買収防衛策導入といったことですと、それ自体、総会の承認決議(まぁ、この決議自体が可能なものかどうかは、争いのあるところですが)が必要ですから、はっきりとした争点になるわけですが、取締役の解任決議を定款によって加重要件化するとか、取締役の員数を減らすとか、なぜそういった定款変更を必要とするのか、株主様にとって有益であることの説明をしなければいけません。

とりわけ今年の場合、ムズカシイのは同業他社が買収防衛策を導入しているケースであります。私が社外監査役を務めております企業も、「支援先となる親会社を持たないすかいらーくがMBOで業績を上げるということだが、同じ状況にあるおたくは外食産業厳しい時節柄、MBOしなくても業績向上を図れる自信はあるんですか・・・・」こういった質問にどう回答するか、といったことをリハーサルで検討しているうちに、買収防衛策というものも、その企業の歴史や収益状況、株主構成、グループ経営の状況によって導入すべき手段というものもさまざまなものだと痛感するに至りました。先日、日本で最大級のMBOを正式決定したすかいらーくさんも、表向きの理由だけでなく、その企業の生い立ちやこれまでの事業部門の育て方などを仔細に調べたりしておりますと、なるほどこういった経緯があれば、MBOを迷わず選択するだろうなぁと感心いたしました。総会での説明の際に、他社様のことをあれこれを説明することはないでしょうが、どういった企業にはどういった防衛策が最適であるか、そのモノサシをきちんと役員間で共有しておくことは必要でしょうね。51%以上の株式を取得してその企業経営に乗り出そうと考えている企業への応対だけでなく、10%、20%程度の株式を保有して短期的利益を得るためにモノ言う株主が出現したときの応対を含めて、総会の打ち合わせで十分検討しておく必要がありそうです。

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2006年6月13日 (火)

村上氏が推奨した提携先とはどこだろう

(6月13日夕方 インタビュー記事を発見されたため、追記あります)

すでにいくつかのマスコミでは「ジーコ監督批判」が始まっておりまして、プロサッカーの世界というのは「勝てば官軍負ければ賊軍」、非常に厳しい世界なんですね。村上さんの場合も、ついこの間までは「日本企業に良質なにコーポレートガバナンスを根付かせるために意義のある株主行動」とソコソコ存在意義が一部では認められていたわけですが、いまとなってはボロクソに非難されるのみでして、なんとも言いようがございません。

昨年の10月21日ころ、つまりまだ阪神タイガースの上場を村上氏が提案をしていたころ、村上氏は阪神に対して提携すべき企業として30社のリストを阪神サイドに渡していました。その後、このリスト企業について阪神が提携を検討をしたのかどうかは定かではないのですが、その30社のうちの1社であるローソンは、かなり阪神との提携に前向きであった、との報道がなされていました。いま、この阪神と村上ファンドとの攻防を振り返るにあたって、この「提携を推奨できる30社リスト」というものの中身が見てみたいですね。この時期の村上氏の行動として、タイガース上場や梅田一等地不動産のREIT化構想などはなんとなく理解できるのですが、提携すべき企業としてどういった職種を考えていたのか、となるとあまり想像もつきません。けっこうこの30社のリストの内容などが判明しますと、どういった企業とどういった提携を推奨したかったのか、村上氏の行動パターンや投資パターンを考える参考資料になるんではないか、と思うのですが。どなたかそういった情報をお持ちの方いらっしゃいましたら、ご教示ください。

(追記)

著名ブロガーのおふたり(磯崎さんと ろじゃあさん)に見つかってしまったため、とりあえず何も書かないのもへんかなぁと思いましたので、ひとことだけ。

関西の方は今朝(6月13日)の読売新聞の経済面に私の意見が掲載されております。全国の方は こちら(読売関西版) でお読みいただけます。私の周辺には阪神や阪急の顧問や役員をされている弁護士の先輩の方々がいらっしゃるんで、だいぶ表現を抑えたつもりです。(笑)

私のは読み流していただいて、その後に続く磯崎さんとか、著名大学教授の先生方の経済センス豊かな「検証シリーズ」をお楽しみください。。。失礼しました。

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2006年6月10日 (土)

ダスキン代表訴訟高裁判決と「公表」の重み

昨日の「最高裁判決と企業コンプライアンス」のエントリーには、たくさんのコメントをいただき、ありがとうございました。この損害保険における「偶発性」立証責任問題については今後の保険実務に与える影響は大きいものと予想しておりますが、昨日、またまた企業法務にとって大きな影響を与えかねない判決が大阪高等裁判所で出されました。(ダスキン株主代表訴訟控訴審判決に関するニュース)まだ判決全文を読んでおりませんので、あくまでもニュースソースからの情報であることをあらかじめお断りしておきます。

おそらく「内部統制システム整備義務」といった講演をお聴きになったり、また講演をされる立場の方はご承知のことでしょうが、これは平成16年12月22日に大阪地方裁判所で言い渡された第一審判決(判決内容は判例時報1892号108ページ以下に掲載されております)の控訴審判決であります。控訴審においてもいろいろな争点があると思われますが、もっとも企業法務として重要だと思われるところは「第一審では、業務担当取締役および代表者しか責任が認められていなかったにもかかわらず、控訴審では、当時の11人の取締役、監査役全員に責任が認められたこと、しかも使ってはいけない食品添加物混入問題の責任追及や事実調査に鋭意努力して調査委員会設置にまでこぎつけた社外取締役に対しても責任を認めていること」であります。

