村上氏に違法性の認識はあるか(2)
いろいろなコメント、TBありがとうございます。きょう(6月3日土曜日)あたりの産経新聞ニュースを読みますと、村上氏は堀江氏に対して「いっしょにフジテレビの支配権を握ろう」みたいな勧誘をして、堀江氏にニッポン放送株を大量取得させて、その後村上氏が値段がつり上がったところで勝手に売っちゃった、みたいな書き方になっていますね。これは私が昨日のエントリーで予想していた事実関係と少し異なります。この事実関係が真相に近いということですと、堀江氏はあまり村上氏と組むメリットはないですよね。しかも最初から村上氏が「いっしょに支配権を握ろう」といいながら大量取得をしたというのであれば、167条5項4号のライブドアへの応援買いに該当してしまって、(他人の公開買付を支援する目的で、その他人からの要請を受けて、応援目的で公表前に買付を行うことは正当な株式取得行為とされています)違法性が阻却されてしまうんじゃないでしょうか。かりに、後から他の人に村上氏が売却してしまったとしても、村上氏がニッポン放送株式を大量取得する時点で「ライブドア支援目的で取得した」と考えていたとすれば、その行為は主観的な違法目的が存在しなかった、つまり犯罪は成立しない、ということになりそうです。
報道機関はさかんに167条違反を問題にしているみたいですが、上記産経新聞ニュースの事実関係でしたら、166条(会社関係者による内部者取引)でいったほうが「違法性の認識」を立証しやすいように思います。2003年当時から村上ファンドはすべての実質保有団体所有のニッポン放送株式を合わせると(つまり共同株主とすると)帳簿閲覧権を有する少数株主(商法293条ノ6)に該当しますから、少なくとも2004年12月当時、当該団体の代表者もしくは代理人たる地位にある村上氏は証券取引法166条の「会社関係者」に該当します。またニッポン放送株を大量購入する者の存在は、166条2項2号ロ「主要株主の異動」に該当するため「業務等に関する重要事実」に該当することになりそうです。ただ、この166条構成の最大の問題は会社内部者たる株主は、「その権利の行使に関し知ったとき」が要件となっている点です。条文に忠実に読むならば、帳簿閲覧権の行使に関して知った重要事実だけが、インサイダー情報ということになりそうです。もし、この要件をクリアできるとしたら、166条(会社関係者による内部者取引)の場合、村上氏と堀江氏の「ギブアンドテイク」の関係はなくても、単に村上氏がライブドアが大量買付行為を決定した、という事実さえ知っていれば、その後の村上氏のニッポン放送株取得が共同支配目的であれ、自己の利得目的であれ、「会社関係者による内部者取引」の犯罪要件には該当するわけですから、たとえ村上氏が犯意を否定したとしましても、客観的証拠の積み重ねによる違法性の認識の立証ハードルは相当低くなるはずです。
そこで、166条による立件というケースでは、「その権利の行使に関し知ったとき」という要件をクリアできるのかどうか、これが大きな問題になるような気がします。ちょっと調べてみましたら、最近の学説などでは、この要件をかなり広げて解釈してもいいのではないか、といった意見も出ているようですし、そもそもインサイダー取引規制というのが、市場における適正なルールの確保といった趣旨によるものであるならば、帳簿閲覧権を行使するための調査、準備など広い範囲を含む概念と捉えて解釈することも可能なのかもしれません。(ただ、そうはいってもかなり罪刑法定主義からすると問題かも・・・・・)
ただ、新聞報道の論調では、どこも167条による立件を前提として書かれていますよね。166条による立件ということはないんでしょうか?私はどうも166条による立件のほうが可能性が高いような気がしてきましたが・・・・・。
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コメント
お久しぶりです。
私も、村上氏とLDの関係をどう捉えるかがポイントだという気がしています。
ただ、166条インサイダーについては、条文の不明確性はあるのですが、権利行使要件の緩和はともかくとして、166条の基本的な構造は発行会社自身が認識しているインサイダー情報を会社が公表する前に利用することに対する罰則ですから(166条インサイダーは発行会社自身の公表措置以外には解除されませんし)、ニッポン放送自身にLDの買付計画の認識がない状態で166条でいくことは難しいのではないでしょうか?
そうでないと、例えば10%以上を持っているファンドが売却を決めた場合、主要株主の異同のインサイダー情報が生じてしまい、それが166条の重要事実ということになると、主要株主が自分で決めた売却を実行することがインサイダー規制違反ということになってしまいますよね。
投稿: 47th | 2006年6月 4日 (日) 03時31分
いつも的確なコメントありがとうございます。
166条は「公表前に内部事情を知りえた者がその情報を利用するルール違反」であることが前提ですから、47thさんのおっしゃるとおり、「会社によって適時に公表されるべき情報」であることが必要なんですね。私の勉強不足でした。(昨日のあすくるさん同様、こういったご指摘を受けますと助かります)
今日あたりの報道をみましても、やはり167条のほうが中心論点になってくるようですが、しかしそうであったとしましても、どこに犯罪性が認められるのか、適法行為との線引きがどこなのか、あまりよく理解できないのです。もう一度、冷静に2004年12月ころから2005年2月末ころまでの、客観的な数字とその間のライブドアと村上ファンドとの交渉経過を再考してみたいと思っております。またご意見、お待ちしております。
投稿: toshi | 2006年6月 5日 (月) 02時26分