取締役らの「公表義務」の検討

新聞報道などではわかりにくいところでありますが、なぜ独立した社外取締役や監査役まで存在するにもかかわらず、取締役会で違法添加物混入事実を公表しない方針を採用したのか、まずそのあたりを確認しておく必要があります。(なお、こういった確認が必要なのは、私がダスキンの役員を弁護するためではなく、あくまでも役員に有利と思われる事情も斟酌したほうが問題点の整理としては適切だと思うからです)まず、業務執行を担当していない役員らが違法添加物混入の事実を知ったのは、すでに対象となる「肉まん」の販売が終了しており、市場における流通の可能性がなく、どこからも被害者が発生したという事実は出ていないといったことがあげられます。つぎに国内では当該添加物が違法とされていても、欧米諸国では普通に使われており、また現実の使用量についても、欧米レベルの基準ではまったく問題にならない量であった、という事実があげられます。つぎに、社内では当該違法添加物混入に関する当事者の処分がなされ、一応の綱紀粛正がはかられていたという事実があります。そしてなんといっても、ダスキンを支えてくれているフランチャイズである「ミスタードーナッツ」の経営者たちに「絶対に迷惑をかけてはいけない」という気持ちが強かったことが最大の要因ではないか、と思われます。こういった状況のなか、もし私がダスキンの社外取締役もしくは社外監査役だったとしたら、ほかの12名の役員の反対を押し切って、「いや、違法添加物の混入の事実はいまからでも遅くないから公表すべきです。消費者に対して信頼回復の措置を絶対にとらなければ取締役会議事録に署名はできません」と言えるでしょうか?このブログをお読みの方々はいかがでしょうか?

そもそもこういった食品の安全に関する問題については、「公表」というのは商品が流通している場合に、その商品の使用を止めてもらったり、商品回収のための通知をするために行われることが多いのは事実です。しかしながら、たとえ違法添加物混入による被害報告が一切ない場合であっても、食品を扱う企業である以上は、まず違法添加物混入の事実を消費者一般に公表して、「被害報告の機会を確保する」必要があるのでしょうね。もしそのような疑いのある報告がなされた場合には、その調査を真摯に行うことも必要になってくるのかもしれません。さらに、食品を扱う企業の「社会的責任」として、たとえ一般消費者に対してなんらの被害が出ていない場合であっても、違法添加物混入という事実は企業の存立にとって極めて重大な事実でありますから、これを自ら社会に公表することが法的な責任である、ということなのかもしれません。(しかし、こういった根拠で取締役に公表義務を認めるとなると、「社会的責任」という言葉が画期的に判決で使われたことになりますが、そこまで言えるのかどうか、ちょっといまのところ自信はありません)あるいは、昨今の全社的リスク管理体制の整備義務(内部統制システムの整備構築義務)の一貫として、後日マスコミなどによって「隠匿」が発覚した場合の企業の社会的信用の失墜と比較すれば、いま自主的に公表して損害を最小限度に押さえるために必要な措置をとることが取締役の善管注意義務を尽くすことになる、という思想のあわられなのかもしれません。

上に示した取締役に有利と思われる事情を考えたうえで、なお「公表義務」を尽くさねばならないとする高裁判決の意義を検討する場合、「公表義務」を認める根拠には、こういったいろいろな考え方があるように思います。本件では「一部の取締役が口止め料を関係者に支払っていた」といった事実が前提として存在したり、「匿名による内部告発によって、問題が表面化した」といった事実なども検討する際の事情として重要かもしれませんが、私は素直に「後で誰かの指摘で問題化するよりも、いま自主的に公表して消費者への信頼失墜を最小限度にとどめたほうがいい。消費者からのクレーム処理(いいがかり)もたいへんかもしれないけれど、そういったマジメな対応自体、信頼回復のために効果的ではないか」と、ほかの役員の方々を説得すると思います。しかし、その場合、私は取締役会議事録に異議を留めておくだけで、公表義務を消極的には尽くしたことになるのでしょうか????うーーーん、辞任しかないかなぁ。

この高裁判決は、まだ最高裁へ上告受理申立がなされるかもしれませんが、一度各企業で取締役会が違法行為を知った時点の事実関係を正確に把握したうえで、自社であればどう対応するか(対応できるか)よく検討してみてはいかがでしょうか。けっこう困難な選択を迫られるのではないでしょうか。

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2006年6月 9日 (金)

最高裁判例と企業コンプライアンス

私のブログにお越しいただく方々は、判例研究といった「純法律的なエントリー」にはあまり興味をお持ちでないかもしれませんが、村上ファンドの報道に隠れて目立ちませんでしたが、ちょっと気になりましたのは「自動車保険約款(契約)における発生事故の立証責任」に関する最高裁の逆転判決(高裁と逆の判断)が二つほぼ同時に出まして、いずれも保険会社側に極めてキビシイ判決(高裁へ破棄差し戻し)内容となっております。(6月1日横尾判決 6月6日上田判決)一般の弁護士にとりまして、こういった保険金支払拒否に関する法律相談というのは、けっこう持ち込まれることが多いと思いますし、これらの最高裁判例につきましては、原告側に立つ弁護士さんのグループや、金融機関側のグループなどで、今後何度も判例研究会が開催されるんじゃないでしょうか。いずれにせよ、今後の保険実務に対して大きな影響を与える判例になることは間違いありません。

誤解をおそれずに、少しわかりやすく説明いたしますと、愛車のドアに誰かから傷をつけられた、ということで車両保険で修理をしようとしましたところ、保険会社のほうが「ちょっとこれは契約者のほうで故意につけたんじゃないでしょうか。故意もしくは重過失で傷をつけた場合には、偶然の事故とは言えないので、契約の定めに書いているとおりお支払はできません」といって支払を拒否した場合、車両所有者は「故意に自分で傷をつけたものでないこと」を立証しないといけないのか、それとも支払を拒否する保険会社のほうで、この傷が保険契約者(車両所有者)が故意につけたことを立証しなければいけないのか、といったところが論点となりまして、最高裁の二つの判例はいずれも「商法の規定の解釈によっても、さらに契約(約款)の合理的な解釈によっても、保険会社は偶然に発生するすべての事故について保険金を支払うのが原則なので、保険会社のほうで故意や重過失の存在を立証しないかぎりは保険金は支払わねばならない」と結論付けております。(念のため申し上げておきますが、保険会社のほうも、何の理由もなく支払いを拒否することはございません。当然のことながら、「どうも怪しい・・・・・」と合理的に疑いをかけるだけの相当な根拠があるケースもあるわけでして、そういった非常に微妙な場合を想定していただけますとありがたいです)

判例の内容を詳細に検討することは、同業者の研究会で行うものであり、ここでは触れませんが、なんとなく、こういった最高裁の判断をみておりますと、「保険会社は法令を順守する立場にあるから、まちがった適用はしない」といった前提が(最高裁レベルでは)崩れてしまっているのではないかな・・・と感じたりしております。このブログでもとりあげました明治安田生命の支払不当拒否問題や、最近の損保ジャパンの支払遅延問題による行政処分などの事例を見ますと、会社ぐるみの支払方針によって、実際の現場では「本来支払われるべき被保険者に保険金が適正に支払われないことが普通に起きている」という現実が公表されてしまったわけです。そうしますと、これらの最高裁判決の原審(高等裁判所)の判断理由のような「もし、(事故の偶然性について)保険会社側が立証責任を負担するということになると、保険金の不正請求が容易となるおそれが増大する結果、保険制度の健全性を阻害し、ひいては誠実な保険加入者の利益をそこなうおそれがある」といった政策的な理由(保険会社側に有利な理由)が説得力を失ってしまうことになるわけですね。保険会社のほうで保険制度の健全性を阻害している現実があるわけですし、また保険会社による不正な支払拒否が頻繁に発生すること自体が、まさに誠実な保険加入者の利益を損なうおそれがあるからです。現に、上田判決においては、一切この高裁の政策的な理由については触れられずに逆転判決に至っています。

もちろんこれらの最高裁判決には、保険会社のコンプアイアンス違反に関する引用などは一切ありませんが、(保険会社にとって非常に有利と言われている)約款まで存在するにもかかわらず保険会社側にキビシイ立証責任を課す、ということですから、こういった保険金支払請求事件の原告と被告とは、その誠実さにおいては五分五分であって、五分五分である以上は原則に立ち返って商法の条文や約款の文言を忠実に解釈して立証責任を検討しましょう、といった判断の流れがあったのではないでしょうか。

金融商品取引法が成立して、今後は証券取引被害者事件等、この法律や政令、公正慣習規則などに基づいて金融機関が顧客から訴えられるケースが増えるものと思いますが、金融機関のコンプライアンス違反といった事件や金融庁の処分事例などが増えてきますと、裁判所も「金融機関だからといって、その手続が法令をきっちり順守しているとはかぎらないのではないか」といった認識を前提として判断を行う事例も増えるのではないでしょうか。裁判官の心証にまで影響を与える「企業コンプライアンス」問題というのも、これからの時代、クローズアップされてくるものと思っております。

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2006年6月 7日 (水)

内部統制実施基準公表は12月!?

(ひさしぶりの内部統制関連ネタですが・・・・・)参議院の財政金融委員会が賛成多数で改正証券取引法案(金融商品取引法案)を可決したため、いよいよ6月7日参議院本会議での決議を経て、金融商品取引法が成立することとなります。(日経ニュースはこちら)おそらく世間では集団投資スキームに対する行政介入や大量保有報告書制度の改正、TOB制度の見直しあたりがホットな話題になりそうですが、やはり私の場合には企業情報開示あたりが一番の関心事であります。

で、気になる内部統制報告実務に関する実施基準ですが、きょう(6月6日)の情報によりますと、実施基準は早くて9月、ひょっとすると完成は今年12月になるのではないか、とのことであります。日本版SOX法の内部統制「実施基準」策定に遅れ(日経ビジネスオンライン)当初は今年3月、最近の噂では7月とされていましたが、やっぱりずいぶんと遅くなってしまったんですね。ただし、公開草案が7月ころに出され、広くパブコメを募集するようなんで、ワールドカップが終わるころには200ページを超える実施基準の概要が判明するわけでして、非常に楽しみにしております。現在は実施基準全体の整合性、統一性への配慮に時間を要しているということです。(うーーーん、また大手監査法人あたりが出版する「実施基準の手引き」は売れるでしょうね、これは。。。( ̄∇ ̄)v))

さて、全体の整合性、統一性という意味では、会社法における内部統制と金融商品取引法における内部統制との関係も非常に大切な論点だと思われますが、こちらは日本取締役協会に新たに発足する内部統制研究会におきまして、重点的に会社法施行規則と金融商品取引法における内部統制に関する統合的理解について研究が始まるそうであります。こちらの副座長には金融庁内部統制部会の委員である町田教授が就任していらっしゃるんで、本当の意味で法務省サイドと金融庁サイドの「整合性」が検討されるものとして大いにその成果が期待されるところですね。(ちなみに村上ファンド関連のエントリーはもう終わり・・・というわけではございませんよ。読売新聞にコーポレートコンプライアンスに詳しい郷原さんの意見が掲載されていましたので、これに関するエントリーなど、まだまだしつこくアップしていきたいと思っております・・・・・・)

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2006年6月 5日 (月)

やっと明らかになった(?)村上ファンド事件

(追記あります)

夜になって、東京地検特捜部の考え方が示されたようで、(毎日ニュース日経ニュース)私もやっと「事件のどこが問題なのか」わかってきました。いままでなんだか「自分だけ蚊帳の外」みたいな気持ちで、とても寂しかったんですけど、これで村上ファンド事件を考える足元が固まったような思いであります。

結局、地検特捜部はお昼の村上氏の会見をみて、「まったくデタラメやないか!」と立腹されたんじゃないでしょうか。そもそも、地検のシナリオは、最初から村上氏がライブドアの経営陣を騙すつもりで「一緒にフジテレビの支配権を握ろう」とそそのかした、というものですね。支配権をライブドアと一緒に握ろうなどとは、これっぽっちも村上氏は考えていなくて、当時保有していたニッポン放送株と「その気になった」ライブドアによって株価が高騰する前に買い集めた株をできるだけ高値で売却して利ざやを稼ぐ気持ちしかなかった、ということをこれから立証するわけです。(おそらく当初からライブドア経営陣を騙すつもりだった、といった客観的証拠を、ライブドア経営陣の供述とともに、村上ファンド側幹部からもすでにとりつけているのではないでしょうか)こういったシナリオであれば、当初から申し上げておりますとおり、「ギブアンドテイク」の論点(村上ファンドはライブドアの経営権奪取を支援する、そのかわり村上ファンドは株の一部を高値でライブドアに引き取ってもらう、ライブドアは支援先である村上ファンドに大量買付の意向を明確に伝える)も外形上はっきりしますし、村上氏に最初からライブドアを騙す意思があったかなかったか、といった主観的要件こそ大きな争点になることも明確になりますので、非常に自然な形になりました。ライブドアの経営陣から「支援してください」という言葉を聞いたことが「インサイダー取引疑惑」だったり、言葉を聞いたあとに支配目的であってもニッポン放送株式を大量に取得したことが「インサイダー取引」に該当する、といった報道が当初されていたようですが、地検のように「支配権目的で大量購入なんてありえない、村上氏は最初から利ざや稼ぎだったから、問題なんだよ」と言っていただきますとホント問題点が整理されたような気持ちであります。(「最初からライブドアを騙して、大量購入して利ざや稼ぎが目的だった」というシナリオを村上氏がすぐに認めるかどうかはわかりませんが。でもこういった点を検察が問題視して立件するのであれば、一般の方々にも論点がわかりやすいですし、証券市場における支配権争奪をめぐる適正な競争行為に対する「国家権力介入による萎縮的効果」はかなり薄らぐことになるのではないでしょうか。「村上氏は普通では考えられないような、こんなひどいことをした、だから市場からの退場を命ぜられたのだ」と理由をつけることが可能になったと思われます)

それにしても、証券取引法上の内部者取引の規制条文の解釈はむずかしいですね。「防戦買い」や「応援買い」の場合には適用せず、といった条文の解釈として、(条文で適用除外事由とされている)防戦買いや応援買いのケースでは構成要件該当性はあるが、これらの事由が違法性阻却事由となるということになるのでしょうか、それとも防戦買いや応援買いに該当する事実がないことが構成要件該当性の有無に影響を与えるのでしょうか。法理論的に考えますと、もし防戦買いに該当する事由が存在しないことが構成要件に該当するのであれば、防戦買い目的を有してこたことは故意不存在と結びつくように思われますが、違法性阻却事由だとしますと、判例通説の立場では「違法性阻却事由に関する錯誤」は故意を阻却しない、とされておりますので、当初から応援目的とか防戦目的だった、といった抗弁はなんら故意の成立には影響を与えないということになりそうです。また、共同で支配権を得る目的だった、といった抗弁はどうなるのでしょうか。敵対的買収目的で、複数の企業が共同で買い集め行為を行うことはまったく正当な行為だと思われますが、そういった場合のルールに影響はでないのでしょうか。

当初の報道では幹部を含めて4名が逮捕される、とのことでしたが、結局のところ村上代表だけ、ということになりました。ファンドの顧客との清算業務のためなのか、警察OBの方がいらっしゃるからなのか、それとも昨日、「逮捕は俺ひとりにしてくれ」ということで、インサイダー取引自体は認めるかわりに、幹部逮捕を免れる「司法取引」があったからなのか、は定かではありませんが。

きょうの村上氏の記者会見で、阪神と京阪が統合されることを勧めた理由を述べていましたが、私がエントリーで書いていた理由とまったく同一だったので、思わずビックリしてしまいました。というよりも、関西の人間はどうみても企業価値(シナジー効果)という点からみたら阪神・京阪統合しかありえないと思うんですよね。。。私はいまでも「阪神・阪急統合」は、単なる「村上ファンドへの敵対的買収防衛策」(阪急HDホワイトナイト説)でしかありえないと確信しています。

いつもご意見を頂戴するkitiomuさんが、自身のエントリーで述べていらっしゃるあたりが、検察が本当に言いたかったことではないかなぁ・・・と。ただ、私はまだ「ステークホルダー」という言葉を裸のまま企業価値論のなかで使うことにためらいを覚えているところなんです。どうも「株主主権」という言葉と同じくらいにわがままを内包しているような気がしまして。いちおう「企業価値」=「株主価値」と定義しておいて、「少数株主の保護」とか「株主権の内在的制約」みたいな考え方で利害調整するほうが穏健かなぁ・・・などと考えてみたりしております。

(追記)なんか、とりとめのない話をしておりますが、もうひとつだけ。インサイダー取引にせよ、虚偽の風説、偽計取引にせよ、おそらく今後の証券取引市場において、構成要件該当性の認められる取引事例はたくさん発生すると思います。企業のリスク管理という面からみて、将来のリーガルリスクの発生予測が可能となるように、「ライブドアはここがいけなかった」とか「村上ファンドは特別にここが悪いから起訴に及んだ」といった差別化(区別化)が可能となるような立件をしていただきたい、と願っております。その理由は、また私自身の経験なども交えながら別エントリーで述べたいと思っております。

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村上氏に違法性の認識はあるか(3)

(6月5日午後 村上氏の記者会見に関する追記あり)

あすくるさんや、47thさんのコメントにおきまして、私の基本的な勉強不足の点をご指摘いただき、どうもありがとうございました。167条の構成要件や166条適用の前提問題など、さらに検討しておきたいと思っております。村上氏の事情聴取に関する報道などを読んでおりましても「5%以上のニッポン放送株式を(ライブドアが)大量取得することは聞いていなかったし、またそんな力のある企業(ライブドアのこと)だとも思っていなかった」と容疑を否認しているとのことですから、やはり167条(公開買付者等関係者等による取引規制)違反ということが問題になっている、とみていいのでしょうか。

では、かりに167条違反が問題になるとすると、(一昨日のエントリーでも述べましたが)村上ファンドが行ったニッポン放送株買付行為のいったいどこが犯罪になるのか、根本的な疑問が湧きませんかね。「一緒にニッポン放送株式を大量に取得しよう」と言って、堀江氏と大量購入の約束(合意)をして、購入をしたことのどこに違法性があるのでしょうか?昨日は応援買いを例に出しましたが、ライブドアの取締役決議との関係で、応援買いには該当しないという場合であっても、共同購入、共同支配ということでも違法なんでしょうか?応援買いがインサイダー取引に該当しないのは、そもそも事前に公開買付者は応援者による株取引を認識しているわけですから公開買付者を害することにはなりませんし、一定の要件をかけることによって公開買付者自身の買付と評価できることで、なんら市場の健全性を害することにはならないということからだと思われます。その趣旨からすれば、共同買付といったことも、事前に公開買付者とその関係者の間で、共同支配に関する認識が共通化しているのでしたら、応援買いのケースと同視してもよろしいのではないでしょうか。(→つまり、解釈で違法性判断が分かれるほどに曖昧な要件の問題だとしますと、いくらプロのファンドマネージャーである村上氏もしくはその幹部の方であっても、その違法性の認識を立件するのは困難ではないか、これを政策的な意味合いで要件を緩和することはできないのではないか、といった根本的な問題を含むものであります)

いまになってみましても、私は「感情的には」村上ファンドの灰色疑惑という点は否定しておりませんが、ただ「クロ」といった判断をされるほどの「悪いことっていったいなんだろうか?」とよくわからなくなってしまいました。今週にも、強制捜査が入る予定だそうですが、もしそうなりましたら、一度ゆっくりと捜索差押令状やその他の令状の中身を検討してみたいと思います。

(6月5日午後 追記)

日経朝刊に「きょう逮捕」とあったのもビックリでしたが、いきなり村上氏の記者会見というのもサプライズでした。毎日ニュースが比較的詳しく報道されているようです。これ読んで事件の内容わかる方おられます?投資のプロとしてミスを犯したことは謝罪するし、構成要件に該当するかもしれないから、おそらく起訴されるだろう、起訴されたら甘んじて受ける。だけど「もうけようとして取得した」わけじゃないが、検察からもうけようとして取得したわけでなくても、宮内さんから聞いてますよね、と言われたらそうかもしれない・・・・・・・。これ、インサイダー取引の構成要件該当性は認めるけれども、犯罪は成立しませんよ、と言っておられるに等しいように思えますが。つまり、検察から指摘された客観的事実については争わないけれども、村上氏の主観としては違法性の認識はなかった、との解釈でよろしいんでしょうか。普通「裁判やるには2年かかる」というフレーズを使うのであれば、事実関係を否認する場合であって、法律上の解釈を争う場合には、そんなに時間はかかりませんし、何をおっしゃっておられるのかは、さっぱりわからないのが現実です。(仕事中なので、このへんで。。。)

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2006年6月 3日 (土)

村上氏に違法性の認識はあるか(2)

いろいろなコメント、TBありがとうございます。きょう(6月3日土曜日)あたりの産経新聞ニュースを読みますと、村上氏は堀江氏に対して「いっしょにフジテレビの支配権を握ろう」みたいな勧誘をして、堀江氏にニッポン放送株を大量取得させて、その後村上氏が値段がつり上がったところで勝手に売っちゃった、みたいな書き方になっていますね。これは私が昨日のエントリーで予想していた事実関係と少し異なります。この事実関係が真相に近いということですと、堀江氏はあまり村上氏と組むメリットはないですよね。しかも最初から村上氏が「いっしょに支配権を握ろう」といいながら大量取得をしたというのであれば、167条5項4号のライブドアへの応援買いに該当してしまって、(他人の公開買付を支援する目的で、その他人からの要請を受けて、応援目的で公表前に買付を行うことは正当な株式取得行為とされています)違法性が阻却されてしまうんじゃないでしょうか。かりに、後から他の人に村上氏が売却してしまったとしても、村上氏がニッポン放送株式を大量取得する時点で「ライブドア支援目的で取得した」と考えていたとすれば、その行為は主観的な違法目的が存在しなかった、つまり犯罪は成立しない、ということになりそうです。

報道機関はさかんに167条違反を問題にしているみたいですが、上記産経新聞ニュースの事実関係でしたら、166条(会社関係者による内部者取引)でいったほうが「違法性の認識」を立証しやすいように思います。2003年当時から村上ファンドはすべての実質保有団体所有のニッポン放送株式を合わせると(つまり共同株主とすると)帳簿閲覧権を有する少数株主(商法293条ノ6)に該当しますから、少なくとも2004年12月当時、当該団体の代表者もしくは代理人たる地位にある村上氏は証券取引法166条の「会社関係者」に該当します。またニッポン放送株を大量購入する者の存在は、166条2項2号ロ「主要株主の異動」に該当するため「業務等に関する重要事実」に該当することになりそうです。ただ、この166条構成の最大の問題は会社内部者たる株主は、「その権利の行使に関し知ったとき」が要件となっている点です。条文に忠実に読むならば、帳簿閲覧権の行使に関して知った重要事実だけが、インサイダー情報ということになりそうです。もし、この要件をクリアできるとしたら、166条(会社関係者による内部者取引)の場合、村上氏と堀江氏の「ギブアンドテイク」の関係はなくても、単に村上氏がライブドアが大量買付行為を決定した、という事実さえ知っていれば、その後の村上氏のニッポン放送株取得が共同支配目的であれ、自己の利得目的であれ、「会社関係者による内部者取引」の犯罪要件には該当するわけですから、たとえ村上氏が犯意を否定したとしましても、客観的証拠の積み重ねによる違法性の認識の立証ハードルは相当低くなるはずです。

そこで、166条による立件というケースでは、「その権利の行使に関し知ったとき」という要件をクリアできるのかどうか、これが大きな問題になるような気がします。ちょっと調べてみましたら、最近の学説などでは、この要件をかなり広げて解釈してもいいのではないか、といった意見も出ているようですし、そもそもインサイダー取引規制というのが、市場における適正なルールの確保といった趣旨によるものであるならば、帳簿閲覧権を行使するための調査、準備など広い範囲を含む概念と捉えて解釈することも可能なのかもしれません。(ただ、そうはいってもかなり罪刑法定主義からすると問題かも・・・・・)

ただ、新聞報道の論調では、どこも167条による立件を前提として書かれていますよね。166条による立件ということはないんでしょうか?私はどうも166条による立件のほうが可能性が高いような気がしてきましたが・・・・・。

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2006年6月 2日 (金)

村上氏に違法性の認識はあるか

(6月3日午後追記あります) ライブドア事件の際には「堀江氏に逮捕はない!」などと断言して、大きく「はずして」しまいましたので、あまり信憑性はないかもしれませんが、やはり今回の村上ファンドのインサイダー疑惑で注目されるのが村上氏の「公開買付等関係者による不正取引」、いわゆるインサイダー取引の違法性を(村上氏が)認識していたかどうか、という点ではないでしょうか。本来、立件が非常にムズカシイと言われている内部者取引であり、かつ自白は容易にとれないことが予想される村上氏のことですから、捜査機関としては「違法性の認識」という主観的な要件につきましても、いわゆる客観的な証拠の積み重ねによって、ほぼ100%故意(違法性の認識)を立証できるレベルに持っていく必要がありそうですね。

前回のエントリーでも少し触れましたが、ライブドア事件の捜査によって、「5%を越える買付に関する準TOB行為の決定が、ある時点までに適正になされたこと」「その後17年1月5日に村上ファンドが80万株を買い付け、ニッポン放送の株式18.57%を保有するに至ったこと」「ライブドアの買い付け決定に基づき、実際に17年2月8日(ライブドアがニッポン放送株を大量に取得し、持株比率が約35%に上った日)までの間に準TOB行為が実行されたこと」「その後、ライブドアはさらに買い進めて、ニッポン放送株を40%以上保有するに至ったこと」は間違いないところです。そして宮内氏もしくは堀江氏によって、「準TOB行為が決定した旨を村上氏サイドに伝えたこと」につきましても、おそらく供述の裏づけはとってあるのではないでしょうか。また、取得を決定すべき村上氏自身の面前で準TOB行為が行われることが決定した旨を伝える(情報の一次受領者)必要がありそうですが、これも宮内氏、堀江氏どちらかの供述によって、なんとか補完できるようにも思われます。

では、果たして上記の事実が認定されると、村上氏の違法性の認識も立証されたことになるんでしょうか?それまでニッポン放送の株式取得に興味をまったく示していなかった村上氏が翻意をして一気に買い進んでいたとするならば肯定できそうにも思えますが、そもそも村上氏は2003年9月30日からニッポン放送株を6.3%取得してニッポン放送の筆頭株主ではなかったか、と記憶しております。つまり、「ニッポン放送株」の取得を勧めていたのは村上氏側であって、ライブドアはその村上氏の話を聞いて準TOB行為に及んだのではないでしょうか。ということになりますと、上の事実が立証されるだけでは、村上氏によって「ライブドアは(ニッポン放送株を)買いたいという希望は聞いていたが買うことを決めたとまでは言ってなかった。私はそれまでの自身の買付行為の延長として、その後も自分の判断で株を購入したにすぎない」と抗弁されてしまいますと「違法性の認識」立証まで到達しないような気がいたします。(もし、村上氏の従前からの保有、という点に事実認識の誤りがありましたらごめんなさいです)

あまり参考となる刑事判例の存在しない分野なので、まったくの推測ですが、このライブドアと村上ファンドとの関係を考えるうえで、もっとも重要なポイントは「ギブアンドテイク」の関係が立証できるかどうか、というところではないかと思います。つまりは、2月8日の大量買付けの公表日をはさんで、村上氏がライブドアの内部情報を入手するかわりに、ライブドアのほうが何かを村上氏(もしくは村上ファンド)から得ることができたかどうか、そしてその二つの行動を結びつける因果関係、という点であります。そこが明確になりませんと、なんでライブドアが村上ファンドにもうけさせる必要があるのか、重要事項をなぜ村上氏に教える必要があるのか、その動機がはっきりしないわけでして、全体像が最後まで見えてこないことになりかねません。(ただ、こういったギブアンドテイク説は、巷間噂されているように、2月8日に村上ファンドが保有している株式をライブドアが時間外取引で取得したのではないか、という風評が真実ですとまったくハズレになってしまいますかね?それともギブアンドテイク説が維持できるストーリーはあるでしょうか。私は、あくまでもこの2月8日以降に村上ファンドの保有していたニッポン放送株がライブドアの利益として利用されたことが前提となるような気がしますが。)

(追記 6月3日午後)

朝日新聞のネット記事に 村上ファンド利益100億円、裏で何が というのがリリースされております。これを読みますと、株価5500円程度だった1月5日時点には18パーセントだった村上ファンドのニッポン放送株の株数が、時価8000円程度にまで上った2月末時点ではわずか3%になっておりますが、その間に半分程度はライブドアの買付公表時点までに処分され、残る半分を市場で売却したのでは、との推測が記載されております。もし、こういった密約があったとするならば、「ギブアンドテイク」の関係は成立するはずですし、どうしてもファンドからライブドアや市場にどうニッポン放送株が流れたか、という客観的な取引履歴によって主観的な要件も立件できるのかもしれません。

それともうひとつ気になるのが、ライブドアの元代表取締役の熊谷氏の身柄拘束の経緯です。関係者のなかではもっとも遅く身柄を拘束され、また裁判所の保釈につきましても、(否認をしている堀江氏を除き)もっとも遅く許可が下りました。この一連の熊谷氏の身柄拘束の経緯は、捜査機関が村上ファンドへの捜査方針となんらかの関係がありそうに思うのですが。

(追記おわり)

したがいまして、村上氏のインサイダー取引に関する違法性認識立証の鍵は、「ギブアンドテイク」、つまり村上ファンドがニッポン放送株の内部者取引によって保有した株式(もしくは株式売却による金銭)が、どういう理由かはわかりませんが、その後のライブドアの大量保有に対してなんらかの支援策となったことが、客観的に解明されることではないでしょうか。この「ギブアンドテイク」の関係が解明されてしまいますと、取引関与者がどんなに否認したとしましても「違法性の認識」があった、という認定に裁判所は傾くのではないかな・・・と考えたりしております(いや、すでに全容は解明されているのかもしれません。)

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村上ファンドとインサイダー疑惑

朝からずっと仕事や荷物運び(弁護士団体の世話役なもんで・・・)でニュースを聞いておりませんでしたので、とりあえず速報版ということで。(って、遅すぎですね・・・)

村上氏、近く事情聴取へ(ライブドア株インサイダー取引)

これはまた堀江氏のときと同様、ビックリです。「ライブドア監査人の告白」などを読んだ感想からしますと、「あ、うん」の呼吸で一斉に報道がなされたわけですから、東京地検特捜部としては、ほぼ立件には自信をもっている、ということでしょうか。

新聞記事からしかソースがありませんので、明確なことは言えませんが、証券取引法167条が問題になるのでしたら、「重要事実の告知」(客観的要件として)、「重要事実であることの認識」(故意いわゆる主観的要件)、そして情報の第一次受領者といえるのかどうか、といったことがもっとも問題になりそうなところですね。

ライブドアの捜査によって、誰が準TOB行為(買い集め)の決定権限を客観的にもっていたか、ということは検察で立件できることは間違いないと思います。ただ、準TOB行為を正式に決定した時期以降に村上さん側に伝えた事実(つまりウワサではなく確定的に5%以上を買い集めるということを告げたこと)、村上さんがウワサではなく、確定的に5%以上をライブドアが買い集めることを認識した事実、そして、なによりも準TOB行為決定者から、「直接」村上さんが(他人を介することなく)聞いたという事実が必要だと思われます。最後の点は、他人を介して、いわゆる「二次情報受領者」になってしまいますと、正確な情報をキャッチしたのか、あいまいなウワサを信じたのか、そのあたりが不明確になってしまうことから、厳格な適用が必要とされています。

刑事問題だけでもたくさんの論点がありそうですが、阪神阪急統合TOBへの影響とか、pipiさんご指摘のとおり、投資ファンドにお金を預けている人たちの対応とか、これからの動きに目が離せない問題がてんこもりのような気がします。

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大証フォーラムでのセミナー

お昼から社外取締役ネットワーク主催の関西セミナーに参加してまいりました。(本当はお手伝いしないといけない立場だったんですが、仕事や私事など諸事情によりお手伝いができず、申し訳ございませんでした>関係者の皆様・・・・・)大証の代表取締役の方や武田薬品の代表者の方のお話など聞いてまいりましたが、いちばん興味深かったのが「M&A時代のコーポレートガバナンス」という東京大学ロースクール助教授の先生の講演であります。(ここからは私の感想ですが、)たとえばスティールパートナーズ(2003年12月にソトーとユシロ化学工業に対して敵対的TOBを仕掛けた投資ファンド)などは本来、買収対象企業のキャッシュフローが向上するまで辛抱強く株式を保有するわけでして、決して短期の利ざやを稼いで売り抜けるものではないようです。ホンモノのアクティビストであれば経営参画を果たして、その企業の収益力を高めて、企業価値を増大させたところで売り抜けるという手法をとるということのようでありますが、さてこのたびの阪神電鉄への村上ファンドの経営参加というのは、このホンモノのアクティビストとして目指す方向に近いものなのかどうか。また、少数株主、たとえば5%程度を取得している時期に、機関投資家が「株主の代表として」会社になんらかの要望を提案する場合には、ほぼ「他の一般株主と利害が一致している」ケースが多いのですが、45%も保有した段階で、果たして「株主の代表として」と言えるかどうか。むしろ5%株主であれば、一般株主も応援してくれますが、45%株主であれば、この大株主とは別個の利害関係を少数株主は有していることが多いわけですから、とうてい「株主の代表として」とは言えないのではないか。この先生のお話は、「MBOとインサイダー取引のにおい」とか「企業価値が向上するとか、企業価値を毀損するといった現象が、経営支配の後2,3年くらいでわかるはずもなく、もっと長期的に分析しないとわからない」といった、かなり私好みのマニアックな部分に刺激を与えるところが多く、とても参考になりました。「株で儲けている人はだれにも話さないからわからないけど、損した人は騒いでしまう。それと同じで投資ファンドが介入することで企業価値が上がったところは黙っていて、そうでないところは騒ぐ、だからファンドはおそろしい、といったイメージだけがつきまとう」・・・・・・・うーーーん、そうかもしれないなぁ。

さて、村上ファンドは46%の保有株のうち、一部について阪急のTOBに賛同し、残る一部については株式買取請求権を行使する、といった事態は考えられるのでしょうか。株式を取得した時期の各取得金額によっては、一部で賛同して、残りで反対するといった事態も十分考えられるようにも思えますが。ただ、そういった対応をされるのであれば、支配権を獲得して辛抱強く企業価値向上に努力する、という先のホンモノのアクティビストとは言えなくなってしまいそうです。このあと、いったいどのような展開になるんでしょう。

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2006年6月 1日 (木)

阪神・阪急統合とコーポレートガバナンス

5月30日の講演には、たくさんの方にお越しいただき、ありがとうございました。時節柄、やはり大証のコーポレートガバナンス報告書関連の質問が多かったですね。提出期限ギリギリまで真剣に思い悩んでいらっしゃった担当者の皆様方、お疲れ様でした。(といいながら、ホッとする間もなく総会対応の時期なんですよね・・・)

5月は会社法、金融商品取引法などの講演の準備で忙しくしておりましたが、その間に阪神・阪急統合、TOB開始ということで(村上氏も日本に帰国されたことから)統合は秒読みの段階に入ってきたような雰囲気ですね。こういった企業買収にからむ企業価値に関わる問題の場合には、すぐに「素人考え」の疑問が湧いてきます。(同じような疑問を抱く人がいるのか、いないのか、そのあたりがいつも興味津々なんですが・・・・・)

まずはなんといっても「45%の取得をめざす」阪急HDのTOBです。なんで45%なんでしょうか?特定株主である村上ファンドだけ応募してくれ、というサインなんでしょうかね。5月29日の阪神阪急合同のリリースによりますと、阪急HDは一般株主向けに「これは特定の株主様に向けてのTOBですから、いちおう株主平等のために買い付けの上限は設けていませんが、がんばって統合後も企業価値を上げますので一般の方々は株式交換まで持ち続けてくださいね。これからも阪急HDの株主様としてよろしく!」と明らかに公表しております。しかし、これはどう解釈したらいいのでしょうか?阪神の一般株主向けに「これからもっと価値が上がりますからTOBには応じないでください」といいながら930円で村上ファンドへ「買いますよ」と提案しても、村上ファンドだって「これから価値が上がるんだったら、その分プレミアムをつけてよ」といったことになるんじゃないでしょうか。これが上限もつけてあるようなTOBであれば、この930円は村上さん向けにプレミアム付きですよ・・・とでもいえそうですが、いちおう阪神の一般株主様にも募集はかけているわけですから、そういった理由はつけられませんよね。この阪急HDのリリースを前提にして、村上ファンドが930円で応じてしまったら、ずいぶんと村上ファンドのほうが「ナメられてしまった」ことにならないでしょうか。阪神、阪急それぞれが専門家の意見をもとに株式交換比率を検討されたようですので、この930円というのも企業価値を合理的根拠によって算定したのかもしれませんが、そういった価値の問題抜きにして、このリリースをどう解釈したらいいのか、本当に930円で村上さんはTOBに応じるのか、私には理解できません。

それから、5月29日の阪神現経営陣による取締役選任議案のお知らせのリリースですが、これも違和感を抱いてしまいます。村上ファンドは16名の取締役の半数である8名について取締役選任の提案をするはずですが、これは「経営支配」なんでしょうか?アメリカだったら過半数の社外取締役が業務執行取締役を監視するのが当たり前でしょうから、とりあえず村上さん側は、阪神電鉄グループをそういったアメリカ型のコーポレートガバナンスでやっていこう、といった提案をしただけだと思うのですが、そうではないんですかね?むしろ半数ちょうど、ということでしたら、アメリカのガバナンス形態からすれば現経営陣を尊重した「穏健派」に属するはずです。ファンドの性質上、真意は別のところにあるかもしれませんが、ともかく村上さんのこれまでのリリースに「ぶれ」はないはずです。阪神の現経営陣が「現場を知り尽くした人たちによる経営こそ必要」と強調されていますが、それであれば、そういった人たちがこれからも業務を執行していけばいいわけでして、なぜ監視役としての取締役という立場でいなければいけないのか、その理由はどこにも記載されていないようです。私はべつに村上氏を応援する気持はまったくありませんが、なぜ阪神グループにはアメリカ式のガバナンスを導入してはいけないのか、まさに「コーポレートガバナンス報告」が求められているわけでして、真正面から反論をしていただかないと説明責任を尽くしたことにはならないように思うのですが、いかがでしょうか。

おなじく、先のリリースに関しての疑問として、阪神側が上程する16名の取締役選任候補者ですが、もしひとりでも就任できない人があれば、全員が就任しない旨、各自の意思が明確に確認されているそうです。普段ならこれでもいいとおもいますが、この10月には国土交通省による省令(鉄道事業安全法による)で、取締役のなかに、安全管理統括責任者をひとり就任させなければならず、10年ほどの鉄道安全業務に執務した人であることが要求されるそうです。本当に、この省令制定の予定を知りながら、上記のような提案をするのでしょうか?村上ファンド側が経営参加するんだったら、現取締役の方々は、残された会社の安全運行業務については関与しない、という態度と受け取ってよろしいのでしょうか?私の常識がまちがっていればよいのですが、普通の近隣住民や乗客、一般投資家の立場からすると、「カケヒキ」にもほどがある、といった感覚にならないでしょうか。

ほかにも、そもそも阪神と「敵対的買収防衛策のコンサルタント」として契約していた大和證券SMBCが、阪急のTOBの公開買付代理人になっていますが、これは利益相反行為には該当しないのですか?ホワイトナイトを見つけてきたとか、阪急と阪神は友好的買収であって同意があればかまわない、といった理屈かもしれませんが、なるべく高い値段で買ってもらおうと努力していた会社を、阪急の一般株主は信用するのかなぁ・・・・などと、疑問点を上げだすときりがないので、このへんでやめておきます。。。

たしかに、条件付き取締役選任議案の上程は村上さん側にとっては劇薬に近いものになるかもしれませんが、その副作用も相当大きいものがあるように、私には思えます。こういった疑問、やっぱり私ひとりだけのものなんでしょうかね?ただ、阪急、阪神の統合に関する対応をみておりますと、村上ファンド問題解決の時点が第一章の結末であって、いよいよ今度は再開発や鉄道業界の再編をめぐって、阪神阪急統合をめぐる関西の熱い第二章が幕を開けることは間違いないでしょう。

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